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68    ヴェルナルドの陰謀 その1

 冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者のレイラとマーリーに孤児院の外の警備を任せて孤児院に戻った。孤児院の扉を開けると、すぐにアレク達に出迎えられた。


「ヴェル!」

「「「ヴェル様「君」!」」」

「お兄ちゃん…」

「グギャ(おかえり)」

「ただいま、皆」


 どうやら、アレク達が俺を待っていたようだ。


「ああ、おかえり。ってさっきの声は何だったんだ?」

「ああ、ちょっと冒険者ギルドでちょっとした事に巻き込まれてね…ついやっちゃったよ」

「やっちゃったって…。大丈夫なのか?」

「見ての通り、俺はぴんぴんしてるよ」

「いや、ヴェルじゃなくて…相手の方…」

「おいっ!あえて、もう一度言う。おいっ!」


 俺の心配しろよ。仮にも、内乱を一緒に戦って生き抜いた親友だろ?


「お前ね…、俺の心配より相手の心配か…」

「いや、ヴェルが大丈夫なのは分かってるよ。信用してるし、力もある事は知っているから…。問題なのは相手が死んでないかとか…」

「あのね…アレク…。俺を鬼か何かと勘違いしてないか?」

「え?違うの?」


 いい度胸だ…。人生の厳しさ、教えてやろうか…。


「アレク…。ちょっと、あっちで男同士で話し合おうか?」

「いや、冗談だよ…。それで今まで何を?」


 冗談に聞こえないよ…。半分、本気だろ!?


「ちょっと、明日の為にいろいろとね」

「孤児院を何とかしてくれるのか?」

「お金の事は心配しなくていい。問題なのは相手の方だよ…ちょっとややこしくてね…」

「ややこしい?」

「うん。そこでユイに頼みたい事があるんだけどいいかな?」

「ん」

「ちょっとね、フロスト商会に攫われてきてほしいんだ」

「「「っ!」」」


 攫われるの一言にシルヴィ、エマ、カナは驚いていた。

 そりゃ、そうだと思う…。自分達の可愛い妹として育ててきたユイに、ちょっと攫われてきてほしいなんて言葉を投げ掛ける俺がおかしい。


「ヴェル様!それは、どう言う事ですか?」

「ヴェル様、ユイに何をさせようと言うんですの?」

「ユイに怪我とかさせないよね?ヴェル君」

「ああ、大丈夫さ。ちょっとフロスト商会を叩き潰そうと思ってね。」

「…どう言う事だ?」


 俺の言葉に不満を募らせるアレク達に事情を説明した。金貸しの事、人攫いの事、そしてフロスト商会を叩き潰す為に動いている事を話した。


「そんな事が…」

「ああ。だから、ユイには囮になってもらう」

「ヴェル様、ユイに危険は及ばないのですか?」

「ある程度はあるかもしれないが、ユイは6歳と言えど、上級まで扱える魔術師だよ。それに俺の弟子の一人だ。自分の身は自分で守れるさ」

「そうかもしれませんが、心配になりますわ」

「だから、念には念を入れてフレイムに護衛を頼む事にする」

「もう、決めた事なんだよね?信じるてるけど、心配になっちゃうよ…」

「ああ。任せておけって…」


 無理にでも納得してもらう他ない。俺がしようとしている事は、6歳の女の子に囮になってもらう事だ。命の危険があるのは、確かだ。しかし、ユイとフレイムなら大丈夫だと確信している。何故なら、俺の弟子で曲がりなりにも魔法使いだ。

 これ以上、信用できる囮はいないだろう。


「ユイ、フロスト商会の人に逆らわずに大人しく従って攫われてくれ」

「ん」

「もし、酷い事をしてきたら反撃してもいいからね」

「ん」

「それとフレイム」

「グギャ(何?)」

「透明化の魔法を掛けるから、ユイの身に何かないように傍で見守っててくれ」

「グギャ(うん)」

「じゃ、ユイはこれに着替えて明日に備えてくれ」

「ん」


 ユイは俺の指示した通りに着替えた。俺がユイに差し出した物は、孤児達と同じ擦り切れた服だった。これで孤児に見せかけようとしているのだ。


「それで、アレク。院長先生はどこだ?」

「ああ、奥で孤児達と食事中だ」

「分かった、アレク達はもう帰ってくれ。ここにいると明日の作戦の邪魔になるからな」

「それはないよ…」

「そうです、ヴェル様」

「何か協力できませんの?」

「ヴェル君は僕達を信用できないの?」


 アレク達は除け者にされた気がして、不服のようだ。別に除け者にしている訳じゃないんだけどね。


「いや、そう言う事じゃない…。じゃ、アレクには兵を何人か率いてもらって芝居を打ってもらうよ」

「分かった」

「ヴェル様、私達は?」

「カナには孤児院を守る仕事をしてもらう。シルヴィとエマは孤児達が怪我した時の為に控えていてくれ」

「分かりました」

「分かりましたわ」

「分かったよ」


 アレク達に役割を与えて、ようやく納得してもらった。あんまり危ない事に足を突っ込ませたくないんだけど、これぐらいの仕事なら大丈夫かな。


「あの…ヴェルナルド男爵様…」

「ん?貴方がララさんかな?」

「ええ、そうです。ギルドから依頼を受けて来た者です」


 この人がララか…。背中辺りまで伸ばした金髪の女性だった。腰に剣を差してはいるが、優しげな笑顔が特徴的で、温厚そうな性格をしているように見える可愛らしい人だと思う。


