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8     天才と呼ばれて

 魔法の袋を貰ってから三ケ月が経ったある日の事、いつもの夕食が終わり、部屋に戻ろうとするとマリアが呼び止める。

 何事かと思い、聞いてみると、どうやら子供ができたらしい。それを聞いたメイドのクーリエは『おめでとうございます。』とお祝いを述べた。セドリックも大喜びで母マリアのお腹に手を当てている。

 実の所、毎晩お盛んな両親に子供ができて嬉しくも思うが、やっとかと言う気さえする。俺が生まれてから6年も経ったのだ。毎晩、お盛んな両親に子供ができたのは遅いぐらいだ。


「ヴェル、お兄ちゃんになるのよ。」


 マリアは、優しい微笑みを浮かべて語り掛けてきた。


「嬉しいです、母様。」


 正直、弟か妹ができる事に、喜びを感じている。前世では、一人っ子だった。だから、兄弟がいる家庭を、羨ましく思っていただ。


「触ってもいいですか?」

「いいわよ。」


 恐る恐る慎重に、マリアのお腹を触る。

 まだ、出来てから一ケ月しか経っていないので、よく分からないが、このお腹の中に弟か妹がいると思うと、不思議と穏やかな気持ちになってくる。


「ヴェルは弟か妹、どっちがほしい?」


 究極の選択だ。弟と騒がしくも楽しい日々を送りたいし、妹に世話を焼いて見たりもしたい。どちらかと言えば、世話される方かもしれないが…。


「生まれてきてくれるなら、どちらでも構いません。」

「そう?」


 マリアは『夢がないわね』と言い、苦笑した。


「家族が増えるのは、嬉しい事です。」

「そうよね。」


 マリアは、納得したように微笑みを返してくる。来年の今頃には、産まれてくる筈だ。どんな子が産まれてくるのか、今から楽しみだよ。『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と懐いてくれるだろうか?それとも…、いや、考えたくないな。

 弟であれ、妹であれ、尊敬されるお兄ちゃんになって見せる。その為にも、今は魔法の練習に励もう。






 マリアのお腹に、新しい生命が宿ってから、一ケ月が経ったある日、突然の訪問客が現れた。


「やあ、グナイスト卿。久しぶりだね。」


 突然の来訪客は、老人だった。白髪頭で、大きな杖を持ち、黒のローブを着た老人だった。大きな杖の先端には、拳サイズの宝石のような物が取り付けられ、見るからに魔法の杖だと思わせる。更に、所々金の装飾が施されたローブには、嫌味のない気品が感じられた。それを着こなす老人は、一目で階級の高い貴族であると印象付ける。

 そして、老人の他にもう一人いる。老人のローブを、ちょこんとした可愛らしい手が掴み、隠れるように頭を覗かせていた。青色の髪、蒼い瞳の色、そして、何よりも整った顔立ちが美少女であると印象を刻み込む。老人の背後に、隠れるように頭を覗かせているにも拘らず、美少女であるが故に、その存在を際立たせる。


「これは、グランネル子爵。ようこそ、お出で下さいました。さあ、どうぞ中へ。」


 子爵!やっぱり、位の高い貴族だったか。その貴族の傍にいる美少女は、子ではないな。見た目からして、孫…、従者にしては幼過ぎるし、子という線で考えれば、年齢が離れすぎている。


「そうさせてもらおう。」


 セドリックに誘われるように、リビングのソファーに腰を下ろす老人と美少女。


「それで、本日は如何なさいました?」

「ふむ。近くまで来たものでな。挨拶がてらに寄らせてもらった。」


 子爵が近くに寄ったから、わざわざ挨拶に来るものなのか?いや、違う。本来なら、爵位の低い父様が出向かわなければならない筈だ。それとも、何か密命を帯びているのか?見た感じ、お忍びっぽいしな…。


「それは、わざわざ遠い所をお越し下さって、申し訳ありません。」

「いやいや、卿との仲じゃ、堅苦しい挨拶は抜きにして旧友を深めようぞ。」

「はい。子爵。」


 旧友を深める?それ程、仲がいいのか?でも、何故?年が離れすぎているように思える…、同級生ではない。だとすれば、父様の冒険者時代に、恩がある人かもしれない。

 父様も母様同様に元は冒険者だった。この国、アルネイ王国に対して、冒険者として功績を挙げた事で、騎士爵位に叙任されたという話を、以前聞いた事がある。恐らくは、そこいら辺からの付き合いなのだろうか?


