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62    凱旋 その2

 王都の周辺には凄い人だかりが出来ていた。俺達を歓迎する為に王都にいる人達がこぞって出迎えてくれているのだろう。


「凄い人ですわね」


 エマは唖然として人だかりを見る。


「それだけ反乱軍から解放された事が嬉しかったんじゃないかな?」

「「「…」」」


 え?無視?まだ、怒ってるの?俺、何もしてないのに…と思ってアレクをジト目で見やると…。


「そうだね。これもヴェルがいてくれたお蔭だよ。本当にヴェルには感謝しているよ」


 この野郎…、あんな事を引き起こしといてよく言えるな!どの口が言ってんだ!?ちょっと、トイレに行こうか?


「そうですね、ヴェル様のお陰ですわね」

「いや、そんな事はないよ」

「私は、何も出来ませんでしたわ…」


 エマは少し顔に影を落として答えた。


「俺の傍でずっと手伝ってくれてたじゃないか」

「それぐらいしか、出来ませんでしたわ…」

「そのちょっとした事が、俺がどれだけ救われてきたか分からない?」


 俺の言葉に『え?』と疑問を持ちつつ覗き込んでくる。


「エマが傍に居てくれたから一人じゃなかった。心が折れそうな時にエマの優しい笑顔にどれだけ元気付けられた事か…」

「そうでしょうか?」

「そうだよ、俺にはこんなにも優しい女神様が傍に居てくれたからこそ、戦えたんだ」


 エマは女神と聞いて顔を朱に染めていく。


「もう、ヴェル様はすぐそうやって…」

「ありがとう」


 エマが言い終わる前にお礼を言った。


「はい。ヴェル様」


 エマの顔に優しい笑顔が戻った。


「シルヴィもカナもありがとう」


 エマとの遣り取りに微笑ましい笑顔で見つめていたシルヴィとカナは今度は自分達にお礼を言われた事にびっくりしていた。


「いえ、お役に立てて良かったです」

「どう致しまして」


 シルヴィは屈託のない笑顔で言葉を返し、カナは自信満々に答える。

 その光景を見て、ちょっと笑えた。

 そんな中、王都の門を潜り、王城へと向かう道の途中で『アレックス王太子殿下万歳!』やら『シルヴィア王女殿下万歳』と聞こえてくる。アレクは凛々しく笑顔で手を振り、シルヴィも屈託のない笑顔でそれに答えた。ふと気付くと『ヴェルナルド男爵様万歳』と聞こえて『え?俺も』と困惑気味に頭を下げた。


「ヴェル君の勇名は王都でも鳴り響いているね」


 カナが、からかうように言う。


「やめて、恥ずかしいから…」


 少し顔を赤くして照れるとカナが更に続いて答える。


「ヴェル君、可愛い。」

「だからやめてって…」


 くそ、カナめ。後で覚えておきなさい。たっぷり可愛がってやる。

 そんな会話を聞いてアレク、シルヴィ、エマは笑っている。

 ぐぬぬ、こうなったら開き直ってやる。そうですぅ、僕が頑張ったからですぅ。皆の者、褒め称えよ。神の様に崇め奉れ…愚民ども…。

 ごめんなさい…調子に乗りました…。キャラじゃなかったです…。


「いや、本当にヴェルはよくやったよ」

「父様まで…」

「何だこいつ、照れてるのか?」

「っ!違います!」

「ははは。本当に自慢の息子だよ」

「…」


 セドリックまでからかうか…。もう、いいよ…。殺せ!殺してくれ!どうにでもしてくれ…。まさか、自分でくっ殺さんの気分を味わうとは思ってもいなかったぜ。

 そして、王城に到着後、謁見の間にて国王陛下と対面する。


「おお、アレックス、シルヴィアよくぞ戻った」

「父上、ご無事で何よりです」

「お父様、よかった…」


 アンドリュー国王陛下は、少しやつれていたが元気な様子を見てアレクは安堵した。シルヴィの目には涙が浮かんでいる。親子の感動の再開を見ると目頭が熱くなるね。


「ヴェルナルド男爵、此度は多大なる迷惑を掛けたな…」


 感動していると国王陛下は唐突に俺に話し掛けてきた。


「いえ、迷惑だなんて滅相もない。護衛の任を果たせて胸を撫で下ろしています」

「いやいや。貴殿の活躍は、この王宮にまで鳴り響いておるぞ」


 そんなに?まじで?


「光栄に御座います」

「うむ、此度の功績に必ず報いると約束しよう」

「いえ陛下、褒美が欲しくてやったわけではないのでいりませんよ」

「貴殿に褒美を出さずして、他の者に褒美は出せぬ」

「…畏まりました」


 受け取るしかないようだな。


「モンシア伯爵、グランネル子爵、クリューガー子爵、クゼル将軍、グナイスト騎士爵は、よくぞアレックス、シルヴィアを助け反乱を鎮圧した。その功績、忘れはせぬ。必ずや功績に見合う褒美で報いるであろう」

「「「「はっ、お褒めに預かり恐縮至極に存じます」」」」


 モンシア伯爵達は同時に答えた。タイミングいいいな。エマとカナみたいに声が揃ってるよ。練習でもしてたのか?


