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心霊研究サークルが行く!  作者: ぼっち
7/7

終章 霊安室と物語の結末

はい。前回すぐ書ける的なことを言っておいて約4ヶ月続きをかけないという情けない状態でしたが、ようやくエンディングまで書き切ることができました!では、心霊研究サークルのひと夏の思い出をどうか最後まで見届けて頂けると光栄です。

興奮冷めやらぬ中、どうにか色々なものを抑えながら 卯瑠璃(うるり)先輩と共に部屋を出ると、目を細め、顔を赤らめた 由那(ゆな)先輩が目の前にいた。

「つなぐん。中からいかがわしい声が聞こえたんだけど。うるりんにエッチなことしてたんじゃないでしょうね」

 どうやら聞き耳を立ててたみたいですね。しかし、疑問形ということは中で何が行われていたか、はっきりとは知らないようだ。ならば、

「いえ、決してエッチなことはしてませんとも。ただの医療行為、もとい遊びに付き合っていただけですとも」

 そう、証拠などどこにもないのだ。最悪、記憶にございませんの一点張りで勝てる。

「ふぅーん。まぁいいけどね」

 そうかそうか、と言いながらさっきまで俺たちがいた部屋に入って行く由那先輩。そして、数秒後何かを手にして戻って来た。

「カメラ、置き忘れちゃダメだよ?つなぐん」

 ・・・我が生涯に一片の悔いあり。


 その後、カメラは大事そうに由那先輩の手中に。

 改めて、卯瑠璃先輩が正常に戻ったことを確認して落ち着いた由那先輩は、廃病院を後にすることを提案する。

 映像も確認しなきゃいけないしね、と笑みを浮かべる先輩。家に持って帰られるまでに、どうにかして中身を確認される前に奪う、もしくは破壊しなければならない。

「先輩!あそこに幽霊っぽいのが見えたのでちょっとカメラ貸してください!」

「じゃあ私が撮ってあげるよ〜」

 こいつ意地でもカメラを離さない気だ!

 こうなったら実力行使で――


「ガシャンッッーー!!」


 突然、病院内に大きな音が鳴り響いた。

 音の発生源はどうやら自分達の足元、地下からのようだ。地下といえば、この病院の本命といってもいい霊安室があるわけだが。

「どうしましょうか」

 状況が状況だ。もう大丈夫そうだが、卯瑠璃先輩のことを考えると。

「行きましょう!」

 あれ?意外とやる気に満ち溢れていらっしゃる。

「私は大丈夫ですから!ここまで来たら死なば諸共!全て探索しましょう!」

 テンションと言葉の意味はよくわからないが、卯瑠璃先輩が若干おかしいのはよくわかった。

 探索宣言を高らかに告げると、由那先輩の手からカメラを奪い取り早足で階段へと向かう。

 そうか!卯瑠璃先輩としてもあの出来事が公になるのは嫌だろう。だからこそここがチャンスとカメラを強引に手に入れたのか!

