91 調査
「さて、シャーリー。そろそろ行こうか。」
「はい。」
休憩を取り終えた俺とシャーリーは目的地に向けて家を出た。
家を出ると、四人のエルフが家の前に立ち尽くしていた。
気配からして、俺達を尾行していたエルフ達だと分かる。
四人のエルフは何とも言えない顔をしていた。
レッドベアー7体の死骸を見て、どう反応したらいいのか分からないと言ったところかだろうか…。
「どうしました?」
俺の問い掛けに、四人のエルフのリーダー格だと思われるエルフが答える。
「…お前がこれをやったのか?」
「そうですが、何か?」
俺が答えると、信じられないと言った顔で驚いているようだった。
「嘘だろ…」
「信じられない…」
「…」
他のエルフ達も同じ反応だった。
まあ、そう言う反応だわな…。レッドベアー1体狩るのに数十人の熟練したエルフのパーティーが必要だと言っていたしな。
それを子供である俺が一人で倒したのだ。驚くのも無理はない。
「お前は一体、何者なんだ?」
「どこにでもいる魔法使いですよ…」
俺はどこにでもいる魔法使いだ。…ちょっと、魔力総量が普通の人より多いだけのね。
「…何が目的で、此処に来たんだ?」
「シャーリーに頼まれたんですよ。エルフの国を救ってくれって」
リーダー格の男がシャーリーに視線を移す。
「本当よ。私がヴェル様にお願いして、ここまで来てもらったの…」
「…気は確かか?これから人族と戦争になるかもしれないのに人族に助けを求めるなんて…」
「ヴェル様は信用できる人よ」
「何故、そこまで言い切れる?」
「この目で見て…ヴェル様の今までのしてきた事も全部聞いたし、見ず知らずの他人の為に必死になってる姿を見て来たからよ」
シャーリー…信用してくれるのは嬉しいが、それだけで信用するのはちょっと不味いと思うよ。この子、いつか誰かに騙されそうだな。
「俺はまだ、信用する事はできない」
「ヴェル様がバーナム王国軍を追い払ったのは見てたでしょ?」
「それは…しかしだな…」
「信用できないって言うなら、私の事も信用できないって事なの?」
「そうは言ってないが…」
ちょっと、ここで言い争いをしないで…。森の中だよ?しかも、レッドベアーの死骸がそこにあるんだよ?他の魔獣まで来ちゃうじゃないか…。
もう少し、考えようよ。いつまでもここで話し込んでいる場合じゃない。止めに入るか…。
「まあまあ、信用するしないは後で考えてもらう事にして、貴方達はこれからどうします?一緒に来ますか?」
「どこに行くんだ?」
知らないで後をつけて来たのか…。エルフって…結構、抜けてるのかな?いや、この人達が抜けてるだけなのかもしれない。シャーリーの知り合いっぽいし、類は友を呼ぶってやつだ。
「森の北東にバーナム王国の奴等が何かしてると聞いたので、それの調査ですかね?」
「何の為に?」
ちょっとは自分で考えて…。
「もしかしたら、風の精霊の力が弱まった原因がそこにあるかもしれないからですかね」
「本当か!?」
森の近くで人族が何か怪しい事をやっていたのなら、自分達で調査ぐらいしようよ。
自分達の国が危ないかもしれないんだよ?もうちょっと危機感を持とうよ。俺を疑ってたんでしょ?
あれ?警戒してるのって俺だけなの?俺、そんなに嫌われてる?何か、ショックだよ…。
「…行って見ないと何とも言えませんけどね…」
「わかった。同行しよう…」
「じゃ、行きましょう」
「ああ…」
尾行していたエルフの男達と一緒に行く事になった。
こいつらは俺の事を信用はしていないようだが、風の精霊の為なら一時協力体制を築くとの事だった。
「俺はガガイルだ。そっちスクイル、バナッシ、モンドだ」
「ヴェルナルドです。ヴェルとでも呼んで下さい、ガガイルさん」
「わかった。俺の事は呼び捨てで構わない。敬語も辞めてくれ」
「わかった。ガガイル」
「ああ…」
ガガイル達の案内で森の北東、バーナム王国が何かをしている所に向かった。
俺達は、森とバーナム王国領との境目で立ち止まった。バーナム王国の兵士達が何かしているのが見えたからだ。それも森のすぐ近くで…。
「あれは、何をしている?」
ガガイルがバーナム王国の兵士達の様子を見ながら言った。
「わかんないけど、地中の中に入って行ったりしてるな」
まるで、何かを発掘しているかのように地面に大きな穴を空けて出入りしている。規模はかなり大きい。
「ここからでは、はっきりとは見えませんね」
「そうだな」
「どうします?ヴェル様」
「う~ん…」
あいつらは何かを掘り出しているのだろうか?
