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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
116/140

116 対ローグ

「……」

「……」


 二人は時が止まっているかのように動かない。少し離れたところで戦闘音が聞こえるが、それも全く耳に入っていないかのようだった。


「……【焔槍】!!」


 私はしびれを切らして先に仕掛ける。互いに隙が生まれるはずも無く、隙は動く中で作り出していくことにする。


「ふんっ……」


 ローグは軽く躱して距離を詰めて来る。神器の特性からも、恐らく遠距離戦はできないのだろう。


「【聖槍】!!」

「【回炎鎧】【焼剣】」


 鎧と剣を生成し、飛来する槍を斬り落として後退する。近距離戦はさせない。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「ちっ…守れ!!」


 熱線はアスカロンの力に阻まれるが、ローグの接近は止まる。


「【聖槍】!!」

「【焔槍】!!」


 接近できないと判断したローグは即座に槍を放つ。判断は早いが聖典術はそこまでの脅威ではない。逆に負荷をかけ返していく。


「くっ……」


 ローグは飛来する槍をなんとか躱しきる。神器の力もあってか傷一つつけられていない。


「【烈炎刃】!!」

「ふんっ…【聖撃】!!」


 放った刃は斬り払われる。こちらの攻撃は時々掠ったりしてはいるのだが、普段より効きが薄い気がする。神器の力によるものだろうか。


「【炎赤波烈(レッド・バースト)】!!」

「守れ!!」

「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「当たらんっ!!」


 アスカロンの防御が切れたところを狙って追撃の熱線を放ったが、ギリギリのところでよけられてしまう。少し掠ってはいたが大して効いていない。


「ダメか……」


 アスカロンの防御は驚異的だ。常に威力が減衰されているし、本気で守るとなれば槍だろうと刃だろうと熱線だろうと傷一つつかない。アイカの音の魔術も通らない。何か結界のようなものを張っているのかと思っていたが、もはや守護という概念をそのまま出力しているかのようだ。


「どうするか……」


 破るなり躱すなりアスカロンの突破方法を考えなければならない。ここはとにかく使わせてそこからヒントを探っていく。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「くっ……ふっ……!!」


 ローグの動きは機敏であり、アスカロンを使うまでも無く躱される。そのままこちらに向かって距離を詰めて来るが、当然許さない。


「【極炎煌球】!!」

「なんっ……守れ!!」


 地面に火球を撃ち込み接近を阻止し、防御をさせる。火球を撃ち込まれた地面の氷は一気に融け、クレーターのように抉れる。槍や刃や熱線が近くを通っただけではびくともしなかった万年氷床も、直接炎の魔術を撃ち込まれてはひとたまりもない。


「くっ……ぐっ……」

「【焔槍】!!」


 地面が融けクレーターに落下したローグに向け、逃げる隙間を与えないよう上から槍を撃ち下ろす。回避も迎撃も間に合わないだけの量だ。


「ちっ……守れ!!」


 回避も迎撃もできないとはいえ、アスカロンの前には無力だ。ダメージは与えられない。だが、アスカロンの絶対的な防御について、少しずつ分かって来た。


「なら……」


 遠距離攻撃は有っても槍だけ。そう思っていた。それならいつどんな風に撃たれても対処できると油断していた。そのせいで、次の攻撃まで少し間が開いてしまった。


「【聖閃】!!」

「なんっ!?」


 始めてみた聖典術だった。ローグによって振るわれた剣閃は、光の刃を纏い私の下まで到達した。反応が遅れ、薄く傷を負う。


「くっ……!!」

「【聖槍】!!」

「【炎壁】!!」


 追撃への回避は間に合わず、壁を展開し防御する。ローグが今の隙に大きくこちらに近づいてきているのが見える。


「【滅炎球】!!」

「ちっ……守れ!!」


 自分の目の前で火球を生成し、ローグの立ち入れない炎の領域を展開する。アスカロンの力でダメージは入っていないだろうが、接近は阻止できる。


「【聖閃】!!」

「【灰烈炎刃】!!」


 炎が晴れるのと同時、光の斬撃が放たれる。炎の剣振るって対処し後退して距離をとる。


「【火ノ鳥】!!」

「ふんっ!!」


 放たれた炎の鳥は、槍や刃より遅い分簡単に回避される。だが、これで問題はない。


「【聖槍】!!」

「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」


 飛来する槍を熱線で相殺し、残った威力でローグに負荷をかける。しかし、まだ距離が離れている分簡単に回避されてしまう。


「【聖閃】!!」

「【柳燐】!!」


 光の斬撃を後ろに受け流し、迫るローグと相対する。ここまで近づかせた以上、ここで勝負を決めにかかる。


「【滅炎球】!!」

「守れ!!」


 互いの刃が首に届くほどの距離で火球を生成し一気に周囲を埋め尽くす。ローグは当然アスカロンの力による防御を展開してくる。これではダメージは通らない。


「ふぅ……」


 だが、恐らくアスカロンの防御は止まっていないと使えない。そして、連続での使用もできない。ローグが防御に専念している間に少し距離を取って次の魔術の用意をする。


「【灰烈炎刃】!!」

「【聖盾】!!」


 アスカロンの防御を使えない間の攻撃は聖典術で受けられる。盾自体は簡単に壊せるが、綺麗に受け流され無傷で乗り切られ盾も残ってしまう。だが、盾はアスカロンの力と違い前からの攻撃しか防げない。


