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55    交渉

 砦の防衛戦に勝利し、セドリックと再開して南方制圧に向かう事に決まった。明日に備えて早めに就寝しようと思った頃、セドリックが話があると部屋に訪れたのだ。


「それで、父様。話とは?」

「ん?いや、何…お前の事が心配になってな…」


 セドリックは鼻をぽりぽり掻きながら答える。それが本題じゃないのだろう。


「僕の事は心配しなくても大丈夫ですよ」

「お前は、本当に立派になったな」

「そうですか?」

「ああ。家にいた時から、こいつは何かを成すために生まれて来たんじゃないかと思うほどだ」


 まじで?そう思っていたとは驚きだった。


「ありがとうございます。父様に褒められて嬉しく思います」

「でも、無理はしなくていいんだぞ?辛かったら愚痴を零して泣き喚いたっていいんだぞ?」

「…。はい、父様」


 正直、辛くない訳ない。11歳の男の子が戦場で軍の行動を決めて行動したり、人の命を奪ったりしているのだ。普通ではない。

 前世の記憶があったから、俺は立っていられるんだ。でも、ここで泣いたりしたら、今までの苦労が無駄になるんじゃないか?もう立ち上がれないんじゃないかと思ってしまう。だからこそ、今泣く訳にはいかなかった。

 セドリックは、これが言いたかったのか。


「大丈夫ですよ…。僕は大丈夫、それに父様が来てくれたんです。こんなに心強い事はありません」


 心配してくれた事に感謝しつつ、胸を張って言う事ができた。いつも言葉に出す事は無かったが、俺の心の中を察してくれたのだろう。親とはありがたい存在だと改めて思う。


「…そうか…。お前は本当に強くなったな」

「父様の血を引いていますから」

「はは、違いないな!」


 セドリックの言葉に少し照れてしまう。なので冗談で答えると、セドリックも胸を張って冗談を言う。きっとセドリックも気恥ずかしいのだろう。男親との真剣な会話は何やらこう変な空気になってしまう。


「ん?誰?」


 セドリックとの会話に寝ていた筈のユイが起きてきた。


「起こしちゃったか?ごめんなユイ」

「その子がユイちゃんか?」


 セドリックは初めて見るユイに優しい笑顔を向けていた。


「…」


 しかし、ユイはセドリックの事を知らないのでただ茫然と見つめるだけだった。


「ユイ、この人は俺の父様だ。ユイの父様って事だな」

「父様?」

「そうだぞ、父様だ。僕はセドリックって言うんだ。よろしくな」


 そう言うとセドリックは両手を広げて胸に飛び込んで来なさいとポーズを取った。


「ん。よろしく」


 しかし、ユイはセドリックに挨拶をして、恥ずかしいのか俺の後ろに隠れた。


「ははは、嫌われちゃったかな?」


 ユイが飛び込んで来ないのに少し落胆気味だった。もし、そこでユイがセドリックに飛び込んで行ったとしたら複雑な気持ちになっちゃうところだったよ。


「いえ、初めて父様にお会いして恥ずかしいんですよ」

「そっか、起こしちゃってごめんな。じゃ、僕は行くよ」


 ユイを起こした事に悪いと思って立ち去ろうとしている。


「父様、今日は一緒に寝ませんか?」

「いいのか?」


 勿論、いいさ。俺達は家族なんだ。それにセドリックとやっと再開できたのだ。今日は一緒に寝ようと思う。


「何を言っているんですか?僕たちは家族じゃないですか?」

「そうだな。…ところでヴェル?」

「何ですか?父様」


 一緒に寝る事に照れて話題を変えてきたのだろうか?


「いつから、僕から俺に乗り換えたんだ?」

「っ!、早く寝て下さい!」


 思わず照れちゃったよ。少し顔が赤くなっていっているのが分かる。男親は何でこう、からかいたがるのだろうかと思ってしまう。


「ははは、お前は本当に立派になった。…何だ…、その…、誇りに思うよ」

「父様…」


 これを言うのに恥ずかしくてからかったのか。少し、納得した。

 もし、俺に息子がいて立場が逆だったら同じ事をしたかもしれない。だって、恥ずかしいだろ?面と向かってお前を誇りに思う何てセリフを言うには抵抗があるからだ。


「おやすみ、ヴェル、ユイちゃん」

「おやすみなさい、父様」

「ん。おやすみ、父様」


 こうして、変な空気を残しつつ、就寝したのだった。






 翌日、南方攻略を開始する前に砦の強化に努めようと思う。

 攻略に向かうにも、準備もあるからな。砦強化に一週間を要し、その細部に至るまで手を加えたのである。

 その結果、俺が造り出した砦は巨大な一大要塞となっていた。東西南北に広がる要塞の距離は2kmになり難攻不落と言っても過言ではないだろう。南方攻略に向かっている間に、攻め落とされて負けました…何て事になったら目も当てられないからな…。

