87 飛行船内部での出来事 その2
フレイムがユイと魔獣契約をした事が発覚した翌日、何事も無く朝食の用意を始めた。
とりあえず…考えない事に決めたからだ。
気を取り直して、今日のヴェルナルドクッキング朝食編
今回、用意する材料はこちら
ベーコン
じゃがいも
玉ねぎ
にんじん
大根
白菜
オリーブオイル
コンソメ
ウインナー
塩
コショウ
パセリ
もう一回言おう…。名前は前世の物だ。本当はこうだ。
干し肉
毒芋
涙ねぎ
にんじん…これは普通だな。
太腿球根
白葉っぱ草
食用油
出汁粉
肉の皮包み
塩
コショウ
緑もさもさ
じゃがいもが毒芋と呼ばれるのは分かる…芽に毒があるからね。
玉ねぎも分かる…切ると涙がでてくるからね。
大根は太腿のように太いから分かるけど、球根か?
白菜は…まあ、分かる。
コンソメが出汁粉なのも分かる。
でも…パセリが緑もさもさってのが分からない…。
もさもさって…いや、たしかにもさもさしてるかもだけど…何かこう、もっと他の名前もあるんじゃないの?
…まあ、それはいいとして調理を始めよう。
まず、鍋に食用油を入れて干し肉を軽く炒めます。
その後、少し小さめに切った野菜を入れます。
野菜を大きく切ったら、食べごたえがあるけど、うちには幼い子がいるから食べやすいように小さ目に切ったのだ。
食用油が全体に回ったら多めの水と出汁粉をいれて柔らかくなるまで煮ます。
塩とコショウで味付けしたら、肉の皮包みを入れて、再度煮詰めて出来上がりだ。
その名も、ポトフ!
朝食はこれだけだが、大量に作ったから大丈夫だ。
野菜もいっぱい取れて美味しいから健康にもいい。
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう、ユイ。ちゃんと顔洗ったか?」
「ん」
「いい子だ。…シャーリーは?」
「…」
寝坊助か!あいつはいつまで寝てるんだ。
「朝食も用意してるから、起こしておいで」
「ん」
しばらくして、シャーリーが起きてきた。
「おはようございます。ヴェル様…」
「眠そうだね…」
「すみません…最近、ちょっと疲れ気味で寝入ってしまいました」
「ああ、店と孤児院で?」
「そうですね…」
「それは、お疲れ様でした。」
「いえ、楽しんでやっていたのでつい張り切ってしまいました」
「子供が好きなんですね」
「はい。可愛くてつい…お恥ずかしいです…」
「シャーリーも可愛いと思いますよ」
「っ!~~~~」
あっ、しまった…。何か口説いてるような感じになっちゃった…。
「…すみません…」
「いっ、いえ…」
「それはそうと…朝食ができているので食べましょう」
「そうですね。食べましょう」
俺とシャーリーは誤魔化すように不思議な笑みを浮かべて笑い合っていた。ユイも不思議そうに見ていたが、笑っているからいいかと思ったのか、すぐに椅子に座ったようだった。
このぐらいの年の子は、まだ分かっていないのかもしれない…大人の事情ってやつを…。
いや、分かってるのかもしれない。ませた子は、妙に感づくから怖いな。とりあえず、知らない方がいいと思う。変に分かってしまうと、シルヴィ達に告げ口されそうで怖い。後で、それとなく口止めしとこうと思う。
「今日はスープですか?」
「ポトフって言う食べ物だよ」
「ポトフ?ですか?」
「そう、美味しいと思うよ。野菜も一杯取れるからお肌にもいいかもね」
「それは嬉しいですね。ありがとうございます」
「いえいえ」
さっきの会話の後だ。妙に他人行儀になっちゃう。
そんな二人を見て見ぬ振りしているのか、ユイはポトフを食べ始めている。
いや、ポトフに集中しているのかな?まあ、結果オーライだ。
「美味しい!」
「いい出汁出てるでしょ?」
「はい。野菜の旨味がとお肉の旨味が上品に混ざり合って止まりません」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるよ」
ん?何か同じ様な会話をした事があるようなないような…。
まあ、いいか。それよりも、今後の話をしておこうと思う。
「ところでシャーリー?」
「何でしょうか?」
だから、食べながら喋るなって…絶世の美女が台無しだよ。
「食べながら喋らないで…」
あっ、しまった。心の声が出ちゃった。
「すみません、あんまりにも美味しくて止まらなかったもので…」
「まあ、それはいいとして…それだけ美味しいって事で許しておきましょう」
「ありがとうございます。それで、何か?」
「ああ、忘れてた…」
「もう、ヴェル様ったら」
シャーリーと笑い合った。
少しは、打ち解けたかな?
