- 選抜 -
土曜日の午前8時に選抜に選ばれた強化選手たちが山上中に集合する事になった。
文博と裕太と大輔は共に大輔の親が車で送迎してくれることになり
宮代中から1時間ほど車でかかる山上中に向かった。
その道中車の中で
「緊張すんな~!いつもはライバルになるやつらと共にチームを作るんだぜ!」
なんだか少し舞い上がった調子で裕太が文博に話しかけた。
「でも、ワクワクするよ!メンバー表もらったけど幸輝も来るし、今回の新人戦で驚かされた川辺学園のキャプテンとセンターの人も来るし山上中の主力選手もいるからね!」
文博も嬉しさを抑えられないようだった。
後部座席で二人はワクワクしながら話をしていたが、助手席に座っている大輔は一向にしゃべって来ない。
「大輔もワクワクすっぞ!か?」
裕太が冗談交じりに漫画のキャラクターに似せて話しかけると
「うっ...おう。そだねえ。」
となんだかヘンテコな返答が返ってきた。
それを横で運転しながら聞いていた大輔の母親が、噴き出して笑いながら。
「相当緊張してるね?お前大丈夫?」
と大輔に問いかけると
「大丈夫だよ!ちょっと朝が早かったから寝ぼけてただけだし!」
と半ば切れ気味に反論した。
それを後ろの座席で聞いていた文博が
「大輔も県の代表に選ばれるほどの選手なんだから、胸張って全力でいこうよ!」
と檄を飛ばした。
その文博の言葉で大輔も少し心を落ち着かせ
「そうだな!文博もいるしな!心強いよ!」
と少し元気になった様子で文博に答えると
勿論お調子者の裕太は半笑いで
「あれ?おれは?さっきから俺の存在は?...う~ん、でも選ばれたからには結果残さないとね~。」
と余計なことを言い、横に座っている文博に
「それはお前もだよ!」
と頭に突っ込みを入れられ、その突っ込みの音が綺麗に”パシッ!”と聞こえたものだから
前にいる大輔も大輔の母親も大爆笑していた。
そんな和やかな雰囲気で車は午前7時20分頃に山上中に到着した。
3人は体育館入り口で
「失礼します!今日はよろしくお願いします!」
と大きい声で挨拶をし体育館に入ると、体育館からも
「よろしくお願いします!」
と大きい返事が返ってきた。
文博達が中に入ると、今回会場となった山上中のバレー部部員たちが、手伝いをしてくれているらしく、荷物の置き場所やトイレの場所など親切に説明してくれた。
3人は急いで荷物を置き、準備を整えコートに降りると、先に到着していた西中の幸輝と翔が文博達の元にきた。
「おはよっす!やっぱりお前らも選ばれたか!まあ当然だな、県1のチームだもんな。」
幸輝が3人に話しかける。
「おはよ!」「おっは!」「おはよう」
文博達3人も笑顔で挨拶を返す。
「えっと?丸山君で良いんだっけ?」
幸輝の顔をチラチラ見ながら文博は翔に話しかける。
「あっ俺は丸山 翔です。よろしくお願いします。」
幸輝から名前は聞いていたが、今回初めて話をしたので一応文博から名前を聞いてみた。
翔も案外おとなしいタイプで、自分からグイグイ来る裕太や幸輝とはちがう印象だった。
「翔で良いだろ?みんなに呼ばれるのは?」
幸輝が翔に問いかけると、うんと会釈をした。
「じゃあ!翔よろしくね!僕は宮地 文博です文博って呼んでください。ポジションは同じセッターだからお互いに頑張ろう。」
文博は笑顔で翔に話す。
「俺様は鈴木 裕太でごじゃります。裕太って呼んでちょんまげ!人見知りで口下手なロンリーボーイだから気さくに話しかけてね。」
クールを装いながら裕太が訳の分からない挨拶をすると
「なんだよ?ロンリーボーイ?って、お前はほんとに適当な奴だな!それに人見知りで口下手な奴が大会前に会場入り口で演説して注意受けるか!まったく!あっ俺は菊池 大輔ね。俺も呼ぶときは大輔で良いよ。」
大輔はあきれたように裕太に突っ込みを入れ、翔に自己紹介した。
その後、学校ごとに整列し今回選抜チームの監督で山上中のバレー部顧問の先生からの挨拶、そしてコーチの先生たちの紹介が行われ、選抜に選ばれた選手一人ひとりの自己紹介が行われた。
今回、選抜強化選手に呼ばれた選手
※宮代中
セッター:宮地 文博:2年
マルチポジション:鈴木 裕太:2年
センター:菊池 大輔:2年
※西中
アタッカー:立石 幸輝:2年
セッター:丸山 翔:2年
センター:大磯 カイム(かいむ):1年
※山上中
アタッカー:磯村 修一:2年
センター:関口 勝昭:2年
リベロ:佐藤 俊夫:1年
※川辺学園
アタッカー:石上 純也:2年
センター:原田 雅也:2年
※丸山中
アタッカー:山田 ウィリアム(うぃりあむ):1年
※東中
リベロ:岡本 礼:1年
監督1名 コーチ3名 救護1名 選手13名の総勢18名
一通り挨拶も終わり全員でアップをこなし、その後ポジション別にコーチの元に分かれて練習を開始した。
午前中に練習の合間に休憩が10分取られた。その間皆思い思いの場所で腰を下ろし、まだ初日の為あまり他の学校の選手たちと話をせず、自分の学校の仲間や一人で休憩する選手が多くみられた。