 城塞の名前をジャスティスと名付ける事にした。俺達は正義の元に行動しているからこそ、ジャスティスと名付けた。

 そして、此処を拠点として活動する為でもある。だからこそ、砦を強固にして要塞にする必要があった。

 守備を堅くしてアレク、シルヴィ、ユイ、フレイム、モンシア伯爵、クリューガー子爵を守備に残し、南方攻略に10万の兵とグランネル子爵、クゼル将軍、セドリック、エマ、カナを連れて出陣した。






 南方攻略を開始して半月が経過した。

 当初の目的より早く、既に2つの領土は攻略した。俺達が姿を現したら直ぐに降伏したからだ。これで、後2つの領土を攻略したら南方は完全に制圧できる。

 士気も高く、このままの勢いで攻略しようとするが、南方に広がる領土の3つ目に苦戦した。

 相手はゴズウェル男爵率いる5万の軍だ。領土はそれ程広くはないが、兎に角守りが堅い。仕方がないので戦い方を変更する事にした。


「これでよろしいか?」

「ええ、これで勝てるでしょう。ちょっと時間が掛かりますがね…」


 そう言い終えて、広域に魔法を発動する。

 水属性と風属性の混合魔法で天候を操作する。熱帯地方に降り注ぐスコールの様な勢いで大雨が降り注いでいく。

 そう、水攻めだ。

 ゴズウェル男爵が籠城するマラガッハ城塞は沼地のような所に建てられ、その周囲には大小様々な沼地が存在する。攻める時は兵が足を取られて進軍速度が遅くなり、弓と魔法の格好の餌食となる。

 大軍で攻めても進軍速度が抑えられれば戦死者が増える一方なので、城塞の周囲1kmに堰を築き、水攻めを開始する事にした。小一時間程でマラガッハ城塞は水深3メートルはあろうか水の中に沈んで全滅した。

 やっべ、遣り過ぎた…。


「改めて婿殿の魔法をみると凄いですな」

「あっと言う間に城塞が水の底なんて見た事がないよ」


 グランネル子爵とカナは呆気に取られていた。


「多くの命を奪ってしまいましたけどね…」


 やってしまった後悔と仕方がなかったと言う気持ちが鬩ぎ合う。


「戦争だからな…仕方がない事だ」


 セドリックは俺を気遣うように答えた。


「それにしても婿殿が敵でなくてよかったと改めて思うぞ」

「婿殿はいつも突拍子もない魔法を使いますな」


 グランネル子爵、クゼル将軍は心底味方でよかったと思っているようだ。俺だってこんな攻め方されたらやだなと思う。


「とりあえずゴズウェル男爵領内はこれで制圧しましたね」

「うむ」

「後は、この城塞を使える状態に復元して領内の治安維持に努めてから最後の攻略地、ボトムス伯爵領ですね」

「そうだの…」


 ボトムス伯爵と聞いて眉を顰めるグランネル子爵


「どうしました?グランネル子爵」

「…うむ…」


 えらく歯切れが悪い。こんなグランネル子爵は珍しいな。


「エドワウと儂は友なのじゃ…。いくら戦争とは言え、友と戦う事になろうとはな…」

「そう…ですか…、戦う気が失せましたか?」


 友人と戦えないと答えたらどうしようかなと考える。俺だけで何とかするしかないが、できるだろうか?と不安になっているとグランネル子爵は答えた。


「いや、それとこれとは話は別じゃ。戦わない事に越した事はないが国王陛下の為、引いては国の為じゃ。致し方がないと言ったところかの…」

「それを聞いて安心しました。」


 その場はそれ以上の会話は無かった。

 俺は、幕舎に戻って考える。グランネル子爵は友であるボトムス伯爵と戦いたくない。ボトムス伯爵も同じ考えであろう。だから、ゴズウェル男爵との戦いでも援軍を出さなかった。

 説得すれば味方になるかもしれない…、だが失敗すれば戦いは回避できなくなる。しかし、このまま手を拱いている訳にはいかない。なら、説得できる可能性を信じて進もうと思う。


 翌日、グランネル子爵とエマ、カナにゴズウェル男爵領を任せて俺はクゼル将軍とセドリックと共に2万の兵を連れてボトムス領を目指し進軍する。

 途中、使者を送って会談をしようと持ちかけた。国境付近に陣取り、白旗を掲げてボトムス伯爵を待つ事にした。もし、ボトムス伯爵が攻めようとしていても白旗を上げている敵に攻撃を仕掛けるのは体裁が許さないだろうと思っての行動だ。

