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75    招待状

 シルヴィ、エマ、カナに店に出す予定の商品のお披露目会に招待する為、魔法学校に来た。

 魔法学校に入ると、どこからか生徒達の声が聞こえた。


「キャー、英雄のヴェルナルド様よ!」

「本当だ。今日は学校に来られたのね。」

「サインもらっちゃおうかしら?」


 黄色い声がした。…何でよ?俺ってそんなに人気があったっけ?


「鬼のヴェルナルドが来たぞ!」

「え?鮮血の?」

「好色王…」


 お前等、燃やすぞ…。ちょっと世の中の厳しさ教えてやろうか?


「「「ヴェル様「君」!」」」

「うげっ!」


 突如、体に衝撃が走った。シルヴィ、エマ、カナに抱き付かれてしまった。

 嬉しいけど…ちょっと、人目がね…、気になるのよ…。


「シルヴィ、エマ、カナ…ちょっと苦しいから…。それに人目が気になるから…」


 周りの男共の視線を見て見ろって、殺気と敵意に満ち溢れているよ…。


「ごめんなさい…。ヴェル様…」

「私とした事が…、申し訳ありませんわ」

「ごめんね、ヴェル君」

「いや、いいんだけど…どうしたの?」

「どうしたもこうしたもありません。ようやくお会いできましたね」

「孤児院の為に忙しそうでしたので、会いに行くのに躊躇いがあったもので…」

「うんうん」


 どうやら、寂しかったようだ。


「ごめんごめん…忙しくてなかなか会いに行けなくて…」

「いいですよ。ヴェル様はお優しい方だから孤児達の為にがんばっていたんでしょう?」

「がんばっている殿方を見ると、邪魔をしたくはありませんわ」

「ヴェル様、がんばってるもんね」

「ありがとう」


 シルヴィ達の言葉が何よりも癒されるな。がんばってきた甲斐があると言うものだ。


「それで、今日はどうされました?」

「ああ、シルヴィ、エマ、カナに招待状を持ってきた」

「招待状?ですの?」

「何の?」

「孤児院の為に店を出す事になったんだ。明日、店のメニューを孤児達にお披露目するんだけど、試食にこない?」

「いいんですか?」

「勿論、俺の苦労の結晶を味わってもらいたくてね」


 ここまで来るのに、本当に長かったよ。特にシロクロモウとトサカ鳥の捕獲に日数が掛かっていたからね。


「楽しみにしていますね」

「是非、伺わせて頂きますわ」

「絶対に行くね」

「おう、ありがとう。ちょっと他にもお世話になっている人に招待状を渡したいから今日はこれで帰るね」

「もう、行かれるんですか?」

「寂しいですわね…」

「ヴェル君の意地悪…」

「ごめんよ。でも明日は楽しみにしといて」

「「「はい」」」


 シルヴィ達に招待状を渡して別れた後、向かう先は王宮だ。王宮にある軍の執務室だ。

 軍の執務室の扉の前にいる兵士に、モンシア伯爵との面会を申し込んだ。ついついお尻に視線が向いてしまう秘書に連れられてモンシア伯爵の執務室に入る。


「ようこそ、婿殿」

「お久しぶりです、モンシア伯爵」

「婿殿、お手柄でしたな」


 ん?何かやったっけ?…ああ、フロスト商会の事か。忙しかったから忘れてたよ。…何か言わなきゃいけない事もあったような気がするが…何だっけ?


「フロスト商会の事ですか?」

「そうです。フロスト商会の悪事を暴き、囚われていた子供や女性を救い出した功績は国王陛下もお褒めでしたぞ」

「そう…ですか…」

「時に婿殿…。一つ尋ねたい事があるが、よろしいか?」

「…何でしょうか?」

「実はフロスト商会にあったと思われる魔石について、何か心当たりはありませんか?」


 ギクッ!やばい…勝手に持ち出したのバレてるのかな?


