50 地獄の始まり
ストレス発散を名目に、シルヴィ、エマ、カナ、ユイに色々と協力してもらった俺は見事に復活した。
復活したからには、頼まれていた案件を片付けようと思う。クゼルさんに頼まれていた案件とは、伯爵軍に所属する500人の魔法士達を鍛え直す事だ。
やる気は十分、ヤル気も十分だ。徹底的に鍛え直してやります。早速、行動を開始すべく、伯爵軍魔法士隊500人を招集した。
「よく集まってくれた。これからお前達を、ここにいるヴェルナルド殿に魔法士として鍛えてもらう事にした。これは命令である!拒否は認めん!さ、婿殿よろしくお願いします」
「わかりました。では早速、貴方方の実力を見せてもらいましょう」
まずは、此処にいる魔法士達500人の実力を計り、俺との実力差を思い知らしめてから徹底的に心を折る事から始める。
魔法が使えるだけで他の兵士達を見下しているとクゼルさんは言っていた。確かに、魔法は万能であり不可能はない。しかし、それは魔法が凄いだけであって魔法が使えない人達を見下していいわけではない。魔法が使えなくても凄い人達はいる。
それは…、
エルとかエルとかエルとかエルとかユリアとかミリアとかエルヴィスの事だ!!
魔法が使えないだけで…、見下す!?あんなにもヴェル兄様、ヴェル兄様と愛くるしくも愛くるしい、まさに俺の可愛い天使のエルヴィスを見下すだと!?あっちゃぁ、ならねぇ!
そんな事は!絶対に!あってはならないこの世の理だ!だから…、徹底的に心を折る。徹底的に叩き潰す。自分が如何に、惨めでちっぽけな人間であると思い知らしめてやらなければならない。
「がしかし、その前に聞いておきたい事がある」
前置きをしてから、魔法士達に問いかける。
「魔法が使えない人達をどう思う?」
俺の気持ちを悟られぬように極めて落ち着いた声で魔法士達に告げた。
「道を開けろと言いたいですな」
魔法士達の隊長クラスであろう魔法士が答えた。
「どう言う意味だ?」
「そうですな。例えて言うなら、魔獣の群れが目前に迫っているのに、わざわざぶつかりに来る馬鹿はいないでしょう。だから、私達の前に立つなと言う意味です。ヴェルナルド男爵ならお判りでしょう?」
「つまりは…、俺達のような強い魔法使いの前に平伏せと?」
「その通りです。流石はヴェルナルド男爵ですな」
まるで、ゴブリンのような下等生物扱いだな。魔法が使えない人間は、下等生物か…。俺の可愛い愛くるしいエルヴィス、そしてまだ見ぬ愛しい妹達のユリア、ミリアを下等生物だと言うのか?
「ふっふっふっ、はっはっはっ、あーはっはっはっ!」
「「「「「ははははは。」」」」」
俺の悪の笑い三段活用に続いて笑い始める魔法士達。
「爆風!」
爆音と共に笑っていた筈の目の前にいた魔法士達が、綺麗な放物線を描きながら宙を飛ぶ。
「なっ!何をなさる!?ヴェルナルド男爵!」
「じゃかましいわ!この糞ボケ共が!ゴミが!カス共が!寝言は寝てから言え!」
「聞き捨てなりませんぞ!正気か!?」
「五月蠅いぞ!この三流にもならん○カス魔法士共が!」
「なっ!三流以下ですと!?しかも、○カスですと!?許せん!謝罪をしろ!」
「ふんっ。10歳の男の子が放った魔法さえ防ぐ事ができん、うじ虫風情が何を寝ぼけた事を…」
売り言葉に買い言葉。俺の挑発にまんまと乗せられる魔法士達を見て、少し…すこぉし愉快に思える。
「ぐぬぬ。決闘だ!ヴェルナルド男爵に決闘を申し込む!」
「いいだろう!だが、俺に負けたらどうなるか分かっているんだろうな?○カス共?」
「何でも言う事聞いてやる!その代わり、私が勝ったら土下座しろ!いや、裸で陣内を走り回ってから土下座してもらおう」
「いいだろう。だけど…いいのか?俺は龍を屠りし者だぞ?お前一人で勝てると思っているのか?あ?」
「くっ…」
「いいぜ。お仲間の○カス共全員でかかって来ても?」
「「「「「上等だ!やってやるよ!」」」」」