 3日遅れて、ボトムス伯爵は3万の兵を引き連れて会談に参加すべく姿を現した。


「初めまして、ヴェルナルド・フォン・グナイスト男爵です。ボトムス伯爵様に於かれましては、ご健勝で何よりです」

「マルクス・フォン・モンシアの嫡子、クゼル・フォン・モンシアと申します」

「セドリック・フォン・グナイスト騎士爵です。以後、お見知りおきを…」


 俺達は貴族風の挨拶を済ませる。下手に出ているのは、俺達よりも階級が高いからだ。


「エドワウ・フォン・ボトムス伯爵だ、勇名は聞き及んでいる。して用向きは何だ?」

「ボトムス伯爵様をこちら側の陣容に迎え入れる為の説得に御座います」

「…そうか…」


 ボトムス伯爵は冷静だった。恐らく、要件を察していたのだろう。


「何故、伯爵は反乱軍に加担を?」

「…」


 暫し、沈黙が訪れた。


「跡目争いの事で反乱に加担した…。違いますか?」

「っ!どうしてそれを!?」


 俺はニヤリと笑みを零し、続けた。


「伯爵の嫡男プレリュードさんの奥さんは…失礼、正妻はベハインド公爵の次女エマニエルさんでしたね。そして側室にはクロード商会の長女であったとお聞きしています」

「…」


 ボトムス伯爵は俺の言葉に静かに耳を傾ける。


「プレリュードさんはとても優秀で軍の役職に付いているとお聞きします。しかし弟のミハイルさんは特に才のない無能だと聞き及んでいます」


 ボトムス伯爵はミハイルが馬鹿にされたと思い、鋭い視線を叩きつけている。


「失礼、実際に交流した事がないので伝え聞いた事を、そのまま申しました」

「…」


 謝罪をするとボトムス伯爵は再び俺の言葉に耳を傾ける。


「伯爵の後を継ぐのはプレリュードさんで決まりだったが、ベハインド公爵が反旗を翻した為に状況が変わった。反乱が成功すれば良かったが完全に失敗したわけでもないこの状況下では先が見えない。もしこのまま失敗すればベハインド侯爵の次女を正妻に持つプレリュードさんは伯爵の跡を継ぐ事ができない。勿論、他の方が後を継ぐ事になるでしょうが、弟のミハイルさんに後を継がせるには躊躇いがあり、平民から嫁いで来た側室の方の子には継がせられない」

「…」


 ボトムス伯爵は眉間に眉を寄せて険しい顔をしている。図星か…。


「なので此処は忠義に反する事であってもベハインド公爵に従うしかなかった。しかし、兵を出す事に迷って伯爵領に籠っている。違いますか?」

「荒唐無稽な話だな…、確証がない話だ」


 そう言って、その場を立ち去ろうとするが、ある二人の人物が突然幕舎に入って来て動きを止めた。


「プレリュード、エマニエル。どうして此処に!?」

「お義父様、今のお話は本当ですか?」

「父上、正直に仰って下さい」


 ボトムス伯爵の問いを無視し2人は尋ねる。


「知らぬ、何の事だ?」

「お義父様、とぼけないで下さいませ!」

「父上、私が継ぐ継げないの話ではありません。これは国家の転覆を図る者達に加担すれば我が家の家名に関わります事ですよ」

「…」


 ボトムス伯爵は黙り込む。そして、プレリュードさん、エマニエルさんは真剣に問い詰める。


「ボトムス伯爵…」


 俺は重い声で語りかける。その声に、その場にいた全員が注目する。


「要はプレリュードさんが伯爵の後を継げればいいのでしょう?」

「…そうだ」

「なら話は早い、プレリュードさんがエマニエル夫人と共にこちら側に付けばいいのです」

「っ!」

「プレリュードさんが反乱軍鎮圧に武勲を挙げれば文句を言う奴はいないでしょう。これはあくまでプレリュードさんが我々に付いた場合の話ですが…。ベハインド公爵にあくまで加担される様なら、我々は容赦しませんよ?そうなれば、爵位を継ぐ以前の問題だ」


 深く静かに念を押す様にボトムス伯爵、プレリュードさん、エマニエルさんを威圧する。3人は目を見合わせ決意した。


「…分かった。貴殿の指示に従おう」

「交渉成立ですね」


 俺はボトムス伯爵と握手を交わした。


「それでは早速、兵を出して貰いましょうかね」

「分かった。兵の準備はいつでも出来ている」

「話が早い。でしたらボトムス伯爵は伯爵領内の守備、プレリュードさんとエマニエルさんは兵を率いて我々と合流してもらいます」

「異存ない」

「了解した」

「承知いたしました」


 3人の承諾を得て、早速元ゴズウェル男爵領に戻った。


「只今戻りました」

「おお婿殿、流石ですな。エドワウを説き伏せるとは、戦わずに済んで胸を撫で下ろしましたわい」

「いえ、ボトムス伯爵は話の分かる方でしたから」


 俺はグランネル子爵、エマ、カナに事情を説明した。


「そう言う事か…。エドワウ…苦労しているのだな」

「グランネル子爵、お久しぶりです。此の度はご迷惑をお掛けしました、我が父に成り代わりお詫び申し上げます」


 プレリュードさんは膝を付いて頭を下げる。エマニエル夫人もそれに続き頭を下げる。


「いや、今回の事は致し方ない事じゃ。心中お察ししますぞ」

「寛大なお言葉、痛み入ります」

「さあ、お立ち下され」

「ありがとうございます」


 これで南方制圧は完了した。南方の治安維持をボトムス伯爵に任せて、俺達はプレリュードさんの率いて来た10万の兵と共に、ジャスティス城塞に帰還した。

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