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74    人を雇う

 シロクロモウとトサカ鳥の飼育を始めて一週間が経過した。

 この一週間でエイラさんにシロクロモウとトサカ鳥の飼育の仕方を教え込み、今ではエイラさんを中心に、他の先生方や孤児達と一緒になって飼育している。

 俺の言葉を信じて、孤児院の為にがんばってくれているようだ。孤児達ががんばってくれているので俺も、次の段階に入るとしよう。

 孤児院の目の前の土地に土魔法で石造りの店を建設した。ショッピングモールのフードコートをイメージして作った大きい店。

 お客さんの収容数は100人ほど入る大きさの店だ。広いフロアに規則正しく並べられたテーブル、椅子…そして店内の彩りを飾る為の花を用意した。

 店内の奥にはカウンターを用意して、ここで注文を取るようにした。セルフサービスでの注文支払方式で運営しようと思う。

 孤児達も働いてもらう事を考えれば、食器の片付けはお客さんにさせて、孤児達は注文した物をお客さんに手渡す役目を与える事にした。

 お会計はエイラさんや他の先生方にさせようと思う。

 店を作ってから気付いた事なのだが、シロクロモウの乳、トサカ鳥の卵をどうやって保存するかが問題だった。

 この世界には電気がないので冷蔵庫がない。しかし、それも魔法で解決する事ができた。

 魔石を動力とした冷蔵設備を俺が工夫して作り上げたのだ。魔石には、1日1回、魔力を充電しておけば、1日分の冷蔵ができる力を発揮してくれるので冷蔵設備の問題は解決した。

 次に、店内のカウンターの奥には広い調理場、作った商品を冷蔵するショウケース、材料を保存する大きい冷蔵庫を設置した。

 続いて、エイラさんの協力の元、孤児達に接客の仕方やお客の質問に答えられるように質疑応答の練習をしてもらった。まだ、商品がないので詳しい説明はできないが、近い内に商品を食べてもらって感想を聞こうと思う。

 次に俺が行う事は商品開発だ。

 まずは、王都の東側にある商業区で小麦粉、砂糖、塩、フルーツを大量に購入し、孤児院で飼育したシロクロモウの乳とトサカ鳥の卵を持って王宮に戻った。そして、王宮で料理が得意なある人物に協力を要請する事にした。

 ルチルさんだ。

 以前、ユイの誕生日会で手料理を作ってもらった事があったが、その時の料理の味はアレク曰く、王宮の料理長より優れているんじゃないかと絶賛するほどだった。これ以上、料理の上手い人を俺は知らないので、素直にルチルさんにお願いをしたのだ。

 ルチルさんは俺の力になれるのならと、快く承諾して協力を申し出てくれた。

 俺の部屋に魔法で作り上げた簡易調理場で、作りながら説明したケーキを味見してもらって、それから品評会。その後、ルチルさんならどうやって作るかの意見交換をして試行錯誤の末にできた試作ケーキ…。