「いっ、いえ…ナニモシリマセンヨ?ホントダヨ?」

「…」


 すげぇ、ジト目だ…。モンシア伯爵の眼力…っぱねぇっスよ…。


「ごめんなさい。勝手に持って行きました…」

「やはり…」


 やっぱり疑ってたのね…。


「いや、別に咎めている訳ではないのじゃよ」

「じゃ、どうして?」

「フロスト商会にある物は、全て没収したのじゃが、魔石だけはどうも見つけられなくてな。それで行方を追っていたのじゃ」


 お手数をお掛けしてます。ご迷惑をお掛けしてすみません。


「…すみません…」

「それで、魔石はどこに?」

「あれは…その…孤児院の為に作った店に使いました…」

「孤児院の為に?」

「今回のフロスト商会の事件は、孤児院が貰える筈の助成金が内乱で貰えなかった事から始まります。孤児院はお金の工面に苦労してようやくお金を借りたのですが…」

「それがフロスト商会と言う事じゃな?」

「そうです。それで、今まで通りにしていては、また助成金が貰えなかったら同じ事の繰り返しになってしまうので孤児院が独自に稼げるように店を作りました」

「それに魔石を使ったと?」


 返せと言われたらどうしよう。今更、使った物を返せと言われても返せる筈がない。


「…はい…」

「ふむ…。では、今回のフロスト商会の悪事を暴いて攫われた者達を救った褒美として魔石は婿殿の物にしましょう」

「いいんですか?」

「孤児院の為に使うとあれば、咎める言われはありません。元々は助成金を払わなかった国が悪い事になりますからな…」

「ありがとうございます」


 よかった…。許してもらえたよ。今度からは気を付けよう…。


「それで、今日は何用かな?」

「孤児院の為に作った店の試作メニューが出来上がったので、そのお披露目に日頃からお世話になっているモンシア伯爵、グランネル子爵、クリューガー子爵、クゼル将軍、フロスト商会で協力してもらった警備隊隊長のミゲルさんを招待しようと招待状を持ってきました」

