フレイム・オブ・ラブ2
撃つ。撃つ。撃つ。
数は力という言葉があるが、まさにその通りだ。
グラスレイカーの連射力も数の暴力の前では十全とも言えず、四方八方から襲ってくるリビングフレイムを前にして、俺は身体強化の符を幾つか使わざるを得なかった。
「ったく……グラスレイカーに弾数制限がないのは助かったな」
そう、魔導銃は本人の魔力を射出する道具だ。
威力こそ一定であるものの、符と違いタイムラグをほぼゼロで攻撃可能な武器だ。
符は……どうしても攻撃まである程度の時間がかかるからな。
「……避難は終わっている、か」
いつも騒がしいシンジュクの町中はシンと静かで、無人である事が分かる。
まるで世界の終りのようなこの光景に……俺は思ったより、心を動かされていないのを感じていた。
「……」
それは普段、俺がこの光景から弾かれる側の人間だったからだろうか。
加護至上主義であるこの世界で俺は常に異質な存在であり、何処にも馴染めない人間だった。
卑屈と、諦め。胡乱な夢だけが俺の生き甲斐だった。
そんな俺が今、守るべきものを得て立っている。
それはなんとも奇妙で……しかし、心地の良いものだった。
だからこそ。だからこそ、俺はこの愛の為に立たなければならない。
俺を満たしてくれたものを守る為……俺は、シンジュク中心地へと辿り着く。
何もかもが溶けて消えて更地となったシンジュク中央。
何も残っていないこの場所を満たすのは、ただ濃厚な魔力。
ああ、分かる。此処が決戦の地。
「……出てこいサラマンダー。いるんだろう?」
だから、俺はサラマンダーへと呼びかける。
此処に居るはずの、元素精霊へと。
「俺は……オーマ・タケナカは此処に居るぞ! 俺に脅えたのでなければ、姿を現せ!」
―ク、クハハハハハ! クハハハハハハハハハハ!―
ゴウ、と。地面が燃え上がり炎が包む。
一瞬で背の高さほどまで燃え上がる炎。
「身符・ジャンプ!」
一瞬の判断で俺は大きく跳び上がる。
即応部隊が壊滅したのは、この攻撃だろうか?
いきなり燃え上がる大地。きっと避ける事すら出来なかっただろう。
とはいえ、俺もこのままでは高高度からの自由落下になってしまう。
「身符・フィジカルブースト!」
身体全体の強化をかけ、地面へと着地する。
ゆらゆらと空気が揺れ、景色が歪む。
気温が上がっている。クサナギが警告音を発している。
魔力反応増大、気温急上昇。通信機能のエラー。
火が集う。
火が重なり、火が集まる。
伸びあがり、膨れ上がり、増大し増加する。
俺の眼前に、巨大な赤い竜のようなものが姿を現していく。
今までとは違う鮮明な声が、聞こえてくる。
―良かろう。確かに我と戦う資格はあるようだ―
「お前が……サラマンダーか」
燃える炎の翼。輝く三眼。2つの太い腕と、ビルくらいであれば踏みつぶしそうな足。
そして……赤い鱗に覆われた身体。
物質ではなく魔力で構成された事が分かる、法則無視の巨大さ。
―そうとも。我こそが火の元素精霊サラマンダーである―
「そうか。一応聞くが、諦めて帰る気はあるか?」
―無いな。貴様こそ、全て諦めて死ぬ気はあるか?―
……なるほど。言葉は通じても話は通じない。
そういう類のものということか。
「……聞くだけ無駄だったな」
―ククク、分かっていた事だろう。何故聞いた?―
「分からないのか?」
ああ、分からないんだろうな。きっとお前には一生分かるまい。
「自身が獣ではないという証明だ。そして、相手が獣だという証明でもある」
―ほう……?―
「死ね、クソ化け物。此処がお前の終焉の地だ」
グラスレイカーを向け、乱射する。効かないのは分かっている。
乱射と同時に俺はグラスレイカーを放り投げ、身体強化をかけなおした。




