67 行動を起こす その3
冒険者ギルドでの騒ぎが収まった後、此処に来た目的を果たす事にした。
「それで、当ギルドに来られた目的はなんでしょうか?」
「冒険者登録と冒険者を何人か雇いたい」
やっと本題にこれた。何か、厄介事に巻き込まれてばかりだな。これも全部、アレクのせいだ。後で、きっちり請求してやろうと思う。
「畏まりました。しばらくお待ちください」
ギルドマスターのドジャー自らが手続きしている。
何か、恐れ多いな…。まあ、かなり脅しちゃったから仕方ないよね。
「お待たせ致しました。それではこちらの登録機に手をかざして頂けますか?」
ドジャーが差し出してきた物には、幾つかの小さな魔石が、中心に埋め込まれた大きめの魔石の周囲を取り囲むように配置された装置だった。
「何ですか、これは?」
「これは、手をかざした方の魔力を読み取る装置ですね」
「何の為にです?」
「これで、冒険者カードに登録される方の情報をカードに書き込みます」
「それは凄いですね」
ロジャーに言われるがままに、魔石に手をかざした。
「それでは、手をかざしている間に説明させて頂きます」
「お願いします」
「まずギルドカードは世界共通でどこの国でも使えます。身分証明書にもなりますので紛失した場合は速やかに再発行の手続きをして下さい」
「再発行は冒険者ギルドで手続きするんですか?」
「そうですね。他にも商業ギルドでもできます」
「ギルドが違うのにいいんですか?」
「はい。ギルドカードは全て番号で管理されてますので、冒険者ギルドでも商業ギルドでも同じ情報を共有しております」
マイナンバー制!?ギルドのシステムって、日本よりも先に取り入れてるのね…。
「次に、ギルドにはランクがあり、Fから始まって、E、D、C、B、A、Sと上がって行きます。ランクを上げるには、一つ上のランクの依頼を連続10回成功させると上げさせて頂きます。又、依頼の失敗が連続10回でランクが下がります。それと依頼は現在のランクの一つ上のランクまでしか受ける事ができませんのでご注意下さい」
「FならEの依頼を連続10回成功させればEランクになって、FではDの依頼を受けれないと言う事ですね?」
「その通りです。ランクの低い方がランクが高い依頼を受けて失敗して死ぬのを防ごうとする措置です」
ふむ…。ランクの低い物が高い物を受けても成功できる筈がないし、失敗したら命に関わる事だものな。じゃ、依頼内容に誤りがあった場合はどうなるんだ?
「なるほど…。もし、Fの依頼を受けて、実際の依頼内容がEやDだった場合はどうするんです?」
「それは、ギルドに報告して頂ければ依頼を解消させて頂きます。勿論、依頼失敗にはなりませんので…」
だよね。それで依頼失敗とかになったら、たまったものではない。
「分かりました」
「ギルドカードができましたので、ご確認下さい」
「はい」
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名前 ヴェルナルド・フォン・グナイスト
身分 アルネイ王国男爵位
性別 男
年齢 12歳
職業 救国の英雄
冒険者ランク A
功績 火龍討伐 内乱鎮圧
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ん?ちょっと待て…。おかしい所が、幾つかあるぞ…。
「あの…」
「はい、何でしょうか?」
「職業が…救国の英雄って…」
「国王陛下の指示ですので…」
何してくれてんだ!?あの、おっさん…。国王陛下におっさんって言うのも失礼だが、これはあんまりじゃないの?内乱起こすよ?こんなカード、恥ずかしくて出せないじゃないか。
それに、それって職業なのか?どこの国に救国の英雄なんて職業があるんだ!?そんな職業をやってる人がいたら、ちょっと会ってみたいよ!会って、そんな職業廃止させてやるよ!
「ランクがいきなりAなんですが…」
「国王陛下の指示ですので…」
だから、何してくれてんの?それって不正なんじゃないの?国家と言う力の職権乱用じゃないの??大丈夫なのか?俺、捕まったりはしないよね?