 味見をしたら、まさに絶品だった。これなら間違いなく売り物になると確信できるほどの味だった。そして、他にもいくつかのメニューを作り、完成させた。

 ルチルさんは料理の腕がよく、センスもいい…。だから、他のメニューも試してもらったら、すぐに絶品料理ができたのだ。

 ソフトクリーム、苺タルト、クリームブリュレ、ヨーグルト、ワッフル、マフィン、プリン、ミルクセーキ…。これだけ作れば、店を開けるほどのメニューは用意できた。

 最近、ユイが寂しいのか、俺から離れない事が多かったので、ここでご褒美として味見をさせた。俺とルチルさんだけでは試作品を消費できないのもあったし…。

 ユイは満面の笑みで『美味しい』と連呼して試作品を次々と胃の中に押し込んでいった。あれだけ食べて太らないか心配になっちゃう。

 可愛いユイが太ったらやだなと思ったので、後で一緒にジョギングでもしようと思う。

 …作っている途中で思った事がある…これってスィーツか?何か方向性がずれて来ているような気がするけど、気にしないでおく事にした。

 気にしたら負けだからだ…。

 レシピはできた。店も用意した。エイラさんや他の先生方、孤児達にシロクロモウとトサカ鳥の飼育方法と接客の仕方も教え込んだ。

 あと、用意しなければいけない事は…商品を管理する人、売り上げや運営資金を管理する人、そして調理をする人だ。そう…人材だ…。

 正直、商人の経験がある信用できる人が知り合いにいないのだ。

 どうしようか悩んでいると、アレクが訪ねてきた。


「ヴェル…どうしたんだ?険しい顔をして…」

「いや、ちょっと悩みがあってね」

「ヴェルが悩むなんて珍しいな。何を悩んでいるんだ?」


 失礼な!人を悩みがない、いつも遊んでいる人みたいに言わないで…。…あれ?俺って本業なんだっけ?学生だったな。でも、ぷらぷら遊んでないよ?今もこうして、孤児院の為に考えてるよ?

 まあ…いい…考えない事にしておこう…。


「いやね、孤児院が独自に稼げるようにさ、いろいろ考えて動いてたじゃん?」

「いつも、忙しそうにしてたね」

「うん。シロクロモウとトサカ鳥を捕獲して飼育できるようにした。店を作ってエイラさんや孤児達にも接客の仕方も教えた。店のメニューも考えた。でも…」

「…でも?」

「商品を管理する人、運営資金を管理する人、調理する人がいないんだよ…。ただ人を雇えばいいと言う訳じゃない。孤児院の為に働く事ができる信用のある人じゃないとだめなんだ…」


 商品の管理は重要だ。品質がよくないとすぐに客足が落ちちゃう。

 それに一番の問題は運営資金を任せられる人物だ。下手に人を雇って任せても、持ち逃げされて店が倒産なんて事になったら目も当てられない。

 あとは、料理人の腕だ。三流の腕の料理人なんて雇ったら、味が変わっちゃうし、味が落ちるかもしれない。品質、味は一定にならなければならない。

 それが商売と言うものだ。


「それを悩んでいたと?」

「ああ…」

「何だ、そんな事か」

「そんな事って言うけど、これ重要な事だよ?」

「ロイドとルイエを雇えばいいんじゃないか?」


 はて?誰だっけ?どこかで聞いた事があるような…。ああ、ルチルさんの両親だ!ロイドさんは元商家に勤めるサラリーマンで、ルイエさんは経理をやっていたってルチルさんが言ってたっけな。


「それだ!商品の管理はロイドさん、運営資金の管理はルイエさんに任せるとして、あとは調理のできる人だな…」

「ルチルを使えばいいんじゃないの?」

「え?いいの?ルチルさん王宮のメイドでしょ?」

「そうだけど、あれ程の料理の腕前を持っているんだ。メイドとして働かせるより料理人として働いてもらった方がいいと思うぞ?」

「それもそうだね。でも本当にいいのか?」

「ルチル、ロイド、ルイエがいいって言えばいいと思うよ。ロイドとルイエはあの時の誘拐犯達から守る名目で王宮で働いてもらってるだけだし、ルチルはヴェル専属のメイドだからね」

「分かった。ちょっと聞いてみるよ」

「そうしてみるといい」


 そっか、忘れてたよ。こんな身近に、管理と経理ができる人がいたとは…。


「ところで、アレクは何しに来たんだ?」

「ヴェルが孤児院の為に動いてくれていただろ?僕は、王族としての仕事があるから忙しくて、どうなってるのか聞きたくなって来ただけだよ」

「そっか…」


 アレクもちゃんと仕事しているんだな。いつも仕事を放りだして逃げ出している気もするんだが、してる時はちゃんとしているんだな。

 でも…魔法学校はどうしたの?


