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終わりと始まり5

 追加の飛行船が飛んできたのは、次の日の明け方の事だった。

 寝ていないのか疲れた顔でバタバタと動き回っている対策室員達の中にはミーシャも混じっていて、飛行船から降りてきた強化服に身を包んでいる男を相手しているのが見える。

 縁側に座ってそれをボーッと見ていた俺だが……やがて聞こえてくる怒声に、思わず目を見開く。


「どういうことですか!」

「お伝えしたとおりです。軍務省はシンジュクの一時放棄と封鎖を決定しました。すでにサイタマ国軍がシンジュク周囲に展開、封魔壁の設置に取り掛かっています」

「しかし、それではシンジュクの住民は……!」

「大変遺憾です。しかし、万が一にでもサラマンダーの被害を広げるリスクがあるとなれば……国はそれを許容できません」

「なんてことを……!」

「国の決定です」


 睨み合うミーシャと対策室の男。やがてミーシャは拳を握ると、男を強く睨み返す。


「サラマンダーが放置していれば消えると。そう考えているのですか?」

「はい。過去、災害級以上のモンスターは一定以上を殺戮すると消失しています。今回もそれに該当するというのが上の判断です」

「……!」

「撤退は今夜です。すぐに撤収の準備を始めてください」


 奥歯を噛み締めるような、そんな何かを耐える顔をしていたミーシャだったが……やがて、何かを諦めたような表情になる。


「……現地協力員がいます。連れて行って構いませんね?」

「例外はありません。ただし……」


 そう言うと、男は縁側にいた俺に視線を向けてくる。

 ……嫌らしい視線だ。今までの人生で慣れたが、アレは人を見下す奴の目だ。


「協力者はウィル・オー・ウィスプを倒したと報告を受けています。それ程の人間であれば……あるいは、サラマンダーをも打倒できるかもしれませんね?」

「貴方、まさか……! タケナカさんを生贄にでもする気ですか!」

「人聞きの悪い。優秀な人間を並行案に使って何が悪いのです。貴方の希望にも沿う形でしょう?」

「……申請した装備はあるんでしょうね」

「ええ、稟議の通る範囲で、ですが」


 男の差し出してきたリストを見てミーシャが信じられないモノを見るような顔をしているが……まあ、きっと最新の装備を用意したとかいう話ではないんだろうな。


「オーマさん……」

「心配は要らない、ナナ。あまり期待してはいなかったからな」


 この騒ぎで起きてしまったのか、俺の後ろで心配そうに立っているナナに振り向くと、俺はそう言って笑う。

 そう、ミーシャは善い……極めて善い人間だ。しかしながら、その上にいるモンスター対策室や軍務省までに「善い人間」がいるとは限らない。

 彼等は紛れもないエリートであり、俺は落伍者だ。

 たとえウィル・オー・ウィスプを倒そうと、その評価は変わらないということなのだろう。


―クッ、クックックッ……―


 この声は……!


―愚カシイ。実ニ愚カシイ……!―


「な、なんだこの声は!」

「頭の中に直接……!」


 騒ぎ始める対策室員達を見て、俺とナナは思わず顔を見合わせる。

 俺とナナ以外にも、聞こえている。

 サラマンダーの声は、前回俺とナナにしか聞こえなかったはずなのにだ。


―案ズルナ。貴様等ノ誰一人トシテ逃ガサン……!―


「大変です! し、シンジュクの周囲に超高濃度の魔力反応! それと……本部との通信が途絶しています!」

「飛行船の機器に異常発生! 飛行不能です!」

「パターン一致! 神罰級……サラマンダーです!」

「な、何……!?」


 次々ともたらされる報告に慌てる対策室の男。

 当然だろう。それが事実なら、俺達どころかアイツすら此処から逃げる事は出来ないのだから。


「なんとか直らないのか!」

「ダメです! 恐らくは一種の結界魔法のようなものと思われます! ただ……」

「なんだ!」

「こ、この建物のある範囲だけは、多少ですが軽減されています。恐らく、何かの力場があるものと」


 ……ナナの力か。聖域がどうのという話を聞いた覚えがある。

 まあ、それでも飛行船をどうにか出来る程ではないのだろうが。

 といっても、それを教えてやるつもりはない。

 そう考え黙っている俺をそのままに、ミーシャは男を押しのけ報告した職員たちへ向き直る。


「現状で使える機器は?」

「各種の計測機器です。それも完全ではありませんが……」

「充分です。現状を最優先命令の実行不能状態、そして軍務省の定める緊急事項に該当すると判断し、現地責任者の私が事態の解決にあたります。異論のある者は?」

「な、何をする気だ!」

「撤退は不可能。神罰級から『逃がさん』という宣告を受けた。この状況で立ち向かう以外の解決策があるとでも?」


 ミーシャの冷たい言葉に、男は黙り込む。

 ダラダラと流れてる汗が、男の焦燥を如実に表しているのが見える。

 ……こんな事になるなんて聞かされてない、ってとこだろうか。

 きっと今まで、何でも思い通りになってきたんだろうな。うらやましい話だ。


「……勝てるはずがない」

「勝つしかないんです。もうそれしか、私達に道は残されていません」


 そう言い捨てて、ミーシャは崩れ落ちる男をそのままに俺へと視線を向けてくる。


「タケナカさん、装備の説明をします。それが終わり次第、貴方への出動要請をします。構いませんか?」

「もとよりそのつもりだ」

「……頼りになる言葉です」


 微笑むミーシャに、俺もニヤリと笑ってみせる。

 負けるつもりなどない。

 飛行船から降ろされてくる装備を眺めながら、俺はゆっくりとミーシャの下へと歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやみったらしいエリート気取りにザマァ炸裂。なかなかのスッキリ感。
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