「おお、そうですか。婿殿が孤児院の為に作られた店の料理ですか、楽しみですな。必ず、出向かせて頂きますぞ」

「ありがとうございます」

「他の者達には私から招待状を渡しておきましょう」

「よろしくお願いします」


 モンシア伯爵に招待状の束を渡して、部屋を出た。

 次に向かう所は、商業ギルドだ。

 人の出入りが激しいギルドの入口近くにある受付にいるゴリラ似の男、ゴリーノさんにユリエールさんとの面会を申し込んで執務室に通された。


「ヴェル様、ようこそおいで下さいました」

「いえ、ユリエールさんとゴリーノさんに用がありましたので…」

「私もですか?」


 ゴリ…『ゴホン』、ゴリーノさんは不思議そうに答えた。そうだよ…あんたがいなければ俺の身が危なそうだし…。


「そうです。今度、孤児院の為に店を出す事になったんですが、明日、試作メニューのお披露目会を孤児院で行うのでお二人にも食べて頂きたくて招待状を持ってきました」

「それは光栄です」

「ありがとう御座います」

「それで、ユリエールさんとゴリーノさんには食べてもらった感想を商業ギルドで宣伝もしてもらいたいとお願いに来ました」

「それは、構いませんが…商業ギルドで宣伝となると厳しく評価しますよ?」

「それで構いません。ですが…時代を変える味になりますよ?」

「え?そんなに凄いんですか?」

「はい。アレク…アレックス王太子殿下曰く、王宮料理長に勝るとも劣らないほどの腕を持った人が調理をして監督していますからね」

「それは凄いですね。明日が楽しみになって来ました」

「私も、光栄に思います」

「では、お願いしますね」


 そう言い残して、立ち去ろうとしたらユリエールに呼び止められてしまった。


「お待ちください」

「何ですか?」

「孤児院の為に店を構えるとなると商業ギルドに届出をしないといけません」

「そうなんですか?」

「はい。個人で商会に商品を持ち込むのは構いませんが、店を出すのにはギルドに届出をしてもらわないと許可を出せないのです」

「分かりました。では、手続きをお願いします」

「畏まりました。ゴリーノ…手続きをゆっくり・・・・お願いね」


 え?ゆっくり?ユリエールさんと二人っきり?それは不味い。また、何か誘惑されそうなんだけど…。


「…畏まりました…」


 畏まらないで…。お願いだから、早くして下さい。


「ゴリーノさん、他にも行くところがあるので早くお願いします…」

「…畏まりました…」


 あとで、バナナあげるから本当に早くしてね…。

 ゴリーノが部屋から出て行った後、部屋に沈黙が訪れた。

 正直…居心地が悪い…。


「それにしても…今日も暑いですわね…」


 またか!?また、胸元をはだけさせるのか?そして、また俺の視線はそこ・・に注がれるのか!?

 仕方ないよね…男の子だもの…。

 おもむろに立ち上がって俺の膝の上・・・に腰を降ろすユリエールさん。

 ちょっ、何故そこに!?しかも、向かい合って座っている為、ユリエールさんのはだけた豊満な胸が目の前に…。


「エレウル山脈…」


 しまった!声が漏れちゃった。


「何か仰って?」


 ユリエールは俺の言葉に妖艶な笑みを浮かべていた。

 こいつ…わざとしているな!?ここは一体、どこのパブなんだ!?是非、これからも通いたい…っじゃない!

 この豊満な胸が悪いのだ!けしからん!実に…けしからん…。吸い込まれそうだ…。


「ヴェル様、またお会いしたいと思っておりましたわ…」

「そう…ですか…」

「ヴェル様は、私と会いたくはないのですか?」

「いえ、別に…そう言う訳では…」


 何故・・かずっとユリエールさんの胸に喋りかけている。このエレウル山脈・・・・・・がユリエールさんじゃないかと思えてきた。


「ヴェル様、では商業ギルドに登録した後の事を説明させて頂きますね」

「…はい…」


 説明するのはいいけど、普通に座ってやってくれない?それも対面に座ってね。いや…対面には座ってはいるけど、ちょっと場所が違うんじゃないかな?もうちょっと考えて欲しいと思う。


「登録された店の売り上げには税金が掛かります」

「…はい…」

「その税金は商業ギルドが受け取る事になっています」

「…はい…」

「支払われた税金は手数料を除いて、商業ギルドが責任を持って国に支払いをさせて頂きます」

「…はい…」

「年間を通して支払われた税金の合計で商業ギルドランクが上がっていきます」

「…はい…」

「ランクが上がれば、各国の商業ギルドでも優遇されますのでがんばって下さい」

「…はい…」

「次に、ギルドカードにはお金を振り込む事もできます。振り込まれたお金は商業ギルドでも冒険者ギルドでも下ろす事が可能です」

「…はい…」

「通常は運営資金をギルドカードにいれてそこから税金が差し引かれますが、ヴェル様は孤児院の為の店をお作りになられたので、孤児院の責任者の方を登録してもらう事になりますので連れて来て頂けますか?」

「…はい…」

「お待たせいた…」


 ゴリーノ遅いよ!もっと早く来いよ!

 ゴリーノは唖然としていた。それもその筈…ユリエールは胸をはだけさせ、俺の膝の上に対面で座りながら左手は俺の頭を支えるようにして手を添え、右手は頭を撫でているのだから…。

 この状態でずっと説明されていたのだ。そして目の前には標高の高いエレウル山脈。話が頭の中に入らない状態だったのだ。


「残念…時間切れですわね…」


 そのタイマーもっと早く切れないの!?ゴリーノが来ないと終わらないのかな…。

 ゴリーノ…後でバナナを贈るね。ユリエールは時間切れと共にソファーに座りなおした。

 今度は本当・・に対面で座っている。

 ユリエールはゴリーノから手続きの書類を受け取ると俺の前に差し出してきた。必要事項を書き込んだ後、そそくさとして退室したのだった。

 勿論、立ち去る前にゴリーノにバナナを箱詰めで渡しておいた。

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