「このまま順調に行けば、後二日でエルフの国に着くと思います」
「早いですね」
「飛行船ですからね、速度もかなり出てるから早く着きそうです」
そう、飛行船で移動しているから早く行けるのだ。馬なら片道三ヶ月の距離だが、飛行船は障害物もなくかなりの速度が出るから3日ぐらいで行けるのだ。
一ヶ月を一日ペースだな。
「それはよかったです」
「それで、もうすぐバーナム王国の上空に着くと思います」
「そうですか…」
「なので、これから不測の事態に陥る可能性も考えて、飛行船に透明化の魔術を掛けてもらってもいいですか?」
これから、侵入する領空はバーナム王国だ。
バーナム王国がどんな情勢になっているのかさっぱりな為、飛行船の姿を隠して行きたいのだ。もし、攻撃なんてされた日には結界魔術も発動しなきゃならないし、攻撃に気付かず被弾したら危ないからね。勿論、報復はするけどこちらの正体もばれたくない。
アルネイ王国の王都でも飛行船の話題は広がりつつあったから、バーナム王国にまで伝わるのは時間の問題だろう。俺は仮にもアルネイ王国の伯爵だ。黙って、領土に入って領土侵犯で逮捕されたくないしな。
「はい、分かりました」
「どれぐらい持ちそう?」
「一日ぐらいなら何とかできそうです」
「それだけできれば問題ないです。飛んでいる間だけお任せしたいので…」
「お任せください」
「頼みます」
透明化の魔法をシャーリーに任せて、ユイに重力魔法を教えようと思う。
俺がいなくても、ユイが飛行船を動かせるようにしておきたいからだ。
「ユイに重力魔法を教える」
「ん。お願いします、師匠」
腰を90度曲げて、『ちょこん』とお辞儀するユイ。
その仕草が可愛ユイ。可愛いユイだから、可愛ユイなのだ。
ユイに魔法を教える時は、師匠、普段生活する時はお兄ちゃんと呼ばせているのだ。
始めのうちは、ユイの魔法の師匠だから師匠と呼ばせてたけど、やっぱりお兄ちゃんと呼ばれたいからだ。
だから、ユイに魔法を教える時は師匠と呼ぶのだ。
「そもそも、重力って何か分かるかい?」
「分からない」
ですよね?6歳の女の子が重力を感じていても、理解している訳がない。
「それぞれ物体には引かれ合う力があって、地球が回転する事で遠心力が生まれる。その力と力が合わさって重さが生まれるって事は分かるかな?」
「分からない」
うん、知ってた。ユイが理解できない事は知ってたさ。難しい話だもんね。でも、試に聞いてみただけなのだ。
事細かく、重力について説明すると何とか理解したようだ。普通に説明しても分からないから、例え話で説明したのだ。
「物体にはそれぞれ惹かれあう力がある。それは、俺とユイも同じだと思わないかい?俺はユイが好きで離れたくない。ユイも俺が好きで離れたくないだろう?」
「ん。好き」
「それと同じ事だよ。この星が好きで離れたくない。この星も俺達が好きで離れたくないけど星はくるくる回っている。こんな風にね…」
ユイの両手を掴んで回転すると、ユイは宙に浮きあがってくるくる回る。
「ユイは離れたくなくて俺と繋がってるでしょ?」
「ん」
「だから惹かれあう力が生まれる。これが重力と同じだよ」
「ん。分かった」
そして、重力魔法の発動の仕方、練習をさせて習得させた。これで、ユイも重力魔法が扱える魔法使いになった。
試に、飛行船を浮かせて操縦させようと思う。失敗しても、俺がフォローすれば何とかなるだろう。
「重力魔法を解除するから、今度はユイが飛行船に掛けてみてくれるか?」
「ん」
ユイはすっと息を吸って集中する。
集中したところで重力魔法を解除した。すると、飛行船は重力を取戻し、勢いよく降下して行った。
「うおっ!」
「キャー!」
飛行船が降下していくと体が宙に浮きあがった。
浮き上がった勢いでシャーリーのスカートが捲れあがってしまう。
今日は薄緑か…などと思いつつ、ユイに視線を送ると…。
「無重力!」
重力魔法を発動した。
船体が無重力となり、尻餅をついてしまった。
「あ痛たたた…」
シャーリーも尻餅をついているようだった。
M字開脚で…。その細く綺麗な足からお見えする薄緑の下着は絶景だった。
ユイ、グッジョブと思いつつ、親指を立ててやった。
「ちょっと、ヴェル様!急にやらないで下さい」
「ああ、ごめん…。気を付けるよ」
どうやら、覗き見た事はバレてないようだ。
下着の色を確認した後に、すぐに視線を逸らしたからな。見られたと知ったら、またご機嫌斜めになっちゃうからね。でも、しっかりと動画で脳内ハードディスクに保存しておいた。
…何だよ?別にいいでしょ?趣味なのだ。
何にせよ、ユイも重力魔法を使って飛行船を浮かせる事ができたので、これからもちょくちょく練習させようと思う。