48 考える
目が覚めると翌日だった。
どうやら気を失っていたらしい。アレク達と合流して、ほっとしたからか、気が抜けて気絶したらしい。
「ヴェル。気付いたか?」
「ああ、おはよう。アレク」
俺がアレクに挨拶した瞬間に体に衝撃が走った。シルヴィ、エマ、カナが、俺に抱き付いて来たからだ。
「痛いよ。シルヴィ、エマ、カナ。」
「よかった。ヴェル様が無事で。」
「本当によかったですわ。」
「ヴェル君…。」
よく見るとシルヴィ達は目に涙を浮かべていた。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れて寝ちゃってただけだから…。」
「よかった。」
「本当によかったですわ。」
「うん、よかった。」
本当にもう大丈夫だけど暫くはこのままでいようと決めた。何故なら、もう少しこの態勢を楽しんでおきたかったからだ。
シルヴィの決して大きいと言わないが、小さいわけでもなくまだまだ発育するであろう膨らんだ弾力のある柔らかい胸。たぶんBカップの上、Cカップ下と言ったところだろうか。掌に少し余るであろうその胸は、俺の胸に押し付けられ気持ちよく形を変えている。
そしてエマの11歳にも関わらずこの大きい胸。
これはEカップだろうか?何とも言えないこの圧力。最高に幸せな感触だ。俺の右腕は押し潰されるんじゃないかと思うほど挟みこまれる。本当に最高だ。きっと、ナニをナニすれば直ぐにでも天国に召されるであろう。
そしてカナの形のいいであろう、そのCカップ程の大きさの胸が左腕に押し付けられる。形のいい弾力がある突起物が動く度に、程よい刺激を与えてくれる。いつか必ず、このコリコリ感を思う存分に弄繰り回してみたいものだ。
俺、このまま死んでもいいと思う。
そんな光景をユイが見て、真似してくる。背中に抱き付いてくるユイ。まだ、膨らんでいない胸ではあるが、柔らかく気持ちがいい。『うへへ、おじちゃんが揉んで大きくしてやろうか?』と邪な感情が芽生えて来そうで怖くなっちゃう。
アレクは、そんな光景を『にやにや』して温かく?見守っている。この幸せな時間をいつまでも楽しみたいが、そろそろ終わりにしようと思う。
アレクのにやにや顔がイラつくからな…。
「ちょっと…苦しいから…。」
名残惜しいが、このままではいつかアレクに強請られてしまうと判断して離してもらう事にした。
「ごめんなさい、ヴェル様。」
「申し訳御座いませんわ。」
「ごめんね、ヴェル君。」
「お兄ちゃん…。」
「グギャ(ごめん)」
「いいさ、心配してくれたんだろう?もう大丈夫さ。」
こうして色々と復活した俺だった。
それから二週間、ディフィカルトとジョセフィーヌにがんばってもらった。
日中夜を問わず、走りに走ってもらった。
途中、敵兵の追っ手に何度も捕まりそうになったが、俺の魔法の前では敵兵など有象無象の雑兵以下である。大半の戦力を削り落として退却させた。
ディフィカルトとジョセフィーヌに回復魔法を掛けつつ、走り廻ったお蔭でモンシア伯爵の率いる軍隊と合流する事ができた。
「モンシア伯爵、助かりました。」
「アレックス殿下、シルヴィア様もご無事で何よりです。」
モンシア伯爵は王都で反乱が会った事は確認していたが、あまりにも早い対応だったので動けずにいたらしい。モンシア伯爵が言うには、首謀者はグスタフ第二王子とベハインド公爵。
やっぱりか。他の王族達は皆捕らえられて幽閉されているそうだ。アレクとシルヴィも捕らわれていると思ったモンシア伯爵は手を出せずに機を伺っていたらしい。
「婿殿もエマもカナリエちゃんもよく無事で。」
ちゃん付けか!強面のモンシア伯爵からちゃん付けを聞くなんて思ってもみなかった。
