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80    計画する

 店の人材を確保する目的で商業ギルドに向かった。

 商業ギルドの受付にいるゴリラさ…コホン、ゴリーノさんにユリエールさんとの面会を申し込んだ。


「お掛け下さい」

「ありがとうございます」

「それにしても、大成功だったそうじゃないですか?」

「ええ、お蔭様でね…」


 そう言いながら、部屋の中にある1枚のポスターを眺めていた。

 ポスターには、『最高級のスィーツ店 ヴェリュード開店!最高級スィーツが庶民的価格で味わえる噂の店!貴方の愛が孤児院を救う!』と書かれていた…。

 突っ込みたいところがある…。ヴェリュードって何だ?店の名前か?名前なんて付けてなかった気がするが…。


「ユリエールさん…」

「はい?」

「ヴェリュードって…」

「ああ、手続きの書類を確認していたら、店の名前が書かれていなかったので孤児院に問い合わせえをしたところ、院長先生がお決めになられました」


 …まあ、いい…。手続きの書類を書いている時は、ユリエールさんに迫られた後だったから、動揺してて見落としたんだろう。

 それにしても…このポスターが商業ギルド内の至る所に貼られているのだ。だから、あんなにお客さんが来たんだな。


「ヴェル様?」

「いえ、何でもありません…。話と言うのは他でもありません。腕のいい料理人5人と、接客ができる人を5人ほど雇いたいのです」

「畏まりました」

「明日の店の開店までに間に合う人で…」

「え?明日ですか?」

「明日です…」

「それは、ちょっと急すぎますね…」


 やっぱり、無理かな?今は夕方、明日の店を開くまでに人を用意する時間が少ないのかもしれないな。


「何とかなりませんか?」

「…条件があります…」

「何でしょうか?」

「商業ギルドにも店のスィーツを降ろして欲しいのです。勿論、利益をお支払いします」

「それじゃ、商業ギルドには利益がないんじゃ?」

「いえ、少し価格を上乗せして王都以外で売りに出しますので大丈夫ですよ」


 少しぐらいの金額なら上乗せしても売れるだろう。何たって、味が最高にいいし、今までにないスィーツだからね。


「それは、いいんですけど…。材料と人手が足りませんね…。今日一日で材料が底を尽きました…。今は明日分の材料を確保するのに必死な状態なので…」

「では、人手と材料はこちらで用意しますので人件費と材料費だけお支払いをして頂ければ…」

「そうですね…。分かりました…ただ、こちら側にも条件があります」

「何でしょうか?」

「レシピは絶対に口外しない事が条件です」


 これは絶対に守ってくれないと困る。このレシピは前世の記憶とルチルさんとの試行錯誤を経て完成したレシピなのだから、そう簡単に漏らす訳にはいかない。


「勿論です。レシピは商業ギルドが責任を持って口外させません。それに、商人は信用が第一ですから」

「なら、それで構いません…いや、待てよ…」

「どうされました?」

「ちょっと、待ってください…」


 ユリエールさんを制して考える事にした。

 こちらは人手が足りない。材料も足りない。人手と材料は商業ギルドが手配してくれることになった。

 しかし、外部から人手を入れるとなるとレシピが口外される危険がある。でもそれは、商業ギルドが責任を持って口外しない事にしてくれる。

 じゃ、安心して任せられるな。そして、商業ギルドは王都以外で販売したいと言っている。でも、料理人を5人程度雇ったところで数が限られるな。

 もっと、人手がいる。それも一気に大量に作れるほどにだ。

 …。

 工場でも作るか…。それなら、大量に作れて王都以外でも売りに出せるし、利益ももっと出る。いいかもしれないな。


「ユリエールさん…」

「何でしょうか?」

「土地を売って下さい…。それも広大な土地を…」

「え?どうされるんですか?」

「…工場を造るんですよ…。スィーツ専門の工場をね…」

「っ!そこで大量に作って流通させると?」


 ユリエールさんはびっくりしていた。

 それもその筈だ。俺が計画したのは壮大な計画なのだから。

 工場で大量に作ればその分、利益が出る。しかし、工場で大量に作ると言う事は、人手、材料が大量に必要になる。

 人手は雇って教育すればそれでいい。ただ、問題は材料だ。これも、シロクロモウとトサカ鳥を大量に仕入れて飼育すれば手に入る。これにも人件費が掛かるが、大量に材料を仕入れる事ができれば、安くなる。

