- 罪悪感 -
今回の登場人物紹介
主人公:宮地 文博
主人公の親友:鈴木 裕太
部員:3年キャプテン 神谷 信二
:2年 宮田 正博
:2年 津久井 樹
:2年 小宮 雄二
:1年 菊池 大輔
新顧問:常見 美奈子
部活動中の事故発生時に子供たちの監督をせず、勝手に帰宅していたことが問題となったバレー部の顧問は
責任を逃れるかのように、問題発覚後すぐに学校を辞めてしまった。
3年生たちは、すぐに迫った最後の大会に顧問が不在では、出場することが出来ない為
今まで皆のためにと一人奮闘していた神谷キャプテンも落胆の表情を隠せずにいた。
学校は今回の問題の説明のため、男子バレー部の保護者を対象に保護者会を開き
その場で今回の経緯を父兄に説明した。
そして、その会合で取り合えず次の顧問が決定するまでの間
女子バレー部の副顧問で保健の常見先生が男子バレー部の顧問としてみてくれるという話で纏まり
一応、3年生は最後の大会には出場できる事になった。
急拵えで顧問も決まり、3年生たちは大会へと臨んだが
やはり内情が不安定で、その地域では結構期待されていた男子バレー部の3年生たちも
まともな指導及び戦術を最終的には受けることが出来なかったため、2回戦で敗退してしまった。
・・なんだか胸がいたい.....
3年生たちが最後の試合の後に、大泣きしている姿を目の当たりにし
正博の友達で同じバレー部2年の樹は罪悪感に苛まれていた。
無論、もし正博の悪だくみで裕太がケガをする事なく普通に大会に出場していたとしても
今回退職して逃げてしまった、顧問の元で勝ち進むことは難しいと思えたが
そんな事よりも、今まで良くしてくれた神谷キャプテンや3年生たちの
大切な中学生最後の挑戦を、めちゃくちゃにしてしまった気がして...
それに、正博の悪だくみを止めることが出来なかった自分の不甲斐なさにもずっと後悔していた。
3年生最後の大会も終わり、3年生たちは引退し2年生1年生での新しいチーム作りに入ることになった。
練習開始前にミーティングが開かれ、新しいキャプテン選びが始まり立候補者を顧問の常見先生が募る。
「誰か新キャプテンに立候補する人いませんか?他薦でも構いませんよ?」
一人元気よく手を挙げた。
「はい!俺がやってもいいですよ!」
皆の視線が集まる。
「先日、一年生の裕太君をケガさせてしまったんでふさわしくないとも思いますが、ですが裕太君が復帰後は、きちんと謝って新しいチーム作りを一生懸命やりたいと思うので!」
事もあろうか、新キャプテンに正博が立候補した。
部員たちは皆、2年生の小宮 雄二がキャプテンにふさわしいと思っていた。
彼は1年生からバレーボールを始めたが上達が早く、2年生になる頃には3年生たちレギュラーメンバーの控え選手で、試合の出場経験も他の2年生たちより多かった。
選手としての評価も良かったが、とてもまじめで、率先しみんなが嫌がる雑用などもこなしていた。
そんな姿をみて、時期キャプテンは小宮がふさわしいと1年生も2年の正博以外の部員もみな思っていた。
だが、小宮は以前のキャプテンとは正反対で、とてもおとなしいタイプだった。
もちろん、おとなしさでは文博のほうが断然上をいっていたが
気さくに話しかけてくるタイプではなく、話しかけやすいタイプでもなかった。
「立候補者はほかにいませんか?他薦でも構いませんよ?」
常見先生が皆に問いかける。
「俺は小宮先輩が良いと思います。」
1年生で、文博や裕太とは同じクラスでは無く、同じ小学校出身でもないが
バレー部に入部し、文博や裕太ととても仲良くなり二人を目標に大分上達した
菊池 大輔が声を上げた。
「俺もそう思う」「俺も」「俺も」
1年生たちはほぼ全員が小宮を推薦したが
「俺はキャプテンの器じゃないから正博がキャプテンでいいよ...」
小宮は、やはり自分からキャプテンになることを拒み
他の自薦他薦が無かったため、正博がキャプテンになることになった。
文博は今後が不安になった。このまま部活を続けていけるのか
裕太の件で、不信感しかない正博についていける自信が無かった。
その日はミーティングだけで部活は終わり皆帰路に付く
「樹!これで好き放題できるぜ!」
樹は正博に帰り道で声をかけられる。
「あっ....そうだな....」
樹は俯きながら答える。
「なんだよ!元気ねーな!また、小学校時代のようにマサヒロ帝国作ってやるよ!」
笑いながら樹の肩を正博はたたいた。
「俺、バレー部辞めようかと思って....」
樹は俯きながら話す。
「なんでだよ!今から楽しくなんじゃん!樹も一緒に下級生たちを奴隷にしてやろうぜ!」
この正博の言葉に、樹は3年生最後の試合の時を思い出しいたたまれなくなった。
「手始めにさっき俺をコケにした菊池と、くそ生意気な文博から裕太の二の舞にしてやる!」
正博は不敵な笑みを浮かべながら樹に話す。
「俺一人で帰るから...」
樹は正博から逃げるようにその場から立ち去った。
翌日の昼休み、樹は顧問の常見先生に退部する旨を伝えに言った。
「先生...俺バレー部辞めます...」
樹は、神妙な面持ちで常見先生に話した。
「えっ?樹君なんで?辞めるの?先生も急に男子バレー部の顧問になったから、もし至らない所があれば言ってくれれば直すよ?頑張って3年生まで続けないと内申書とかにも影響しちゃうよ?」
常見先生は親身に問いかけた。
「別に先生に問題がある訳じゃないです。俺もできれば続けたいと思ってましたが....」
樹の目が真っ赤になり今にも涙がこぼれおちそうになった。
その表情を見た常見先生は、だだ事では無いなと悟り
「何かあったの?いじめとか?」
今にも泣きだしそうな樹に問いかけた。
「今回キャプテンになった正博の事で・・・」
樹は小学生の頃の事、そして裕太がケガをした時の事、3年生最後の大会を台無しにしてしまったと思っている事、そして昨日の正博の発言、すべてを常見先生に打ち明けた。
樹は一人で抱え込んでいた罪悪感を、常見先生に打ち明けたことで大泣きしていた。
「そんな事があったんだ....」
常見先生は絶句した。
「でも、樹君は止められなかっただけで手を下したりしてないじゃない。こうしてちゃんと自分の弱さに気付き話して反省しているんだから大丈夫よ。」
常見先生が樹を慰める。
樹の退部は一時保留とし、常見先生はその日の放課後、正博を呼び出し二人で話をする事にした。
なかなか頭にある物語を字に起こすのは大変だ。