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異世界転移後のエトセトラ  作者: Iloa
異世界転移ってやつ、したみたいです。
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異世界転移後のエトセトラ 5

とりあえずギルドにお世話になるにあたって、私のことは『異世界人』ではなく、『記憶喪失者』ということにしようか、とのギルマスの提案に頷く。異世界人は今のところ私以外は確認されておらず、混乱を招くといけないから、とのことだった。それから、できることでいいからギルドの仕事も手伝って貰わないといけない、とのことにも了承を返した。勿論そのつもりだったのでそこは私も譲れない所だ。働かざる者食うべからず、ってやつだ。折角拾ってもらったのだから少しでも恩を返したい。

今後の話し合いをしながらすっかり冷めてしまった紅茶を頂いていると、こんこん、とノックの音が響いた。

「マスター、失礼します。お話はもう終わりましたか?」

「ああ、大丈夫だよ」

ノックの主はセシリアさんで、ギルマスの返事に扉を開けて入室してきた。それから、壁際に立ったリゼロさんの方へと視線を投げる。

「依頼の報告書がまだできなくて。すみませんが、リゼロさんをお借りしてもよろしいでしょうか?もうギルドも閉めますので」

「ああ、もうそんな時間か!すまない、話し込んでしまった。なんなら報告書は明日でもいいよ。リゼロには簡易報告はしてもらったから」

「そうでしたか。では報告書は明日に上げさせてもらいますね」

「うん、お疲れ様」

「はい。お疲れ様でした、マスター。リゼロさん、セリさんも。それでは失礼しますね」

パタン、と扉を閉めたセシリアさんを見送ったギルマスがパチンと手を叩く。

「てことで、ギルドも閉める時間だし、ここはお開きとしようか。リゼロ、後はよろしく!」

「ああ」

「あ、えっと、ギルドマスターさん、ありがとうございました!」

「うんうん、じゃあまた明日ね」

「はいっ!」

応接室を後にしたリゼロさんを追いかける。ギルマスは私達に手を振っていて、なんか、色付きゴーグルにマフラーぐるぐる巻きで不審者な見た目以外は普通に良い人そうなんだよな、と思ってしまった。絶対見た目で損してるよなあの人。どうしてあんな不審者ルックしてるんだろ、と思いながらリゼロさんと共にエントランスへ戻るとそこはもうがらんとしていて、さっきまでの活気が消えていた。あんなに人が居たのにもう誰も居ない。照明も落とされていて、足元にぼんやりと灯った明かりを手がかりに建物の外へ出る。そうしたら、街はもうすっかり夜の帳に包まれていた。

ただ、元の世界のものよりも暗いけれど街灯はあって、家々の明かりも点いているからか真っ暗という訳ではない。それに、星が、とても多い。高い建物が少ないからか、地上の明かりが届かないからか、空気が澄んでいるからか。元の世界で見た星空よりも、綺麗だった。

「おい、何をしている、行くぞ」

「あ、はい!」

リゼロさんの呼び掛けでぼうと星空へ見惚れていたのに気付いて慌てて彼を追いかける。街を迷いなく歩く青い外套を追いかけた。

リゼロさんに付いてきて辿り着いたのは、一軒の酒場だった。人がいっぱい居る。満員御礼、というやつかも。なんか、意外だ。リゼロさんってこういう酒場とかでご飯を食べるイメージが無かった。いや、勿論彼も人間だから食事はするんだろうけど、なんか、こう、賑やかな所ってあんまり得意なイメージがない。でも当の本人は馴れたもので、人の合間を縫って奥のカウンター席へと向かっていた。ガヤガヤとしたそこに圧倒されてしてしまった私は、どうやら置いてけぼりを食らった、みたい、だ。

「あら、セリさん」

「え、あ、セシリアさん!」

どうしよう、とあわあわしていたら不意に名前を呼ばれて、声の主の方へ視線を向けるとそこにいたのはセシリアさんで、数少ない知り合いの登場にホッとする。どうやらセシリアさんもこの酒場でご飯を食べるところで、彼女と一緒のテーブルに座っていた女性が私を見てあ、と声を上げた。

「キミ、リゼロが連れてきてたコだ!」

「え、あのリゼロさんが?」

「そうそう間違いないヨ~!ギルマスがすぐ奥に連れてっちゃったけどボクちゃんと見たんだから!」

「え、ええと、」

「こら、ルーチェ。人を指差すのはやめなさい」

「わっ、ゴメンゴメン!」

セシリアさんが私に反応した人を叱る。ルーチェと呼ばれた人はすぐに指を差すのを止めて謝ってくれた。なんだか可愛らしい雰囲気の人だ。でも、私には見覚えがなくて、首を傾げてしまう。