「でも、ここまで考えて動いてくれてたなんて思ってもみなかったよ」

「…本当にアレクは面倒事を持ってくるよな…」

「迷惑だったかい?」

「いや、孤児達の為だ。楽しんでやっている気がするよ」

「やっぱり、ヴェルに頼んでよかったよ」

「そりゃ、どうも」


 こうして人材の当てができたので、早速頼んでみる事にした。

 俺の部屋にルチル、ロイド、ルイエを呼んで話を進めた。


「ヴェルナルド男爵様、お久しぶりで御座います」

「ロイドさんもルイエさんもお久しぶりですね」

「あの時は救って頂き、ありがとう御座いました」

「それだけではなく、夫共々王宮で働かせてもらって感謝しています」

「いえいえ、当然の事をしたまでですから…。それに王宮で匿う為に働いてもらう事になったのはアレクが尽力したからですよ」


 いつもお世話になっているルチルさんの両親だもの、助けない訳がない。それに、王宮で働いてもらえるようにしたのはアレクだし…俺がやった事じゃない。


「それで、話とは何でしょうか?」

「ええ、実は王都の南側にある孤児院の為に店を出す事になったんですが、商品を管理する人と運営資金を管理できる信用の於ける人を探していたんですけど、アレクがロイドさんとルイエさんを紹介してくれたんですよ」

