会社にて
処女作となります。別のサイトで投稿してましたが今回からこちらのほうで投稿させていただきます。ヲタ道を進むジジイに笑っていただけると幸いです。
2017年3月某日、私は晴れて約40年間勤め上げた会社を退職することとなった。
「それじゃ、最後に海野課長から一言いただきたいと思います。」
そう言って音頭を取ったのは私の後を継いで新たに課長となる上野だ。上野は入社してからずっと私の部下として精力的に働き続けた情に厚い男だ。
「えー、本来なら還暦で退職の所を僕のわがままで5年も会社に残していただき、本当に太田社長には感謝しています」
私はそう言って太田社長に軽く会釈する。太田社長は目に涙をためてグッとこらえている。私のために泣いてくれるなんてなんていい社長なんだろう。20年前にバブルがはじけて倒産の危機に陥ったこの会社の建て直し役としてやってきたのが太田社長だった。それから私と太田社長は会社の建て直しのため東奔西走した仲だ。今でも月に一度程度飲みに行く間柄でもある。
「そして今日まで僕の部下としてついてきてくれたみんな、明日からは上野が課長となるが、みんなも知っての通り、上野は熱い男だがつい周りが見えなくなってしまう男だ。だからみんなで上野を支えてやってくれ。上野は僕と違って冗談も通じる色男だから、フレンドリーに話しかけてやってくれ」
私を取り囲む周囲から小さな笑いが起こる。上野は照れたようなもどかしそうな表情をしている。
「これからは隠居のジジイとしてこの会社を見守りながら中学生と高校生の孫娘のお守りをさせてもらいます。本当にお世話になりました!」
私がそう結ぶと大きな拍手が起こった。太田社長が花束を持ってやってきた。
「海野課長、これからは同じ年頃の孫を持つジジイとしてまた飲みにいきましょう!」
「いつでもお相手させてもらいますよ社長」
私は涙をこらえ切れなかった太田社長と固い握手をして、40年以上勤め上げた会社を退職した。