「功績って?」
「はい。国が特別に認めた功績があればカードに書き込まれます」
「…」
突っ込むのが馬鹿らしくなってきた。
「他にご質問は御座いますか?」
「いえ、もういいです…」
今、聞いても頭に入らない気がするよ。
「では、次に冒険者を雇いたいと伺いましたが、用途は何でしょうか?」
「孤児院と孤児院の人達の護衛です」
「畏まりました。雇用人数は何名ほどでしょうか?」
「5名程度で」
「畏まりました。雇用期間はどの程度でしょうか?」
「たった今から、一ヶ月程でお願いします」
「畏まりました。では緊急依頼にさせて頂きますね」
「お願いします」
こうして、冒険者登録と孤児院の防衛依頼を済ませた。
次に、俺が向かう所は王宮にある軍の執務室だった。モンシア伯爵に話を聞くためだ。
扉の前にいる警備兵にモンシア伯爵との面会を申し込み、面会したのだった。
「ようこそ、婿殿。今日はどうされたかの?」
「お忙しい中、面会を申し込んですみません」
「いや、よい。他ならぬ婿殿の為になら喜んで話を伺いますぞ」
「ありがとうございます。では早速、フロスト商会と言う商会をご存知ですか?」
「ふむ、聞いた事があるな…。して、そのフロスト商会が如何したのじゃ?」
「はい。ここ最近、王都の南側にある平民区の孤児院でちょっかいを掛けているのです」
「ふむ…。ちょっかいをですかの…」
「話を聞けば、お金に困っている者達にお金を貸して、契約書を盾に土地を取り上げるとの事です。他にも人攫いをしているなど悪い噂を聞いているのです」
「ふむ…」
少し考え込んだモンシア伯爵は机に置いてある鈴を鳴らして秘書を呼ぶ。
「何かご用でしょうか?」
「うむ。治安維持担当官を呼べ…」
「畏まりました」
程なくして、治安維持を担当する責任者が現れた。
「軍務卿、お呼びでしょうか?」
「うむ。フロスト商会を知っているか?」
「フロスト商会?はい、知っています。王都の治安を守る我々が、追っている商会ですね。人攫いをして人身売買を行っているとの報告があるのですが、なかなか尻尾を出さない為か捕らえられないのです」
「確証がないと?」
「そうです…」
モンシア伯爵は瞳を閉じて考え込んでいる様子だった。
「…それで、婿殿はどうしようとお考えで?」
「叩き潰します」
「…分かりました。ミゲル!」
「はっ!」
治安維持担当官はミゲルと言うらしい。
「お前は、ここにいるヴェルナルド男爵に協力して指示を仰げ!」
「はっ!畏まりました」
「モンシア伯爵、いいんですか?」
「うむ。王都の民達の為じゃ…。それに、婿殿なら必ずやフロスト商会の者達を叩き潰す事ができるじゃろう」
「ありがとうございます。では、遠慮なく甘えさせて頂きますね」
軍の協力を取り付ける事ができた。これで、後は情報を集めて仕掛けるとしよう。
「うむ」
「ミゲルさん、どうぞよろしくお願いします」
「いえ、ヴェルナルド男爵様のお力添えができて光栄です。私の事はミゲルと呼び捨てにして下さい」
「はい、分かりました。ではミゲル、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ミゲルとの握手を交わして情報を集める事にする。
「フロスト商会の人攫いのやり方は分かっているのですか?」
「人気のない所にやってきた子供を攫うまでは分かっているのですが、それ以降の事が分かりません」
「分からない?」
「ええ。それが、こつ然と子供が消えるのです。何度か子供が消える場所を調べたのですが、分からずじ終いでした…」
おかしいな…。どうやったら、子供がこつ然と消えるんだ?しかも、警備兵が調べても分からないって…。人が姿を消す訳がない。
魔法でも使わなければ消えないだろう。ん?魔法?消す?瞬間移動か?いや、違うな…。瞬間移動の魔法は失われし魔法の一つの筈だ。簡単に扱えるものではない。
じゃ、透明化の魔法か?子供に透明化の魔法を使って姿を消して、警備兵の目を眩ます。そして、何喰わない顔して子供を拉致する。
「それは、いつも同じ場所ですか?」
「そうです」
透明化の魔法だったとしても、そう簡単にできるものなのか?相手は商会の者達だ。魔法使いじゃない。裏に魔法使いが控えているのか?いたとしても、透明化の魔法が使える魔法使いとなると、相当な手練れなのかもしれない…。
これは、何か臭うな…。
「子供が消える場所はフロスト商会の近くですか?」
「そうですね。近くと言ってもフロスト商会の裏手の道になります」
「…分かりました。その事は俺に任せて下さい」
「畏まりました。では、我々は何を?」
「ミゲルは…兵を率いてフロスト商会にいつでも踏み込めるようにしといて下さい」
