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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
10/138

10 昇格試験

「ふわあぁぁ…んー…今日は…ああ、試験だ」


 目が覚めて大きなあくびが出る。


「…行くかぁ」


 朝にやることもないのですぐに着替えてギルドに向かう。


「すいません。昇格試験受けに来ました」

「あ、ウルカさん。了解です。少々お待ちください。冒険者証お預かりしますね」


 受付の人はすぐに答えてくれた。今日も朝が早くまだ人が少ない。


「今試験官の人を呼んできますね」

「ありがとうございます」


 受付の人はギルドの建物の奥に入っていき、1人の男性を連れてきた。


「どうも。ジェイルと言います。あなたの試験官ですね。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」


 ジェイルと言うらしく、この人が試験官だそうだ。身長は170程度だろうか。筋骨隆々という感じではないが、しっかりした体付きをしていて姿勢も良い。


「それじゃあジェイルさん、後はお願いします」

「ええ。やっておきます」


 受付の人はそう言って持ち場に戻り仕事を再開した。私はジェイルさんとギルド裏の訓練場に向かう。


「試験は模擬戦だよ。私がやめと言うまで戦うだけ。その結果次第で合否を伝えるからね」

「わかりました」


 どうやら模擬戦スタイルの試験らしい。彼は歩きながら教えてくれた。


「そういえば、試験のためだけにこんな朝からギルドにいたんですか?」

「ああ、それもあるけど、別件でちょっとマスターと話しててね。それでいたんだ」

「そうなんですね。ちなみにその別件ってのは?」

「んー、今は教えられないね。でもCランクに上がったら多分嫌でも聞くと思うし、とりあえず試験しようか」

「はい」


 訓練場で少しだけ話し、彼がこんな早くにギルドにいた理由が分かった。しかしその別件の内容が一番気になるが、教えてくれないそうだ。


「私はB+なんてやってるけど、戦闘が得意なわけじゃないんだ。ま、お手柔らかにね」

「…それ、B帯とかA帯の上位者の話ですよね。冗談は結構ですよ」


 彼は謙遜するが、実際は強い。戦闘に向いていなかったとしても、さっきから足音がしていないし、何かあるのは確実だ。


「そうかい。かかっておいで」

「ふううぅぅぅぅ…行きます。はあっ!!」


 会話が終わり、自然に戦闘体制に入っていた2人は戦闘を開始する。


「むっ…速いね。はっ!」


 魔力で身体を強化し前に突っ込んで殴りかかるが、普通にかわされる。出力を抑えているとはいえ、紙一重で完璧にかわされた。やはりオーガなんかとは「技術」が違う。


「まだまだ…はあっ!!」

「ふっ…なっ!へぇ…良いね。技は甘いが力と機転がある」


 今度は殴るように見せてから彼の横の地面を蹴って背後に抜け、反対側から攻撃する。しかしそれも手で綺麗に受け流されてしまった。


「さて、今度はこっちから行くよ…おらっっっ!!」

「くっ…」


 まっすぐ打ち込まれた拳を大きく避け完全に回避したが、なぜか掠ってしまう。


「もう一発だよ。はっ!」

「音も匂いもしないのはやりずらい…はあぁっ!!」


 彼の周りを回ってフェイントをかけながら様子を見ていると、もう一発打ち込んでくる。不気味なことに耳と鼻からの情報が全く無く少し回避が遅れてまた掠ってしまったが、無視してカウンターを仕掛ける。目からの情報が普通にあるので戦えるが、情報が、そこにあるはずのものが足りないのは気持ち悪い。