 と感心していると、勇ましく歩いていた卯瑠璃先輩が突然足を止めた。

「どうしました?」

 駆け寄り尋ねると

「1人で先に行くの、怖い」

 いつも通りの先輩だった。


 その後カメラを手に先頭に立ち、階下へと足を進める。後ろの誰かさんが恨みがましい目で睨んでいるようだが、まぁそれは置いておいて、地下へと到着。

 空気はどこか重く、若干の息苦しさを覚える。さて、問題はどこで音がしたかだが。

「とりあえず霊安室いってみようよ」

 不満より好奇心の方が優ったのか、どこか楽しそうな声色で提案する由那先輩。

「そうですね」

 特に目星もないためそれが無難だろうと、全員の意見も一致し、由那先輩先導のもと霊安室へ向かう。

 先程の大きな物音が聞こえてから数分経つが、あれ以来病院内は静けさを取り戻し、廊下を歩く靴の音のみが耳へ届く。

「そう言えば、さっきから迷い無く進んでますけど、霊安室がどこにあるか知ってるんですか?」

「ん?いや、勘」

 勘ってあなたね。そんな堂々と言われたら返す言葉もないですが。

「まぁそこまで広いわけじゃないし、何となく歩いてたらあるでしょ」

 他にも気になるところ見つけられるかもしれないし、と続けながら先へ進む先輩。

 とその時、

「おぉ!ほんとにあった!」

 先輩に追い付くとなるほど、汚れて見えにくくなっているが、確かに霊安室と書かれたプレートのようなものが見えた。

「案外小さい部屋っぽいね。もっとこう大量の死体がプールみたいなところにホルマリン漬けされてる感じの部屋かと思ったよ」

 なんですかそのバイトを雇いそうなヤバい場所は。

「扉は閉まってるね」

「そうみたいですね」

「じゃ、まぁつなぐん開けたまえ」

「なんで!?」

 当たり前でしょとでも言わんばかりに、驚いたように目を見開いてこっちを見る由那先輩。後ろの2人を確認すると。片や無表情。片や両手を握って応援のポーズ。

 とほほ。まぁ別にいいですけどね。誰かが開けなきゃいけない訳ですし。

「じゃあ開けますよー」

 投げやりな掛け声と共に右手に力を込めて扉を横へスライドさせる。

 光は暗闇を照らし、部屋の様子を詳らかにした。


 そこには何かがあった。いや、何かがいた。


 床に()した人とそれを見下ろすように立つ人。床にはガラスのような破片が散乱し、直立する人の手には刃物。

 突然目に飛び込んだ情報に脳の処理は追いつかず、動くことができずにいた。

が、突如目が合う。眼球だけが動きこちらを見る。

「逃げろっっ!!」

 俺は叫んだ。さっきまで息をすることさえ忘れていた体に嫌な緊張が走り、上半身に熱、血が駆け巡るような感覚がする。

 俺は扉を思いっきり締め、みんなの後を追う。後ろでは扉が何度か音を立てていたが振り返らず走る。が、卯瑠璃先輩が目の前でこけた。

「うるりん!?」

 由那先輩とレイが卯瑠璃先輩を支え立ち上がらせる。

「大丈夫ですか!?」

 追いつき声をかけるが、卯瑠璃先輩は辛そうな表情で

「ちょっと足捻ったみたいです」


「ガラッ!」


 最悪のタイミングで音が響く。

 音がした方へ目線を送ると、予想通り男がこちらへ向かってきていた。こうなったら覚悟を決めるしかない。

「由那先輩とレイは卯瑠璃先輩を連れて先に車に戻ってて下さい」

 腐っても男だ。自分の命を賭してでも守らなきゃいけないものはある。

「ちょっと!そんなのダメ!」

 強い口調で俺の手を掴む由那先輩。だが、俺はその手を振り払った。

「今は揉めてる場合じゃないですよ。別に死ぬわけじゃないんです。軽くボコったらすぐ追いつきますよ」

 その間にも男との距離は徐々に縮まってきている。

「頼みますよ。こんな時くらいカッコつけさせてくださいな」

 そう言うと、由那先輩は決心したように卯瑠璃先輩を連れて歩き始めた。

「待ってるから」

 一言、そう残して暗闇へと進んでいった。


 さてだ。死亡フラグがビンビンに立ってる感は否めないが、どうするか。自慢じゃないが、高校では帰宅部のエースとまで言われていた。詰まる所、腕っ節に自信なんて全くなければ、人を殴ったことなんてないわけで。

「上手いこと刃物を奪えねーかなー」

 なんて呑気な感じに呟くが、心臓は一生分の鼓動を今の内にしてやろうとでも言うかの如く、ドクドクいってる。

 男はなぜかゆっくりこっちへと向かって来ているので、思考をする時間は十二分にある。が、どうやっても刺されておしまいというイメージしかない。どうしたものか

 とその時、突然男がこちらへ向かって手を挙げながら走り出した!