何の為に?それは一体なんだ?もう少し、近付くで見る必要があるな…。
「ちょっと魔法を使って覗いてみるよ」
「そんな事もできるんですか?」
「一応ね…」
そう言って千里眼を発動する。
バーナム王国軍の兵士達が出入りしている付近を見ると、何かを運び出しているようだった。
大きな筒状の物だ。直径20m程の長さ。形状を見た感じ、筒状の物は台座のような物に設置するように見える。
「これは…大砲…?」
「大砲?」
「恐らくは…」
あれは、本当に大砲なのだろうか?
この世界にも大砲は存在する。しかし、大きさが違いすぎる。しかも、地中から掘り出していると言う事はこの世界の、この時代の物ではない。
掘り出している場所は、地中の奥のかなり深い所から運び出されているからだ。あれ程の大きさの大砲で攻撃されたら、被害は甚大になるだろう…。
あんな物が何故、地中に?いつの物なんだ?分からない…。分からないが、組み立て作業を行っているようだ。
数は全部で10個。その内、3つは完成しているようだった。あれを使って攻めてくる気なのか?
しかし、弾を装填する場所が見つからない。ただの大砲ではないのかもしれない。もっと調査をしなければならないな…。
大砲は一先ず置いといて、地中の中を見ようと思う。
他にもあるかもしれないからだ。千里眼を使って、地中の奥に入って行く。
かなり、広いかもしれない。入口から入って行くと、迷路のように道が入り組んでいるからだ。
これでは、全て調べるには時間が掛かりすぎるな。そう思って、物体察知の魔法を発動して、迷路の構造を把握する。
兵士達の位置、部屋の様な所をくまなく調べる。すると、縄に繋がれた人が連れて行かれるのを察知した。
服装からして女性…。いや、これは少女かな?上等な服を着ている様に思える。縄に繋がれた上品な服を着る少女?
何故、此処に?
「地中の中は迷路のように入り組んでいますね…」
「迷路?もしかして遺跡なのかもしれないな…」
「遺跡?」
「大昔、ここは魔道具の研究施設があったそうだ。場所は秘匿されて詳しくは分からないが、恐らくそうだろう」
「ふむ」
遺跡か…。魔道具の遺跡。
大砲があるって事は、此処は軍事兵器の研究所だったのかもしれない。それが、長い時間の中地盤が弱くなり、地震でその一部が姿を現した。
そして、バーナム王国が見つけて発掘。大砲だと分かると自国の軍備に取り込もうとしている。兵器を手に入れたバーナム王国は、その威力に驚き、野心が芽生えた。
世界征服でもする気か?それとも、もともとエルフを妬ましく思いつつも友好国の振りをしていた。エルフの国は結界に守られて手出しできないからだ。
しかし、エルフ側からは攻撃できる。それでは戦に勝てない。だから、兵器を使ってエルフの国を攻めて結界を壊そうとしているのかもしれない。
あの大砲はひょっとして魔力を使って攻撃する魔力砲台なのかもしれないな。魔力を充電して使えるようにしている途中、膨大な魔力を充電している為、地脈から魔力が弱まり、風の精霊が力を弱めた。
そう考えると、辻褄があうな…。これは、早く何とかしないと不味いかもしれない。
それと気になるのは、縄で拘束されている少女だな。何者で何の為に連れて行かれているのか…。ちょっと、探ってみるか…。
「シャーリー、ガガイル…」
「何です?」
「何だ?」
「ちょっと、中の様子を探ってくるよ」
「「え?」」
その場にいた全員が、俺の発言に驚いていた。
「ちょっと気になる事があるから調べてくる。それと長くなるかもしれないから先に帰ってていいよ」
「本気ですか!?」
「正気か?」
「ええ。中で少女が囚われているみたいだから、必要なら助けてくる。風の精霊の力が弱くなった原因も一緒に探ってくるよ」
「「危険だ」です!」
危険なのは分かっている。何故かは分からないが、少女を助けないといけない気もする。
それに、俺なら敵に気付かれずに助け出す事もできるかもしれない。例え、気付かれても俺なら対処できるしね。
だから、行こうと思う。虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。