- 悪巧み -
今回の登場人物紹介
主人公:宮地 文博
主人公の親友:鈴木 祐太
小学校クラブチーム時代いじめられた先輩:宮田 正博・津久井 樹
中学校部活キャプテン:神谷 信二
その他:中学校の先生達・部活生徒
新学期当日の放課後、文博と祐太はバレー部の見学をしようという事になり体育館に向かった。
二人が体育館に入ると見覚えのある顔が、にやけながら近づいて来る。
「よう!久しぶり!お前ら有名人になったな!俺の指導のおかげだろ!」
「俺の事忘れてないよな!心優しいマサヒロ様を!」
5年生の頃、下級生に対するいじめを行っていた5人グループのリーダーだった正博に声をかけられた。
その瞬間二人の顔が曇る。
「バレー部に入るんだろ?期待してんだぞ!」
「ケンジとノブもさっき体育館に来たから聞いたんだけど、やつらバスケ部入るとかぬかしやがったし!」
「お前らはもちろんバレー部に入るよな!」
少し威圧的な態度で話しかけられ
「あっ...今日は見学に来ただけなんで...」
いつもは元気いっぱいの裕太も、声のトーンが下がる。
「バレー部はそんなに厳しい部活じゃないから楽でいいぞ!」
正博の後ろにいたやはり元クラブチームの先輩で正博と共にいじめを行っていた樹が話す。
「いいから入れよ!1年10人位入れねーと俺らが先輩に文句言われんだからさ!」
さらにもう一人、こちらは見覚えのない先輩に言われた。
どうやら後に聞いた話では、小学校のクラブチームでやっていた一つ上の先輩は7人いたが
中学に入りバレー部に5人入部し3人退部してこの2人のクラブチーム出身の先輩がいるようだった。
もちろん他にもこの先輩を含め、3年生7人・2年生6人がバレー部に在籍していた。
その日バレー部の見学をした新入生は文博と裕太を含め全員で8名いた。
意外と漫画などでバレーボールが流行りだしていたため見学する新入生は多かった。
「正博の知り合いか?」
あまり良い思い出のない先輩たちに声を掛けられ入部をためらい始めていたが
正博の後ろから身長190cm位あり体は大きいが顔は少し幼さも残る
どう見てもバレー部3年生の先輩が声をかけてきた。
「神谷先輩も聞いたことあるでしょ?V宝リトルで去年全国優勝した今年の一年。」
正博が文博達とは対照的な態度でその先輩に答える。
「おー!こいつらか!まじで入部してくれよ!一緒にガンバろうぜ!」
屈託のない笑顔で文博と裕太に握手を求めてきた。
この神谷先輩と呼ばれている人が3年生で現在バレー部キャプテンだった。
この神谷の行動を周りで見ていた
他の3年生部員と2年生部員も文博と裕太の周りに集まってきた。
「うちら3年もほとんどがV宝リトル出身なんだぜ。」
神谷が二人に話しかける。
「俺は神谷さんの事知ってますよ!」
裕太は4年生の後半頃に入団したのでかろうじて神谷の事は知っていたが
入団後2か月もしないうちに6年生たちは退団してしまったので
特に交わることはなかったが記憶には残っていた。
「そうか?ごめん俺は記憶に無い!おまえ影薄いんじゃないの?」
笑いながら神谷は裕太に返す。
「勘弁してくださいよ!こんなイケメン捕まえて!」
裕太が笑いながら神谷に返し
周りにいた部員たちは一部の2年を除き爆笑していた。
神谷は文博に対してもまた他に見学に来た1年生に対しても分け隔て無く冗談を交え
話をし、見学に来た1年生はほぼその時点で入部を希望していた。
その後、練習風景を見学しそろそろ練習も終了となる頃に神谷から文博に声がかかる。
「文博はセッターなんだろ?取り合えずちょっと俺に揚げてみてくんない?」
「あっはい...いいですよ。」
トン ダダダッ バシッ バン!