「畏まりました」
相手が魔法使いだろうと魔法使いでないにしろ、戦う事になりそうだ。
「婿殿は子供の攫い方が分かったのですかな?」
「恐らく…、透明化の魔法を使って子供の姿を消し、警備兵達の目を欺いて攫うと言ったところでしょうか…」
「っ!では、後ろに魔法使いがいると?」
「分かりませんが…いるにせよいないにせよ、これ以上のさばらせる気はありませんよ」
「婿殿に目を付けられるとは、相手も終わりですな」
どう言う意味だよ?まあ、何にせよ…やってやるよ…。
「では、モンシア伯爵これで失礼します」
「うむ、期待してますぞ」
あんまり期待しないで、上手くいくか分かんないんだから…。
「ミゲルも頼みますね」
「はっ!お任せください」
そう言い残して、その場を去った。
孤児院に戻る前に準備しておこうと思う。
何をって?まずは、孤児院の借金をチャラにする。これは、俺が金を出す事にする。
そして、孤児院と孤児院の人達を守る。冒険者を雇うから大丈夫だろう。何なら軍の兵士達も付けておくし…。
それから、誘拐された子供達を救い出す為の囮を用意する。これは、ユイにでもさせようと思う。
ユイは6歳と言えど、上級までの魔法が使える魔法使いだ。自分の身は自分で守れるだろうと判断したからだ。それに、護衛には透明化の魔法を掛けたフレイムも付けておく事にする。
それから、攫われた子供達を救い出して、フロスト商会を叩き潰す。
まずは、商業ギルドから購入(仮契約)した土地の周辺に看板を立てる事にした。内容は『これより先、ヴェルナルド・フォン・グナイスト男爵所有地。関係者以外立ち入りを禁ずる。許可なく立ち入る場合、重税を課す』と書き込んで土地周辺に立てておいた。
これで、ここに入ってくる一般人はいない筈だ。後は、フロスト商会の者達が来ても対応できるように動くだけだ。軽いお仕置き付でな…。
孤児院に戻ると冒険者風の剣を持った見知ら女性が2人がいた。
見知らぬ女性の1人は、俺の顔を確認すると…、
「これは、ヴェルナルド男爵様。ギルドの依頼を受けて来ましたレイラと申します」
皮の軽鎧を身に纏い、その上からローブを羽織っている女性はレイラと言うらしい。茶髪のショートカットがよく似合う可愛い顔をした女性のようだ。胸はBカップ程の手に収まるサイズの人だ。
「…何か?」
俺の視線に気づいたのか一歩引いて尋ねてきた。
「いえ、よく俺の事が分かりましたね?」
「いえ…、その…先程、冒険者ギルドにいましたので…」
「そうですか…」
どうやら、あのギルドでの一件を見られていたらしい…。心なしか、レイラの表情には怯えの色が伺えた。怯えているのに、俺の依頼を受けて来たのには評価する。しかし、冒険者ギルドでの一件を見て、俺に怯えている筈のレイラは何故、依頼を受けたのか気になる。
「ギルドでの一件を見ていたのに、よく依頼を受ける気になりましたね?」
「私は子供が好きですので、孤児院を守る仕事を見て、仲間と相談して受けました」
「仲間?」
「はい。こちらにいるのがマーリーです」
「マーリーです。よろしくお願いします」
もう一人の女性はマーリー。革のドレスアーマーを身に着けた金髪のセミロングで鋭い視線を向けて来そうな女性だ。ちなみに、胸はDカップかな?
「こちらこそ、よろしく。貴方も依頼を受けた理由は子供が好きと言う事ですかね?」
「はい、好きです。勿論、それだけではありません」
「何ですか?」
「私達も元々は孤児でした。孤児院に少しでも恩返しをしようと冒険者になったんですが、なかなか上手く行かず、育った孤児院は無くなってしまいました。その代わりと言ったら変に聞こえるかもしれませんが、孤児院の危機に何かお役に立てればと思っていたところにこの依頼があったので受けさせて頂きました」
「そう…ですか…」
この人達も孤児院育ちなのか…。ここの孤児院ではないにしろ、同じ孤児出身と言う事で何か思い入れがあるのかもしれないな。
「はい。でも、孤児院と孤児達は命に代えてでも守って見せます」
「ええ、お願いします。それで、他の冒険者はいますか?」
「中に2人。ララとアデルがいます」
「4人ですか?。冒険者ランクは?」
「そうです。私達は4人パーティーでDランクです」
ふむ…一人一人の力はDランクではないが、4人揃って初めてDランクと言ったところか。まあ、このぐらいがちょうどいいかもしれないな。借金の取り立てに来るぐらいの者達から孤児院と孤児院に住む者達を守るぐらいはできるだろう。
「分かりました。引き続き、孤児院をよろしくお願いします」
「「分かりました」」
孤児院の外はレイラとマーリーに任せて、孤児院に戻る事にした。