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フレイム・オブ・ラブ

 自宅の庭でカチャカチャと、音をつけて装備を纏っていく。

 ミーシャから渡された、モンスター対策室推薦の「対サラマンダー用装備」だ。

 全体的なイメージで言うと、旧時代のパワードスーツとか対弾装備とか、そういう系統のものに似ているだろうか。

 金属と布、そして機械中心の魔道具を組み合わせた、なんとも厳めしい装備だ。

 

「……フィフスエア製の魔導式対火装備、クサナギ壱式です。正直、型落ち感は否めませんが……火属性魔力に対する高い対応力を備えています」

「ああ」

「素の耐熱性能は勿論、耐熱フィールドの自動展開、それと熱感知式索敵機能も備えています」


 その機能は知っているな。耐熱フィールドは火属性の加護を得ていない人間が高温の環境下でも変わらず動けるようにする為のものだ。

 具体的には肉体周囲の温度の低下、また正常な呼吸を出来るようにする為の魔法式などが組み込まれている結界のようなものの展開だ。


 熱感知式索敵機能は、文字通りだが……火属性のモンスターが扱う攻撃が高熱を発するものであることを前提に「火属性の攻撃の察知」を可能とする為でもあるらしい。


「それと、武器ですが……」

「武器は要らん」

「え?」

「充分に用意した」


 言いながら、装備のポケットに手製の符を入れていく。

 慣れた武装だが……どの程度通用するかは、賭けだな。


「符!? タケナカさんがそれを得意としているのは知ってますが」

「得意だが、得意なんじゃない。金が無かったからこれしか使えなかったんだ」

「な、なら猶更! ほら、フィフスエア製の魔導銃とかありますよ!」

「アレは確か許容範囲以上の術は展開できないだろう。通用しないぞ」

「うっ……」


 そう、世界融合後の銃……いや、機械技術の優位性は大幅に低下している。

 複雑な機構であればあるほど魔力との相性が低下する、その原則を突破できなかったのだ。

 それでもゴブリンのような相手には符よりも手早く殲滅可能だが……今回に限っては別ということだ。


「問題ない。俺にはコレがある」


 言いながら、俺は一枚のカードを取り出す。

 それは、あの剣が封じ込まれているカード型魔法具。

 ……そういえば、あの名前を忘れた教授……確か教授だったよな、は無事だろうか。

 

「それは……魔道具ですね」

「ああ、色々あって俺の愛剣になった」

「……なるほど、魔法剣ですか。タケナカさんの魔力であれば、下手な武器より通じるかもしれません」

「そういうことだ」


 身体を動かす。少し重たいが、まあ問題のない範囲だ。ブーストもある」


「……申し訳ありません。同じクサナギでも、弐式以降であれば、もっと魔力伝導率が良いのですが」

「気にしてない。どのみち、俺の財力じゃ買えない装備だ」


 言いながら肩をすくめれば、ミーシャはクスリと笑う。

 ……別に場を和ませる冗談とか、そういうのじゃなかったんだが……まあ、いいか。


「タケナカさん。私達も此処で出来る限りのサポートを行いますが……サラマンダー程のモンスターが相手では、通信障害を起こす可能性もあります。あまり期待しないでください」

「問題ない」

「はい。ご武運を。それと……」


 言いながら、ミーシャは魔導銃を押し付けてくる。


「だから、それは……」

「何が起こるか分かりません。武器は多い方が良いでしょう」

「……分かった」


 俺は魔導銃を受け取り、ベルトに差し込む。

 ……こんなものを持つ時が来るとは思わなかったな。


 そんな言葉と共に、俺は家の門を出ようとして。

 その前に立つナナを見る。不安そうな、その表情。それを止める術を、今の俺は持たない。

 言葉は尽くした。本当に? 振り返っても、俺の語彙力で可能な全てはやったように思える。


「ナナ」

「オーマさん……」


 今にも涙が滲みそうな、その顔。俺を心配してくれているからだというのが分かる。

 それが嬉しいし、それが苦しい。

 彼女に心配させてしまう、俺自身に怒りを感じる。

 だが、それでも。行く以外の選択肢はない。

 だから。俺は、ナナを真正面から強く抱きしめる。


「ナナ。俺は君に何度でも言おう」

「……」

「君を愛している。だから、俺は君を置いて焼かれなどはしない。俺を、俺の愛を信じてほしい」

「……信じさせてください」

「ああ。俺の愛の証明を見届けてほしい」


 そう伝え、俺はナナを離す。ナナはそんな俺を見上げ……しかし、スッと門の前から下がる。

 その横をゆっくりと進み……俺は、門を出る。

 

―ク、ククク……我ニ挑ムカ、人間……!―

「ああ、今から行く。茶でも用意して待ってろ」


 聞こえてくるサラマンダーの声。

 俺だけに話しかけているのだろうか、それとも全員に?

 分からない。分からないが……感じる。奴の魔力が、高まり始めているのを。


―ク、ククク! クハハハハハ! イイトモ、イイトモ! 極上ノ火ヲ臓腑ニ流シ込ンデヤロウ!―

「目の前でお前にぶちまけてやる。丁寧に淹れろよ」

―貴様コソ、迷ワズ来ルガイイ……ククク、ククク!―


 感じる。奴の魔力を。俺を誘うかのように放たれる、濃厚な魔力。

 間違いない。俺を誘っている。死にに来いと言っているのだ。

 ……舐めやがって。お前を殺すのは俺だ。

 ナナを悲しませるお前を、俺が殺す。


『タケナカさん! その周辺に火属性の魔力反応です! パターン一致、リビングフレイムです!』


 通信機からミーシャの声が聞こえてくる。

 その瞬間、空中にボール大の炎が現れる。

 デカい口のついた、奇妙な笑みを浮かべる炎……リビングフレイム。


―喜ベ、前菜ダ。食ラウガイイ―

「趣味の悪いメニューだ。程度が知れるな」


 ……ここで符は使えないな。となると……。


「まさか、本当に役に立つとはな」


 魔導銃を引き抜き、リビングフレイムへと向ける。

 連発式魔導銃グラスレイカー。その銃口が吐き出す無数の魔導弾と奏でる銃声が、この戦いの始まりだった。

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