「ええと、すみません、お会いしたことあったでしょうか……?」

「ううん、会って話したのはこれがハジメテ。ボク、ギルドの受付やってるからサ、リゼロの後ろに付いてたキミのこと見てたんだヨ~」

なるほど。道理で私にはわからない筈だ。あの活気づいたギルドにいた沢山の人の顔を覚えておける筈がない。それにしたって引っ付き虫してた私のことを覚えてるだなんて、リゼロさんって実は有名人なのでは……?まああれだけ顔も良くて強い人なら当たり前か。納得。

「ボクはルーチェ・ファロ。ヨロシク~!」

「私もギルドの受付をしています、ミイネ・クロードです。よろしくね」

「あ、私はセリ・アイザワです!よろしくお願いします」

ルーチェさんと、ミイネさん。それにセシリアさん。皆あのギルドの組員で、受付嬢をしているらしい。すごく納得のメンバーだ。セシリアさんは優しく受け止めてくれそうなお姉さんみ溢れる美人さんで、ルーチェさんは元気を分けてくれるような美人さん、というか美少女さんで、ミイネさんとはあまり喋ってないけれど、お辞儀と微笑む姿が綺麗な美人さん。美人しか居ない。ギルマスの人選グッジョブすぎる。やっぱり見た目以外は凄い人なのかもしれない。見た目以外は。

「それで、セリ、リゼロとはどういう関係?ここにも一緒に来てたよネ?」

「えっ、」

どうせなら一緒に、とお呼ばれしたので同じテーブルに着かせて貰ったら、早速ルーチェさんがぐいぐいと攻めてきた。どういう関係、とな。どういう関係、なんだろう。拾った人と拾って貰った人、というのか、面倒を見る人と面倒を見てもらう人、というのか。うんうん唸っていたら、上から低い声が降ってきた。

「拾ったら面倒を押し付けられただけだ」

「あ、リゼロ!お疲れ~」

「リゼロさん、依頼お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

いつの間にかリゼロさんがこっちまで来ていて、私の後ろから会話に参加していた。振り返ったらリゼロさんが何かを差し出して来たので、それを受け取る。ちゃり、と手のひらの上で音を立てたのは鍵だった。

「ここはギルドの運営している酒場兼宿だ。ギルドの組員は好きに使える。店主に事情を説明して部屋を用意してもらった。それはお前の部屋の鍵だ、諸々の使い方はセシリア達に教えてもらえ」

「えっ、あの、リゼロさん」

「俺はもう行く。明日の朝、迎えに行くからお前もちゃんと起きろよ」

「あ、ええ……」

言うだけ言ったリゼロさんはさっさと姿を消してしまった。残されたのは、私の部屋のものだという鍵だけ。まって、あの、面倒を見る、とは。いや押し付けられただけ、っていうのはそうなんだけど、早々に居なくなるとかそれってどうなの。

「あらら、行っちゃった」

「リゼロさんが酒場に来ること自体珍しいけどね」

「え、そうなんですか?」

「そうなの。あの人、あまり人と仲良くならないというか、いつも一人で居るというか」

「一匹狼、ってヤツ。仕事はできるんだけどネ。だからセリを連れてきたのもすぐ噂になったんだヨ~」

「ええ、噂になってるんですか?」

「そうだヨ~!皆面白そうなことには飢えてるからネ!」

「それよりも、セリさん。リゼロさんが拾った、と言ったことなのだけれど、どういうことなのか聞いてもよかったかしら?」

「あ、はい、大丈夫です。ええと、」

ルーチェさん、ミイネさん、セシリアさんの受付嬢三人組の話は止まらない。運ばれてきた食事を頂きながら根掘り葉掘り聞かれたけれど、私が記憶喪失だと言ったことに驚きはしても憐れみはしなかった。可哀想だ、という言葉はいらなかったので大変有り難かった。あとここのお会計はギルドの組員はギルドにツケられるらしいのでギルマスにお世話になるなら心配いらないとのことだった。いやほんと、これを聞いて安心した。まさかの異世界で無銭飲食とか嫌すぎる。犯罪者にはなりたくない。リゼロさんもちゃんと説明してほしかった。お金の方面の説明、大事!でもセシリアさん達が宿のシステムを説明してくれたり、ギルドの簡易歓迎会として今日のお会計は出してくれると言ってくれたりして女神様かと思った。捨てる神あれば拾う神あり。もうほんと、セシリアさん達には頭が上がらない。あとギルマス。ほんとめっちゃ凄い人だった。福利厚生がすごい。ありがとうギルマス。明日から頑張ります。

ちなみに酒場のご飯は異国情緒溢れてたけど凄く美味しかった。お酒は飲めなかった、というか未成年だから断ったけど、セシリアさんミイネさんはともかくルーチェさんがめっちゃ飲んでてびっくりした。私より少し下か同じ年かなと思ってたんだけど、実は私より遥かに大人だった。人は見た目によらない。あとやっぱり疲れきってたみたいで宿の部屋に入ってベッドに倒れ込んでからの意識がない。おやすみ三秒、ぐっすりだった。

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