 次に、材料や商品を運ぶ馬車やら、人手がいるがこれも用意すれば済む事だ。何よりも雇用が増えて、王都の経済事情が活性化するだろう。

 一番の問題は土地なのだ。土地の問題さえ解決すれば実行できる。


「そうです。これなら王都以外でも大量に販売できる」

「それは、いい考えですね…。でも広大な土地となると…スラム街になりますね…」

「スラム街か…治安の問題でも?」

「いえ、土地はギルドが管理しているんですが、スラム街はスラム街の長老に話をしなければいけませんので…許可が下りるかどうか…」

「ふむ…じゃ、長老に話を通しましょうかね」

「そう…ですね…」

「では、紹介してもらえますか?」

「…畏まりました」


 ユリエールさんに連れられてスラム街の長老のところにやってきた。


「ここがそうですか?」

「そうです」


 長老が住んでいると聞く建物は木造建築の薄汚れた建物だった。一見、人が住んでいるのか疑いたくなるところだった。


「「失礼します」」


 入口の扉にノックして中に入ると、白髪頭のやさぐれた老人がいた。


「誰かな?」

「お久しぶりです。商業ギルドのギルドマスターのユリエールです」

「俺はヴェルナルド・フォン・グナイストです」

「ふんっ…金にがめつい女と王国の犬か…」


 正直、イラっとした。誰が王国の犬だ!コラッ!舐めるのも大概にしとけよ。


「それで?何の用じゃ?」

「はい。こちらにおられるヴェルナルド男爵が、スラム街の土地を買われたいと仰っておりますのでお連れしました」

「ほう?スラム街の土地をか?」

「そうです。是非、売って下さい」

「買ってどうするんじゃ?」

「工場を建てます」

「何の為に?」

「孤児達の為です」

「孤児達の為に?ふざけるな!儂達も食うに困るぐらいじゃ、人の面倒まで見るぐらいならスラム街の為に土地を使うわい」


 この野郎…。頭にきたぞ…。


「で、長老はスラム街の為に土地をどうすると言うんです?是非、聞かせてもらいたいですね」

「お前に関係ない事じゃ」

「関係ない事はないですね」

「何故じゃ?貴族様には関係ない事じゃ」

「いいえ、あります!」

「じゃ、言ってみろ?納得のいく理由をな」


 いいだろう…。その喧嘩買ったぞ。


「ユイ!中に入れ」

「ん」

「何じゃ?そこ子は?」

「この子は俺の妹です」

「だから、何の関係がある?」

「この子はスラム街を彷徨っていた孤児でした」

「っ!」


 長老は貴族の服を着たユイを信じられんとばかりに目を見開いた。


「この子はその日の食糧も無く、盗みを働いて捕まり、奴隷に落とされたスラム街の孤児でした」

「…」

「この子を俺が買い取って今日まで妹として育てて来ました。こんな小さな子供が食うに困って彷徨っているのに、貴方は何をしているんですか!?」

「っ!」


 ちょっと怒りが込み上げて来たので怒鳴りつけてしまった。俺の怒りが長老に伝わったのか身をすくめているようだった。


「スラム街の為に土地を使う!?聞いて呆れるな!何もできずに飲んだくれててる阿呆に何ができるって言うんだ!言ってみろ!?」

「…儂が…悪かった…」

「悪かったじゃ納得できません!」

「…土地を好きに使ってくれ…」

「使ってくれじゃないだろうが!使って下さいじゃないのか?」

「…」

「まあ、ヴェルナルド男爵…落ち着いて下さい」


 怒りに我を忘れて問い詰めている俺にユリエールさんが制した。

 正直、ユリエールさんに止められなければ、殴っていたかもしれない。頭を冷やそうと思う。


「…すみません…」

「長老…急にどうなされたのですか?いつもなら何を言われても頑として追い返すのに…」

「…その子じゃ…」

「ユイちゃんがどうしました?」

「…その子は儂の娘によく似ている…」


 何ですと?娘だと!?この子はスラム街で産まれた子だ。ひょっとして…お爺ちゃん?ユイのお爺ちゃんなのか?


