第一話 声
『こ*が***ますか、ユウヤ。。***が*****か。。どう**事を。。***はこ**い*す**お**いユウヤ。。へ**を。。』
* * * *
「ユウヤ! 父さんはもう出かけるからな! 学校には遅れないようにしなさい!」
「う。。ん。いってらっしゃい」
静かな父には珍しい大きめの声で、ユウヤは目を覚ました。
どうやら今朝はなかなか起きなかったようだ。
時計を見ると、いつもの起床時間を30分ほど過ぎていた。
「やばい!! 遅刻だ!!」
急いで身支度をすませ、家を飛び出す。
ユウヤの通う高校は、自宅から電車と徒歩で30分程度、駅まで急げば十分間に合うだろう。
無事いつもより一本だけ遅い電車にのったユウヤは、最寄り駅から高校の途中にある商店街を歩いていた。
「それにしても、あの声は何だったんだろう。。」
朝方に聞いた不思議な声のことを思いだす。
「"ミミタブ"つけっぱなしで寝たのがいけないのかな。。父さんも寝るときは外しなさい、っていってたし」
"ミミタブ" 正式名称 "Ear Tablet"はイヤリングのようにつける、超小型端末だ。
10円玉ほどの大きさで、通話も音声検索もできる、汎用端末として広く使われている。
昔、事故によって左耳の聴力を"失った"ユウヤは特別仕様のミミタブを常につけ、聴力を補う生活を送っていた。
『しゃが*さい、*ウヤ』
「?」
「おっは、うわあ!!」
後ろを振り向くと、髪を背中まで伸ばした女子生徒が、バランスを崩している。
「ユウヤ、よけないでよ! 危ないじゃない!」
「アサヒ、いつも背中たたくなっていってるだろ!」
「う~ん。朝の習慣かなあ?」
ちょっと困ったような表情を作り、大きな瞳でこちらをじっと見つめてくる。
子供のころから、この表情で見られるとユウヤはなんだか反撃しにくいのだ。
(まったく。。)
「というか!今!なんでわかったの??絶対ばれてないと思ったのに!!」
「なんとなく?」
「ふ~ん。私のこと待っててくれたんだね。」
「それはない。」
本当に違うので、はっきり否定しておく。
「む。。まあいいや。ほら、学校行こう。遅れちゃうよ!」
一瞬機嫌を悪くしたアサヒだが、すぐに気を取り直したのかユウヤのカバンを引っ張ってくる。
「はいはい。」
二人は高校へと歩き出していった。
(それにしても、さっきの声。。本当に何なんだ。「しゃがめ」って言ってたよな。。
なんでわかったんだ。。いったい。。)