穢れた手 【月夜譚No.102】
血腥い暗殺業にも、もう慣れた。暗い路地の片隅に腰かけた彼は、自身の掌を見つめる。そこにべっとりと付いた血液にも無表情に、ただじっと見続ける。
最初こそ肉を抉る感覚に震えて涙も流したものだが、今となっては断末魔の叫びも無音に等しいほど平常心でいられる。ここまでくるのに、何年もかかった。数えきれないほどの人間をこの手にかけてきた。
生きる為にはこうするしかなかった。殺さ(やら)なければ自分が殺さ(やら)れる。暗殺の依頼を請け負っている彼の義父は、こちらが拒否をすれば容赦なく罰を与えるような男だ。必要があれば、相手が誰であろうと殺すだろう。
血みどろの指の間から見えた光に、彼は腕を下ろした。細く家屋に縁取られた夜空に、星が煌めいている。音が聞こえてきそうなほどに瞬く星々は、暗い路地の底に沈んでいる彼とは正反対のように見えた。
彼が息を吐き出すと、白く可視化されたそれが星空に昇る。ありはしないのに、心の何処かで星のどれかに届けば良いのにと思った。