帰宅
コンビニを出て20分くらいのところにある我が家の玄関を開ける。夕食のにおいが立ち込める台所から弘子が出迎えにやってくる。
「お帰りなさい。あなた、今までお疲れ様でした」
「ああ、弘子も毎日ありがとうな」
僕が柄にもないことを言うと弘子はクスクスと笑いながら僕を部屋へと誘う。
「さあ今日はご馳走よ。せっかく裕子と健一君も来てくれたんですから早く着替えてください」
「分かった急いで準備するよ」
弘子があらかじめ準備していた着替えを羽織ると僕はみんなの待つリビングへ向かった
「あ、義父さんお邪魔しています!」
「お邪魔してまーす」
健一君と裕子がリビングで待っていた。どうやら凪穂と愛海は来ていないようだ
「凪穂は行かないって、愛海は部活で来れないわよ」
僕が聞く前に察したのか裕子は僕に言った
「そうか・・・まあもういつまでもおじいちゃん!って歳じゃないよな」
僕がそういうと
「すみません・・・年頃の娘は難しいですね・・・」
健一君が申し訳なさそうに言った
「いやいや、健一君が謝ることじゃないよ。それよりもさっそくいっぱいどうだね?」
「義父さんと呑めるなんて光栄です!耕一君もよんで男三人でやりますか!」
健一君はそう言って耕一を呼びに行った
「健一義兄さん呼んだ?あ、父さんお帰り」
二階から耕一が降りてきた
「おう、ただいま。今日は男三人で飲まないか?」
「いいけど・・・俺も父さんも弱いんだから健一義兄さんに迷惑かけちゃだめだよ」
「分かってるよ。とりあえずビールから・・・乾杯!」
男三人の宴が始めようとすると
「ちょっと男共、まだ母さんが夕食の支度してるんだから、乾杯はまだ我慢しなさい!」
裕子がぴしゃりと言った
「裕子、もう準備できたから大丈夫よ。みんなお待たせしてごめんなさいね」
弘子が料理を持ってやってきた。みんなが席について裕子もようやく納得行ったようで
「それじゃ改めて、父さん長い間お仕事お疲れ様でした、乾杯!」
裕子の音頭で乾杯して、会が始まった
「さあ、料理はいっぱいあるからたくさん食べてね」
弘子はそう言って料理を取り分ける
「お!肉じゃがですか!僕義母さんの肉じゃが大好きなんですよ~」
「ちょっと!この間裕子の肉じゃがは日本一って行ってたじゃないの!」
「そ、そうだったかな~ははは・・」
裕子と健一君は相変わらず仲がいい夫婦だな
「耕一、今日はもうお仕事は終わったの?」
「うん。ある程度ひと段落したから、今日はもう終わりかな」
弘子は耕一に煮物を取り分けながら言った。
見慣れた光景だ。裕子と耕一君が夫婦漫才をして、弘子は耕一と楽しそうにおしゃべりをする。そしてそれを僕は楽しそうに見届ける。これが海野家の夕食会の光景なのである。
「あ、そうだ」
僕は部屋に戻ってあるものをとりに行く
「今日凪穂と愛海が来ると思って渡そうと思ってたんだ。二人の進級祝い」
僕は裕子夫婦に紙袋を渡す
「え、父さんありがとう!すっごいおしゃれなパスケースじゃない!高かったでしょう?」
「この間デパートで弘子と買い物したときに見かけてな・・2人で選んだんだ。気に入ってくれると嬉しいけど」
「本当にありがとうございます義父さん、義母さん僕たちがお祝いに来たのに、逆にお祝いされてしまって・・・」
「凪穂は高校生、愛海は中学生でおしゃれとか気にする年頃だろうし、もしよかったら使ってくれ」
「ナギちゃんとマナちゃんは元気?」
弘子が聞くと
「いや~最近は僕とはめっきり会話しなくなってしまって・・・反抗期ですかね?」
健一君はしょんぼりしながら言う
「違うわよあなたが過保護すぎるのがよくないのよ。この間もバイトはだめって反対してたじゃない」
「まあまあ裕子、僕も娘のいる父として娘が心配になる気持ちは分かるよ。そう責めないであげてくれよ」
僕がそういうと裕子はしぶしぶながらも納得してくれたようだ
「健一君も少しは高校生にもなるんだし自由にさせてあげたらいいよ。おこづかいも自分で稼ぐ苦労を知ることのできるいい機会じゃないか」
「はあ・・・義父さんがそういうならちょっと考えてみます・・バイトかぁ」
「かわいい子には旅をさせろって言うじゃないか。それにうちのかわいい長男は39になってまだ家を出てないんだから。そうなるよりはいいじゃないか」
「ちょっと父さん!俺が引きこもりみたいな言いがかりはやめてよ!ちゃんと仕事してるし」
さっきまで一心不乱に飲み食いしていた耕一が噛み付いてくる
「すまんすまん、たしかに立派に仕事もしてるから社会人だなお前は」
「でも確かに旅はさせたほうがいいかもしれませんね」
「!健一義兄さんまで・・」
健一君にまで言われてしまった耕一はまた飲み食いに戻る、さっきよりも勢いが上がったことから多分やけ食いだろう。
こうして僕の退職を祝う会は盛り上がりを見せながら進んでいく




