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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
128/140

128 ケイト対ヴィーニア

 魔国のある大陸の南西の果て、南極に近づき寒さを強く感じる場所。そこから海に出てしばらく行った地点。そこでは沢山の船が接敵したところだった。


「ケイト様!!敵船確認しました!!」

「どこのだ?」

「ソロモンの旗です!!」


 ソロモン王国。セカイ王国や魔国とは違う大陸にある巨大な国家だ。人類国家の中ではセカイ王国と並び最強クラスの国家だ。


「ふむ。王は?」

「今のところは」


 そして、一つ大きな特徴がある。ソロモン王国最強の兵士は、国王なのだ。その血脈に受け継がれるスキルに起因するが、詳細はソロモンの血筋にしか伝わっていない。


「まあ流石に出てこないだろうが……まあいい。交戦準備だ。終わり次第先手を打て」

「了解しました」


 報告に来た兵士は退がり、砲台など戦闘準備に向かう。ケイトも立ち上がり漆黒の鎧の音を響かせながら甲板に出る。


「ゼア」


 神器の名を呼び戦闘に備える。少しすれば、肉眼でも捉えられるほどに敵影が近づいてくるのが分かる。


「私は直接敵船を潰す。王か王子に出会えばそのまま戦闘に入る。その間の戦闘は指揮官の指示に従うように」


 この海戦には騎士団の者は来ていない。ケイト一人が四天王として同行しているのだ。ケイトを除いた指揮系統も軍も整っているため、最強の駒が一人で突貫しても乱れることは無い。


「了解!!」


 近くで聞いていた数名の兵が散っていき他の兵に決定を伝えていく。ケイトは敵船を見据え船の縁に足をかける。


「【(ロード)】」


 瞬間、ケイトの姿が消える。そして敵船の内の一つでは一瞬の後に騒ぎが起こる。


「なっ……誰だ貴様……!!」

「その姿……まさかっ!!」


 ケイトの姿は伝聞ではあろうが有名だ。知っている者も多かっただろう。だが、対処に動き出す前にケイトは動いていた。


「【(ゲート)】」


 船の上で門が開く。開いた門からは大量の海水が溢れ出て来る。ケイトは船上と海中を繋げたのだ。


「おいクソ……!!不味いぞ!!」

「ふん……!!」


 船を適当に斬って穴をあけてやればすぐに沈むだろう。直接船を切り刻んでも良いが、流石に船だけに意識を向け続ける訳にもいけない。


「……!?」


 瞬間、炎の塊が飛来する。剣で斬り伏せ無傷で済ませたが、見上げればどこか派手な格好をした男がこちらに手を向けていた。


「困るなぁ……船も兵も安く無いんだよ?」

「……王子か」

「うん。僕はヴィ―ニア・ソロモン。ソロモン王国の第二王子だよ。君は無血騎士ケイトだね」

「そうだ」


 ソロモン国王の力は、血族に貸し出すことができる。戦場には王の力を借りた王子が出てくることが多いのだ。


「【(ロード)】」

「エクスクラウン、《黄金の契約(ゴールデン・リング)》接続!!」


 ヴィ―ニアの真後ろに転移し斬りかかるが、それは振るわれた剣で弾かれそのままの流れで反撃が飛んでくる。


「はぁっ!!」

「むっ……ふんッ!!」


 ヴィ―ニアの振るう剣は炎、水、雷、風、冷気、その他無数の力を纏っている。打ち払ったが下手に食らえば何が起こるか分からない。


「ふんッ!!」

「うおっ……!!」


 綺麗にカウンターを入れ込む。だが、どうも斬った手ごたえが薄い。後ろに吹き飛ばせただけも問題は無いが。


「いやぁ……痛いなぁ……ってそれは不味い!!」

「むっ!?【(ディストーション)】!!くっ……!!」


 ゼアの権能で過去のヴィ―ニアを斬ろうとしたが、雷を放たれ失敗する。雷は簡単に防げるが、致命の一手は打たせてもらえない。


「気づいたのか……?いや……【(ロード)】!!」

「ぐっ……速いな……はっ!!」


 転移してもう一度斬撃を放つが、それも綺麗に反応して防がれる。まるで転移先が分かっているかのような反応速度だ。


「未来視……ついでに過去視もか」

「さあ?」


 ソロモン王家に受け継がれるスキル《金色の契約(ゴールデン・リング)》。その内容は謎に包まれているが、歴史上の目撃例により無数の権能が混じりあったものだということだけが分かっている。転移への反応とゼアへの対処からその中に未来視と過去視が含まれているのは確定で良いだろう。