 まずい!そう思った俺は一か八か腕をおおきく振りかぶって右ストレートを放つ。息を切らした男の驚いた顔が間近に迫り、体重も乗せきれてない素人パンチは


 見事男の顔面へと直撃した


 男は床に倒れ痛がっている。まさかいい感じに決まるとは思っていなかった俺は少しフリーズしたが、ここは追撃すべきだと判断し、蹴りをお見舞いしようとした。

「ちょ、ちょっと!待ってください!つなぐんさん!」

 なぜ名前を知っているのかという疑問がよぎったが、待てと言われて待つわけにもいかず、一瞬止まった足を再度後ろに引く。てかつなぐんさんてなんだよ

「おお、お、おっぱい!!」

 が突如大声でおかしなことを言い出す男。意表を突かれ完全に動きが止まってしまう。

「おっぱい、吸いましたよね」

 なっ!?なぜそのことを知っている!?それを知っているのは俺と卯瑠璃先輩と澄ちゃんだけのはず。

 俺はトリックを暴かれた犯人の如く、全く身動きが取れずにいた。俺の秘密を見事言い当てた探偵は頬をさすりながらゆっくり立ち上がる。

 ヤバい。こいつは殺さなければならぬ。秘密を知ってしまったからには生かしては置けぬ。

 と、どっちが危ないやつかわからなくなり始めたところで、男が一言。

「僕です。ゆうですよ」

 ゆう?そんなやつ・・・

「えっ!?俺に取り憑いた!?」

「そうですそうです。先程はご迷惑おかけしました」

「いやいや。こちらこそおかげさまで良い経験を」

 ってこんな 慇懃(いんぎん)に振舞ってる場合じゃない!一体どういうことなんだ?

さっきまでの殺す殺されるといった想像は何処へやら。何だか安心してしまったが、まだ落ち着ける状況じゃない。

 事情を説明してもらうようゆう君に頼むと、わかりましたと快諾してくれた。

一切の顛末はこうだ。

 俺の体から出たゆう君は、追いかけてくる澄ちゃんから逃げるため地下へ。そこで数分間の逃走劇が行われていたが、とうとう追い詰められそうになったゆう君はちょうど目の前にあった部屋、霊安室へと入った。

 すると中は明かりに照らされており目の前には倒れた女性とその前に立つ男性。人がいたことに戸惑ったゆう君だったが、後ろから澄ちゃんの声が聞こえた瞬間、咄嗟に男に取り憑いた。が、思いの外この男の意思を乗っとるのに時間がかかったようで、かなり苦労したらしい。

