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世界から外れているから、こそ

 夜。軍務省の寄越してきた連中によって明かりが付くようになった我が家は煌々としていた。

 それもそのはずだ。

 飛行船で来た連中はしばらくこの辺りに留まって支部の建設をするらしく、余った部屋を貸し出す事になっている。

 ……まあ、その分家賃を払ってくれるそうなので俺も反対するつもりはない。


 それにしても、随分騒がしくなったものだ。

 きっと俺は死ぬまでほとんど人と関わらないものだろうと思っていたんだが。


「ねえ、オーマさん」

「ん?」


 床に寝ていた俺に、ナナがベッドの上から声をかけてくる。


「今日、一日街に出ていて思ったことがあるんです」

「……そういえば、色々戸惑っていたように見えたが」


 元々次元の狭間から来て、その後はずっとこんな街外れにいたんだ。

 仕方ないものだとは思うが……。


「この世界が2つの世界の融合したものであることは、分かってたんです……分かってた、つもりでした」

「……」

「でも、実際街に出てみると私の知らない事、常識の範囲外の事だらけで。なんだか……取り残されたみたいだなって」


 世界融合現象マジカルハザード。

 常識も法則も何もかもが違う2つの世界の融合は、あらゆる変化と混乱をもたらした。

 地図も世界の理も何もかもが書き換わり、次元の狭間と呼ばれる場所に消えた人や物も多くあるという。

 何が変わったか、何が失われたか。

 記憶すら定かなものではなくなった人類は、その後数十年の暗黒期を過ごした……とされている。

 すでに数千年たった現在では「そんなこともあったんだな」程度の話でしかないが、ナナにとっては違うのだろう。


「おかしいですよね。自分が何処の誰かも分からないのに。神様だなんていっても、オーマさんに加護もあげられませんし。何もできないくせに、違和感だけは凄いんです」

「それは……」

「外れてるのは、私なんです。それは分かってるんです。でも……思っちゃうんです。寂しいなあ……って」


 俺は、ゆっくりと身体を起こす。

 ナナの想いを理解できるのは、たぶん世界で俺1人だろう。

 何故なら、俺は。


「……俺は、よく考えてたよ。なんで俺はこの世界に生きてるんだろうってな」

「え……」

「知ってるか? 世界融合前は、加護じゃなくて学歴至上主義……勉強が出来たりする奴が偉かったんだそうだ」


 それが今じゃ、勉強は出来た方がいいのは間違いないが、「その程度」の話でしかない。

 ミーシャは軍務省では実力主義だと言っていたが、結局そこに至るまでには加護がものをいう。

 加護のない俺は、元からこの社会に挑む資格すら与えられていないようなものだ。


「どんな人間でもカスみたいな加護はある中、俺の加護はゼロ。有り得ない事だって何度も言われたよ。時代と場所によっちゃ、忌み子だってな。今の時代そこまでは言われないが、病原体みたいな扱いは変わらない。生きてるだけで迷惑みたいだな」

「オーマさん……」

「ナナ。お前が外れてるっていうなら、俺も相当外れてる。世間から、世界から弾き出されて……それでも、こうして生きてる。だから、会えたんだ」


 俺の言葉を聞いていたナナはポカンとしたような顔になった後……クスリと、小さく笑う。


「ふふっ、なんですかそれ。オーマさんが私の運命ってことですか?」

「あるいは、ナナが俺の運命かもな。どちらでも俺は構わないが」

「……そうやってカッコいい事言っても、一目惚れだとか言ってた事は忘れてませんからね」

「一目惚れだって運命だ。いや……あの時点で惹かれるものがあったのかもな」

「なーに言ってるんですか」


 笑いながら……ナナは、被っていた毛布をぎゅっと握る。


「オーマさん」

「なんだ、ナナ」

「……ありがとうございます」

「何がだ?」

「私と出会ってくれて……私を、好きになってくれて。私はその想いにどうするべきなのか、今は分からないですけど……とっても感謝してます」


 真正面からのその言葉に、俺は思わず気恥ずかしくなって頬を掻いてしまう。

 好意を向けるのも初めて……たぶん初めてだが、向けられたのは初めてだ。

 こんなに恥ずかしいものだとは、思ってもいなかったな。

 ソワソワして座りが悪いような、何処かに行ってしまいたいような……そんな不思議な感覚になる。


「ま、まあ……俺としてはいつか応えてくれればいいとは思ってるが」

「うーん……それは、ちょっと待ってください。私もいっぱいいっぱいなので、あまりそういうのは今は……」

「それで充分だ」


 ダメだと言われないだけでも、俺にとっては充分に期待の持てる話だ。

 否定されない。ただそれだけでも嬉しいのだから。

 俺の好意は迷惑。そう定義してきた俺にとっては、宝物と変わりはしない。


「……」

「……」


 なんとなく、無言で俺とナナは見つめ合って。

 どちらが先かも分からないくらいのタイミングでお互いに目を逸らす。


「えっと……お、おやすみなさいオーマさん」

「そ、うだな。おやすみナナ」


 そう答えて、俺は目を瞑る。

 俺の生活も、随分変わってしまった。

 だけど、悪い変化じゃない。

 ナナと出会えた。ただそれだけで……俺は、幸せだと言い切れるのだから。

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