「なるほどね…ここで」

「もう、一発ぅぅぅ!!」


 カウンターはかわされたが、もう一度殴る。


「食らいたくないね…しょうがない。《流動》」

「何っ!?」


 殴った手応えは確かにあったが、おそらくスキルと思われる力のせいでダメージが入っていない。


「あー、そうだね。そろそろ終わろうか。最後だよ。来な」

「はあああぁぁぁぁぁ…ふうううぅぅぅぅぅ…」


 情報が無さすぎて《流動》とかいうスキルを破る方法は特に思いつけなかった。なら後は思いっきりぶん殴るだけだ。


「(魔術と熱は使わない。強化も弱めで半分ぐらい。今出していいパワーを全開で出そう。)」


 深呼吸をして少しだけ思考して構える。技なんてあったもんじゃないが、今一番速く動ける体制だ。


「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「…ふっっ…《流動》!くっ…」


 正面からスキルごと砕いてやるつもりで殴る。しかし、また完全に受け流されてしまった。


「…試験、終了だよ」

「…。ありがとうございます。短いんですね」

「ああ。ま、プロだからね。少し戦えばわかるもんなんだよ」


 数回の攻防で相手の力量が分かるのか。やはり彼は強者だ。


「まあ、本当は私にスキルを使わせたところで終わっても良かったんだけね。その時点で合格にするつもりだったし」

「そうなんですか?」

「そうさ。だからCランク合格だよ。おめでとう」

「ありがとうございます」


 まあ考えてみればそりゃそうなのだが、B+の人間とやりあえるならCランクには十分すぎるのだ。彼の言う通り、B+が少し苦戦した段階、つまり彼がスキルを使ったところで合格だったのだろう。


「ああ、そういえばジェイルさんのスキルってどんなのなんですか?なんか入ったはずの攻撃でダメージを負ってなかったですけど」

「んー、流石に秘密だね。知りたかったら自分で暴いてみると良い」

「まあ、そりゃそうですよね。すいません」


 ギルドに戻りながらスキルについて聞いてみたが、案の定答えてくれないようだ。


「じゃあ、戻ろうか。結果をギルドに伝えないとね」

「はい」

「しかし、君強いね。技はまだまだ甘いけど、パワーとスピードはBランクとかでも全然通用しそうだね」

「そうですか?ありがとうございます」


 少しだけ雑談をしたが、半分の強化でも大分強いらしくCランクにはオーバーパワーだったようだ。技が甘いとは言えそりゃ試験も一瞬で終わってしまう。


「じゃあちょっと報告してくるから待っててね」

「はい」


 ギルドに戻ると彼はそう言って建物の奥に入って行った。


「はい、お待たせしました。ジェイルさんからも合格だそうですし、素行にも問題ありません。たった今から、ウルカさんはCランク冒険者になります。おめでとうございます。冒険者証もお返ししますね」

「ありがとうございます」


 冒険者証のランクの表記がDからCに変わっている。これで私もCランク、一人前ということだ。


「じゃ、私はこれで。さっき言った別件のことでマスターと話があるんだ。Cランク、おめでとう」

「あ、ありがとうございます」


 ジェイルさんは一言賛辞を送って奥に消えていった。


「私も今日は帰りますね。ありがとうございました」

「そうですか。お疲れ様です。また依頼の時に」


 私は受付の人に見送られてギルドを出る。Cランクになったので、今日はこの後図書館に行くつもりなのだ。


「試験、簡単で良かった。それに暴発とかもしなかったし。ま、合格したしそれはいいか。それよりレベル3なら何か良い情報があるかな。特に魔女のこと」


 特に魔女のこと、と言うのには理由がある。本のレベル1、2で聖騎士団長と聖女がSランク級の強さを持っている、しかも聖女の方は冒険者として登録して実際にSランクであるということがわかっていて、今の状態では教皇を殺しにいっても勝てずに返り討ちにあうのが目に見えているのだ。教会のことも知りたいが、今教会のことを知ってもその情報を活かせないどころか最悪感情が爆発して対策もなしに特攻する可能性さえあるので、今は魔女のことの方が優先的に知りたいのだ。


