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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
11/138

11 図書館レベル3

「…はい、確認できました。Cランクですとレベル3までの閲覧となります」

「ありがとうございます」


 私は試験の後すぐに図書館に来ていた。今日から新しく入れるようになった3階のレベル3のフロアに足を踏み入れる。レベル3のフロアには、「異端と扱われた本または一般人の不安を過度に煽る本」の二種類が制定されて保管されている。


「何か進展があると良いな」


 1、2階にもあった教会と歴史関係の棚を探すがレベル3は本の数が他の階よりも多いようで、教会と歴史で棚が分かれていた。


「多…どうしようかな。まあ日はあるしちょっとずつ見て行こうかな。とりあえず…これとか持っていくか」


 歴史書や物語、考察に少ないが図鑑など、沢山の本の中から、「魔王軍の2000年」、「新魔女考察」、「魔族図鑑」、の三冊を選んで持ってくる。他にも「ナート教裏歴史」、「真実と運命と勇者と」、など、気を引く本はいくつかあったが、今日は予定通り魔女に関係ありそうなものを選んだ。


「魔王軍の2000年。魔王側に立って歴史を再考察した歴史書か…目新しいものはそんなに無いかな…あ」


 レベル1、2の本と視点が変わっただけなので、あまり情報は得られないかと思っていたが、こんな記述を見つけた。


 1000年前の第三次聖魔大戦。我が軍の最高戦力が初陣を飾る。敵軍1万を単騎で壊滅させ、その戦地を氷で覆われた不毛の大地に変える。聖歴1994年現在、まだその大地の氷は溶けていない。(魔王軍の2000年 より)


「いくらなんでも誇張な気がするけど…いくらなんでも聖騎士もいる1万の軍を1人で壊滅させられるのかな…しかも今も解けない氷を比較的温暖だった地域に…私が氷床を炎の海に変えるようなものだよね。まあ、不安を過度に煽るって評価されるのも納得だけど」


 実際に第三次聖魔大戦のあったかつてホワイトコーク高原と呼ばれた比較的温暖な地は、現在「ホワイトコーク万年氷床」という名の地名になっており、氷に覆われた寒冷地になっている。それは事実なのだがそれを一つの生物が単騎で実現したとなると信じ難い。それに、レベル1、2の本では詳しい戦闘の描写がなく、ここまで大きな戦いがあったのならもっと詳しく書かれていたと思うのだ。


「さすがにエンタメだと思うけど…。まあこの本はそれぐらいかな」


 ざっとみたが、誇張と取れるような表現が散見して本当なら魔族が化け物すぎるがいくらなんでも信じられない、といった内容だった。


「あんまり新情報はなかったね。さすがに信じ難いし。まあ次だ次」


 一冊目を閉じ、二冊目の「新魔女考察」を開く。


「これは…一般の通説と全然違う…。異端って評価なのかな?」


 レベル3の要件の一つである異端を感じる本で、読み進めていくうちに、気になる記述に出会った。


 私はここで魔女は魔女ヘル以外にもいるという説を提唱したい。私が思うに魔女には二種類いて、ヘルのような聖騎士でも歯が立たないような個体と、一般の聖騎士クラスの実力があれば余裕を持って討伐できる個体、この二種類が存在すると考えている。歴史に登場する個体のほとんどが後者であり魔女のほとんどが討伐されているように見えているが、実際は前者の個体がヘルを除いてもまだ複数いると考えられ、魔女は確認できていないだけでヘルと同じ個体が複数いる可能性が高いのだ。(新魔女考察 より)


「そうか、確かにその可能性はあるか?現に私がこの世に生まれてる訳だし」


 新魔女考察はレベル1、2にあった本よりも実体験に近いことが書かれており感覚的に正しそうなものだった。見つけた記述の後には根拠や他の説の提唱など、かなり濃い内容が書かれておりこの本は結構気に入った。


「新魔女考察、結構いいな。新しい視点もくれるし私の違和感も説明できそう」


 そう言って読み終わった新魔女考察を閉じて最後の一冊を開く。


「魔族図鑑、ね。レベル1、2だと一人一人の情報なかったし、魔族のことが分かれば私のことも分かるかな」


 魔女も魔族の一つである以上、同族のことを少しでも知れるのは大きい。


「あー、でもそんなに無いなぁ」


 魔族図鑑の内容としては、


 魔王ジーガランデ

 魔国および魔王軍のトップに君臨する超越者。その姿が確認されたことは歴史上数度しか無い。


 “統括者”フォルネウス

 魔王軍の参謀にして魔王の副官。種族は不明。魔王軍幹部最古参で戦場において魔物を操る姿が確認されている。


 “死氷”ヘル

 魔王軍四天王の1人で魔人軍のトップ。千年前に誕生したと思われる魔女で、氷の魔術を扱う姿が確認されている。


 “邪竜皇”ボロス

 魔王軍四天王の1人で竜軍のトップ。竜族に背信して竜皇を自称する、元四天竜の一角である。


 “無血”ケイト・オシリス

 魔王軍四天王の1人で現暗黒騎士団団長。ダークエルフの剣術の達人でスキルを使用すると思われるが実態は不明。


 “暴虐狼”スコル

 魔王軍四天王の1人で獣人軍のトップ。狼の獣人であり戦闘は爪などを用いた肉弾戦である。


 など魔王を中心に有力な魔族の情報が簡潔にまとめられており、あまり調査ができていないのか深い情報は無かった。しかし情報は薄くとも四天王以外の魔族も多数載っていて、「“禁忌”ネクロ」「“殺戮狼”ハティ」など現在も生きている魔族や、「“堕炎”スルト」「“狂人”ユーリ・クロード」など過去の魔族と、魔族の知識を純粋に増やすことはできた。


