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88    到着

 ユイに重力魔法を習得させてから、飛行船の操縦を交代制で行った。

 始めは危なっかしかったが、徐々に慣れてきたのか今では一人前に操縦している。流石はユイと言ったところか…才能がある。

 このまま行けば、いつかは俺を超えて行くだろう。まだまだ、負けるつもりはないけどね。

 まあ…それは、さておき…。あと少しで、エルフの国だ。エルフの国ってどんな所なんだ?やっぱり、森の中で生活してたりするんだろうか?


「シャーリー、エルフの国ってどんな所なんだ?」

「エルフの国は、大自然に囲まれた森の中にあります」


 ですよね?想像した通りだ。だって、エルフだもん。小説とか映画によくある話だ。


「国と言っても、アルネイ王国みたいに城がある訳ではないですよ?」

「そうなの?」


 エルフの国って言うから、森の中に城が聳え立っていると思ってた。何だ…違うのか…。


「じゃ、どう言う風に生活してるの?」

「普通に森の中で生活してますよ?」


 普通って何よ?普通が分からない…。


「狩りとかして?」

「そうですね。少し開けた所に畑とかもやってますよ」

「狩りと畑を耕してるのね…」

「ですよ…。それが何か?」

「いや…ちょっとエルフに興味があってね、どんな風に生活してるの?とか、どんな事をしているの?とかね…」

「どこにでもいるエルフと一緒ですよ?」


 どこにでもいねぇよ!馬鹿にしてるの?エルフと会ったのは、シャーリーが初めてだよ!王都にもいないと思う。


「人族と交流って結構あるの?」

「ない事はないですね」

「そっか…」

「はい」


 正直、あんまり分かんなかった。答えが曖昧なんだよ。シャーリーの説明が悪いのか、俺の聞き方が悪いのか…。この子、本当は馬鹿なんじゃないかと思えてくる。


「で…エルフの国って、どこら辺にあるの?」

「えっと…」


 そう言って、シャーリーは飛行船の窓から外を見る。


「あそこですね。あの森のずっと奥にあります」

「じゃ、あの森の入口辺りまで行くね」

「はい、お願いします」


 飛行船を森の方へと進路を変えた時、ある事に気付いた。森の周辺に大勢の人が集まっている様に見えたのだ。


「あれって…」

「え?っ!」


 シャーリーは驚いていた。

 それも、その筈だ。目を凝らしてよく見ると、森の周辺に集まっていた大勢の人は軍隊だったのだ。

 大軍が森に攻め入ろうとして、エルフ達と交戦していた。エルフ達は森に潜んでいたりしたので、その総数は分からないが軍の方は5万はいる。

 どう見ても、エルフ達の分が悪いように見える。森の中ら、魔法やら弓矢で応戦してはいるが、多勢に無勢だった。次々と、森の中に踏み込んでいく兵士達。


「シャーリー!結界はどうなっているんだ?」

「結界が…結界が無くなっています」


 このままでは、攻め滅ぼされる勢いだ。

 不味いな…。どうにかしないとエルフの国を助けるどころではない。


「ユイ!飛行船の操縦を頼む!」

「ん」


 ユイに飛行船の操縦を任せて、甲板に出る。

 これ以上、敵軍の侵入を許すわけにはいかない。

 俺は魔法を発動させた。

 狙いは森の入り口付近。


大爆発グレートエクスプロージョン!」


 魔法を連続で発動させると、森の入り口付近が轟音と共に大爆発を起こして敵軍は吹き飛ばしていく。

 それでも、敵軍の進軍は止まらない。

 だめか…。なら、これでどうだ!?


極寒エクストリームコールド!」


 広範囲に上級魔法を発動する。瞬時に凍り付いて行く兵士達。


極寒エクストリームコールド極寒エクストリームコールド極寒エクストリームコールド極寒エクストリームコールド!」


 敵が侵入しようとする箇所に次々と極寒をお見舞いする。辺り一面が氷の世界に覆われ、兵士達の動きが止まって行く。それでも進軍しようとする本陣にド派手に一発お見舞いする。


大爆発グレートエクスプロージョン!」


 敵本陣は大爆発を起こし、ようやく進軍が止まった。

 指揮系統が乱れたのだろう。もう一発、大爆発を炸裂させようと思ったところで退却して行った。

 ふぅ…何とかなったかな?


