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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
103/139

103 模擬戦

「お、戻ったか。二人とも良いの見つかったか?」


 ヘルは神器関連でやらなければならないことがあるようで、私とアイカを地下から出した後に地上の別室に向かった。外に戻った私たちにはテラが気付いて話しかけてきた。


「たぶん」

「はい」


 私は自分の神器が良いものなのかどころか何なのか全く分かっていないので曖昧な返事になったが、アイカは自信を持って返事をしていた。


「ヘル様は何を?」


 エインの声にそちらに視線を送れば、エインとケイトもこちらに気付いて近づいてきていた。


「私たちの神器のことでちょっとした書類を書くと言ってました」

「すぐに戻ってくるだろう。神器の所有者登録だろうが、ヘル様が直接するのなら一人につき一枚署名と神器の名前を書くだけだ」


 神器の管理のトップはヘルらしく、ヘル本人なら必要な書類のほとんどを無視して手続きを終わらせらるらしい。ケイトが教えてくれた。


「ごめんなさいね。遅くなったわ」


 その後少しだけ雑談して待っていると、十分もしないうちにヘルが帰って来た。


「早速始めるわよ。みんなこっち来なさい」


 ヘルは私たちに声をかけた後、建物の反対側へと向かって歩き出す。


「とりあえず、テラとウルカとエインは多分同じことやってもらうことになるわね。あとの二人は別メニューかしらね」

「「「「「はい」」」」」


 ヘルは建物から少しだけ離れたところで立ち止まって言った。全員の返事が重なり、雑談していた時と比べ、いくらか空気が張り詰めていた。


「三人にはとりあえず戦ってもらうから準備してね」

「「「はい」」」


 テラとエインと共に呼ばれ、それぞれ戦闘の準備を始める。


「その間はあなたはこれやっててもらおうかしら。危ないから上でやると良いわ」

「はい」


 その間にケイトは数枚の紙を渡されており、恐らく訓練のメニューを渡されたのだろう。また目は離していなかったはずだが、ケイトはいつの間にか建物の屋根の上にいた。


「あなたは……教えたこと覚えているわね?とりあえず、それを完璧にできるようにしなさい。あなたも上でやると良いわ」

「はい」


 アイカは何かを指示され、屋根の上に上がって座って何かを始めた。恐らくこの場所に来るまでに何かを教わっていたのだろう。


「あなた達がどういう戦い方するかも今の練度も知らないから、とりあえず見せてもらうわ。誰と誰から行く?」


 ヘルは二人に指示を出すとすぐにこちらに戻ってきた。


「…………俺が待ってますよ」


 三人で顔を見合わせ少しの沈黙があった後、テラが言った。


「そしたら……私とエインさん?」

「貴殿が良ければ」

「分かったわ。好きなタイミングで始めて。危なくなったら止めるから殺す勢いでやっちゃって良いわよ。あ、あとできれば建物は壊さないようにお願いね」


 私たちの意思を確認すると、ヘルはテラを連れてケイトとアイカのいる屋根の上に向かった。


「……始めますか」

「そういたしましょう」


 屋根の上の四人は、各々やることをやりながらこちらに注目していた。


「『ユルサナイ』」

「『オイテイクナヨ』」


 相対した二人の姿が変わる。エインは鎧を纏い、眼は薄い緑色に変わり髪にも同じ色が混じる。背負っていた槍を持ち、穂先をこちらに向け構えた。


「……【焔槍】!!」

「……【嵐槍】!!」


 動き出したのは同時だった。炎と風のそれぞれでできた無数の槍どうしが衝突し相殺される。数は炎の槍の方が多くいくつかがエインに向かったが、エインは難なくかわしこちらに向かって駆け出す。


「【焼剣】【回炎鎧】」

「【風鎌纏(かぜかままとい)】【嵐鎧】」


 距離が詰めきられるまでの一瞬に、互いに近距離戦の準備が完了する。


「【灰烈炎刃】!!」

「【風穴】!!」


 振るわれた剣と突き出された槍が衝突する。力はほぼ互角。何度も打ち合い武器の音が響く。


「くっ…【爆焔球】!!」

「【風巻(かざまき)】…ちぃっ……!」


 肉薄した二人の間に火球をねじ込み距離をとる。綺麗に受け流されてしまいダメージは通っていないが、距離を稼げれば十分だ。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「くっ…【風巻(かざまき)】!!」


