第一話 能力者
何度か作品を書いたことはありますがどれも飽きて投げてしまった過去があります。
今度こそ更新がおそくなっても完結目指してがんばりたいです。
『能力者』
それは漫画や小説、映画やゲームの中で登場する超常現象を操る者達を指し示した言葉だ。
炎を操る者、氷を生み出す者、瞬間移動や念力など扱う事象は様々だ。
そんな『能力』を持つものがもし実際に存在したら……人々は歓迎するか?それとも排除するか?
答えは、
「がはっ!!!???」
「おいおい、まだ倒れるには早いぜ~?“能力者”さんよ~!」
黒髪の学生服を着た青年が同じ制服を着た三人の青年に殴る蹴るの暴行を受けていた。
見れば黒髪の青年の制服はほこりや、靴跡がつけられわかりやすく汚れていた。
「オイオイさっさと立、て、よ。まだ今日の分殴りたんねーだからよ」
「なんならさ~特別大サービスで今日は多めにいっちゃう?」
「いいね~!!!」
暴行を加えていた三人組はとても楽しそうな会話をしている。
まるでこうするのが当たり前だといわんばかりに、当然の権利を享受しているだけだといわんばかりに。
そしてそれらを見て止めるどころか面白いものを見ているような表情でクスクスと教室内から声が漏れる。
「……っ(ふざけやがって!!!)」
「ん~?なんだか随分わる~い目つきしちゃってるな~?これはお灸をすえる必要があるかな?」
三人組の右にいたやつが余計な挑発を投げてくる。
「はぁ、ほんとはこんなことしたくね~んだけど……物覚えの悪い“奴隷”には教育が必要だな」
やれやれと、あきらかにそうとはおもっていない演技をするリーダーらしき青年。
「それじゃ俺様特製、涙の一発だ。しっかり受け止めてくれよ?」
「ひッ!!!???」
放たれたこぶしが黒髪の青年の眼前にやってくる。
反射的に悲鳴を上げて、直後青年の意識はそこで途切れた。
時刻はもう夕方だ。
いつものように掃除当番をおしつけられ、いやそれが当然なのだから押し付けるも何もないのだが、まあいい。教室の掃除は適当にやれば何発も殴られるし蹴られる。丁寧にやれば、まあ気分によっては殴られない日もある。そういった理由で苛立ちと悲壮感を抱えながらも真面目に掃除をこなした後、黒髪の青年は帰路についていた。
「いてて……!」
ほほを抑えながら痛みの声を漏らす。
口の中で血の味がする。おまけに体中に鈍い痛みを感じる。
「……はあ……」
なんどめかわからないため息。
悪態をついて、ため息を吐いて、毎日それしかしゃべっていない気がする。
前を向いているのか下を向いているのかわからない姿勢で、それでもしっかり足は動いて自宅を目指す。
「おーい!ヨウイチ!!」
と、ここで今日はじめて黒髪の青年改め、陽一は名前を呼ばれた。
呼び止められた陽一が横を向くと小柄な女性が手を振っていた。
思わず笑みがこぼれそうになるのを抑えようとするけど、やっぱり抑えきれずに笑顔で女性のもとに駆け寄ってしまう。
「朝子さん。買い物がえりですか?」
朝子と呼ばれた女性はやわらかそうな若干ウェーブのかかった栗色のロングヘアーの女性だ
クリーム色のセーターにオレンジのプリーツスカート、ダークグレーのタイツが彼女の柔らかさに絶妙にマッチしている。
唯一の違和感といえば、両手に下げた大量の買い物袋だろう。
「そうそう、お肉が安かったからいっぱい買っちゃたの!ときにヨウイチくん。食材運び手伝ってくれたら今日の夜、イイコトしてあ、げ、る」
「マジすか!?ぜひイイコトしてください!」
昼間の調子とは一転してこれ異常ないほどの美しいフォームで、かつ誠意をこめて頭を下げる。
「うむ、苦しゅうない!さあゆくぞ!焼肉パーティーの始まりだ~!!!」