上等だって…お前等どこのマフィアだよ…。これだから、馬鹿は困る。
怒りに我を忘れた魔法士達は一斉に詠唱を唱えだす。
唇の動きを見て、発動しようとしている魔法を判別する。それぞれの得意とする属性魔法のようだ。そして、クラスは中級魔法。対人戦を行う場合、中級から入るのは定番中の定番だ。決して、悪くはない。
もしここで、対人戦の初手に上級魔法をを発動しようとすれば即座に潰されただろう。何故なら、上級魔法は威力がある。相手側も、そんな威力のある魔法を喰らいたくない。そこで取る方法は2つ。結界魔法で防ぐか攻撃魔法で詠唱を中断、或いは破棄させる。
俺も、定石に従って潰しにかかるだろう。その点、怒りに我を忘れているとは言え伯爵軍の魔法士である。そんな愚を犯さなかった。これには及第点を与えてもいいだろう。しかし、…相手が悪かった。
今、伯爵軍の魔法士達500人が相手をしているのは『龍を屠りし者』と呼ばれている俺なのだ。実力が拮抗している相手なら初級魔法を、奇襲するなら中級魔法がベストだろう。しかし、それは詠唱しなければ魔法が使えない魔法使いに対しての事なのだ。詠唱なしに上級魔法、禁術魔法を即座に放てる俺相手では意味をなさない。
だから、俺は動かない。魔法士達の魔力総量、攻撃魔法の威力予想を見る為に…。
「爆発!」
「氷柱砲弾!」
「爆風!」
「岩石落下!」
詠唱を終えた魔法士達は、親の仇を打たんばかりに次々と魔法を発動する。
その瞬間に俺は動いた。
「光の領域!」
結界を張った俺に次々と魔法が炸裂する。あまりに大量の魔法が炸裂したからか、周囲に土煙が巻き起こる。
「ざまあ見やがれ!」
「ガキが吐け上がるからだ!
「俺達を馬鹿にした報いだ!」
魔法が炸裂した事を確認した魔法士達は、ここぞとばかりに捲し立てて罵倒する。
思った通りだ。こいつらの性根は腐っている。ざまあ見やがれ?ガキが吐け上がる?俺達を馬鹿にした報い?笑ってしまう。お前達が、今まで何をして来たと言うのだ?ただ、魔法が使えると言うだけで魔法が使えない人達を馬鹿にし、愚弄する。
恐らく、どこぞの貴族なのだろう。貴族であるが故、力の弱い者達に力を振りかざし、己の矮小な自尊心を押し付ける。傲慢な貴族である事を裏付けさせる言葉だった。俺の最も嫌いな人種だ。
「馬鹿な…。」
「そんな…。」
土煙が晴れて、俺の姿を視認したのだろうか魔法士達の驚きの呟きが聞こえる。
何故なら、俺は傷一つ負っていなかったからだ。それどころか、結界を張った場所から一歩も動いていない。
魔力総量はそこそこあった。威力も申し分ない。ただ、それは一般の魔法使いに比べればの話だ。修行を怠っていたのだろう。いや、修行はしていたのかもしれないが、魔法の練度が低い。
これでは到底、俺に傷一つ付ける事はできないだろう。もし、魔法に貪欲な魔法使いであったならば、結果は違ったのかもしれない。毎日、入念な瞑想、入念な魔力操作をひたすらに行い、魔法の精度を少しでも向上させようと奮起、努力していれば結果は違っていただろう。
こいつらには足りないものがある。それは…、ハングリー精神。アスリートや格闘家もハングリー精神がなければ、強くはならない。だから、心を入れ替えさせる。徹底的に精神を砕き、肉体的にも精神的にも研ぎ澄まされた魔法使いに生まれ変えさせて見せる。
「終わりか?」
「なっ、何?」
「それで終わりなのか?」
「くっ!まだまだ」
再び詠唱を始めて攻撃魔法を繰り出してくるが、結果は変わらない。
「威力が弱い!発射速度も遅い!何だこれは!?魔法はこうやって使うんだ!爆風!」
爆風を発動して次々と魔法士達を吹き飛ばしていく。結界を張って防ごうとしているが、俺の魔法は止まらない。
「結界の強度があまい!氷柱砲弾!」
結界のあまい所を瞬時に見極め、氷柱砲弾で貫いて破壊する。
俺が放つ氷柱砲弾は強度のあまい結界を見事に貫き、魔法士達を直撃する。その後も爆風、氷柱砲弾を命中させて魔法士達の数を減らしていく。
