6 修行
師匠と出会い、本格的に魔法の修行が開始された。
生活サイクルも、午前中は母様との魔法の練習、午後から師匠と魔法の修行に変わっていった。
そして今日も昼から師匠に魔法の指導をしてもらっている。
「そう、もっとイメージして。魔力に頼り過ぎないでイメージする事に専念して。」
魔法とはイメージが大事なのだそうだ。魔力も大事なのだが、どうやら俺は魔力総量が大き過ぎるから魔力に頼りすぎてイメージ力が弱いそうだ。
「それにしても、君は優秀だね。」
「ありがとうございます、師匠。」
「魔法の才能はある。魔力総量も申し分ない。将来が楽しみだけど、問題があるとすればイメージ力かな?」
そりゃ、前世でも魔法なんてなかったし、想像力も乏しかったのは事実だ。仕方がない…。
「そうですか…。」
「まあ、自分で色々考えて試行錯誤するのも修行の内だよ。がんばって。」
「はい、師匠。」
イメージ力か…。
そう言えば、アニメの魔法使いとかは、すごい魔法をばんばん思いついたりして成功させているな。前世で子供の頃の俺は、アニメの中の強い魔法使いに憧れてたな…。
あの魔法を試してみるか。
そう思って思い浮かべる。
使う属性は水属性と風属性。水属性で大気中の水分を急速に冷却して風属性で一気に拡散させるイメージだ。
「氷点下の風!」
魔法を発動させると俺の前方100m四方が『パキパキ』と音を鳴らして氷ついた。
「おお、成功だ!」
発動した魔法が成功した事に思わず叫ぶ。
「すごい威力だね。普通はここまで凍らないよ。」
「そうなんですか?」
「ああ、使用魔力が多ければ威力も補正されて強力になっていくから。」
つまり、あれか?想像するのに集中しすぎて、魔力操作が出来ていなかったと言う事か。ただ敵を攻撃するだけなら、威力はあればあるだけいいけど、加減して魔法を使用するにはまだまだ修行不足と言う事か…。
「威力が強いだけなら魔力がある魔法使いなら誰でも出来る。一人で多数の敵と戦うならそれでもいい。でも魔法使いってそれだけじゃないでしょ?使用する魔法は時と場所を選ぶ必要もあるし、加減しなきゃいけない時もある。」
「そうですね。まだまだ甘かったです。」
「いろいろと言ったけど、これで中級は合格だ。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
師匠との出会いから半年…、これでようやく中級魔法まで扱える様になった。師匠の魔法指導は、親切丁寧に教えてくれる。いい師匠に出会えてよかった。『偉大な大魔法使い』と自分で言うような人だけど、師匠のような人を目指そうと思う。
「そう言えば、師匠。」
「何だい?」
「魔法使いって、中、遠距離で戦いますよね?」
「基本はそうだね。」
「じゃ、近接戦闘になったらどうするんです?」
魔法使いの戦いは中遠距離で戦うのが一般的なのだ。でも、近接戦闘を強いられる遭遇戦や不意を突かれた場合は不利になってしまう。
「肉体強化を使う。」
肉体強化魔法?それってあれか?転生物でよくあるチートと言われる、アレなのか?
「どれぐらい強くなるんですか?」
「肉体の強さと使用魔力量にもよるかな。」
「つまり、体を鍛えれば鍛えるほど効果があると?」
「そういう事だね。でも体を鍛えるのも限界があるけどね。」
「副作用とかありますか?」
「限界まで肉体強化して戦い続けると体が悲鳴をあげる。」
魔法だけ習得してもだめって事か…。本当に強くなるには体を鍛える必要があるな。不意を突かれて、行動出来ずに死にたくないしな。
「鍛えていない体で限界まで強化したら持続時間も短くなります?」
「そうだね、さらに限界を超えようとすると肉体が千切れるかもね。」
あれか?爆肉○体か?黒い眼鏡をかけた超がつくほどがたいのいいおっさんが、100%を超えた歪で灰になるような感じのアレか?
