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心地よいフカフカに包まれながら目を覚ますと、目の前には極上のイケメンがいました。
「ぎゃあ」
思わぬ悲鳴に驚愕した顔もイケメンなのは魔王様じゃないですか。メイドらしからぬ悲鳴をあげて申し訳ありません。でも、女子の寝顔を見ているのは感心できませんよ。
「お、おはようございます」
「おはよう。身体は大丈夫か?」
あ、看病してくれていたんですね。
「はい……、大丈夫です」
確認すると怪我をしている様子もなく、疲れもすっかり取れています。
それよりもいつの間にか絹製の豪華な寝間着に着替えさせられているんですけど、まさか魔王様自らじゃないですよね!
「着替えさせたのはサクラだ」
私の疑念に気が付いた魔王様が顔を赤くしながら教えてくれました。それなら良かったと一度は思いましたが、あの色気爆発お姉さまに着替えさせられて本当に大丈夫だったの?という新たな疑念も沸いてきます。
部屋を見回すと、昨日通された部屋ではありません。広くて、豪華な造りで、ベッドも天蓋付きの立派なものです。
「この部屋はもしかして……」
「ああ、俺の部屋だ。気にするな。昨日一番の功労者をあんな部屋で寝かせることはできない。そもそもメイドさんに与えられる部屋があんな質素なもので良いわけがない。すぐに作り変えらせるから、しばらくはこの部屋を使うと良い」
「そんなとんでもありません。私はメイドです。メイドにふさわしい部屋を与えてください」
身分不相応なものは身を亡ぼす。前ご主人様の教えです。
「そうか?メイドさんがそう言うならそうしよう。しかし希望があれば何でも言え。メイドさんの希望を叶えるのは俺の喜びでもある」
魔王様の喜びはともかく、気になっていることがあります。
「昨日のようなことはまたあるんでしょうか?」
「昨日のようなことと言うと……、勇者と闘ったり、神と闘ったりしたことか」
一応あれがとんでもないことであるという認識はあるんですね。助かります。
「はい。私は魔王様のメイドですので、魔王様を守るために闘うのはやぶさかではないのですが、メイド本来の仕事ではないと思うのです」
「確かにな。とはいえ、俺が魔王である以上、敵対してくる人間はいるだろう。武田……、勇者は一度王都に帰ったが、絶対にまた来るだろうし、その時に闘わずに済むとは言い切れない。どうすれば良い」
「お給金、十分頂けると思っていたのですが、闘った時は別料金にして欲しいです」
「金か」
魔王様はがっくりと肩を落とします。
「お金です。大事なことです」
仕事に対しては対価をしっかりと支払う。そうすることで強固な主従関係が結ばれるのです。
「……そうだな。執事と相談しておく」
納得してくれました。本当に良いご主人様みたいです。
だったらこうしてはいられません。
勢いよく大きなベッドから飛び降りました。
「何をしている」
「お仕事をするんです」
「昨日は大変だったんだ。今日ぐらいは休め」
「そうはいきません。まだ魔王様に、メイドっぽいところを全然見ていただいていないんですから」
「そ、そうだな。分かった。無理のない範囲で頑張ってくれ」
また顔を赤くして了解してくれます。魔王様、簡単すぎじゃないですか?そんな思いは隠して満面の笑顔で返事をします。
「はい」
頑張って、早く借金を完済しなくっちゃ!
了
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
異世界転生して勇者や魔王になる話は数多ありますけど、現地の人たちは概ね迷惑を受けていると思うんです。
特に中高生が転生してきて、チート能力なんか持っていたら大変だろうな。
今回は、そんな現地の人目線で書いてみました。
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