「ヴェル様!ありがとうございます。ありがとうございます」

「いいよ…そんな事より、早く降りて事情を聞こう」

「はい」

「ユイ、森の入口に船を着陸させてくれ」

「ん」


 エルフ達は何が起こったか分からず、立ち尽くしていたところに飛行船が静かに降り立った。

 初めて見る鉄の船に唖然とする者、身構える者、祈りだす者…。

 そりゃ、そうだわな。見た事もない鉄の船がいきなり空から降りてくれば、誰でも驚くさ。


「皆、行くぞ」

「はい」

「ん」


 飛行船の扉を空けて外に出る。


「シャーリー!」

「え?お父さん!」

「よかった。無事で…」

「お父さんこそ、無事でよかった…」


 シャーリーは涙を流しながら父と呼ぶ男と抱き合っていた。

 シャーリーは戦士長の娘と言っていたな。だとしたら、この人がエルフの戦士長なのだろう。

 シャーリーと同じ金色の髪。ほっそりとした体つきではあるが、筋肉がすごい。着痩せするのかな?腰には使い込まれたであろう剣を差している。

 そして…イケメンだった。シャーリーとは似ていない気がするがイケメンだな。

 エルフは美男美女だと聞くが、どうやら本当らしい。久し振りに会って、無事な姿見て、喜び合っているようだ。感動の再会は後でしてもらうとして、今は状況が知りたい。


「失礼…」

「誰だ、貴様!?」


 ですよね?思いっきり警戒している。さっきまで、人族と戦っていたんだもの。突然、戦闘が終わって空から鉄の船で降りてきた人族に警戒するのは当たり前だ。


「俺は、ヴェルナルドと言う者です。こっちは妹のユイ」

「…人族が何しに来た?」

「シャーリーに聞いて下さい」


 俺が言うよりもシャーリーの口から説明させた方がいいと思った。たぶん、俺だと信用してもらえないからだ。


「お父さん、待って!」

「こいつは、さっきまで戦ってた人族だぞ!?」

「お願い、説明するから待って…」

「…」

「お父さん…」

「…分かった…」


 シャーリーの話を聞こうとしているが、視線はずっと俺に向けられたままだった。

 警戒を解いてはいないようだ。

 瞳の奥には、歴戦の猛者を思わせる力強さを感じた。もし、俺が襲いかかろうとすれば、即座に反応できるだろう。既に、俺の周りにはエルフの戦士達と思われる人達が囲んでいる。

 今にも、襲い掛かって来そうだな…。

 一応、肉体強化と物体察知魔法を発動しておくか。いきなり飛び掛かられたら、たまったものじゃないしな…。


「この人は、私の命の恩人なの!それにティアラも取り返してくれた人なの!」

「っ!本当か!?それは!?」

「本当よ!だから、お願い…。信じて…」

「…分かった…。信じるかどうかは別として礼を言う」


 シャーリーのお父さんは力強く頭を下げた。

 威圧感、半端ないな。とても、礼を言っているようには思えない。


「いえ…。そんな事よりもこれはどう言う事なんですか?」

「…」

「お父さん、この人は信用できる人よ!だから、教えて…」

「…ここじゃ、何だ…家で話そう…」


 シャーリーのお父さんは事情を話してくれるようだ。

 そして、そのまま森の入口に見張りを置いて、エルフ達と森の中に導かれるまま着いて行った。

 森の奥深くに入って行くにつれ、木造建築の家々が徐々に姿を現していく。

 シャーリーのお父さんに連れられて、シャーリーの家に着いた。中に通され、席に着くと重い沈黙が辺りを包む。


「…お父…さん?」

「…シャーリー、よく無事に戻った。ティアラ捜索の任務、ご苦労だった」

「うん…」

「それで…ヴェルナルド君と言ったか?」

「はい」

「私はモンロウと言う。娘を助けてくれた事、改めて感謝する」

「いえ、幸運にも助ける事ができただけです」


 モンロウは改めて礼を言ってから、シャーリーに向き直った。


「シャーリー、何があったんだ?」

「ティアラを他の捜索隊と探していたんだけど、追手に捕まって私以外は殺されました…」

「そうか…」

「でも、何とか手掛かりを探してアルネイ王国に行った時、王都に運ばれたと聞いて探しに行ったわ。そして、ついに見つけて取り戻そうとしたら逆に捕まって…」

「お前は詰めが甘いからな…」

「ごめんなさい…」

「それでヴェルナルド君に助けられたと?」

「うん…」


 モンロウさんはため息を吐いていた。


「そんな事よりも、お父さん。結界が消えていたんだけど何があったの?」

「…」


 モンロウさんは俺に視線を一瞬送ったが、すぐに戻した。

 まだ警戒しているのかもしれない。俺は、よそ者だ。よそ者に部外秘となる情報を言うのには躊躇いがあるのかもしれない。


「ヴェル様の事は信用して…。私が頼んでここに来てもらったの」

「お前が頼んだ?」

「うん、ヴェル様はすごい魔術師なの。だからエルフの国を助けてと頼んだのよ」

「お前は…また、余計な事を…」

「何が余計よ!さっきまで軍に押されて苦戦してたじゃない!」

「それは…」

「あの大軍を追い払ったのは、ヴェル様の魔術のお蔭よ?それでも信用できない?」

「う~ん…」

「ヴェル様はね、アルネイ王国の内乱を鎮圧した功労者で、困っている人を助けようとするお優しい方なのよ」

「どう言う事だ?」

「モンロウさん、それは…」


 孤児院の事、シャーリーを助け出した事、その後、何をしていたのかを説明した。


「シャーリー…お前と言うやつは、本当に出来の悪い娘だ…」

「お父さん!」

「ヴェルナルド君、疑ってしまってすまなかった」

「いえ、警戒して当然だと思います」

「今から話す事はくれぐれも他言しないように…」

「分かっています」


 モンロウさんは他言は無用と念を押して、何があったのかを話し始めた。

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