「こっちからも行こうかな。ふっ!!」

「消え……【(ロード)】!!」


 瞬間、突如としてヴィ―ニアの姿が消える。姿を隠す力かと思ったが、経験から来る勘が危険だと告げていた。すぐに転移してその場を離れ相手の様子をうかがう。


「避けるか……当たる確率の方が高かったんだけどな」

「【(ディストーション)】!!年季が違う」


 次の瞬間には船上にいたヴィ―ニアは上空に転移したケイトの背後に現れ剣を振るっていた。空間を歪め無傷で済ませるが、油断ならない。


「さて……正面衝突と行こう」

「そういう感じ?つらいね」


 最接近した今の状態で純粋な剣比べが始まる。未来視持ちへの対抗策の一つは、搦め手を一切使わず不意もつかず正面から地力で勝つことだ。


「はッ!!」

「ちぃっ……ふんっ!!」


 他の選択肢で言えば、ヴィ―ニアの口ぶりから彼の未来視は無数の可能性を全て視るもののようなので手数を増やせれば情報量で圧殺できるだろうが、それが簡単にできる魔術と神器ではない。


「きっついね……!!」

「ふんッ!!」


 剣の腕は互角といったところだろう。一撃一撃にゼアの権能が込められそれに対処しなければならないヴィ―ニアが終始劣勢と言ったところだ。


「はぁ……!!これ以上はお断りだよ!!」

「ちっ……【(ロード)】!!」


 ヴィ―ニアは近距離戦を拒否し船上に降りる。ケイトもそれを追って船上に転移し距離を詰める。


「今だねっ!!」

「なっ!?」


 地上に転移した瞬間、ヴィ―ニアの手が触れている地点を起点に船の材質が黄金に変化し生き物のように蠢いてケイトを磔にして拘束した。転移後すぐでは空間をゆがめる魔術も間に合わなかった。


「ふんっ!!」


 振るわれた剣から放たれたのは、視界を覆いつくして余りある混沌の塊。食らえば跡形も残らず消滅するだろうことが肌で分かる。


「【(ロード)】!!」

「ふっ!!」

「ふんッ!!」


 転移して躱し、鍔迫り合いに持ち込む。ゼアの権能込みで近距離戦はこちらが有利だ。可能な限り押し付けていきたい。


「視界塞いでも意味ないのね……はぁっ!!」

「はッ!!」


 ヴィ―ニアの目論見は視界を奪えば転移が使えないのではという思いつきを試すことだった。混沌の塊で視界を埋め尽くしてもケイトは変わらず転移してきたので無駄になったが。


「ふんっ!!ふっ!!」

「ちっ……なにっ!?」


 ヴィ―ニアは転移して上空へと逃れる。ケイトもそれを追って上空に転移したが、そこで目にしたのは異常な光景だった。


「これは……!!」


 無数のヴィ―ニアが待ち構えていたのだ。


「さて……行こうか」


 全てのヴィ―ニアが同じ言葉を喋り、そして全員同時に動き出しケイトに向かって殺到する。


「くっ……はぁッ!!」


 だが、片っ端から斬っていくと分かる。全て幻影だ。だが、見た目は同じで匂いも音もある。見分ける手段は現状無い。


「仕方ない……【(ロード)】!!」


 大きく後ろに飛んでヴィ―ニアの群れから距離を取る。そしてヴィ―ニアが転移してくる前に動き出す。


「【(ジャンプ)】!!」


 何度も何度も剣を振るう。【(ジャンプ)】は斬撃だけを転移させる魔術だ。生まれた幻影を端から全て斬っていけばいずれ本物に命中するはずだ。


「これは……!!【(ディストーション)】!!」


 ケイトは気づいた。一瞬のうちに全てのヴィ―ニアを斬り尽くすと、その中に本物は居なかった。そして本物の攻撃を警戒し自分の周囲の空間を歪ませる。


「まじぃ?」


 真後ろにいた目に見えないヴィ―ニアの振るった混沌を纏う剣は軌道を歪めケイトをすり抜ける。


「透明化……面倒な……!!」

「初見で防いでおいてそんなこと言う?」


 ヴィ―ニアは一瞬姿を現した後にすぐにもう一度姿を消し、すぐに攻撃へと移行する。ケイトは【(ディストーション)】を維持しつつ次の手を考える。


「それ面倒なんだよなぁ……」

「ふぅ……」


 空中で途切れることなく無数の混沌がケイトをすり抜け続ける中、ケイトは息を吐き集中する。周囲が混沌に満たされている今、攻撃に転じるタイミングはしっかり見極めなければ死に直結する。