 そして完全に意識を乗っ取る直前、俺達が入ってきたということらしい。

「なるほどな。あの時の音はそいつが持ってた懐中電灯が落ちた音だったのか」

 今に至るまでの状況と音の正体は判明したが、もう1つ疑問が残る。

「でもさ。なんで追いかけてきたんだ?」

 流石に挨拶しようと思って追いかけたなんてことはないだろうから、それなりの理由があるんだろうが。

「そう!それですよ!つなぐんさんこっちに来て下さい!」

 そう言い俺の腕を引っ張って、霊安室へと向かうゆう君。力つえー。

 霊安室の扉を開くと、中には女性が先程と同じように倒れている。

「つなぐんさんにこの方を助けて頂こうと思って追いかけたんですよ」

 状況が状況なだけに女性のことなんて考えず逃げてしまったが、なるほど確かに助けてあげるべきだろう。

 と言うか助けない訳にはいかない。刃物を持つ男と倒れた女性。完全に犯罪現場だ。置き去りにして良いわけがない。

 どうやら彼女は意識を失っているだけのようで、呼吸もちゃんとしていた。

 ちなみにゆう君が手に持っていた凶器は話の途中で俺に渡してもらったが、血はついていなかったので、女性が刺されているということはないだろう。

 女性の意識が戻るか、軽く肩を叩き呼びかけてみる。

「すみません。大丈夫ですか?」

 だが反応がない。うーん、これはこのまま外まで運んであげるべきか。

と思っていたら女性の目が突然開いた。

「あっ!起きましたか?大丈ぶ――」

「いやぁーーー!!!」

 顔面にクリティカルヒットした拳。倒れてる状態からなぜここまで威力が生まれるパンチが繰り出されたのかは謎だが、めちゃくちゃ痛い。

「あなた誰なんですか!私をどうするつもりなんですか!?」

 大声で叫びながら倒れた俺にとどめを刺すかのごとく背中を踏みつけまくる女性。背骨がぁ、折れるぅ

「ちょちょちょっと!?つなぐんさんはあなたを助けようとぉ――」

「やめてーーーーー!!!」

 被害者がもう1人増えた。いやまぁ体は加害者なんだけどね。

 状況を説明させてもらう余地もなく、本当に骨を折られそうだったが、突如暴力の嵐がやむ。

「ふぅ。大丈夫だったお兄ちゃん?」

「あぁ、俺を優しく呼ぶ声がする。これがお迎えなのか・・・」

「うーん。もうちょっと痛めつけたほうがいいのかな?」

「すみませんでした!澄お嬢様!!」

「うん!よろしい!許してあげましょう」

 かなり痛いが、どうにか上体を起こし、さっきまで鬼神とかしていた女性を見る。

「それにしてもよく私だってわかったね?」

「まぁゆう君もそうだったし、俺のことをお兄ちゃんって呼ぶってことはね」

「ふむ。つまり調教済みと・・・」

「もうちょっと他の言い方ない!?」

「まぁそれは置いときまして。大丈夫?」

「ん?おう、ハイヒールとか履いてたらやばかったかと思うけど、まぁその人靴履いてなかったしね。痛いっちゃ痛いけどまぁ大丈夫だよ」

「いやMに目覚めてませんかという心配をですね」

「そっちの心配かよ!!」

 と、さっきまでの凄まじい状況は何処へやら、軽い空気が漂う

「で、澄ちゃんは俺らを助けるためにその女性に取り憑いてくれたと」

「ん。そうね。まぁ放っておくのも面白いかと思ったけど、勘違いで人殺したらこの子が可哀想だしね」

 俺が可哀想ではないのか

「まぁ、もうこの人も落ち着いてきたみたいだし出てってあげてもいいんだけど」

 と言いながら立ち上がり、俺にも立ち上がるよう指示する澄ちゃん。そして俺の左腕に両腕をまわしギュッとひっついてくるおっぱい!でっかい!!じゃない、澄ちゃん。

「ちょっ、何してるの!?」

「どうせこの子も出口まで行くわけだし、そこまで楽しんじゃおうかなと」

 ふぉぉぉ!!そげに色っぽい声で耳元で囁かんでください!落ち着け俺。相手は小学生。体は大人だけど小学生。犯罪だぞ。

「さぁ、行きましょう!」

「うぉ!突然引っ張らないでくれよ」

 楽しそうに寄り添ってくる澄ちゃん。女性には申し訳ないと思うが、ほんとありがとうございます。

 そう言えばゆう君放ったままだけど...まぁいいか。


 澄ちゃんと歩くこと数分、病院の出入り口が見えた。

「あぁ残念。もうさよならかぁ」

 口を尖らせながら名残惜しそうに腕を離す澄ちゃん。俺も若干残念であった。

「今日は楽しかったよ。是非是非、また来てくれると嬉しいな」

「早く成仏しなさいな」

「む。優しくないな〜。そういう時はもちろんさくらい言うもんじゃないの?」

 そんなどこかの国のネズミさん的返事はしませんて。

「と言うより私たちはこの病院が無くならない限り消えられないからね〜。成仏は無理なんだよね」

 まぁ強制成仏じゃないければと話す澄ちゃん。左手に黒手袋してる先生くらい呼ばないとダメなのか。

「まぁ、無駄に期待を持たせるのも悪いかなと思う性分でね。もう一回来るって言うのは中々難しいね」

 今回色々危ないこともあったしね。

「なるほどね。まぁそれが賢明かもね〜。ここは色んな人が居るし」

 さてさて、と伸びをする澄ちゃん。短い間ではあったが、そこで流れた時間は濃密で、とても長い時間一緒にいた気さえする。

 今更ながらよくこんな状況にすぐ慣れることができたなぁと我ながら感心する。実際ここでの出来事は、他の誰かに話しても一蹴されるか、精神科を紹介されるか、そんな突拍子もないことだ。

