フレイム・オブ・ラブ3
―ククク、なんだこの貧弱な攻撃は―
グラスレイカーの攻撃は、サラマンダーに着弾するより前に消失するようにして消えていく。
「チッ」
効かないのは想定内。
それでも撃ったのは、どのレベルで通用しないのかを確かめる為だ。
だがこの様子だと、予想を遥かに超えて通用していない。
一定以下の攻撃は一切効かないと判断していいだろう。
そしてウィル・オー・ウィスプと同様、無属性魔法が通じにくいタイプと考えて間違いないはずだ。
「……マテリアライズ」
魔法剣を、即座にマテリアライズする。
温存していた符ではあるが、攻撃にはほぼ使えない。
限界まで魔力を籠めたところで、目くらまし程度にしかならないのが分かる。
「撃符……18連マジックブラスト!」
それでも、目くらましになるなら充分だ。
かけられるだけの強化の符を自分に使い、走る。
―ハハハ、非力! 非力!―
高温警報。クサナギの耐熱防御限界を超える勢いの火炎が迫る。
「身符・ジャンプ!」
跳ぶ。後の事を考えない勢いで高く跳び、サラマンダーと視線が合う。
ニヤリ、と。トカゲ面でも分かる顔で嗤ったサラマンダーの口から火炎弾が吐き出されて。
「こんなもんが……効くかあ!」
魔力を籠めた魔法剣で斬り裂く。
ここだ。ここで全力を籠めて、奴を斬り裂く!
「消えろオオオオオ!!」
叫ぶ。魔力を限界まで籠めていく。
巨大な光の剣と化した魔法剣が、サラマンダーへと迫る。
ウィル・オー・ウィスプを斬り裂いた時よりも更に魔力を籠めた剣を、勢いのままにサラマンダーへと振り下ろす。
俺の渾身の一撃は、サラマンダーへと届き……そして、アッサリと、光が砕け消えた。
「なっ……」
―言っただろう、非力だと―
嘲笑。放たれた再度の火球が、俺を吹き飛ばす。
クサナギの耐火防御が臨界点を超え、融解前に自壊して四散する。
地面に叩きつけられた俺を、サラマンダーが見下ろしてくる。
―見れば分かるぞ、神に愛されぬ加護無しめ。舞台に立つ資格すらない力無き者よ―
「ぐっ、く……そんなものが、何の関係がある……!」
―あるとも。火の加護なくして我の前に立つなど、愚かしいにも程がある―
火の加護、加護……か。
そんなものは俺にはない。俺は神々には選ばれなかった。
それ故に弾かれ者だった。
だが、それでも……それでもだ。今の俺には、守るべきものがある。戦うべき理由がある。
俺の全力は通じない。火の加護がなければ通じない。
「……そうだな。俺には火の加護はない」
―ああ。故にこれで終わりだ。貴様を殺し、依り代を手に入れるとしよう―
サラマンダーの口の中に、高濃度の魔力が集まっていく。
恐らくは先程の火球よりもずっと高威力の攻撃。マトモに受ければ俺ごと大地を融解させるだろう、致死の一撃。
抵抗する術は、俺にはない。それでも、それでもだ。
「……それでも、俺はお前を倒す」
―そうか、夢見たまま死ぬがいい―
「お前などに、燃やされはしない。俺を焦がし燃やすのは……ナナの愛の炎だけだ!」
剣が、僅かに赤く輝いた。
―!? 貴様、それは……!―
赤。火の魔力の色。俺の剣が、火の魔力の色で染まっている。
何故か。さっきと今。違うのは。
「ああ、なるほど。そういうことか」
分かってみれば単純な話だ。つまり、そういうことだ。
立ち上がり、剣を構え魔力を籠める。
残された俺の全ての魔力を、赤く輝く剣に。
「今こそ俺の火の愛を示そう、ナナ。そして許してくれ。君のいない場所で君への愛を囁く俺の不実を。そして願わくば、俺の内に燃える愛の炎が君を暖め照らす導であるように」
―馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 死ねええええええ!―
レーザーと見紛うかのような炎が、俺へと放たれる。
だが……それは俺の振るった赤い剣の一撃で斬り裂かれる。
「君との出会いが、抜け殻の俺の心に火を灯してくれた」
走る。サラマンダーの放つ無数の炎を避け、あるいは斬り裂く。
「君の言葉の一つ一つが、俺の愛の火を強くした!」
―何を戯言をオオオオオ!―
「今こそ俺は火の愛を具現化しよう。この身に燃え盛る愛の火を炎と変えよう!」
赤い刀身が、炎を発する。ファイアレーザーを、両断する。
―馬鹿な馬鹿な馬鹿な! それは間違いなく火の魔力!―
「火の元素精霊サラマンダー……如何にお前が強大な火の化身であろうと、俺の愛の火には敵うまい」
―何故だ! 何故貴様がそんな力を持っている、加護無し!―
「この胸には愛の火が燃えているからだ!」
燃える剣が、超巨大な炎の剣を化しサラマンダーを両断する。
そして、無音。
何もかもが消えたような、静かな時間が訪れて。
幻か何かであったかのように、サラマンダーの姿が霧散していく。
いや、幻ではない。
上空から振ってくる一枚のカードをキャッチして、俺はそれがサラマンダーのカードである事を確認する。
「サラマンダーのカードを確認。これにて浄化完了、だ」
歓声はない。この場に残っている者など居らず、俺の声は空しく響くだけ。
だが、それで構わない。
俺が守りたかったのはシンジュクでもトウキョウでもサイタマでもなく……ナナだったのだから。
「さて……帰るとするか。ナナが待っている」