「【(ディストーション)】!!」


 魔術の発動と同時に剣を振るう。そしてその刃は大きく歪んでヴィ―ニアの腹を横薙ぎに斬り裂く。


「がぁっ!?」


 ケイトの魔術は空間に干渉するものだ。自分を中心に半径5メートルほどの空間全てを自身の目の前の剣の軌道と繋げたのだ。つまり、ヴィ―ニアはケイトの周囲のどこにいても姿が見えていなくても斬撃を食らうのだ。


「ごっふぉっ……マジかよ……!!」

「【(ロード)】!!ふッ!!」

「がぁっ!!」


 一撃入れた次の瞬間にはケイトはヴィ―ニアの真後ろに転移しており、次撃が炸裂していた。


「ちぃっ!!はぁっ!!」


 船に叩きつけられ甲板を貫通し海にまで落ちたヴィ―ニアは、ケイトから遠い別の船の上に転移した。


「はぁ……はぁ……」


 ヴィ―ニアは大きく呼吸をし《金色の指輪(ゴールデン・リング)》の権能の一部で傷を癒していく。そして船長を発見し声をかける。


「状況は」

「良くはありません。少し劣勢と言ったところです」

「ちっ……撤退の準備をしろ……なっ……くっ……!!」


 指示を出した次の瞬間にはケイトが眼前に現れて剣を振るっていた。ヴィ―ニアはすぐに上空に転移し回避し、ケイトもそれを追って転移する。


「悪いけどさ……逃げさせてもらうよ。被害がでかすぎる」

「逃がしてやる気は無い!!【(ロード)】!!」


 ケイトも傷が治ってきているのには気づいている。治りきる前に勝負を決めようと転移して距離を一気に詰める。


「【(ディストーション)】!!はぁッ!!」

「嫌だって言ってるでしょ!!」


 ケイトは先ほどと同じ近距離範囲に必中の斬撃を放つ。だがヴィ―ニアは真後ろに転移し逃走の一手を打つ。


「ちっ……!!」

「危ない、なっ!!」


 後ろに退がったヴィ―ニアを追って空中を駆け転移を繰り返す。ヴィ―ニアは回避と後退に専念し逃げ続ける。そしてその間にソロモンの撤退の準備が整う。


「まあでも、そうだな……俺が相手してやるからそれで満足してくれよ」


 撤退が始まったことを確認したヴィ―ニアは踵を返しケイトに向かって剣を振るう。


「……ほう。【(ディストーション)】!!」


 ヴィ―ニアは少し離れた位置から混沌を放ち続け、ケイトの周りを満たす。ケイトは空間を歪めそのすべてを躱しきり、一瞬の隙をついて転移しヴィ―ニアに肉薄する。


「【(ロード)】!!」

「ちっ!!」


 ヴィ―ニアはその後もとにかく躱し続けていく。時折混沌の斬撃を放ち攻勢に転じているが、とにかく生き残るための動きを続けていく。


「はっ!?」


 そしてある時、ヴィ―ニアが消滅する。


「……そうか。透明化と幻影か」


 ケイトは気づく。今まで戦っていたのはヴィ―ニアの幻影であったことに。恐らく入れ替わったのは撤退の指示を出した直後くらいだろう。


「嵌められたか……だがまあ……勝利は勝利。良しとしよう」


 空中から自軍の船へとゆっくりと下降する。着地したケイトには指揮官と数名の兵が駆け寄ってくる。


「申し訳ありません。逃走を許してしまい……」

「良い。目標は戦場での勝利だ。それに私も敵将を取り逃がした」


 どこか苦々しい顔をしているケイトの纏う鎧とその身には、自らの血も返り血も一滴もついていなかった。

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