すると、攻撃を担当していた魔法士が耐えかねてか上級魔法を詠唱して発動した。しかし、俺の張る中級の結界は洗練された強固なもの。この程度のの魔法士の攻撃魔法には微動だにしない。
「馬鹿な…上級の攻撃魔法だぞ!」
「だから、何度も言わせんな!威力が弱い!氷柱砲弾!」
伯爵軍500人の魔法士達を力技でねじ伏せて、漸く実力差を理解させた。
「参りました…。」
俺の魔法使いとしての実力を十分に理解したのか、素直に負けを認めてくる魔法士達。
「爆風!」
しかし、俺は攻撃魔法を放ち続ける。
「なっ何を!私達は負けを…」
「爆風!」
負けを認めている魔法士達に容赦なく攻撃を繰り出す。これは決闘だ。本来、決闘とは己の信念を貫き通すために命を懸けて行うものだ。それを勘違いしているのか、負けを認めただけで信念を折るほどの弱い意思だったのか?それでは魔法使いとして、いや、人間の成長は促せない。
それに…決闘を見ている筈のクゼルさんも止めに入らないしな。止めに入らない以上、攻撃を止めるわけにはいかない。
気絶している魔法士達を範囲回復魔法で傷を癒し、意識を取り戻させて決闘を再開する。
「我々は負けを認めています。ヴェルナルド男爵様の言葉に従いますからどうか…。」
「やかましい!勘違いしてるんじゃない!これは決闘だろうが!決闘は命を懸けて行うものだ。それを、ただ罵倒されただけで決闘なんて言ってるんじゃない!」
「くっ…」
「お前達は500人いてこの様だ。たった一人の魔法使い、それも11歳の子供ににさえ勝てない屑共だ!調子に乗ってんじゃねえ!」
「…。」
俺に負けた事を悔しがっている様子だが、そんなの関係ない。再び魔法を放とうと全身に魔力を漲らせる。体からドス黒い魔力のオーラが漂い始めた時、クゼルさんが止めに入った。
「婿殿!そこまで!そこまでだ!もうお止めください。」
クゼルさんが止めに入った事で、安堵する魔法士達。
「…分かりました。クゼルさんの顔を立てて決闘はこれまでとします。」
そして、全身から力が抜けたのか地面に倒れ込む魔法士達。伯爵軍の魔法士としてのプライドは、もう既に感じられなかった。プライドは砕いてやったが、心まで砕いていない。だから、ここで終わらない。
たかが魔法戦で負けただけでプライドを挫かれる魔法士は伯爵軍にいらない。何故なら、今は反乱が起こっているのだ。それでは勝てない。生き残れないと思う。
「確かお前達は言ったな?何でも言う事を聞いてやると」
「それは、言葉の文…」
「言葉の文?ふざけるな!決闘に言葉の文を持ち込むな!」
「くっ…」
「俺の言葉に絶対服従だ!分かったな?」
「…」
「分かったのか?」
俺の言葉に返事がなかったので、全身から魔力のオーラを漂わせながら威圧して問い直す。
「っ!わっ、分かりました。従います」
その言葉にニヤリと黒い笑顔を浮かべた。その笑顔を見て、これから何が始まるのか予想してだろうかがくがくと震えだす魔法士達。
「では…これより魔法実技を始める。覚悟しろ…」
それを聞いた魔法士達の顔から血の気がなくなった。
決闘をした時のように、魔法を行使しながら魔法実技を始めた。魔法士達は何度も傷付けられて気を失うが、直ぐに回復して再び攻撃魔法を受けて気を失う。
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どれぐらい繰り返しただろうか?既に日は暮れ、魔法士達の瞳から光が消えていた。それでも魔法実技は終わらない。徹底的に心を折り、俺を絶対的な上位者であり反攻する事が実に愚かな事であると理解させた時、漸く魔法実技は終わりを告げた。
「今日はここまでとする。」
「…。」
魔法士達の返事はなかった。いや、返事する気力も生きている実感もなかったから言葉が出てこなかった。
「続きは明日だ」
バタバタバタ。
魔法士達の倒れ込む音だった。