 近距離戦の実力は完全に負けている。ある程度打ち合えてはいるが、苦しい展開が続き傷が増えていくだけだ。遠距離から高火力で負担をかけていく。


「【風祭(かざまつり)】!!」


 熱線をかわし防ぎ切ったエインは、暴れ狂う暴風を生み出し、辺り一帯を埋め尽くす。


「【炎赤波烈(レッド・バースト)】!!」


 が、室外なのもあってか予言者の時ほどの暴風ではない。攻撃も防御も通せる強さだ。全方位からの熱線を浴びせさらに負担をかけていく。


「ちっ……守れ!!」

「……!!」


 瞬間、エインを中心に半球状の結界が現れ、熱線を遮断した。その結界は、青白く燐光を放っていたが、炎でできていた。


「【炎赤波爆】!!……神器か!」

「渦巻け…【風巻(かざまき)】!!」


 エインは自身の周囲に燐光の炎を漂わせ、そのまま風の魔術を行使した。魔術に燐光の炎がまざり、別のものになっているのが分かった。


「【焔槍】!!」

「【嵐槍】!!」


 槍は槍で迎え撃たれるが、数で勝っている以上有利はこちらだ。エインの対処している隙に次の魔術を準備する。


「【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」

「くっ……!!」


 体勢は少し崩れているが、三つの熱線はすべてかわされてしまった。それどころか、一瞬のうちにエインは反撃の準備を整えていた。


「【風王砲】!!」


 恐らく、【炎赤波爆】を風と燐光の炎で行ったようなものだろう。見ればわかる超火力の燐光の塊がこちらに飛来する。


「ふぅ……!!」


 エインが近づいてくる前に魔術の用意を始める。普通ならば食らえば不味いだろうが、炎であれば私に効くことは無い。


「かぁっ…!?」


 はずだった。


「なんっ!?」


 炎を食らったはずの左半身は、凍り付いていた。打撃も相まって飛翔が不安定になり落下する。


「【嵐槍】!!」

「くっ…ぐ…【炎壁】!!」


 落下する私に向けて無数の槍が放たれる。ギリギリで防ぐことはできたが、その隙にエインは一気に距離を詰めてきた。


「【回炎鎧】!!」


 急いで鎧を再展開し、今度は燐光の炎でかき消されないよう思い切り火力を上げる。


「【風穴】!!」

「【炎流波紋(エンルビート)】!!」


 ギリギリ間に合い初撃は受け流すことができた。だが、体勢も悪く次以降がどうしようもない。


「【風牙】!!」

「がっ…【炎赤波撃(レッド・バン)】!!」

「なんっ…がはぁっ!!」


 被害が拡大する前に手を打つ。回避と防御を捨て、一撃受けてこちらの反撃を押し通す。


「【炎赤波烈(レッド・バースト)】!!」

「【風巻(かざまき)】!!」


 少し後ろに吹き飛び体勢の崩れたエインは、追撃の熱線を展開した風で散らして受ける。ダメージは通らなかったが、大きな隙は作れた。


「【焼剣・炎赤波斬(レッド・ブレイド)】!!」

「【風…がふぁぁっ!!!」


 一気に距離を詰め、生成した剣で最大火力の一撃を叩きこむ。防御の展開は間に合わず、エインは袈裟に斬られ大きく吹き飛ばされた。


「【火ノ鳥】!!」

「がはっ…ちぃっ!!」


 追撃に鳥を飛ばしたが、それは槍で切り裂かれる。が、いくら何でもエインも限界なようで、息が荒い。


「ふぅ……【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」


 とはいえこちらもエインと同じくらいには重症だ。熱線を放ち、勝負を決めにかかる。


「【風王砲】!!」


 だが、それはエインに阻まれる。互いの魔術が爆音をだして衝突し、相殺されて消えた。


「埋め尽くせ!!」


 こちらが次の魔術を放つより早く、エインに動かれた。燐光の炎が増幅してあふれ、辺りを包む暴風に乗って空間を満たしていく。


「ちっ……!!」


 燐光の炎と炎の鎧により、体は凍てつきは溶け、溶けては凍てつきを繰り返す。このままではただただ体力を奪われ傷が増えるだけだ。


「【風王砲】!!」

「【滅炎球】!!」


 次の魔術が完成したのは同時だった。風と燐光の砲撃と小さな火球は二人の間で衝突した。が、両方ともに減衰せず、少し軌道を変えた程度で互いに命中する。


「がぁっ……ふ……!!」

「ちぃっ……!!」


 私は半身が凍り付いて衝突した打撃が体を貫き、エインは急いでその場を離れたが一瞬炎に飲み込まれて大きく傷を負う。


「【嵐槍】!!」

「【焔槍】!!」


 距離が開き、互いに満身創痍の中で双方から槍が放たれ空中で衝突する。その後、それぞれ距離を詰めようと走り出し、魔力を練り次の魔術の準備を始めた時だった。


「もう大丈夫よ」


 ヘルが、私とエインの間に立っていた。戦っていた二人は自然と攻撃への動きが止めた。


「こっちいらっしゃい」


 それぞれ満身創痍ではあるが、流石は魔者といったところ、立ち上がり歩くくらいのことはできた。


「どっちかには連続で戦ってもらうけれど……まあ少し休みましょうか。心理的な疲れはとれないのよね、これ……《奇跡(ブレス・ユー)》」


 ヘルはそう言いながら私とエインの肩に軽く手を置いた。その瞬間、私とエインの傷は、常人なら死んでいるレベルの重症は、綺麗さっぱりなくなり無傷の状態になっていた。


「「……!?」」


 二人で驚きに少し固まってしまう。だが、よく思い返せば過去に二度だけこの力を受けた記憶がある。一度はシルグリアでヴェネミアを使った時、そしてもう一度は聖女と戦った後ヘルと初めて会った時だ。後者に関しては意識がなかったので記憶はないが、恐らく今回と同じことをしたのだろう。


「ちょっと休んだら次ね」


 ヘルは、聖女の時と同じように何でもないような態度だった。



 その後は休憩を挟みつつ、それぞれ二戦、合計三戦を行った。そのころにはすでに日が暮れ始めており、辺りは暗くなり始めていた。


「私たちに関しては必要か微妙だけれど……一応夜中は休憩の時間にすることにしているから、ゆっくり休んでちょうだいね」


 極論、魔者には睡眠も食事も必要ない。体力もヘルの《奇跡(ブレス・ユー)》で回復できる以上、休息は無くても問題はない。


「まあ、魔者の戦闘には精神が直結するんだし、心の疲れをとってちょうだい。それは私のスキルでも無理だから、各自気を使ってね」


 だが、体は元気でも全力で戦った以上心は疲れている。魔者の力の源は感情でありそれを生む心である以上、精神を休めるのは大切である。


「それじゃ、また明日ね」

「「「「「はい」」」」」


 ヘルは、五人の返事を聞くと、優し気な笑顔で自分の部屋へと戻っていった。

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