「これは、子爵様。お久し振りでございます。」

「おお、マリア嬢か。久しいな、息災であったか?」

「はい。お陰様を持ちまして、元気に過ごさせてもらっています。」

「それは、何よりじゃ。」


 母様も子爵様を知っているようだな。


「お前、寝ていなくて大丈夫なのか?」


 子をお腹に宿したマリアに、セドリックが心配して声を掛ける。


「大丈夫よ。それに、寝てばかりじゃ体に悪いもの。」

「む?どうかされたのかな?マリア嬢。」

「いえ、お腹に子ができたもので。」

「おお、それは目出度い。そう言えば、お腹が出てきているな。何ヶ月目じゃ?」

「四ヶ月と言ったところでしょうか。それとも、私のお腹を見て、肥ったと思っておられたのですか?」


 母様が怖い…。笑顔な筈だが、目が笑っていない…。


「いっ、いや、そんな事はないぞ。マリア嬢は、いつも美しくて見惚れていただけじゃ…。」


 それを感づいてか、子爵は少し慌てるように、世辞を飛ばす。


「あら、まあ、子爵様はお口がお上手な事で。」

「う、うむ。ゴホン。それで、その子は卿とマリア嬢のご子息かの?」


 マリアの言葉に、誤魔化すように、俺に視線を移す。


「はい。子爵。私とマリアの子、ヴェルナルドです。ヴェル、子爵様にご挨拶を…。」

「はい。父様。」


 セドリックの紹介の後、子爵様に挨拶を始める。


「初めまして、グランネル子爵様。只今、ご紹介に預かりました父セドリック、母マリアの子、ヴェルナルドと申します。以後、お見知りおき下さいませ。」


 見よう見真似で、貴族風の挨拶を交わす。


「うむ。クエン・グランネルじゃ。よろしく頼む。」

「はい。子爵様。」

「受け答えもしっかりしていて、利発そうなよき男の子じゃな。羨ましい限りじゃ。」


 お世辞と分かっているだが、褒められるとこそばゆい。


「いえ、滅相もない。まだまだ、不出来な子です。…ですが、自慢の我が子です。」

「ほっほっほっ。言うではないか。それにしても、この子の魔力…、目を見張るものがあるな。」

「ええ、そうでしょう。この子は、天才ですもの。」


 ああ、また母様の思い込みが始まった…。こうなると長いんだよな…。


「ほう、天才じゃと?儂よりもか?」


 マリアの天才発言に対抗するかのように、子爵が挑発的に言った。


「それはもう、天才も天才ですわ。なんたって3歳で魔法が使えるようになって、今では、魔力総量もかなりのものだと感じています。」

「っ!何!?3歳で魔法を行使できるとな!?信じられん…、それは、本当か?」


 目を見開いて驚く子爵。

 ちょっと、怖いよ。ガン見し過ぎて、怖いよですよ…、子爵様。


「少し…、試させてもらってよいか?」

「ええ、よろしいですわ。ヴェル、子爵様はお疑いのご様子。その力を、思い知らしめてやりなさい。」


 子爵の試させてもらってよいかの発言に、マリアは返答する。

 いや、思い知らしめてやりなさいって…、ちょっと怒ってるね、母様。まあ、いいけど…。


「…はい。母様。」


 全員で家の外に向かうと、母様が言う。


「ヴェル。あなたが、今、使える最高の魔法を使いなさい。」


 最高の魔法って…、ちょっと危ないと思うんだけど、いいのかな?


「え?でも…、いいんですか?」

「さ・い・こ・う・の魔法を、使いなさい。い~い?」

「…はい。」


 今の母様には、逆らえません…。いや、元より母様に逆らう気はない。グナイスト家の最上位ヒエルキラーを持つ母様に、誰が逆らえる者がいるだろうか…。そんな、命知らずは、我がグナイスト家には存在しない。いや、仮にいたとしてら、それはもう魔神クラスだ。そう、思いたい…。

 母様の言い付け通り、最高の魔法を放つべく、体内の魔力を掻き集め、右手に集中。そして、一気に解き放つ。


大爆発グレートエクスプロージョン!」


 突如、轟音を響かせながら、何もない平原が炎と共に大爆発した。無数の炎と衝撃波が辺りを襲う。


「あっ、やっべ…。」


 やり過ぎちゃった…。テヘペロ。

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