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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
110/138

110 ウルカ対アイカ

 合同訓練最終日。朝に招集がかけられ、全員ヘルの前に集まっていた。


「今日で最後だし……皆で軽く戦って終わりましょうか」


 初日と同じように総当たりで戦って終わりにするらしい。全員やる気は十分で、アイカも含めて皆殺気が漏れているほどだった。


「順番とかは好きに決めて良いわよ。皆で良い感じにやっちゃって」


 ヘルはそう言うといつもの観戦席に移動した。終わるまで口を出さずに眺めているつもりらしい。


「……誰から行く」

「皆やる気ありそうですし……」

「くじか何かが一番楽そうですね」

「じゃこれで」


 テラが地面に線を走らせる。隠されているが、いわゆるあみだくじという奴だ。四つの選択肢が、二つづつある初戦と二戦目の結果に繋がっている。


「俺以外が先に選んでください」


 作った本人以外が選び、最後のあまりをテラが選んだ。結果、


「私と」

「私ですね」


 私とアイカが初戦に決まる。私たちは少し距離をとって向かい合う。


「……仕方あるまい」

「残念」


 残りの二人は残念そうにしながらもいつもと同じ建物の屋根の上に登って見学を始めた。


「始めよっか」

「はい」


 向かい合う二人の魔力が高まっているのが傍から見ていても分かる。まるで質量を持って相手を圧し潰さんとしているかのようだ。


「『ユルサナイ』」

「『ダイジョウブダカラ』」


 二人の姿が変化する。膨大な魔力に包まれ、片方は燃え盛り、片方は轟音を響かせ、覚醒状態へと移行する。


「【回炎鎧】【焔槍】!!」

「【重奏(アンサンブル)】【輪舞曲(ロンド)】!!」


 鎧を展開し、牽制に槍を放つ。だが、アイカも鎧を展開して難なく防ぎ反撃に転じる。


「【狂想曲(ラプソディ)】!!」

「ちっ……!!」


 アイカの魔術は炎の壁では防げない。大きく飛び上がり回避する。以前は魔術を使う際に放つ方向に手を向けていたが、それが無くなっており地味に避ける難易度が上がっている。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「【極大受難曲(グラン・パッション)】!!」


 熱線を放ち、追撃の隙を潰す。が、正面から受けきられダメージは与えられない。


「【追走曲(カノン)】【聖譚曲(オラトリオ)】!!」

「ふっ……!!」


 アイカは二つの魔術を発動する。二つ目の魔術は単純な攻撃用の魔術のようで大きく動いて躱すことができた。命中した地面には衝撃が二重に走った痕があり、恐らく一つめの魔術の効果の影響だろう。


「【烈炎刃】!!」

「【狂想曲(ラプソディ)】!!」


 躱した先で放った刃は音で相殺され、爆発を起こす。爆煙で視界が一瞬遮られたところに音が聞こえた。


「【幻想曲(アラベスク)】!!」

「くっ……」


 知っている魔術だ。こちらの五感に作用し、自身の存在を誤認させるものだ。直接攻撃するものと違い使われた時点でどうしようもない。


「【極大狂想曲(グラン・ラプソディ)】!!」


 爆煙が晴れると目の前にアイカがいて魔術を行使していた。が、それが幻覚なのは分かっている。本物がどこにいても対処できるよう自身の周囲全体を巻き込んで魔術を発動する。


