9 魔法使いになりたい
何もない平原に突如として出現した大爆発が原因で、直径30メートルの大きなクレーターができていた。
「「「「「「…。」」」」」」
全員が、声を失っていた。当然、俺もだった。
どうしたらいいのか分からず、マリアに懇願するかのように視線を移すと…。
「きゃー、ヴェルはやっぱり天才よー。天才だわー。歴史に名を遺す魔法使いになるわ。」
興奮しっぱなしだった。そんなに天才と連呼しないで、恥ずかしい。
「ヴェルナルド君!」
マリアの奇声に我を取り戻した子爵が、声を荒げて俺の両肩を掴んでいる。
「はひっ!?」
「王都で、魔法学校に通わないか!?いや、王都で私の弟子にならないか!?」
痛い…。両肩が痛い…。そして、顔が怖いよ、子爵様。はて?魔法学校?そんなものがあるのか…、ちょっと行ってみたいな。
「魔法学校?そんなものがあるのですか?子爵様。」
「うむ。それよりも、私の弟子にならないかね?」
魔法使いの弟子か…。一応、師匠がいるから間に合ってるしな。
「いえ。間に合ってますので、お断りいたします。」
「間に合ってるって、誰だ!?まさか、マリア嬢か!?」
子爵の言葉に、マリアは胸を張る。
…いい形の胸だ。だが、興奮しないのが、残念でならない…。
「いえ。違います。」
俺の否定した一言で、がっくりするマリア。
あっ、拗ねた…。拗ね始めた…。大人げないよ、母様…。
「一体、誰だね!?儂よりも、凄い魔法使いなのかね!?」
興奮した子爵が、問い詰めるように両肩を勢いよく揺らしてくる。
痛い、痛い…、誰か、助けて…。
「その手を、離せ!」
どこからともなく、声が発せられた。すると、俺の両肩を掴んでいた子爵の両手が、ゆっくりと離れていく。魔法だった。魔法で手を退かせたのだ。魔法を発動させた犯人、声の主の方向に視線を移すと、師匠だった。
「師匠!」
俺の言葉に、その場にいた全員の視線が師匠に突き刺さる。
「お主こそ、誰じゃ?」
「僕は、アルフォード。偉大なる大魔法使い、アルフォードだ。君こそ、私の弟子に乱暴を働く君は、一体誰だい?」
「儂は、アルネイ王国筆頭魔法士、クエン・グランネル子爵じゃ…。アル…フォードじゃと?まさか、あの?」
「どのアルフォードか知らないが、私がアルフォードだ。」
「いや…、しかし…。貴方は、いや、貴方様は、まさか人魔大戦の英雄、アルフォード様ですか?」
「ん?そうだが…、僕を知っているのかい?」
「それはもう、英雄ですからな。それにしても、伝承の通りだった。」
流石は、師匠。一万年も経っているのに、こんなにも有名だなんてすごいな。それにしても、伝承って何だ?聞いた事がないぞ…。
「伝承?」
「はい。アルフォード様。伝承では、アルフォード様が亡くなられる前に、お使いになられた秘術。その秘術は、魔神ステイグマが復活する時の事を考えて、後世に転生、或いは転移したと伝えられています。…もしや、魔神が復活されたのですか?」
魔神が復活するだと!?師匠が、倒したんじゃないのか?どう言う事だ?
「いや、そうじゃない…。僕は、弟子が欲しかった。だから、秘術を使い…、僕の弟子に相応しい者を見つける為に、秘術を使っただけだ。」
「相応しい弟子とは、ヴェルナルド君の事ですかな?」
「そうだ。しかし…、ステイグマが復活するか…。これは、不穏な事が起きているのかもしれないな。」
「やはり、復活するのでしょうか?」
「…ステイグマは倒した。しかし、その存在までは、消す事ができなかった。だから、僕は封印を施した。封印は完璧に行ったよ。もし、その封印が解かれる事があるとするならば、何者かの手によってだろうね…。」
「…もし、よろしければ、詳しいお話をお聞かせ願いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「いいだろう。」
「では、こちらへ。」
子爵は、そう言うと師匠を家へと誘う。それに、続いてセドリック、マリア、クーリエも続こうとする。
「あの…、子爵様。」
「ん?何じゃ、ヴェルナルド君。」
「僕は、どうすれば?」
「ああ、そうだったね。少し、大事な話をせねばならんから、そこにいる儂の孫娘であるカナリエの相手をしていてくれぬか?」
「はい。わかりました。子爵様。」
俺とカナリエを残して、家へと消えて行った。
さて、どうしよう…。相手を頼むと言われても、どう接したらいいのか分からない…。
「あっ、あの…、ヴェル君?」
どうすればいいのか、困惑している俺にカナリエが喋り掛けてきた。
「ヴェ、ヴェル君!?」
敬称に驚いた俺は、つい聞き返してしまった。
「あっ、ごめん。嫌だった?」
そんな俺の反応に、気遣いながらも質問してくるカナリエ。
「そっ、そんな事はないよ。こんな可愛い子に、ヴェル君って呼ばれて嫌な筈がないよ。」
「かっ、可愛いだなんて…。」
俯きながら、もじもじし始めるカナリエ。
う~ん、可愛い。こんな子と友達になれたらいいな。
「カナリエさん、何かしたい事ある?」
「…カナ…。」
「え?」
「カナって呼んでほしい。いつも、そう呼ばれてるから…。」
こんな美少女を呼び捨て…、しかも、カナって呼んでいいの?
