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大通りにて

 この辺りまで来ると、朝でも通勤や通学で人が忙しく行き交うのが見える。


「……うーん。慣れた気はしましたけど、やっぱり剣とか提げてる人を見るとまだ違和感が……」

「流石に鎧は廃れたが、武器だけは中々代替が効かないからな」

「鎧……」


 治安の向上や駆除会社の活躍で「今どき鎧は古い!」とかいう運動が立ち上がったのが、俺が生まれる前くらいらしい。

 カッコカワイイ運動とかいうらしいが、そのせいか金属繊維を編み込んだ防御力のある服も生み出されたのが、その頃だった……らしい。

 ……まあ、俺はそんなもの高くて買えないけどな。


「だが、軍とかだと最新式の鎧を着てるらしいぞ。俺は見たことないけどな」

「むむう、これがカルチャーギャップ……?」


 唸るナナだが、まあ……あんな場所で文明から離れてたら仕方ないのかもしれない。

 俺も決して現代文明の最先端を生きてるわけじゃないしな。

 そのうち、なんかそういうのが分かる本でも買ってあげた方がいいのかもな。


「……ま、それはさておきだ。此処まで来てはみたが、あまり意味があったかは分からないな」

「そうなんです?」

「ああ。流石にこの辺りまで来ると、普段から駆除会社が仕事をしてるしな。精々がデミゴブリン程度……」


 俺がそう言いかけた瞬間、少し離れたビルの上階から爆発音が響く。

 悲鳴が響き、付近をパトロールしていた警官が慌ただしく何処かに連絡を取り始める。


「な、なんだ!?」


 再度の爆発音が数回。

 窓を突き破り落下してくる女が……1人。


「オーマさん!」

「身符・レッグブースト! 身符・ハイスピード!」


 咄嗟に2枚の符を起動し、俺は音を置き去りにする勢いで走る。

 人の間を抜け、靴底を擦り減らしながら急停止する。

 まだ落下から然程時間は立ってない。

 大丈夫、間に合う。


「身符・ジャンプ!」


 ズドン、と。

 大地を揺らす勢いで俺は上へと跳び上がる。

 ただ跳ぶだけのこの術で俺は落下してくる女を抱え、俺はビルの屋上に着地する。

 ビルから落ちてくる時に何かあったのだろう、怪我をしている女を下ろし、俺は符を1枚取り出す。


「癒符・ヒール」


 広がっていく光が傷を癒していき……痛みも消えたのだろうか、女が小さな呻き声をあげる。


「あ、ありがとうございます……」

「別にいい。それより、何があった?」

「そ、そうだ! 会社の中にモンスターが!」

「ああ。一体何が出たんだ」

「それが……8本腕の怖い顔の石像みたいな……」


 8本腕の怖い顔の石像……?

 石像って事はデーモンや悪鬼の類じゃないだろうが……。


「とにかく、此処に居るんだ。通信機を持っているなら警察に連絡を。まあ、巡回中のが居たみたいだから遠からず来るだろうが」

「あ、貴方は!?」

「とりあえず行ってくる。倒せるなら倒しておこう」


 言いながらビルの中に続くドアへと向かい……ドアノブを回して。

 ガチャ、と鍵のかかった音が聞こえてくる。


「あ、普段屋上は立ち入り禁止だから……」

「……壊していいか?」

「ダメだと思いますけど……」


 ……仕方がないな。

 さっきの状況を見る限り、あまりやりたくはないんだが。


「器符・マジックロープ」


 一枚の符を薄く輝く魔法の縄に変えると、俺は適当な場所に端をくっつけて「固定」と唱える。

 そうすればもう、引っ張っても外れはしない……よし、大丈夫だ。


「あ、あの。何を……?」

「さっき君が落ちてきた窓があるだろう。そこから突入する」

「え!?」

「ついでだ。身符・アームブースト」


 ロープを垂らし、俺は強化した腕力と足の力で壁を伝い降りていく。

 ……中々怖いが、まあ……これしかないしな……。

 そうして彼女が突き破ってきた窓まで降りていくと……血塗れの部屋の中、彼女の言っていた石像らしきものと目が合った。

 ……なるほど、確かにこんなもんが上から垂れてきたら見るよな。


 割れた窓の近くに立ち、こっちをジッと見ているのは、なるほど確かに8本腕の石像としか言いようがないものだ。

 それぞれの腕に武器を持った悪鬼像は、俺を見てニヤリと笑いながら剣を振るう。


「くそっ!」


 マジックロープを解除し、俺は強化した脚力で壁を蹴って後ろへと跳ぶ。

 ガオン、と凄まじい音をたてて振るわれた剣は空を裂き、悪鬼像は自由落下していく俺を追うように窓から身を乗り出す。


「おいおい、マジかよ……!」


 俺が着地した直後、悪鬼像も轟音をたてて着地し……そのまま俺へと凄まじい速度で迫る。

 周囲の人間が悲鳴をあげて逃げていく中、俺は頭の中で戦術を組み立てる。

 この距離でこの速さだと、マジックアローも間に合わない。

 間に合っても俺を巻き込む。

 ならば近接戦しかないが……ちょっと強化した程度であんな凶悪な武器を8本も持った相手と素手でやり合いたくはない。

 ……と、なると1つしかない。

 俺は懐からあの紫色に変じたカードを掴み、かざして叫ぶ。


「マテリアライズッ!」


 暴発や不発だけはやめてくれよ、と願いながら魔力を流し……カードは、輝きながらその姿を一本の剣へと変化させる。

 ……そうして現れたのは、1本の直剣。

 けれど、飾り1つないシンプルな……そんな、不可思議な剣だった。

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