「……【滅炎球】!!」


 防御を貫通してくる攻撃を放ってくる敵がどこにいるか分からない以上防御や回避は不可能。であれば、相手にも回避不能の一撃をぶつけ痛み分けに持っていく。


「ぐぅっ……!」

「がっ……!」


 こちらは音を防御できている訳ではないが、アイカも炎から逃れることはできなかった。互いに大きく傷を負う。


「【焼剣・灰烈】!!」

「【円舞曲(ワルツ)】!!」


 幻覚の効果が切れ、真後ろの気配に向かって剣を振るう。上手く受け流されてしまったが、攻撃に転じる隙は与えない。


「【灰烈炎刃】!!」

「【極大円舞曲(グラン・ワルツ)】!!」


 追撃も受け流される。だが、今のでアイカの体勢が大きく崩れた。


「【極炎煌拳】!!」

「【受難曲(パッション)】!!」


 剣から片手を離し拳を叩き込む。防御の魔術が展開されるが、十分なものでは無い。


「がっ…!!」


 音の防護壁が砕けるようにして消え去り、拳がアイカの腹に突き刺さる。大きく減衰はしたが、無視できるダメージではない。


「【灰烈炎刃】!!」


 剣を振り下ろし追撃をかける。アイカは今の体勢では回避はできない。防御の魔術を展開しても防御力が足りない。


「はっ!?」


 アイカは防御しなかった。本来なら、体を両断するほどの一撃だった。だが、アイカは壊れかけの音の鎧にダメージの大部分を押し付け自身の傷を最小限にし、反撃の隙を無理矢理作りだした。


「ごほっ……【極大聖譚曲(グラン・オラトリオ)】!!」


 防御しなかったことへの驚きに、行動が一瞬遅れる。瞬間、全身を音が貫き、一拍置いて斬撃に似た痛みが走り、裂傷じみた傷がいくつも生まれる。


「がはっ……!!」

「【終曲(フィナーレ)】!!」


 一瞬動きの止まったところに魔術が撃ち込まれる。感じる魔力は膨大。食らえばタダでは済まないだろう。


「【爆焔球】!!」


 防御は不可能。自分とアイカの間に火球を生成し爆発させ、爆風に乗って距離を取り何とか回避する。


「くっ……【諧謔曲(スケルツォ)】!!」


 追撃が放たれるが、一度距離を取ってしまえば回避は容易だ。難なくかわして魔力を練る。


「ふぅ…【焔槍】!!」

「くっ……!!」


 アイカを囲むように槍を展開し、数十の槍を一気に撃ち込む。アイカは前方に動き槍の大部分の射線から外れるが、それでも躱しきれていない槍は多い。


変成眼(アルキム)!!」


 アイカは両手を前に突き出し炎の槍を受けた。本来なら手を焼き貫かれて終わるだけの行動だが、右目の紋様が輝き、アイカの触れた炎の槍が消失していく。


「そうなるのか……【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」


 炎の槍は音に変換され消失したように見えたのだろう。神器の性質を正しく知らない以上、試していくしかない。


「ぐっ…くぅ……」


 熱線に対してもアイカは同じように変成眼による防御を行う。だが、今度は槍の時とは違い熱線全体が一度に音と化すのではなく、触れている部分のみが音となって消えていっている。


「【炎赤波烈(レッド・バースト)】!!」


 少しずつこちらに向けて前進してくるアイカの歩みを止めるため、全方位からの熱線を見舞う。変成眼(アルキム)の効きが違うのは恐らくイメージの問題だ。ここからは熱線を中心に立ち回る。


「ふぅぅ……」


 アイカが対処に手一杯なうちに魔力を練る。攻撃に切れ目を作らず反撃の隙を与えない。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「くっ……【受難曲(パッション)】!!」


 アイカは変成眼での防御を止め、魔術による防壁を展開する。確かに熱線に対してはそちらの方が有効だろう。


「響けっ!!」


 熱線が止んだ次の瞬間、私の追撃よりも早くアイカが動く。地面に手をつき神器の力を発動した。


「くっ……!!」


 アイカが触れた地点を始点とし、私の方に向かって直線状に地面が抉れていく。そこに在った地面は音に変換され、私の体を貫こうと迫る。


「【狂想曲(ラプソディ)】!!」


 飛び上がって回避した私に向かってアイカは魔術を放ちながら迫ってくる。私は大きく回避して近接戦に備える。


「【行進曲(マーチ)】!!」


 アイカの振るった拳に魔術が宿り、激しく振動しているのが分かる。それに合わせ、私は剣で迎え撃つ。


「【円灼】!!」


 何度か打ち合って分かる。アイカはこの訓練で近距離戦の技術も教えてもらったのだろう。魔術も近接も最初に会った時よりも大分成長している。


「【炎赤波斬(レッド・ブレイド)】!!」

「ぐぅ……!!」


 だが、まだそれでも技術はこちらが上。問題は、防御のできない”音”の魔術の性質だ。回避のできない距離によられると対処のしようが無い。大火力でアイカを退かせ無理矢理距離を作る。