「【帰巣】!!」

「なにが……がぁっふっ!!」


 アスカロンの防御も盾も使えないタイミング。真後ろから帰って来た炎の鳥にローグは反応できなかった。


「【炎赤波斬(レッド・ブレイド)】!!」

「まもっごっはぁ!!」


 アスカロンの防御は間に合わない。ローグは袈裟に斬り裂かれクレーターに滑り落ちる。アスカロンの力もあってか死んではいないようだ。


「良かった……まだ死んでないね。【焔槍】」

「がはっ……」


 腕に槍を刺されたローグの手からアスカロンが零れ落ちる。私はいつでもローグの命を奪えるよう炎の槍を空に浮かべて話し始める。


「どうせ死ぬんだし……答えて逝ってよ。もしかしたら、生かしてあげるかもしれないから」


 無論、生かして帰す気は無い。これも戦争の一環であるし、何より個人的な感情の問題がある。


「……答えると……思うか?」

「……さあ?ただ、答えてくれなきゃ死ぬだけだよ」


 息は荒く汗も酷いが、ローグの目は死んでいないし態度には怯えも恐れも出さなかった。


「ふぅ……」


 大きく息を吐き、あふれる殺意を抑え込む。いつまで我慢できるものか。


「お前たちは……ナート教は……何が目的で……何がしたいんだ」

「知れた……こと……がっ……ふぅ……弱者を……救済し……魔族を……ごふっ……殲滅し……人類の幸福を……守る……それだけのことよ」


 とぎれとぎれで血を吐きながらの言葉だが、力のこもった言葉だった。


「あっそ……じゃあ……じゃあなんで」


 一度深呼吸する。聞かなきゃいけないことはまだあるのだ。落ち着いていかなければ。


「お前らは同胞である人類の、それもなんの罪も犯していない弱者に魔女の冤罪を掛けた?」

「適当な……ことを……」

「同じ人類である精霊の子供を誘拐した?」


 私はローグを遮り続ける。言葉は考えなくともあふれて来る。


「弱者を虐げて、侵して、弄んで、何がしたいんだ!!」

「我々は……潔白だ……!!そんなこと……ごふっ……する訳がなかろう」

「はぁ……」


 溜息のように息を吐き出して何とかクールダウンを図るだが、どうにも上手くいかない。


「私が聞いてるのは”なんで”とか”何が目的”とかそういうことなの……誰も、”そんなことを本当にしたのか”なんて聞いてないよ」

「がぁっふぁっ!!」


 空に浮かぶ数十の槍の中から一本がローグに足に突き刺さる。何も知らないのか、知っていてそう言っているのか、待ったく分からない。


「ふぅ……はぁ……良いか……我々は……正義だ……」


 どれほどぼろぼろになろうが、どれほど追い詰められようが、ローグは変わらなかった。


「それと……敵に……げほっ……時間を……与えすぎない……方が良い」


 瞬間、ローグが動いた。神器を手放しぼろぼろで、もう何もできないと思っていた。完全に油断していた。全く反応できなかった。


「治癒……らぁあっ!!」

「なんっ……ぐっ……!!」


 完全に頭から抜け落ちていた、ローグがここから動くためのピース。昔一度だけ見た聖典術。効果は傷の回復だ。スキルツリーの問題なのかこれまで出会った聖騎士が誰も使っていなかったのもあって、完全に油断していた。


「ちぃっ……【焔槍】!!」


 今はまずい。完全に密着するほどの距離だ。何とかしなければ。聖騎士、それも序列騎士相手に純粋な近距離戦で敵う訳がない。


「守れ!!」


 空に浮かべていた槍を全て放ったが、アスカロンを拾うのが間に合ってしまった。完璧に防がれてしまった。


「【聖撃】!!」

「【灰烈炎刃】!!」


 光を纏った剣と炎の剣が衝突する。治癒は、完全じゃない。一度は回復を許したが、かろうじて動けるというだけだ。今度はとどめを刺す。


「【聖閃】!!」

「【柳燐】!!」


 しかし、そもそもの技量か、火事場の馬鹿力か、はたまたその両方か、近接戦では押されるしかできない。


「はぁぁぁっ!!【聖撃】!!」

「くっ……【炎流波紋(エンルビート)】!!」


 防ぎ、受け流し、何とか戦っているが、このままではジリ貧だ。確実に、一気に勝負を決めにかかる。


「【聖閃】!!」

「ごふっ……」

「なっ!?」


 撃ちあいの途中、放たれた刺突を急所を外して腹で受ける。致命に近い一撃だったが、アスカロンの防御の発動を一瞬遅らせるだけの困惑と驚きを与えられれば十分だ。


「【滅炎球】!!」

「なんっ……!?守れ!!」


 ローグはアスカロンの防御が少し遅れ、周囲を満たす炎をその身に受ける。治癒によりかろうじて動けているだけの体には、一瞬であっても致命的だ。


「ぐっ……ごっふぅ……」

「【極炎煌球】!!」


 炎が晴れる頃、私とローグの間に回転する火球をねじ込み更なる追撃を図る。あと少し押し切れる以上、反撃の隙を与えずに削り切る。いずれ来るアスカロンの防御の発動限界まで空間を炎と熱で満たし続けるのだ。


「【滅炎球】!!」

「ぐっ……あぁぁぁあああ!!」


 神器の力を起動し続けることは不可能だ。一瞬アスカロンの防御が途切れたところで、ローグは焼き尽くされて炭と化す。


「ごっほ……がはっ……はぁ……はぁ……ごっふっ……」


 いくつも失敗した。油断ばかりしていた。だが、腹を貫かれ血を吐き垂れ流しながらも、それでも何とか勝利した。

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