 と別れ際物思いに耽っていると、

「あっ!!」

 突然声をあげ俺の後ろを指差す澄ちゃん。

 即座に首を後ろへ捻り、暗闇に目を凝らす。が、何も見えない。

 どうしたんだ、そう聞こうと首を戻すと、

 ほっぺたに柔らかい感触を感じた。

「えへへ〜。さすがに唇はこの人が可哀想だからね」

 恥ずかしそうに後ろで手を組みながら、笑い掛けてくる。

「これがキスなんだね〜。まぁほっぺだけど」

 反応できず固まってしまっている俺に、

「お兄ちゃんはさ、わかんないかもしれないけど。幽霊になるとさ、なんて言うんだろう。楽しいって感じることもある。でも、どこか虚しいの。ゆう君と遊んでると、触れ合ってるって感じることはできても何か足りなくてさ。きっとそれは温もりだったり感触だったり。生きてた過去があるからこそ、今となっては感じられないものに憧れというか、もう一度感じたいっていう気持ちが強くなっちゃって」

 だからさ

「今日はすっごく楽しかった!お兄ちゃんやお姉ちゃん達にも沢山迷惑かけたけど、申し訳ないとはちょっとだけ思ってるけど、嬉しかった。本当に触れ合ってるっていう感覚があってさ、心があったかくなるそんな感じがしたの。だから色々とお兄ちゃんに大胆なこともしちゃったけど、またこの感覚忘れちゃうんだって思うとなんか残念でさ。今の内にやれることやっちゃおう、ってはしゃぎすぎちゃった。」

 まぁ色々あったけどさ

「ありがとう!本当に楽しかった」

 笑顔の澄ちゃん。なにか恥ずかしかったのか、俯きながら俺の背中を出口へと押す。

 俺は、

「俺も楽しかったよ」

 そう返して、後ろ手に頭に優しく手を置く。

 背中にかかる力は弱くなり、小さな声で


 忘れないで


 そう聞こえた気がして、

「もちろんさ」

 その声は彼女に届いたのかどうか。


 憑依されていた体が自由になった女性にバックドロップを決められた俺は、知らない。


 その後、俺が目覚めると周りには女性と先輩達、レイがいた。どうやら遅すぎる俺を心配して戻ってきたところ、気絶した俺と呼びかける女性を見つけたらしい。

 俺が目覚めるまでに、女性から状況を一通り聞いたらしく、俺が起きたら警察まで行くということになったようで、起きた俺は女性に謝罪されながらも、早速車を運転するという仕事が課せられたわけだ。警察呼んで待機すべきではないかとも思ったが、またあの男が現れるのも怖いということで警察まで行くということになったらしい。

 体が色々と痛いのに、なんともブラックなサークルだ。とは言え、免許証を持っているのは俺だけで、まぁやる他ないのだが。

 車中で俺も女性の話を聞いたが、男とは合コンで知り合ったらしく、帰り道が同じだったこともあり一緒にもう一度飲み直すということになり、気付いたらあの状況ということだったらしい。大方睡眠薬を混ぜた酒を飲ませてといったところだろうが、何事もなかったのは本当に運が良かった。

 数十分後、交番に着いた俺たちは女性とともに状況説明(もちろん澄ちゃんなどのことは伏せた上でだが)をした。結果怒られはしたが、警察は現場に向かうとのことでまた何かあれば連絡するとのことだった。無事犯人が逮捕されると良いが、俺たちのどうこうできる事ではないので後は警察に任せるしかない。まぁ男が持っていた凶器も渡したし、運が良ければそれで特定されるだろう。