「アレックス様がですか?」

「そうです。以前、ルチルさんがロイドさんは商家に勤めていたとお聞きしました。そこで経理の仕事をしているルイエさんと出会って結婚したと…」

「お恥ずかしい話です…」

「ルチル、そんな事をヴェルナルド様にお話ししたのですか?」

「世間話をしただけですよ」


 二人の馴れ初めを俺が知っている事に恥ずかしくなっているようだ。ロイドさんもルイエさんも顔が赤い。


「それで、ロイドさんには商品の管理、ルイエさんには運営資金の管理、ルチルさんには調理担当で雇いたいとお願いしようと思った訳です」

「え?私もですか?」

「そうです。店のメニューはルチルさんと考えたじゃないですか?それに王宮料理長級の腕前を持つルチルさんをメイドにしておくには勿体なさすぎます」

「でも、ヴェルナルド様のお世話をする事ができなくなります…」

「俺の為だと思って世話をしてくれているなら、俺の為に孤児院を救う手助けをしてほしいんです。勿論、ルチルさん、ロイドさん、ルイエさんが一緒に住める家も用意します」


 王宮から店までは少し離れている。それに、王宮の仕事を辞めて、王宮に住み続けるのはできないだろう。やっぱり家族は一緒に住むべきだ。


「そこまでして頂く訳には…」

「そうです。ヴェルナルド様は私達の命の恩人です。恩人の頼みを断るほど恩知らずではありません。ルチル、ヴェルナルド様の頼みを断る気ですか?」

「いえ、そんな事はありません。ヴェルナルド様の頼み事であるならば、是非ともさせてもらいます。ですが…ヴェルナルド様のお世話ができなくなるのが残念で…」

「そう言ってもらえて嬉しいです。それに、今まで十分に世話してもらって感謝もしていますよ。王宮で貰っている給料と同額の給料もお約束します」


 ルチルさんには本当にお世話になっている。着替えの準備や洗濯物、食事の用意…。お母さんみたいだな…。

 でも一つ違う事は夜に来る事だ。夜伽をしようとするのだ。勿論、断ってるけど…毎回、追い返すのに苦労する。

 俺にはまだ早い…。いや、成人しても婚約者がいる俺がそんな事やってていいのか?と思っちゃうよ。


「そこまでして頂かなくても、私達はヴェルナルド様の所で働かせて頂きます。ルチルもいいだろう?」

「はい。分かりました」

「ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね」

「「「こちらこそ、よろしくお願いします」」」


 これで、必要な人材も確保した。準備は整ったのでルチルさん達を連れて、一度店を見てもらう事にした。


「ここです」

「大きいですね…」

「ええ、100人のお客さんを収容できるほどの広さを確保しました。外にもテーブルを置けば、もっと集客数が上がるでしょう」

「ここで働くとなると緊張してきますね」

「そんなに深く考えなくてもいいですよ」

「ヴェルナルド様、調理場を見せてもらっても?」

「勿論いいですよ」


 ルチルを連れて調理場に向かう。


「これは、凄いですね」

「王宮の調理場を少し工夫して作りました」

「これは何ですか?」

「これはこの魔石を起動させれば火が出ます。火力調整はこっちの魔石でできますので」


 コンロだ。火力は中華も作れるほどの火力にもできるし、弱火でじっくり煮る事もできるコンロだ。


「凄くいいですね!」

「あと、こっちにあるのは冷蔵庫です」

「冷蔵庫?ですか?」

「ええ、保存する為に冷やす部屋だと思ってくれればいいですよ。こっちの魔石に一日一回、魔力を充電してやれば、丸一日冷蔵できます」

「これは、料理が楽しみになって来ましたね」


 王宮料料理長にも匹敵するほどの腕前を持つルチルさんだ。料理を作る事が楽しみなんだろうね。目を輝かして触っているよ。


「こっちの洗い場の赤い魔石に触るとお湯が出ます。青い方は冷たい水が出ます」

「便利ですね」


 がんばりました。徹夜でがんばっちゃいました。

 魔石はどこから用意したの?と思うかもしれないが、魔石はフロスト商会でシャーリーのティアラを探していた時に大量に置いてあった魔石を使用したのだ。

 …つまりは勝手に持ってきたのだ。でも、いいよね?あくどい事をしてきたフロスト商会の物を、孤児院の為に使ってるんだから、文句は言われまい…。あとでアレクとモンシア伯爵に謝罪しておくよ…。


「ええ。それで、ちょっと頼みたい事があるんですが…」

「何でしょうか?」

「この前作った試作メニューを250人分づつ作ってもらえます?」

「今からですか?」

「はい…。応援の人も連れてくるのでお願いします。明日、孤児院の孤児達に食べてもらおうと思ってるので…」

「分かりました。腕によりを掛けて作りますね」

「お願いします」


 早速、ルチルは目を輝かせながら調理し始めた。背の低いルチルさんが調理場を所狭しと動き回っている。

 ちょろちょろとね…。見ていて何か可愛く思っちゃう…。あとで、頭を撫でてみようと思う。

 ルチルが調理している間にロイドさんとルイエさんを院長先生に紹介しておこうと孤児院に向かった。


「院長先生」

「これは、ヴェルナルド様。ようこそいらっしゃいました。そちらの方々は?」

「ロイドさんとルイエさんです」

「ロイドです。よろしくお願いします」

「妻のルイエです。よろしくお願いします」

「ロイドさんは以前、商家に勤めていたので店の商品管理、ルイエさんは経理をしていたので運営資金の管理をしてもらいます」

「そうですか。大変だと思いますが、よろしくお願い致します」

「「こちらこそ、よろしくお願いします」」

「それで…今、店の調理場で料理をしている人がルチルさんと言って、ロイドさんとルイエさんの娘さんです。明日、孤児達にお披露目しようと料理を250人分づつ作ってもらっています」

「それは、大変でしょう…」

「それでエイラさんや他の先生方にも協力してもらいたいので連れて行っていいですか?」

「ええ、是非ともお願いします」


 エイラさんや他の先生方にもレシピを覚えてもらう事で、ルチルさんのサポートをしてもらうつもりだ。

 正直、ルチルさんだけではきついと思ったからだ。やる事はいっぱいあるだろうけど、がんばってもらおうと思う。

 一通りの紹介も済んだところで、明日のお披露目会で招待する人達の招待状でも書こうと思う。

 まずは誰を呼ぼうかな?アレク、シルヴィ、エマ、カナは呼ばないと不味いだろう。アレクは兎も角として、シルヴィ達を呼ばなかったら一生、口を聞いてもらえないかもしれないからね。それに婚約者だし…。

 ユイとフレイムは俺と一緒に行動するから大丈夫だ。

 あとは、モンシア伯爵、グランネル子爵、クリューガー子爵、クゼル将軍、ミゲルさんにもお世話になっているから呼ぶとして、商業ギルドで宣伝してもらうつもりだからユリエールさんとゴリラ…『ゴホン』、ゴリーノさんを呼ぼう。

 冒険者ギルドにも宣伝してもらうか。じゃ、ギルマスのドジャーとエミールさんかな?

 ドジャーはギルマスだから呼ぶとして、エミールさんはこの前、脅し過ぎたお詫びも兼ねて呼んでおこう。

 あとは、孤児院の護衛に来た、レイラさん、マーリーさん、ララさん、アデルさんだな。これぐらいでいいかな…。

 あんまり、多くてもしんどいだけだし…。

 早速、届けに行こうと思う。

 まずは魔法学校で授業を受けているシルヴィ、エマ、カナに招待状を渡す為に魔法学校へと足を運んだ。

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