66 行動を起こす その2
次に、俺が向かう所は冒険者ギルドだ。
商業ギルドから少し離れているが、同じ商業区にそれはあった。
王都の他の地区になくてよかったと思う。あんまりあちこち歩き回りたくなし、無駄に時間を消費したくないからな。
冒険者ギルドは3階建ての、これまた石造りの建造物だった。商業ギルドに負けず、劣らずの威圧感を感じる。流石は王都だなと感じた。
冒険者ギルドの入口の扉を開けると、中にいる冒険者とおぼしき荒くれ者風の人達の視線が集まる。一瞬、びくっとするが、気にせず中に入ると荒くれ者の一人が声を掛けてくる。
「おいおい、ここはガキがくる所じゃねえぞ」
その一言に、周囲の冒険者達は『ぎゃはは』と笑い合っている。お約束のテンプレかと思い、無視して中に進む…。
すると、男は…、
「ガキが無視してんじゃねえ」
そう言って、乱暴に俺の肩を掴んでくる。あんまりに乱暴に肩を掴んでくるものだから、少しイラっとしてしまう。
「何か用ですか?」
「何か用ですか?じゃねえよ!ガキはガキらしくお家でママのおっぱいでもしゃぶってろ!」
男の一言でまたもや周囲に『がはは』と笑い声がする。
はい…、お約束です…。
「貴方には関係ありませんよ…」
「んだとっ!ガキが舐めてると痛い目みるぞ!」
もう、一回言おう…。
お約束です…。
「ご忠告、ありがとうございます。急ぎますのでこれで…」
すると男は、俺の言葉が気に入らなかったのか、怒りがこみ上げて殴りかかってくる。さすがにイラっとしたので、肉体強化魔法を発動して男の懐に入り込み、腹にかる~く掌底をプレゼントして差し上げました。
掌底を腹に受けた男はギルドの扉を突き破り、外に吹き飛ばされてそのまま気絶した。その光景を見た周囲の冒険者達は、一瞬唖然としたが直ぐに正気を取戻して、素敵な言葉を投げ掛けて頂きました。
「てめぇ、何しやがる!」
「舐めてんのか!?このクソガキが!」
「殺すぞ!」
怒りが頂点に達した冒険者達は、一斉に剣を鞘から抜き放って身構える。
どうやら彼等は掌底で吹き飛ばされた冒険者の仲間達のようだ。男達は全員で14人。掌底で吹き飛ばされた男を含めて15人だ。
恐らくはパーティで動いていると思われる。仲間をやられた怒りで、剣を抜いたのだろう。しかし、どんな理由であれ、剣は人を殺せる武器なのだ。そして、その剣を抜いたのは彼等だ。剣を抜いたからには、殺す意思があると言う事だ。殺す意思があると言う事は、逆に殺されても文句は言えない。
だから、お仕置きをしようと思う。
「殺る気ですか?」
「うるせぇ!」
「死ねっ!」
「はっ!」
冒険者達が次々と攻撃を仕掛けてくる。しかり、俺はそんな攻撃に臆する事無く立ち向かう。
剣が止まって見えるからだ。相手の数は14人。しかし、その全ての攻撃が遅く、止まって見える。
ギルドに入ってくる一般人(子供)に絡んで、自分達の力を誇示しようとする奴らだ。その実力は、はっきり言って雑魚だった。
上段から切り掛かる冒険者にはアッパーを、横から切り裂こうとする冒険者には氷柱砲弾を、2、3人で同時に攻撃してるく者達には爆風をプレゼントする。
「ぐはっ…」
「うっ…」
次々と悲鳴にもならない悲鳴を上げて倒れ込んでいく冒険者達。気付けば、残り2人だった。
「まだ殺るつもりですか?」
「うっ…、仲間をやられて、ひっ、引き下がれるか!」
残り2人の冒険者の片方が足を震わせながら答える。どうやら、周囲の目が気になっているらしい。
仲間を見捨てたと思われたくはないのだろう。
仕方ないので、超加速で一気に距離を詰めて、男の顔面に右ストレートをお見舞いする。右ストレートが炸裂した男はお腹を軸に『グルングルン』を回転しながら飛んで行った。残された、最後の男は剣を捨ててなりふり構わず逃げ出そうとしていた。しかし、逃がすつもりはない。
俺に剣を向けたのだ…、それ相応の罰を受けてもらう。
「氷柱砲弾!」
氷柱砲弾は、逃げ出そうとする男の背中に綺麗に命中して倒れ込んだ。
「捕縛する触手!」
後で、警備兵に突き出してやろうと思い、捕縛する触手で拘束した。