「エマ嬢、カナリエ嬢も大儀であった」

「恐縮至極に存じますわ」

「お褒めに預かり光栄に御座います」


 エマ、カナも国王陛下に声を掛けられ誇らしげだった。


「さてプレリュード殿、エマニエル夫人殿は反乱軍に加担した」

「「…」」


 その言葉に2人はビクついた。


「しかし、改心してベハインド公爵を捕らえた功績は大きい。よって此度は、お咎め無しとする」

「ははっ、有り難き幸せ」

「ご配慮、痛み入ります」

「それと、プレリュードにはボトムス伯爵の後を継ぐ事を認める」

「ははっ」


 プレリュードさんは歓喜ししていた。

 そりゃそうだ、当初の目的が達成出来たのだ。これ程、嬉しい事はないだろう。


「さて、ベハインド公爵とグスタフを此れへ」


 国王陛下は兵に告げた。その場にいた者達は、全員『ごくっ』と唾を飲んだ。程無くして、ベハインド公爵とグスタフは国王陛下の前に引き立てられた。


「何か申し開きはあるか?」

「「…」」


 国王陛下の重い声に2人は無言のままだった。敗軍の将、何も語らずか…。


「ベハインド公爵」


 国王陛下が呼ぶとベハインド公爵は微動だにせず無言のままだった。


「爵位、公爵領及び、財産を没収し、打ち首とする」


 ベハインド公爵は無言で頷き、牢に戻って行った。


「さて、グスタフ」


 グスタフは、一瞬体をびくつかせたが、覚悟を決めた様に無言だった。


「お主は、この反乱を起こした責任がある」

「…はい…。父上」

「しかし、最後まで加担せずに改心してベハインド公爵を止めようとした。その事を踏まえ、命までは取らぬ物とするが、王位継承権は剥奪とする」

「…はい…」


 グスタフは、そのまま部屋に戻り軟禁とされた。

 グスタフは当初、反乱を起こしたが己の行った責任の重さから、ベハインド公爵に辞めようと詰め掛けたらしい。しかし、内乱を起こした後だったので引き返せるはずもなく、ベハインド公爵によって軟禁されたそうだ。

 内乱をもっと前に辞めさせれば、このような事にはなっていなかった筈だ。これはグスタフの心の弱さが招いた事だ。その心の弱さに付け込まれて、ベハインド公爵の掌の上で転がされた。

 そう言う事らしい。


「その他の反乱に加担した者達に付いては追って沙汰をする物とする」


 国王陛下の言葉で今回の謁見は終了した。

 そして俺は、アレクとシルヴィにグスタフの事を任せた。改心し、己の罪に後悔の念と反省しているグスタフになら、危険はないだろうと判断したからだ。

 願わくば、3人元通りの仲のいい兄弟達になってもらいたいものだ。

 俺も今回の事が全て終わったら、一度実家に帰ろうと思う。家を長く開け過ぎた。家族は無事に保護されて匿われていると聞いたが、実際に会っていないからだ。

 きっと、マリア、クーリエ、エルは心配している事だろう。それにユリアとミリアをまだ一度も見ていなかったしな。エル…もうすぐ6歳になる頃か、俺ももうすぐ12歳。

 元気にしているかなと思いつつ、部屋に戻った。部屋に戻るや否や扉からノックが聞こえる。『どうぞ』と招き入れるとルチルさんだった。


「ヴェルナルド様!」


 ルチルは駆け寄ってきて俺の胸に飛び込んできた。


「っ!」


 え?ちょっとルチルさん、どうしたの?


「よかった…御無事なお顔を拝見できた事に安堵致しました」

「それは…、ありがとうございます」


 心配してくれた事に、正直感謝しているのだが、この状況は不味い…。今、シルヴィ達が部屋に来たら飛んでもない事になる。

 そう思っていると扉の方から『コンコン』とノックする音が聞こえた。全身に電流が走った様に身をビクつかせて『誰?』と言葉を発すると…、


「ヴェル様、よろしいですか?」

「入りますわよ?」

「ヴェル君。入るよ?」


 やっぱり、シルヴィ達だった!


「いや、ちょっと待って…」


 しかし、俺の言葉を待たずしてシルヴィ達は部屋に入って来ていた。シルヴィ、エマ、カナは部屋の中の光景に唖然としていた。それもその筈…、ルチルさんと俺が抱き合っているように見えるからだ。


「「「ヴェル様「君」…」」」


 3人は声を揃えて俺の名を呼ぶ。

 いっ、いや、ちょっと待って君達。これは、誤解なのだよ。お願い…、そんな怖い顔をしないで…。シルヴィ、レイピアを鞘に仕舞って…。エマ、その槍まだ持ってたの?カナ、魔力総量上げたね…。


「「「正座!」」」

「はい…。」


 それから王宮に悲痛な悲鳴が木霊しつつ、大説教会パート2が始まるのだった。もう、こんな生活は嫌だ…。







 その日の夜、久し振りのふかふかのベットに横になると不思議と直ぐに眠りに落ちた。

 そして、久し振りに夢を見た。反乱が起こっている最中は、夢を見る事はなかった。しかし、王都に戻って温かいふかふかのベットで眠る事で、気が抜けたのか今日は夢を見ている。

 夢はアレク、シルヴィ、グスタフが笑い合っている夢だった。仲直り出来たんだな…、よかった。

 そんな夢だった。

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