 女性は警察とともに現場に向かうと言うのでここで別れ、俺は先輩達を家まで送る。運転中、今日の話題で盛り上がったが、皆疲れていたのか寝てしまった。

 レイ、卯瑠璃先輩を無事送り届けた後、由那先輩の家へ向かう。助手席に座る由那先輩はすでに起きており、静かに外の景色を眺めている。

 夜のしじまが車中を満たす中、そっと由那先輩が口を開いた。

「なんて言うかさ、ほんと今日はお疲れ様だったね」

「そうですねー。俺は本当にお疲れでしたよ」

「はは。とか言いつつ楽しんでたでしょ。色々と、ねぇ」

 最後の方、若干語気に恐怖を感じたが、まぁ気にしない気にしない。

「まぁつなぐんが誰とイチャイチャしようがいいんだけどね〜。ただ、あんまり調子乗ったらだめだよ〜」

 無駄に最後を伸ばしてくるのやめて欲しいですね。

「ねぇ、つなぐん。ほんとに今日は色々と大変だったけどさ。なんか青春だなぁって感じちゃったよ」

「青春、ですか?」

「うん。こうやってバカやってさ。そりゃやってることは褒められたことじゃないけど、若気の至りって言うかさ。危ない場面もあったけど、最後には皆が楽しかったって思えるってなんか良いよね」

「そうですね。皆楽しそうに話してましたもんね」

「私達もさ。もうすぐしたら卒業して、別々の道に向かって行くことになるけど、きっと今日のことは一生忘れない。うるりん、レイ、つなぐん、そして私。この4人が一緒に過ごした時間はこれからも続く人生の中で考えたら、すごく短い時間なのかもしれない。でも、きっとこの瞬間のような出来事は、掛け替えのない宝物。きっと死ぬ時も、この時の事を思い出すと思う。何もかもが色鮮やかで美しかった日々。きっとバカやったなぁって少し反省しながらも、その時私は笑ってるんだろうなぁ」

 ってなんか語っちゃったよ!あぁ恥ずかし〜!なんて言って顔を隠す先輩。

 この時訪れた沈黙は、深夜の冷たさなんて感じさせないほど、どこか暖かくて気持ちよくて。そんな朗らかな空気の中、耐えられなくなった俺は笑ってしまった。

「ちょ!笑わないでよ!」

「いや。なんだか面白くなっちゃいまして。幽霊に取り憑かれたり、犯罪現場に遭遇したり。さっきまで非日常的な事に遭遇してたのに、もうこうやって日常を送ってる。そう思うと何か笑えてきちゃいまして」

 別に今の由那先輩のスピーチに笑ったわけではないんですよと付け加えておいたが、何故か肩パンされた。運転中なのに危ないですよ。

 それから数分後、由奈先輩の住むマンションへ到着し、これで後は俺も自宅に帰るだけ。

 また明日、と別れを告げた後、コンビニで飲み物と飯を買い一人暮らしのアパートへと帰宅。時刻にして深夜4時過ぎ。もう深夜ではなく早朝の方が正しい気がする。

 ラッキーな事に今日の講義は4限のみ。1時くらいまでは就寝できる。

 疲れた体を癒すべく温かいシャワーでも浴びようかとも思ったが、どうやら想像以上に疲労がたまっていたようで、ちょっとだけ休もうとベッドに体を預けて数分後、見事微睡みへと。


 起きたらそこは知らない天井、何てことはなく見慣れた白い天井。ポッケに入ったままだった携帯で時刻を確認すると昼の12時過ぎ。もう少し寝ようかとも思ったが、風呂に入ってない事を思い出し、重い体を起き上がらせる。

 まだお湯になっていない冷水シャワーを顔に浴びせて目を覚ます。その後、全身を洗い、湯を張った風呂に浸かる。深い呼吸をしながら、体の疲れを癒していると、ふと思い出した。

「カメラ忘れた」

 誰もいない浴室で独り言つ。


 どうやら案外早く再会は訪れそうだ

という訳で、無事?エンディングを迎えることができました本作ですが、実は当初予定していた結末とは180度違う展開となりました。初めはバッドエンドにしようと考えていたのですが・・・まぁ明るい話にしたいこともありこのような感じになりました。どうだったでしょうか?1人でも楽しんでいただけた方がいれば私としては感謝感激雨あられといった感じです。さて、そろそろ締めたいと思いますが、結局本作はホラーではなかったですね(笑)今更ジャンルを変えるべきか悩んでいますが、まぁホラーっぽい場所が舞台になっている訳ですし許してもらいましょう。では最後に、拙い部分は多々あったとは思いますが、本作を読んで頂いた方に最大の感謝を!また次回作で会えると嬉しい限りです!

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