一般人に剣を抜いて切り掛かってきた事への罪は償ってもらおうと思ったからだ。
14人の男を捕縛した後、ギルドの入口から怒り狂った声を上げて突っ込んでくる男がいた。最初に掌底で外まで吹き飛ばした男だった。
明らかに俺に向けられた殺意を感じたので、アッパー、アッパー、ボディブロー、ボディブロー、左ストレート、右ストレート、左ストレート、右ストレート、氷柱砲弾、爆風で外に吹き飛ばした。
上上下下左右左右BAのテンポで元の場所で気絶させてやったのだ。
「捕縛する触手!」
その後、動けないように捕縛して何事もなかったように受付に向かった。
戦闘が起こった場所では、天井に上半身まで飲み込まれた男(アッパーで仕留めた)やら、アニメの様に壁にめり込んだ男(氷柱砲弾で仕留めた)やら、周囲の机や椅子に洗濯物が干された状態の様に倒れ込んでいる男(爆風で仕留めた)達が散乱している状態だった。
その光景を見た、他の冒険者達は一斉に視線を逸らす。先程まで賑わっていた筈のギルド内に静寂が訪れていた。
いや、俺の足音しかしていないようだ。
そして、さっきまで混んでいた筈の受付に向かうと列が自然と開いて道を作る。そのまま、無言で真っ直ぐに歩いて受付に辿り着いた。
「あの…、ギルド内での争いはお辞め下さい…」
受付嬢に言われた一言にカチンときちゃったので、言い返そうと思う。
「どう見ても絡まれてたのは俺の方ですが?」
「それでも、ギルド内での暴力は禁止となっています」
「それは、冒険者同士の事ですよね?」
「そうです…」
「でも、俺は一般人ですよ?それなのに冒険者に絡まれた一般人をギルドの職員は助けずに見捨てるのですか?」
「…」
わざと大声で周囲に聞こえるように言い返した。すると、一人の男が近寄ってきた。
「エミール、どうした?」
「あっ、ギルマス。こちらの方が絡んでこられて…」
「ほう…」
男は鋭い視線を向けてきた。
「それは本当で?」
「この受付嬢はどうやら頭がおかしいようですね」
「なっ!ちょっと失礼ですよ!」
「それとも目がおかしいのですか?」
「馬鹿にするのもいい加減にして下さい!」
受付嬢は怒りを露わにした。
「お客様、職員を愚弄するのはお辞め下さい」
カチンときた。お前も俺の敵か…。
「さっきから馬鹿にされているのは俺の方ですが?」
「どう言う事でしょうか?」
いいでしょう…。あくまで敵対するなら、徹底的にやってやりますよ…。
「包み隠さずお話ししましょう」
風魔法を発動して王都全域に伝わるほどの大音量を放った。
「俺がギルドに入った瞬間、冒険者の一人が『おいおい、ここはガキがくる所じゃねえぞ。』と絡んできた。
それを無視したら今度は『ガキが無視してんじゃねえ』と乱暴に俺の肩を掴んできたのです。
それで何か用ですか?と答えると冒険者は『何か用ですか?じゃねよ!ガキはガキらしくお家でママのおっぱいでもしゃぶってろ!』と馬鹿にしてきたのです。
それでも俺は気にせずに、貴方には関係ありませんよと答えると『んだとっ!ガキが舐めてると痛い目みるぞ!』と脅迫してきたのです。
俺はご忠告、ありがとうございます。急ぎますのでこれで…。と答えて受付に行こうとすると冒険者の男は突然、殴りかかってきました。
俺は自分の身を守る為に男を掌底で吹き飛ばしただけです。すると周囲にいた冒険者達が怒って俺に剣を向けてきたのです。
命の危険を感じた俺は魔術で吹き飛ばした。正当防衛ですね。それなのにここの冒険者ギルドの職員は絡まれている一般人の俺を放置して、冒険者達から難を逃れた俺に『ギルド内での争いはお辞め下さい。』と咎めるのです。
ここのギルドは一般人の命の危険を放置して、一般人の命を奪おうとする冒険者達の味方をするのですか??」
王都中に俺の声が響き渡った。
「もう一度言いましょう!ここのギルドは一般人の命の危険を放置して、一般人の命を奪おうとする冒険者達の味方をするのですか??」
再度、王都中に俺の声が響き渡った。もう、ここまで来たら嫌がらせである。ただの憂さ晴らしだった。ギルドの入口付近では、何事かと見物人が押しかけて来ているようだ。