そんな様子を見た選抜チームの監督が休憩終了後選手たちに集合を掛けた。
「俺もうっかりしてたよ。初めにキャプテンを決めてそのキャプテンの元で一致団結しチームワークで頑張ろうじゃないか。誰か我こそはキャプテンにふさわしい男だと自薦するやつはいないか?」
唐突にキャプテン決めが始まった。確かにみんな初日の為、他校の選手の事は何も知らず、ましてやいつもはライバルの選手たちに、いきなりなれなれしく話を出来ないので、だれかまとめてくれるやつがいればと思っていたが、皆さすがに自薦するほどの勇気があるやつはいないんじゃないかと思われた。だが!たった一人自信満々に手を高々と上げた選手がいた。
「おっ!やる気あるな!君は確か...宮代中の鈴木君か!」
そう、裕太が自信満々に手を挙げていた。
「俺がキャプテンになってもいいですよ!みんなすごい選手ばっかりで俺なんかじゃ恐縮ですが、明るさだけでは誰にも負けませんので!」
他に誰かいないかと監督は確認するが、皆さすがに自分から自薦する選手はいなかったので
選手全員の拍手確認で了承を得て、裕太がキャプテンに任命された。
その後、裕太キャプテンの元その日の練習は夕方5時まで行われ、その間裕太も、キャプテンとして皆をまとめようと声掛けしたり、冗談を言ったりして奮闘したが、どうしても川辺学園の二人とうまくコミュニケーションが取れないで初日が終わろうとしていた。
そして最後体育館のかたずけをしている時、西中の幸輝と川辺学園の二人が隅の方で話をしているようだった。
「幸輝がなんでいるんだよ。お前は俺らに勝てなくて他県に進学したって聞いてたけど、まさか俺らと同じ県に来てたとはな。」
川辺学園の石上 純也が西中の幸輝の元に近づき話しかけた。
「ほんとだ。先日の新人戦でも俺らの実力に敵わなかったろ。お前が選抜で選ばれる位じゃこの県も大したこと無いな。」
同じく川辺学園の原田 雅也も幸輝を愚弄した。
幸輝は俯き何も反論しようとしなかった。幸輝も本当なら殴り掛かりたいくらいに頭に来ていたが、ここで自分が切れてしまえば選抜チームの雰囲気が悪くなってしまうと思い、何も反論せず黙って俯いていた。
「なんだよ!久しぶりに話すのに無視かよ。お前だってあのバカみたいに張り切ってる宮代の鈴木ってやつと一緒で、対してうまくもねーけど調子がいいだけが取り柄だったじゃねえかよ!」
さすがにこの雅也の言葉に幸輝は切れた。
「俺の事はバカにしてもいいが、裕太は関係ないだろ!」
と低い声で威嚇し雅也の胸倉を掴もうとしたその時
「ヒップアタッ~ク!」
という叫び声と共に、雅也と幸輝の間に何かが飛んできた。
幸輝はふと我に返り、誰かが横切った方を見ると裕太がそこに立っていた。
「どうしたんだ!ヘヘイベイベー!裕太君はびんびんだぜ!」
と最近の若い人ではわからないような歌の替え歌を歌いながら、腰も前後に動かしていた。
その光景がとても滑稽だったため、幸輝も川辺学園の二人も噴き出してしまった。
「なんでもねーよ。ちょっと久しぶりに会った元チームメイトと話してただけ。」
幸輝は笑いながら裕太に話した。
「そうなのか?ならいいけど、イケメン3人がひそひそ話してるから女の子の話かと思って、慌てて飛んできたんだけど?」
裕太はさらに冗談だか本気だかわからない問いかけをし
「ちげーよ!」
と幸輝に全力で突っ込まれていた。
そんな幸輝と裕太がやり取りをしていると、川辺学園の二人がその場を去ろうと歩き出した。
「ちっと二人待ってくれるか。」
裕太が呼び止めた。何かと二人が裕太の方を振り返ると
「俺はお調子者でお前ら二人みたくクールに振舞うことはできないけど、ここに集まった選手たちはお前ら二人も含めて皆全国で戦えると監督やコーチが見込んで集められた人間じゃん。バレーボールは一人でやるスポーツじゃないから、それぞれの選手がそれぞれのポジションで全力を出し、一致団結して戦うことで強い相手に勝つことが出来るんじゃねえの?お前ら二人が俺らと馴染めないと拒絶するのは構わないけど、俺はしつこいくらいにちょっかい出すぜ!だってやるからには勝ちたいし、別にお前らと仲良くなろうとは思わないけど、いがみ合うつもりもないから。この選抜で選ばれた間だけでも、一致団結して頑張らねえか?選抜が終わったら憎き敵にしてくれてもいいからさ。それと、これからここに集まった選手はみんな下の名前で呼ぶ事にしたから、純也と雅也よろしくな!」
裕太は握手を求め二人の前に手を出した。
「まあ、しょうがねえな。この選抜の間だけはな。」
純也は、苦笑いをしながら握手をした。
「あんまりしつこくちょっかい出されてもうざいしな。」
雅也も、ばつが悪そうに握手をした。
そして裕太は幸輝の腕をつかみ純也と雅也の前に出した。
「俺だけじゃなくおまえらも。」
と握手を促し、幸輝は純也と雅也と握手を交わし
「よろしく。」
と半ば強引な仲直りをさせた。
そして体育館の片付けも終わり、次の集合日時の連絡を受け、選抜チーム初日練習は終わり、皆帰路に就いた。




