- 親友? -
今までの登場人物及び今回の登場人物紹介です。
主人公:宮地 文博
主人公の父:宮地 進
主人公5年生時担任及び小学校クラブチーム監督:植松 忠
主人公の親友:鈴木 裕太
主人公クラブチーム時代チームメイトで他校進学:大畑 辰義
主人公クラブチーム時代チームメイト:ケンジ ノブ
文博は中学校に進学した。
小学校時代のバレーボールでの活躍をかわれて、ぜひうちに来てほしいと何校か私立の中学校からも誘いが来たが
文博は、クラブチームの同級生や小学校時代のクラスメイトなどがいる
地元の中学校に進学することを選んだ。
まだぎこちない所もあったが、小学校のクラブチームでの体験を機に、文博もだいぶ笑顔や明るい表情などを出すことが、できるようになっていた。
中学校のクラスは小学校時代の顔ぶれも多かったが、他の地域の小学校から集約される地域もあったので
今まであったことがない別の小学校からの生徒も、ちらほら見受けられた。
「文博!また同じクラスだな!よろしくな!」
小学校6年生のころ同じクラスで、なおかつバレーボールも一緒に通っていた祐太に突然声をかけられた。
文博は今までも性格上、環境がかわるとなるべく下を向いて周りの子に目を合わせないようにして
出来れば、誰からも注目されないようにするスタンスでいつもいたので
突然後ろから声をかけられ驚きながら振り返った。
「あっ!うん..よろしく...」
何処となく頼りない声で返事する文博
「何だよ!おまえ!全国制覇したスポーツマンがそんな頼りない声だしてんなよ!」
文博の性格を、祐太は知らないわけではなかったが
新しい環境に少しテンションが上がっているようで、笑いながらけしかけてきた。
そのスポーツ会系の大きな声がクラス中に響き、みんなの注目を浴びてしまう。
そんな会話に周りの子達も興味が沸き
二人の周りに別の小学校から来た子達も集まってきた。
「そうだよ。二人とも全国制覇したんだよな?」
「すげー!サイン頂戴!」
「取り合えず、握手して!」
などと周りのクラスメイト達に茶化されてしまう有様。
うつむいて、耳を赤くしている文博とは対照的に祐太は
「はい!はい!じゃあ順番に並んで!もし希望なら女の子限定でキスのサービスもしちゃうよ!」
「なっ!文博!」
と、さらに裕太は盛り上げ、その状況に文博はさらに顔が上げられなくなった。
中学生になると部活動があった。
本当は、部活動への参加は希望者のみで、帰宅部も可能なはずだが
1年生のころは必ず、何処の部かには入部しなければいけなかった。
もちろん文博の進学した中学校には小学校でクラブチームが存在する為
最近では珍しい男子バレー部も存在していた。
「文博はもちろんバレー部だろ?」
祐太に聞かれた。
祐太は、小学校のクラブチームで共に全国制覇を成し遂げた中であったが
文博同様、祐太もあまり身長が高くなかった。
文博は、入学時に行われる身体測定の際、身長164cmで6年生のころからはだいぶ伸びていた。
バレーボール選手としては小さいほうではあったが
そこそこのジャンプ力もあり、ポジションもセッターなので特に問題はなかった。
一方の祐太は、身体測定の際身長161cmで、やはりバレーボール選手と考えると
少し頼りない身長ではあった。
「文博はセッターでジャンプ力も結構あるからぜんぜん問題ないもんな...」
「俺はどうするかな....」
「いっそバレーボールやめて吹奏楽部にでも入るかな...」
とても先ほどのおちゃらけからは考えられないほどの弱音だった。
「祐太君もレシーブとか基本的なプレーはうまいんだから大丈夫だよ。」
「リベロとかのポジションもあるし...」
あまり人を慰めたりするのも得意ではなかったが
相手しないとめんどくさそうなので文博が答える。
「君つけなくていいよ!祐太で!」
「それにまだこれから伸びるかもしれないだろ!」
「一生チビだと決めつけるな!」
めんどくさいなこいつ...と思いながらも文博は
「あっ...ごめん。じゃあそんなに悲観的にならなくても...」
「きっと大きくなれるよ牛乳飲めば?」
「そうだよね~きっとカルシウムが足りないんだよね~...って! 牛乳飲んででっかくなれたら酪農家はみんな2m越えか!」
先ほどの伏せた表情が一変、また元気満タンのやんちゃ坊主の顔に戻って
笑いながら一人乗り突っ込みをしていた。
・・・ほんとめんどくさいこの人・・・ 文博は心の中でつぶやいた。
「でも、うちらのチームからバレーボールをここの中学でもやるの、俺らのほかにいないみたいだぞ」
またまじめな表情になり、裕太が話す
文博達が小学校のクラブチームで全国優勝した際のメンバーは、文博たち6年生が5人で5年生が4人
4年生4人の計13人だった。
「でかかった たっちゃんは、私立の中学いっちゃったし、ケンジとノブはバスケ部に入るんだってさ!」
小学校のクラブチームの際にひときわ大きかった辰義君は6年生の時点で179cmの身長があった。
文博に声がかかったのと同様、辰義くんにも全国制覇の後、中学校進学の際に他県の私立中学から声がかかり
辰義君は文博達の通う地元の中学への進学をやめ、私立中学に進学していた。
なぜ全国制覇まで成し遂げたのに、残りの二人はバレー部への入部を考えないのか。
それには、小学校からそのスポーツクラブが存在するが故の事情があった。
文博が小学校のクラブチームに入団したのは5年生の時だった。
その当時は5年生だけでも8人のメンバーがいた。
もちろんどの少年スポーツでも、上級生下級生の上下関係があるが
文博達5年生の頃の6年生達には、少々難がある子供が多かった。
もちろんクラブチームの指導者である植松先生も、目を光らせクラブ活動中に問題が起きないようにしていたが
大人たちの目が届かないクラブ活動外や、ちょっと指導者が席を離した隙など
6年生が下級生にクラブ活動などと関係のない命令を、先輩だからということで押し付けたりしていた。
そのため文博が入団した際に8人いた5年生は、6年生に上がる頃には5人にまで人数を減らしていた。
その当時のクラブチームはさほど強いチームではなかったが
文博達の代になり、全国制覇まで成し遂げたことにやっかみを感じているとの情報も中学に入り
耳に入っていたので、二人はバレー部への入部を拒否したと思われた。
「文博はそれでも入部するか?」
「うん。バレーボール位しか取りえないし...」
「裕太も入るんでしょ?」
「そうだな!俺は二枚目と言う取り柄があるけど、やっぱりスポーツもやってないと体がなまっちゃうからな!」
「あっそっ...」
さすがに文博も声に出し失笑してしまった。
なんだか少し疲れるけど、自分とは明らかに性格が違う裕太という存在に徐々に自分の心が開かれはじめ
もしかしたら今後とても仲良くなれるかもしれないと
文博はその時思った。
次回はバレー部入部後のお話です。