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プロローグ

 路地裏にデミゴブリン達がいる。ゴブリンと呼ばれる亜人型モンスターにも至らぬ害獣扱いのモンスター達。放っておけば黒いアレの如く沸いてくる為、専門の駆除業者がいても俺のような木っ端術士にも仕事が回ってくるというわけだ。


「3、4……5匹か。結構いるな」


 この辺りは汚いからネズミでも食べて増えたのだろうか?

 聞いたよりもちょっと多い。

 ……まあ、どちらにせよやる事は変わらないのだが。

 俺はポケットから1枚の符を掴みだすと、小さく詠唱を開始する。


「……撃符・マジックショット」


 投げた符は輝く魔力へと変換され、衝撃波となってデミゴブリン達を吹き飛ばす。


「ギエエエエエエエ!?」


 バチュンッと音をたてて弾けたデミゴブリン達は死体を残すことなく消失し、5枚のカードがその場に散らばる。

 そう、不思議な事だがモンスター達は何処からともなく湧いて出て、消える時にはこのようにカード……そう、カードとしか言いようのないものを残す。

 俗にモンスターカードと呼ばれるものだが、実はこれは神々が世界に巡らせた浄化の力によるものであるらしい。

 散らばったカードを拾い集め、路地の外でビクビクしながら見ていた依頼主と……元請け殿に見せる。


「これでいいか?」

「ええ、オッケーよ。ご苦労様」


 元請け殿は俺からカードを奪い取ると、依頼主に笑顔で見せる。


「では、これがカードです。デミゴブリンで5枚。確認したら、こっちの書類に完了のサインを。カードの買い取りは希望しますか?」

「い、いや……デミゴブリンのカードなんか必要ない。で、サインは……これでいいか?」

「確かに。ではこれで依頼完了です。何かあれば、また私共エイダ駆除サービスまでご連絡を!」


 そう、あのカードはそれ自体に価値がある。

 モンスターという「汚い魔力の塊」を倒すと、浄化されてモンスターカードという「綺麗な魔力の結晶」になるらしいが……その辺りはよく分からない。

 しっかり学校にでも通っている加護持ちの連中なら習っているのだろうが、加護無しの俺は独学だからだ。


「さて、と。それじゃあ、これはアンタの分よ。約束通り、基本料で銀貨1枚……と、危険手当が少し増えて銅貨2枚。じゃ、また仕事あったら連絡するから」

「これからまた別の仕事か?」

「そうよ。アンタと違って私、忙しいのよ。つーか仕事以外で話しかけないでって言ったでしょ、この無能」


 俺に僅かばかりの金を払うと、元請け殿はさっさと帰っていく。

 

 ……無能。酷い言われようだが、事実ではある。

 かつて、この世界は地球とか呼ばれていて、それが何処かの別の世界と融合して今の形になったのが数千年以上前であるらしい。

 その頃はエルフもドワーフも居なかったというのだから驚きだが、実は「地球」では神様も実在を証明されていなかったらしい。


 神様から与えられた「加護」の強さが人間の価値みたいな今から考えると信じられない事だ。

 加護がなければ自力で火も沸かせないし、水も出せない。

 魔力が何色にも染まっていないから、無属性の魔法しか使えないのだ。


 この世界に生まれた大抵の人間はちょっとくらいは何らかの神様に気をかけてもらえるから、どんなに加護が薄くても生活に必要な程度の全属性を使用できるし、その中で特に強い属性を専門として学校で学んでいく。

 その「属性」の強さが加護の強さの証明。いわゆる落ちこぼれはどの加護も「ちょっとくらい」程度で、専門には進んでいけない程度の下級汎用魔法士としての道を歩んでいくのが関の山。

 ……そう、落ちこぼれでもその程度には加護がある。


 では、俺はどうか。

 答えは「加護無し」だ。

 ちょっとくらいとかミソッカスとかではなく、無し。ゼロ。スッカラカン。

 どういう偶然か、どの神様にもほんのちょっとも気にかけて貰えなかった無色透明。

 結果として実の両親に捨てられて、孤児院でも持て余された有様だ。


 幸いにも加護が無くても魔力は人並み以上にあった為、こうして術士として日銭を稼ぐことも出来ている。

 だが、加護無しの俺と仲良くしたがる人間などいるはずもなく。

 加護無しがうつると避けられ……もう何年になるだろうか。

 だが、それも随分慣れた。金を出せば宿には泊まれるが、逆に言えば金を出せば泊めてくれるような安宿にしか泊まれない。

 

 けれど、そんな生活も……もう終わりだ。

 郊外で一軒のボロ家を見つけたのは数か月前。

 どこぞの次元の狭間にあった「地球」の頃の住宅を移設したはいいものの、結局不便で手放したという……まあ、そんなどうしようもない経歴を持つ家。

 魔法器具の1つもないから誰も住みたがらないし、今どきスローライフも流行らない。

 そんなこんなで放置されて10年くらいらしい。


 だがそれも、今日までの話だ。

 この仕事で稼いだ金で、ついにあの家を買う為の資金が溜まったのだから。

 魔導通信機を取り出すと、俺は不動産屋と通話する。


「……もしもし、タケナカだ。そうだ。オーマ・タケナカ……ああ、あの家の話だ。今から金を払いに……来なくていい? 現地集合? 分かった」


 無能がうつるから店に来るなだと、ふざけやがって。

 だが構わない。俺にあの家を売ってくれるのだから、そのくらいは我慢しようじゃないか。

 それを思えば、足取りも軽くなる。

 ……ともかく、そうして俺はついに自分の家を手に入れたのだ。

 

 その場所に……俺の運命が待っている事を、知らないままに。

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