「まあでも、とりあえず行ってみて、だね」


 まだ今日は時間があるし、早く調べたいので私は急ぎ足で図書館に向かうのであった。


 ※


「マスター、ブラックの件、どうなってます?」


 試験が終わってすぐにブラックオーガの件でマスターのところに向かった。


「明日には依頼を張り出す予定だ。オーガ、ブラックオーガの調査及び討伐という名目でね。ランクはC以上だ」

「了解です。実際に実施するのは?」

「三日後だ。依頼を出した後二日後に出発する」


 さすがの対応の速さだ。一週間ごに出発できれば御の字と思っていたが、ブラックオーガの報告から5日で出発できるとは。


「ありがとうございます。それで、この件と関係があるか微妙なんですが、一つ報告が」

「なんだ?」

「今日私が試験官を担当した新人の冒険者のことなんですが、戦闘スタイルは高いフィジカルによる格闘で、今日見ただけでもパワーとスピードならBランク相当です」


 今日の彼女についての報告を始める。


「それで?」

「…ブラックオーガを討伐したのが彼女な可能性があります」

「なんと…それは、どういう?今日の試験というと、確かウルカ、という名だったな」


 マスターは驚いた表情をしていたが無理もない。まさか今日Cランクになった新人がB+のブラックを倒したとは信じられないだろう。しかも、今日の彼女に昨日負ったような傷は無かったし、もし彼女がそうなら無傷か非常に軽症でブラックを突破したことになる。


「はい。そのウルカです。今日の試験でBランク級のフィジカルを感じましたが、まだまだ余力があるように見えました。爆発の方法はわかりませんが、ブラックオーガを正面から打破できる可能性があるかと」

「なるほど…しかしだとしたらなぜ彼女はその力と功績を隠す。それを隠す理由がないだろう。それにお前の言った通り爆発の方法もわからない。私も少し見かけたが精霊を連れている様子も無かっただろう」


 そうなのだ。そこがわからない。正直もう彼女がAやAプラス級のフィジカルを持ちブラックオーガと正面から殴り合えるのは確定だと思っている。出なければいくらなんでも自分と戦って息切れ一つ起こさない訳がない。しかし、マスターのいう通り隠す理由が一切ないのだ。


「隠す理由は見当もつきません。彼女にとってその力や功績が表に出ることが不都合な何かがあるとしか。しかし、爆発の方はスキルの力かと」

「まあ犯人が彼女とすればそれが妥当か。しかしスキルが爆発ならそのフィジカルはどこ由来のものとなる?それに爆発は試験で見せなかったのだろう?」

「ええ、スキルは1人一つですし、そこはわかりません」


 言っておいてなんだが、ブラックの直後に強い格闘の戦士が見つかったから結びつけたものの矛盾も多いし関係無い可能性の方が高いとは思う。


「まあ自分でもかなりおかしなことを言っている自覚はあるので小さな可能性として覚えておいていただければ」

「まあ、そうだな。今はオーガ討伐についてだ。確定しているメンツは、現状私と君だけだ。誰か良い人材はいないか?」


 オーガの話に戻る。広く募集は掛けるが、最低限の戦力は欲しい。


「そうですね…水女王はこないでしょうし…あ、それこそウルカを招集してみるのは。何か分かるかもしれませんし」

「ふむ。そうだな。それもありか。なら君のところの人材を監視に付けるか」

「了解です」


「他には___」

「確か、あの___」

「彼なら___」

「こんな記録が___」


 その後もオーガ討伐の会議は続き、終わる頃には昼を過ぎていた。


「すまないな。大分時間が経ってしまったな」

「いえ、大丈夫です。今日は依頼を受けるつもりもありませんでしたし。では、私はこれで」

「ああ、また」


 マスターに別れを告げ、帰路に着く。


「ウルカ…ブラックの犯人ではないとしても、何者なのかは非常に気になるな。まあ、今度の討伐に来れば、何か分かるか」


 謎の多い新人のことを思いながら、ジェイルは人混みに消えていった。

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