懇願するかのように、もじもじしながら『チラッ、チラッ』と視線を合わせてくるカナリエ。
やべえ…、堪らなく可愛い。抱きしめたくなっちゃうよ。でも、いきなり抱きしめたりなんかしちゃったら、嫌われちゃうな。ここは、我慢だ。
「うん、わかった。カナちゃん。」
「えへへ。」
カナちゃんと呼ばれて、嬉しそうに笑う彼女を見て、ほっこりとした気分になった。
美少女の笑顔はええのう…。はっ!何か、今おじさん臭くなっちゃった!?何でだ!?
「ヴェル君?」
「はっ、はひ!?」
やばい…、変な事考えてたら、声が裏返っちゃったよ。変に思われてないかな?
「ふふっ。変な声出しちゃって、どうしたの?」
変に思われた!うぅ…、俺の馬鹿…。
「なっ、何でもないよ。それで、何かしたい事ってある?」
「…うん。」
どうしたんだろ?急にテンション落ちちゃったな。
「魔法を教えてほしい。」
「え?」
思わず、聞き返しちゃったよ。今、何て言った?魔法を教えてほしい?カナが俺に?筆頭魔法士の孫娘のカナが俺に?聞き間違いか?
「僕に、魔法を教えてほしいの…。」
聞き間違いじゃなかったようだ。いや、問題はそこじゃない…。僕っ子だ!僕っ子、来ました!美少女の僕っ子…、何かええわい…。…はっ、またおじさん臭くなってる!?
「ヴェル君?」
「ああ、ごめん。急に何で?どうしたの?」
危ない…。また、変な事考えてたよ。
「…うん。僕ね、魔法が使えないんだ。筆頭魔法士の孫娘が魔法を使えないって変だよね…。」
魔法が使えないのか。
「そんな事はないよ。まだ、魔力を上手く扱えないだけじゃないの?その内、魔法を使えるようになるんじゃないかな?」
「ううん。そんな事ないよ。魔法を使える人は少ないの。基礎魔法とかなら扱えるかもだけど、それは、魔法使いとは言えない。僕は、筆頭魔法使いの孫なのに、魔法が使えない。でも、どうしてもお爺様のように魔法使いになりたいの。だから、お願い。魔法を教えてほしいの。」
「いや、それはいいんだけど…。僕なんかよりも、子爵様に教わった方がいいんじゃないかな?」
「そんな事ない!ヴェル君は、すごい魔法使いだよ!さっきの魔法もすごかったし…、それに、試した事があるんだ。お爺様に、魔法を教えて貰おうとしたけど、無理だったの。その時、お爺様は笑ってまだ早かったかな?って言ったけど、残念そうな顔をしたのを見逃さなかったの。期待を、裏切っちゃったの…。」
そう言って、カナは言葉を止めた。
そうか…、筆頭魔法士の孫であるが故、期待を一身に受けて育ってきたのだろう。だから、魔法が使えない事が、期待への裏切りなのだろう。カナも苦労をしているのだな。
「僕は、お爺様が好き。だから、嫌われたくない。だから、教えてほしいの。ヴェル君みたいに、すごい魔法が使えたら、きっと…、きっと…。」
「わかったよ。カナちゃん。いや、カナ…。僕が魔法を教えてあげる。絶対に魔法使いにしてみせるよ。」
カナの言葉を最後まで聞かずに、俺は答えた。
最後まで聞くのに、耐えかねたからだ。筆頭魔法士の孫なのに、魔法が使えないというプレッシャーとコンプレックス。その苦悩は、その幼い体には酷過ぎると言うものだ。だから、全力で力になろうと決めたのだ。
「本当っ!?」
「ああ、絶対だ。」
「ありがとう。ヴェル君。」
話が決まれば、即行動だ。先ずは、何故、魔法が使えないのか、原因を探ってみようと思う。