絶妙なタイミングかつ打点にドンピシャな高さでボールが揚がる。
「もう一本!」
その後、別の先輩も何本かトス揚げを頼み
皆自分に合ったタイミングと打点で気持ちの良いスパイクが打つことが出来たため
練習終盤で疲れ切っていたにも関わらず晴れ晴れとした表情になっていた。
「やっぱお前すごいな!ちょっと練習見ただけでみんなの特性をつかんでんじゃん!」
神谷が感心したように話しかける
「あっ..いや..まぐれですよ。もっと、もっと練習して頑張ります。」
「そうだな。俺たちとは短い付き合いだけどがんばろう!」
見学に来た1年生たちは入部及び次回練習参加の予定を確認しその日は帰宅した。
「やつら!くそ生意気じゃね!?」
練習終了後、正博は樹に話しかける。
「ほんと生意気だよな!神谷先輩もひいきしやがって!」
「入部したらしごき倒してやろうぜ!」
「おう!楽しみだな!」
仮入部期間が過ぎ、一年生8人は皆本入部をすることとなった。
仮入部期間正博達は、3年生たちの目が新入生達に向いていたので手を出すことが出来なかった。
仮入部期間中の実力で、やはり文博と裕太は他の一年生たちとは別格で
あらかた基本的な事はマスターしていたため、別メニューで2年生3年生たちと練習することとなった。
どの部活でもそうだが、顧問の先生がコーチとなり生徒達を指導していた。
このバレー部には顧問の先生は存在していたが、ほぼ部活動に顔を出すことが無かった。
バレー部顧問の先生は、文博達が入学した際に転任してきた先生で
以前の学校では水泳部の顧問だったらしいが文博達の学校に水泳部が無く
文博達の学校から他の学校に転任してしまった先生が、バレー部の顧問だったため仕方なく
その先生がバレー部顧問になっていた。
以前の顧問の先生は親身に部活動へ参加していたがこの新しく来た顧問の先生は
試合の時やミーティングがあるときくらいしか顔を見ることが無かった。
そのため練習メニューや体育館の開け閉めなどは神谷キャプテンがこなしていた。
一年生で初めてバレーボールを始める子たちは試合不参加組の2年生たちが教えていた。
文博と裕太は即戦力になるので2年生の試合参加組と3年生が行っている練習に参加していた。
正博と樹は試合参加組に入れるほどの実力が無かったため
初心者1年生たちに教える役回りになっていた。
その為、文博や裕太に手を出すことが出来ないでいた。
「ちきしょう!何とかなんねーかな!」
正博の嫉妬心や実力の差でフラストレーションは狂気的にまで膨らんでいた。
文博達が入部して3か月ほど経ちいよいよ3年生たちの最後の大会2週間前になったある日
いつものように文博と裕太は3年生たちと一緒に練習していた。
何度か練習試合などにも出場し2年生の試合参加組と共に文博と裕太は補欠メンバーになっていた。
しかしたまたまその日の放課後練習は試合参加組の2年生が欠席していたため
正博が試合参加組の2年生に代わり3年生たちとの練習試合に出ることとなった。
「....今日ちょっとやっちまうか?」
正博が樹に小声で耳打ちする。
「えっ?何を?」
樹が正博に小声で返す。
「どっちかに少し痛い目見てもらうんだよ!」
正博の狂気的な発言に
「・・・・」
樹は何も返すことが出来なかった。
そして3年生レギュラーチーム対文博・裕太・補欠3年・補欠2年二人・正博で練習試合が始まった。
1セット目は3点差でレギュラーチームが取り2セット目は1点差で文博達のチームが辛くも取った
そして3セット目に正博が企んだ事件が起きた。
レギュラーチームのサーブが裕太の正面に飛んできた。
裕太はレシーブ体勢に入りボールを待ち構えた。
だが祐太は突然横から猛烈な勢いで押し飛ばされた。
正博がレシーブをするかのようにわざと横から裕太に突っ込んだのである。
裕太は突然の衝撃で慌てて横に手を出してしまい
グキッ!「イテッ!」「うぅぅ...」
裕太の腕が良からぬほうに曲がり裕太はうめき声と共にうずくまった。
「裕太大丈夫か!」
その場は大騒ぎになった。
キャプテンの神谷は慌てて職員室の顧問の元に向かったが
顧問は用事があるとの事で帰宅してしまっていたため
その場にいた先生に事情を説明し、その先生から保健の先生に連絡が行き
保健の先生が駆け付け状況を確認した。
「腕が折れてる見たいね」
保健の先生がその場に駆け付けたほかの先生に話す。
「救急車呼びましょうか?」
「そうですね」
先生たちがやり取りをし野次馬の生徒たちも集まっていた後ろのほうで。
「やばくね?」
樹が正博に小声で声をかける
「黙ってればわかりゃしねーよ!すっきりしたぜ!」
うすら笑みを浮かべながら樹に返す。樹は正博のあまりの狂気さに寒気がした。
裕太は前腕骨骨折していた。
文博は事故の際、明らかにボールを追っているのではなく肩から裕太にぶつかっていく正博の行動を目にしていた。
「正博君わざとやったんじゃないよね!」
文博は今まで感じたことのないほどの怒りがこみ上げ、いつもは無表情な顔がその時ばかりは鬼のようになっていた。
「試合中の事故だろ!しょうがねーじゃん!お前も以降気をつけろよ!」
うすら笑みを浮かべながら文博に答える。
頭に来た文博が手を出しそうになった瞬間
「宮田君ちょっと話聞かせて」
その場にいた先生に呼ばれ正博は突然作ったように神妙な顔になり呼ばれた先生の元へ駆けて行ってしまった。
翌日裕太はギプスと包帯でぐるぐる巻きになった腕で登校してきた。
今回の件は運動中の事故という事で話が収まってしまいそうだった。
文博はどうしても納得がいかなかったが
祐太が自分が悪いのだと言い、文博を宥めたので文博はそれ以上正博に詰め寄ることはしなかった。
だがその当時顧問の先生が監督していなかったことが大問題となり
バレー部の顧問は顧問を辞め翌月にはほかの学校へと転任してしまった。
3年生の最後の大会がまじかになっている時に顧問が不在になり3年生たちは試合に出られないかもしれないという最悪な事態に陥っていた。
親友の怪我・先行きが見えなくなる部活・そして悪意に満ちた先輩
今後の展開はいいかに