「娘だと!?」

「ああ、変な男に口説かれて迷惑しとったんじゃが、ある日、娘がその男と結婚すると言いだしてな…。反対したら出て行きおった」

「「「…」」」


 長老の話を無言で聞いていた。そして、長老も話を続けた。


「それから、子を産んだと風の噂で聞いてこっそり見に行ったんじゃ…。じゃが、娘は既に死んでいた。男も産んだ子も行方不明…手を尽くして探したが見つからなかった」

「長老…それって…こんな男じゃなかったでした?」


 魔法を発動してあの男の姿を投影した。あの魔族の男だ。


「おお!そいつじゃ!娘を奪って行きおった男じゃ!」


 正直、びっくりだった。やっぱりお爺ちゃんだったのか…この人。ユイの家族が…祖父がこの人だったとは…。


「…この男は…ユイのお父さんです」

「っ!何じゃと!?それでは…この子が…娘の…フローラの娘か…」


 長老は目を見開きユイを見つめていた。すると大粒の涙を流し始めた。


「もっと、よく顔を見せておくれ…」

「ユイ。長老に顔をよく見せてあげてくれ…」

「ん」

「おお…ユイと言うのか…」

「ん。お爺ちゃん?」

「そうじゃ、お前のお爺ちゃんだ。こんなに立派に育ってくれて…」


 長老は我慢できなくなったのかユイを抱きしめた。力なく弱弱しかったが、それでも力一杯に抱きしめたようだった。

 何て言うか、家族の対面って言うのは目頭が熱くなるよね。


「痛い…」

「おお、すまんかった…」

「いい」

「ヴェルナルド男爵…孫を救ってくれて感謝する」

「いえ、俺の妹だと思って育てて来ました」

「ありがとう…ありがとう…」

「ヴェル様、感動しました。さすがは英雄ヴェルナルド様です」


 ユリエールさんも泣いていた。ハンカチで涙を拭って感動していたのだ。


「ヴェルナルド男爵、スラム街にある土地は好きに使ってくれて構わない」

「長老?よろしいんですか?」

「ああ、孫を救ってくれた恩人じゃ。恩人の頼みとあれば断れん事じゃて…」

「ありがとうございます。これでスラム街の雇用問題も解決します」

「何?雇用問題じゃと?」

「はい。元々スラム街に工場を建てる事だったので、スラム街に住む人を雇ってユイのように食うに困って盗みを働く人を減らそうと思ったので…」

「おお!貴方は、何と言う人じゃ…。そこまでスラム街の事を考えてくれた人は初めてじゃ…。是非、協力させて下さい。」

「ありがとうございます。では、工場を造ったら長老を工場長にしてスラム街の人達を雇ってもらいますね。」

「儂が、工場長にじゃと?」

「ええ、長老はスラム街で人望があるから取りまとめ役なのでしょう?」

「そうじゃのう」

「だからですよ。長老が間に入る事でスラム街に住む人達に安心して働いてもらおうと思うので…」

「分かりました。任せて下さい」

「ええ、お願いします」


 こうして、長老とスラム街の事で許可を取ったので工場建設予定地に向かおうと思う。


「長老、どの辺りが一番いいですかね?」

「そうじゃのう…。人を大量に雇う事と商品の運搬を考えると北門付近が一番いいと思う」

「では、そうしましょう。ユリエールさん、ここら辺の土地3500m四方お願いします」

「え?そんなにですか?」


 当たり前だ…。動物の飼育小屋もあるんだからでかくないと無理でしょ?それに、いくら商業ギルドが材料を用意してくれるって言ってもお金かかるでしょ?