「【炎赤波烈(レッド・バースト)】!!」

「【輪舞曲(ロンド)】!!」


 やはり、遠距離から負荷をかけ続け、距離を詰めるのを阻止しながら削っていくのが最適だろう。近づいてくるアイカに牽制の熱線を放つ。


「【火ノ鳥】!!」

「ぐっ……【受難曲(パッション)】!!」


 今度は可能な限り多方向から攻撃し、防御を強制する。逃場を削っていき、まずは回避の選択肢を封じる。


「【炎赤波烈(レッド・バースト)】!!」


 防御するのに変成眼(アルキム)より魔術の方が有効な熱線系の魔術を中心に使い、魔術による防御を誘う。


「【極大輪舞曲(グラン・ロンド)】!!」


 アイカは今のところ全て防いでいるが、余裕が無くなってきているのは見れば分かる。こちらも重傷。一気に勝負を決めにかかる。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「【極大受難曲(グラン・パッション)】!!」


 放たれた三つの熱線をアイカは音の防壁で受ける。ダメージは与えられていないが、問題ない。ここで回避や変成眼(アルキム)でなく魔術による防御を選択させた時点で後はどうにでもなる。


「ふぅぅぅ……【炎渦針誅】!!」

「くっ……がふっ!?」


 防壁に針を放つ。針は欠片ほどの抵抗も無く、豆腐に釘を打つように防壁を貫通しアイカの腹を貫いた。


「なっ……?」


 アイカもここまで容易く正面から破られるとは思っていなかったようで、一瞬動きが止まる。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「【受難(パッ)あぁぁぁ!!」


 反応が遅れ追撃に防御が間に合わず、熱線がアイカに直撃する。


「そこまでね。お疲れ様」


 熱線が止むと、そこには怪我の完治したアイカとヘルが立っていた。


「ウルカもこっちいらっしゃい。歩けてはいるみたいだけれど、十分重傷よ」

「はい」


 ヘルの言う通り、私もかなりの重傷だ。防御ができない分食らう攻撃が多かったのも原因だろう。


「《奇跡(ブレス・ユー)》…二人とも休んでなさい」

「「はい」」


 テラとエインと交代し屋根に上る。非常に疲れてはいるが、体が完全に元気である以上、少しすれば精神もそれについてくる。


「そういえば、神器の使い方はまだ分からないんですか?」

「あー、うん。色々試してるんだけどね。反応してくれないんだよね」


 二人が戦い始めるまでの少しの間。今回の戦いでも使わなかった、もとい使えなかった私の神器”五尖印”について聞かれた。名前を呼ぼうが魔力を流そうが叩いてみようが今のところ何の反応も無いのだ。


「うーん……どうすれば良いんでしょう」

「良い手も思いつかないし、気長にやってくよ」


 アイカには毎日夜に手伝ってもらっていたのだが、なんの進展も無いのだ。ちなみに私は手伝ってもらう代わりに魔術を手以外から発動するやり方なんかを教えたりしていた。


「そうですね」

「うん。手伝ってもらっといて結局成果無しってのもごめんだけど」


 色々案を出してもらったりしていたので少し申し訳ない。


「いえ、そんなことは……それにこっちもちょっと口実欲しくて…………」

「ん?なんて?」

「ああいえ、何でも無いです、はい」


 最後のところが小声で聞き取れなかったが、まあ本人が何でもないと言っているので一旦スルーする。


「あ、始まるみたいですよ」

「ん、本当だ」


 爆発的な魔力の高まりにテラとエインの方を向けば、二人とも覚醒状態になるところだった。アイカが少しだけ何かに焦っているような気がしたが、それが何かは分からなかった。

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