「そして、こっちが同じパーティーのアデルです」

「アデルです。よろしくお願いします」


 レイラ、マーリー、ララと同じパーティーで唯一の男の人だ。

 細身ではあるが鍛えこまれたであろう、その肉体は同じパーティーの女性達を守ってきたと伺わせる強さを感じる。茶髪の角刈りではあるが、ワイルドさを醸し出している男の人だ。

 一見、レイラ達を侍らせているようにも見える。ハーレム男なのかな?と羨ましくも思ったが、はたから見れば、俺もシルヴィ、エマ、カナ、ユイを侍らせているハーレム男に見えるかもしれないので考えるのを辞めた。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

「「はい」」


 冒険者達との顔合わせも済んだ事なので、軽く打ち合わせをしてから院長先生のもとに向かった。


「院長先生」

「これは、ヴェルナルド様。おかえりなさいませ」

「ええ。只今戻りました。それで明日の事でお話があるのですが…」

「分かりました。こちらへどうぞ…」


 院長先生に連れられて応接室に向かった。

 応接室に向かう途中、孤児達が『あの、お兄ちゃんは誰?』『格好いいお兄ちゃんだね』とひそひそ話が聞こえたので、笑顔で手を振りながら応接室に向かった。

 格好いいかな?そんな事、言われた事ない気がする。


「どうぞ、お掛け下さい」


 応接室で、院長先生に促されるまま、ソファに腰掛けた。


「それで、明日の話と言うのは?」

「はい。明日、フロスト商会の者達が借金を取り立てにくるでしょう」

「はい。これでいよいよ此処を出て行かなければならなくなりました」

「大丈夫ですよ、お金は俺が何とかします。院長先生は借金を支払って、借用書を受け取ってください」

「え?でも、そんな大金をお借りする事は…」


 院長先生の言葉を左手で制して、話を進める事にした。


「ここに、一億ジュールを用意しました。まずは明日、これで借金を返済して借用書を必ず受け取って下さい」

「はい、畏まりました。しかし、お金を返せるかどうか…」

「それも考えていますので、指示に従って下さい」

「はい、ありがとう御座います」

「それで、借金を返した後は、しばらくの間は孤児達と共にここから出ないようにして下さい。安全を確保する為なので…」

「ええ、畏まりました」


 明日からの事を院長先生に話した後、応接室を後にした。その後、孤児院の護衛を頼んだ冒険者パーティーのマーリーとアデルを呼び出してた。


「お呼びですか?」


 呼び出されたマーリーは少し警戒している様子だった。

 俺がそんなに怖いのかな?と思いつつも、気にしないで話を進める事にした。


「2人を呼び出したのは他でもない。明日の事で、別の仕事を頼みたいと思ってね」

「別の仕事ですか?」

「そうです。明日、マーリーさんとアデルさんには俺の傍で用心棒をしてもらいます」

「用心棒?ですか?」

「ええ。明日、フロスト商会の奴等が孤児院に借金の取り立てに来ます。その後に貴方達には俺の傍で芝居を打ってもらいたいのです。勿論、その分のお金もきっちり支払わさせて頂きますよ」

「それは、孤児院の為にですか?」

「そうです。孤児院にちょっかいを掛けたフロスト商会を許す事はできない。だから、お仕置きをしようと思います」


 そう言って不敵な笑みを浮かべるとマーリーとアデルは身をすくませた。


「貴方達は、俺の…ギルドでの一件を見ていましたね?」

「はい…」

「おっ、おう…」

「舐めた真似をした奴らに、俺が黙って見ていると思いますか?」

「「…」」


 マーリーもアデルも言葉を失っているようだ。


「女子供に手を出したのです。俺にはそれだけで戦う理由には十分だ。なので…協力してもらえますね?」

「…分かりました」

「分かった…」


 これで準備は整った。後は、明日を待つだけだ。


「それにしても、アデルは分かるとして、何故私なんですか?」

「…失礼ですが、マーリーさんの顔で選ばせて頂きました」

「…顔…ですか?」

「ええ。レイラさんとララさんは優しい笑顔を向ける人です。その態度では舐められます。それに対してマーリーさんは鋭い視線を向ける人です。明日の作戦にはどうしてもマーリーさんのような人が必要だったんです」

「…分かりました」

「すみません、人を顔で選ぶ真似をして…」

「…いえ、いいです」


 そう言い残して、マーリーはその場を去って行った。アデルもマーリーの後に続くように追って行った。

 たぶん…慰めているんだと思う…。マーリーさん、少し怒っていたようだったな。そりゃ、そうだよね…。貴方の顔は笑顔が似合わないと言われているも同然なのだから…。全てが終わったら謝ろうと思う。

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