「…エミール…、これは本当か?」
「…いえ…はい…申し訳ありません…」
「誠に申し訳ありませんでした!以後、十分に指導して、今後、この様な事は起こさせないと誓いますのでお許し下さい!」
「それはできませんね。あの男達は一般人に剣を向けて殺そうとしたのです。警備兵に差し出して裁きを受けてもらいます。それにギルド職員の職務怠慢振りは国に報告しておかなければなりません」
「っ!お待ちください!どうか、お許しください」
「そうは言われても、これは人命を奪おうとする行為で大罪だ。犯罪者には然るべき所で然るべき罰が降されて当然でしょう?それに、仲裁に入らなかったギルドにも裁きを受けてもらいます。えっとエミールさんでしたっけ?よろしいですね?」
エミールの顔はすっかり青ざめていた。
「いえ、どうか…どうか、お許しください」
「私からも謝罪します。どうかお許し下さいますよう、お願い申し上げます」
仕方がない、これぐらいで許してやるか…。ギルドの職員の対応にイラっとしたので灸を据えただけなのだ。
「…条件があります」
「条件とは、何でしょうか?」
「…今後、俺に絡んでくる冒険者達を何とかしてくれるのなら、国に訴えを起こす事はしません」
「分かりました。必ず、仲裁に入るとお約束致します」
「では、許すとしましょう」
これで、冒険者達が絡んできても大丈夫そうだな。いちいち付き合っていては、疲れちゃうよ。
「ありがとうございます」
「それでは、ギルドマスターを呼んで下さい」
「申し遅れました。私が当ギルドのギルドマスターのドジャーと申します。何かご用でしょうか?」
「国王陛下からの紹介状を預かっております」
「っ!国王陛下からの紹介状ですか!?」
「これです」
紹介状をドジャーに差し出すと、本物かどうかを確かめ始めた。
失礼な奴だな…。まあ、無理もないか。12歳の男の子が国王陛下からの紹介状を持っているわけがないもんな。
「確かに…、失礼致しました。ヴェルナルド・フォン・グナイスト男爵様…」
「分かって頂けて何よりです」
紹介状を一通渡しにくるだけで、何でこんなにも苦労するんだ。もう疲れたよ…。
「あれが伝説の…」
「鬼の…」
俺の名前を聞いた周囲の冒険者達は、ひそひそと話し合っている。
はいはい、それはもういいから、聞き飽きたよ…。受付嬢は顔を青くしたまま、俯いて泣きそうだし…。…ちょっといじめ過ぎたかな?でも、これからは同じような対応はしない筈だ。
ああ言う対応をしていると言う事は、過去にも他の人に同じような対応をしているのだろう。俺が相手なら、それでもいいけど、他の一般人に同じ対応をして問題が起こってからでは遅いのだ。
忙しいのか面倒臭いのか知らないが、冒険者と一般人の間に立ってもらわなければ組織として意味がない。だから、認識を改めさせたと言う事だ。
…泣きたいのはこっちの方だよ…。
そう思っていたところに、先程の風魔法で王都中に鳴り響いた俺の声に騒ぎを聞き付けた警備兵達がやってきた。
「っ!これは、何の騒ぎだ!」
警備兵達の隊長らしき男が、ギルド内の惨状を見て説明を求めてきた。
「そこの男達が酔って喧嘩をしただけですよ」
ギルドマスターのドジャーは警備兵に説明した。
「嘘を吐くな!」
「本当ですよ…」
「お前は何者だ!?」
「申し遅れました。ヴェルナルド・フォン・グナイストと申します」
警備兵の隊長に不敵な笑みを浮かべて答える。
ギルドとの一件にカタをつけたのだ。ここは庇っておこうと思う。
「っ!失礼しました!ヴェルナルド男爵様」
隊長さんは、俺の顔を見て姿勢を正したようだ。心なしか、震えている気がする。
「いえ、いいですよ」
「それで、本当なのですか?」
「ええ。なので捕らえて少し頭を冷やしてあげて下さい」
「畏まりました。引き立てろ!」
「はっ!」
隊長は部下に命令した後、そそくさと退散して行った。
そんなに急いで出て行かなくてもいいのに…。何でだ?分からないけど、今は冒険者ギルドに来た目的を果たそうと思う。無駄に時間が掛かってしまった気がする。さっさと用事を済ませて、行動を起こそうと思う。