 そしたら、商品の値段も高くなるじゃないか…。


「そうです」

「畏まりました。えっと…大体10億ジュールになりますが、よろしいですか?」

「ユリエールさん…孤児達の為とスラム街に住む人達の為ですよ?もう少し安くなりませんか?」


 早速、値切り交渉を開始した。長老もジト目でユリエールさんを威圧している。しかも、ユイの手を握ってだ。

 孫との再会を果たした長老はユイを手放したくはなかったのかもしれない。でも、返さないよ?ユイは俺の妹でもあるんだから、ちゃんと返してよね?

 話を戻そう…。

 ここで断れば、二度とスラム街は商業ギルドに従わないぞと顔に書いてあった。大人の駆け引きって怖いと思う。


「…畏まりました…。7億ジュールでなんとかお願いします。いくらスラム街の土地が安いと言っても、これ以上はさすがに無理です」

「分かりました。7億ジュールで買い取ります」

「助かります…」


 いや、助かったのはこちらの方だ。長老もありがとう。すごい威圧感だった。

 でも、ユイは返してよね?返さなかったら、怒るよ?まじで…。

 とりあえず、工場建設予定地は決まった。後で工場を建てようと思う。

 後回しになってしまったが、目先の問題を解決しようと思う。


「じゃ、工場の建設予定地はこれで決まったので、とりあえず、孤児院の店の料理人5名、接客できる人5人お願いいしますね」

「え?…はい…畏まりました」


 …お前、忘れてたな?ちょっと、頼みますよユリエールさん。そっちが本題だったんだから…。

 善は急げとばかりにユリエールさんは俺達を連れて商業ギルドに向かった。商業ギルドに到着後、ギルマスの執務室で待たされることになった。ユリエールさんは人の手配と土地の権利書作成に荒立たしく出て行った。


「ところで、ヴェルナルド男爵様…」

「…何ですか?長老」

「ユイを引き取りたいんですが?」


 やっぱり、その話か!ユイの祖父だものね、ずっと離れ離れになってたし仕方ないか。

 でも、ユイを手放したくないのは事実だ。なので、ここはユイに選ばせようと思う。


「それは、ユイに選んでもらう事にしましょう」

「そう…ですな…」

「ユイ?」

「ん?」

「長老はユイのお爺ちゃんだ。ユイと一緒に暮らしたいと言ってるけど、どうする?勿論、俺は一緒に住む事はできない。お爺ちゃんを選ぶか俺を選ぶか決めてほしい」

「…」

「ユイちゃん…。お爺ちゃんと一緒に済まないか?今までの生活はできないかもしれないが、本当の家族に出会ったんじゃ…一緒に暮らしたいと思っておるんじゃ」

「…」


 どっちだ!?ユイの答えはどっちなんだ!?お兄ちゃん、はらはらしちゃうよ…。


「お兄ちゃんがいい」


 よっし!さすがは俺の妹だ!後で一緒にお風呂入って一緒に寝ようね。


「…そう…か…」

「…」

「ヴェルナルド男爵…孫を…よろしく頼みます」

「ええ、分かりました。ユイを一人前の貴族として、一人前の魔法使いとして育てます」

「え?魔法使いですか?」

「そうです。ユイは上級まで扱える魔法使いですよ?俺が、教え込みました」

「それはすごい!天才じゃな、ユイちゃんは…」

「ユイ、えらい?」

「おお、偉いぞ!」


 孫をべた褒めの長老だった。

 その気持ちは分かる…。俺も自慢に思ってるからね。ただ…長老がモンシア伯爵とグランネル子爵と重なって見える。

 いずれ…お見合い話でも持ってくるんじゃないかとひやひやしちゃう。全力で断るけどね!ユイは誰にも渡しません!

 こう言う会話を繰り返しつつ、ユリエールさんを待った。

 全ての手配を済ませたユリエールさんと長老とで土地の購入手続きを済ませて帰る事になった。明日からも、しばらくは忙しくなるなと溜息を吐きつつ、ユイと王宮に帰った。






 その日、ユイと一緒にお風呂に入り、一緒のベッドで眠ったのは言うまでもない。目一杯、愛らしく愛でたのだ。YESロリータ!NOタッチ!

 …俺は、決してロリコンじゃないよ?唯は妹だから…と誰に言い訳しているのか分からないが、念の為に自分の心に言っておいた…。

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