「うーん…全体的には正直期待はずれかなぁ。特に魔族図鑑はもうちょっと詳しい情報が欲しかったかな。明日以降にもっと良い本を見つけられると良いな」


 三冊の本を棚に戻しながら呟く。レベル3が解禁されて初日はあまり良い成果を挙げれたと言えなかったが、魔族や魔女について新しいことがわかりそうな雰囲気はあったので明日以降に期待だ。


「明日はナート教裏歴史とか他の気になった本でも読もうかな。依頼の後時間あればだけど」


 明日のことを考えながら図書館を後にする。


「今からどうしよ…もう暗いし夕ご飯食べて帰ろうかな」


 外に出るともう真っ暗になっていた。夕飯を食べることに決め、ギルドの方へ向かう。


「ギルドの横の店でいっか。あそこ安いし」


 ギルドに併設されている酒場は安くてそこそこ美味しいのでよく行く店の一つだ。難点は酔っ払いがたまに暴れることだが。


「よし、ついたついた。今日は…鳥の煮込みが安いんだね」


 店にはすぐにつき、表の看板を見て安いものを注文することに決める。


「すいません、この鳥の煮込みと牛すじ煮込みください。後…エールを」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 席についてすぐに注文する。牛すじ煮込みはこの店の看板メニューでいつも頼むものだ。今日は何となく酒も頼んだが、本来今の体では酔えないのであまり飲む意味は無い。


「お待たせ、エールに鳥と牛すじの煮込みだよ」

「ありがとうございます」


 客が多いわりにはあまり待つこともなくすぐに料理が運ばれてきた。周りの人はもう食べ終わって雑談でもしているのかもしれない。


「んー、美味しい」


 鳥も牛すじもよく煮込まれていて、口に入れると溶けるほどだ。牛すじの方は筋感の悪いところが出ていなくてとても美味しい。


「安いしそこそこ良い店なんだよなここ。…騒音だけはあれだけど」


 エールを飲みながら少し愚痴る。たまにランチを食べに行く店と違い、いつ来ても冒険者連中でごった返していてうるさいのだ。


「…たまにはちょっとぐらい酔いたいんだけどなぁ。お酒って毒物かなにかなのかなぁ」


 酒の入った大きなコップを眺めながらそう漏らす。15歳になって成人した時は結構早く酔ってしまった酒だが、魔女になって全く酔わなくなってしまった。


「現実逃避も許されないとは。体が強いのも考えものだね」


 魔女になった時も現実を見たくなかったし、今でもあの時のことはよく夢に見るのでヤケ酒でもしたくなることがあるのだが、体が逃げるのを許してくれないのだ。


「全く辛いよ…。あ、無くなっちゃった」


 しばらく1人で愚痴っていると、料理も酒もすぐに無くなってしまった。


「帰ろうかな」


 伝票を持って席を立ち、会計に向かう。


「はい、990シエンだよ。…うん、丁度ね。毎度。またいらっしゃい」

「ありがとうございます」


 支払いを済ませて店を出る。


「今日は帰るか…帰ってちょっとだけ身体強化の練習して寝よう」


 特にもうやりたいことも無いので、いつもの宿に向かう。


「…帰りました」

「そうかい」


 受付のお婆さんと一言だけ言葉をかわし、部屋にもどる。


「はあぁ…あんまりいい情報無かったなぁ。まあ試験に受かったのは良かったけど」


 ベッドに座って今日のことを少しだけ振り返る。


「すううぅぅぅぅ…はああぁぁぁぁ…明日は…図書館行くのと…ああ、そろそろタケルくんに借金返せそうだしCランクの依頼受けてみようかな」


 魔力を体の末端まで送り込んで身体強化の練習を始める。これまでは宿代と食費にほとんど消えていた依頼の報酬だが、少しずつ貯めていたのと合わせてCランクの報酬を貰えれば借りた50000シエンに届きそうなのだ。


「思ったより長くかかっちゃったな。1ヶ月か」


 利子はいらないから何かあったとき手伝ってよと言われているので金銭自体は明日返しきれそうだ。


「何か、がどれぐらい大変かだけど…まあこっちが悪いしその時考えるかな」


 タケルに助けて貰ってからもう1ヶ月も経っているのだ。時が経つのは早いものだと感じる。


「…うわっ、危ない。暴発するところだった」


 一瞬気を抜いてしまい、魔力が暴発しかけてしまった。そこそこの量の魔力と熱を生み出しているので、今暴発したら今いる宿は確実に壊滅、周りの建物も半壊、といった事態になっていたかもしれない。


「今日はやめとこうか。ていうか部屋でやんない方がいいな、これ」


 身体強化を解除する。よく考えれば《強化感覚》込みの五感でも速すぎてちゃんと周りを認識できなかったのだ。そんなもの部屋の中で使って失敗したら大惨事になるに決まっている。


「レベル3には教会本部の見取り図的な物とか、教会の強者の詳細とか、魔族の詳しい情報とか、欲しいものあんまり無かったし、まだしばらくはこの町にいることになるかな」


 最終的に欲しい情報を想起し、ベッドに横になる。


「そういうのはあってもレベル5とかかなぁ。ま、そんな本があっても今は勝てないしいっか。たぶん魔女になって寿命も延びてるし、多少時間かかる分には大丈夫だろうし。ヘルって人も1000年は生きてるっぽいしね」


 これからのことを考えるが、結局今考えても仕方ないとの結論に落ち着き、考えるのをやめた。


「おやすみ」


 今日も虚空におやすみと告げ、眠りにつくのであった。

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