「おお~!!!」
そして二人は買い物袋を抱えながら駆け足で帰路に着いた。
ともすれば何気ない日常だ。“ヨウイチ”がいじめを受けているのも。夕食の焼肉を楽しみにして帰るのも。
唯一おかしなことがあるとすれば…………それは彼が『能力者』ということだろう。
よくある六部屋構造のアパートの一室ではようやく騒ぎが静まり始めたらしく、そのまま酔いつぶれて寝ているものやすやすやとこたつで寝入っているものまでいた。
ほてった体を覚ましたくてヨウイチは外に出て冷たい夜風を浴びていた。
「…………~っ、さぶ」
「な~にかっこつけてんだよ、上着の一枚くらい着とけ。風邪引くぞ」
振り返ると同時に青いつなぎを着た背丈の大きな男がこちらに上着を投げてきた。
逞しい小麦色の肌にあごひげが力強い男の雰囲気をかもし出している。
「あ、ゲンさん。すいません」
「そこは“すいません”じゃなくて“ありがとう”だろ?」
ありがとうございますといいながらヨウイチは上着を着込む
何を話すでもなく二人は夜空を見上げている。空気が澄んでいるのかとても綺麗な星空が見える。
「…………あ~学校はどうだ?」
ゲンとしては当たり障りの無い話題を出しているつもりである。だが聞くまでも無く二人は理解している。当然『最悪』の一言に尽きる。
そういう当たり前の前提を理解しているからか、投げかけられた話題に対する返答にも含みがあるようなないような言葉が帰ってくる。
「…………普通スよ。いつもどおりです」
「そうか…………」
風と木の葉が揺れる音だけが響く。なぜだかそれがとてもうるさく聞こえてくる。
「ゲンさん…………」
「…………ん?」
「どうして俺達には“こんな物”がついてるんスかね…………、なんで能力なんてものがあるんスかね…………、能力者ってなんなんスかね…………」
「…………そんなの俺が知るかよ」
夜空を見上げる二人の男にはある違和感があった。それは“首輪”である。
黒いプラスチックのようなその首輪が、世に存在する全ての能力者を奴隷へと貶めていた。
そう。ヨウイチも、ゲンも能力者なのである。
世に生まれた能力者は生まれた時からこの首輪を身につける。そして自分の能力が何であるのかすら知らず、またどうして自分はこんな思いしなければならないんだと理不尽を抱きながら生きていく。
「ふたりとも~~、な~にかっこつけて黄昏ちゃってるの~~」
暗い空気を吹き飛ばすように二人を後ろから抱きしめたのはヨウイチが夕方買い物帰りに出会った朝子だった。だが買い物帰りのときとは違って、顔はほてりだらしなく胸元が開けられている。
「ちょ、朝子さん!?いきなり抱きついてって、胸!開いてますよ!?」
「いいじゃん!いいじゃん!別に減るもんじゃないんらし~!」
「この女……完全の飲まれてやがる…………」
酒瓶をぶんぶん振り回しながら暴れる朝子。とても手がつけられないといった様子だ。
そこでじゃれいながらもヨウイチとゲンはちらりと朝子の首を見る。そこに能力者の証たる首輪は無かった。
「あ~。しゃあねえ、俺が寝室まで送っとく。ヨウイチ、お前は先に洗いもの始めといてくんねえ?」
「わかりました」
いちいち酔っ払いの相手なんてしてられないと、やれやれとため息を吐きながらゲンは朝子を抱きかかえる。
「コラ~!!わたしはかんとくかん様らぞ~!えらいんらぞ~!」
「酒瓶抱えて威厳もくそもあるかよ、ったく」
いつものことのようにゲンは頭を小突かれながらもさっさと寝室へはこんでいった。
「………………“監督官”…………か」
ヨウイチは狂った世界に言いようの無い感情を抱きながら、それでも生活のためにヨウイチは洗い物をするために部屋に戻っていった。