「怖いな。」
「魔法とは万能でもあるけれど、何事も限度ってあると思うよ。」
「ですよね…。」
明日からは体も鍛えておこう…。
中級合格から一ケ月が経ち、上級魔法の修行を開始していた。師匠の魔法指導のお陰で、魔法の腕前もめきめきと上達していくのがわかる。
今日は前々から考えていた攻撃魔法を試すべくいつもの場所で師匠と会う。
「いきますよ。」
「いつでもいいよ。」
目を閉じ、両手に魔力を込める。そして、イメージする。寒く、冷たく、凍り付くようなイメージ。
(もっとだ。全てを完全に凍り付くように…。細胞の一つ一つに至るまで、全てを凍り付かせるように。)
時間をかけて入念にイメージする。
「極寒!」
目標目掛けて魔法を発動すると一瞬で氷の世界と化した。
「おお!すごいじゃないか、ヴェル。」
「やりました、師匠!」
「威力、効果範囲、共に上級の魔法だ。」
氷点下の風に成功してから、ずっと考えていた魔法だ。氷点下の風を更に冷却したら、もっと即効性の威力がある魔法になるんじゃないかと思った。
しかし、これで上級魔法の入り口のにまでこれた。他の魔法も同様に出来るだろう。
それにしても…寒い…。中級以降の魔法は、時と場所を選ばないとな。自分も危なくなっちゃう…。
「ところで、師匠。」
「何だい?ヴェル。」
「召喚魔法については、まだ何も教わっていませんが?」
攻撃魔法、治癒魔法、結界魔法については一通り学んだが、召喚魔法に関してはまだ一言も聞いていなかった。
一通り学んだと言っても、まだ上級の知識までだ。禁術は、まだまだ扱うには危ないと言う事らしい。だから、召喚魔法を聞いてみる事にした。
「召喚魔法は、精霊召喚と魔獣召喚があるのは知っているね?」
「はい、師匠。」
「精霊召喚は精霊、魔獣召喚は魔獣と契約しなければ、召喚する事はできない。」
やっぱり契約が必要なのか。まあ、そうだろうな。勝手に呼んで命令しても聞かないじゃ、意味が無い。
「契約するには、どうしたらいいんですか?」
「精霊は、世界各地にある魔力密度の高い場所にいると思う。契約するには、自分の力を証明する必要がある。」
「なるほど…。例えば、火の精霊は火属性の魔法を使って、力を証明するって事ですか?」
「そう。魔獣召喚は魔獣と戦かって勝つか説得して、納得してくれれば契約を行なえる。どちらも契約さえしてしまえば、いつでも呼び出せるようになるよ。」
いつでも呼び出せるのは便利だな。使い魔として、色々出来るかもしれない。ただ、魔法書には書かれていないところを見ると、契約は難しいのかもしれない。
いずれ契約出来るようになりたいな。
「ふむ、母様の持っていた魔法書には、詳しい原理が書かれていなかったのですが?」
「それは、召喚魔法を扱える魔法使いがいなくなって、廃れていったんじゃないかな?完全には、無くなってはいないと思うけど。」
やっぱり使われていないのか…。いや、扱える魔法使いが秘匿、もしくは少ないか、いないのかなのだろう。
「わかりました。」
「召喚魔法に興味があるなら、いずれ教えるよ。ただ契約を行うなら、慎重に考えてから行った方がいいだろう。」
「何故です?」
「自分に余る力は暴走する…。自分の力量と契約相手の力量を見誤ってはいけないよ。」
「はい、師匠。」
それよりも今は、先に習得出来る魔法から修行していこうと思う。未来に待ち受けているかもしれない、あの死の夢を回避する為に…。
あれ?そう言えば最近あの夢を見てないな。何でだ?師匠と出会ってから見てない気がする。
もしかして、未来が変わった?それとも死の未来に向けて全力疾走中?よくわからないが、夢を見なくなった事だけは分かる。
今はそれでよしとしておこう…。