「ヴェル様の指示に従って何とか王都を逃げ出す事ができましたわ。お爺様。」
「おお、そうであったか!婿殿お手柄ですぞ!」
「いえ、俺は自分の事に精一杯だっただけですよ。」
「またまたご謙遜を。婿殿がいなければアレックス殿下、シルヴィア様はおろか、孫娘のエマまで亡き者にされていたかもしれません。」
褒められたが嬉しくない。あの男に殺されそうになったからな。
「あのモンシア伯爵…。」
「何じゃ、カナリエちゃん。」
「お爺様と家族はどうなったかご存じありませんか?」
「…。」
カナの質問に沈黙で答えた。カナは大粒の涙を流しながら崩れ落ちた。
「いっ、いや、死んではおらん!王都の北門で家族達と脱出したらしいと報告は受けたがそれ以降の消息が不明なだけじゃ!」
「本当ですか!?」
「ああ、確かな情報じゃ。」
カナはまだ希望があると思い泣き止んだ。『よかった。生きてる。よかった。』と言葉を漏らしながら安心した様子だった。
「モンシア伯爵。」
「何じゃ、婿殿?」
「それでこれからどうしますか?」
「戦う!それ以外に道はない。」
「ですよね…」
「アレックス殿下を総大将に、我々が補佐をしてこの反乱を鎮める。」
「乗り掛かった舟、俺もお手伝いをしますよ。」
「頼りにしているぞ、婿殿。」
肩を思いっきり叩かれた。
痛い…、ちょっとは加減をしろと言いたい。
「まずは伯爵領内に戻り防御を固めつつ兵を集め、数か月の後、王都に向かって進軍って感じですか?」
「おお、よくわかりましたな。」
「戦況を少し考えればわかりますよ。」
「何故じゃ?」
王都で反乱を起こしたグスタフとベハインド公爵は反乱を計画して成功させたまではよかったが、アレクとシルヴィを取り逃がした。
取り逃がすまでは考えていなかったので、こちらに回せる兵は無く、今は王都の沈静化を図る頃だと思う。そしてこちらは軍を率いてはいるがまだまだ数では不足している。
だから敵が動けない今、領内に戻りアレクとシルヴィを神輿に兵を集めて準備する。準備が整いしだい反攻に転じる。よくある話だ。
それをモンシア伯爵に説明した。
「流石は龍を屠りし者じゃ。婿殿は軍学まで嗜んでおられるのか?」
んなわけねぇよ。小説とかに良くある話だからだよ。俺に軍学とか戦略の知識はない。
「いえ、昔からよくある話だからですよ。」
「歴史を随分と勉強されているようじゃな。そこで婿殿を見込んでお頼みします。」
嫌だよ。嫌な予感しかしないよ。
「是非、アレックス殿下の補佐を務めて貰いたい。よろしいな?」
「補佐ですか?」
いや、無理だろ。総大将の補佐なんてやった事ないし、そんな知識なんかないよ。
「俺はまだ子供だし、そこまで頭がよくないですよ。それに協力はすると言ってもあくまでもお手伝いぐらいしかできませんよ?」
「補佐と言っても何か気付いた事や意見を言ってくれればそれでよい。後は、我々に任せてゆっくりされるとよい。」
それぐらいならいいか。ゆっくりしていいってモンシア伯爵も言ってるし…。本当にいいのかな?意見して逆に負けたりしないよね?不安で一杯なのだが、出しゃばった自分が悪い。
「…お役に立てるか分かりませんが、男爵としてお引き受けします。」
アレクを総大将に伯爵軍の総大将補佐?を務める事になってしまった。
誰だよ、自分の考えを述べてそれなりの知識があると思わせたのは…。
俺だよ!俺が悪いんです!ごめんなさい…。
アレク達を無事、モンシア伯爵率いる軍に送り届けてから3日、俺達は疲れを癒す為にのんびりしていた。
「ところで、アレク…。」
「何だい?ヴェル。」
「総大将がこんな所にいていいのか?」
モンシア伯爵軍と合流してから3日、アレクが総大将に担ぎ上げられた日から3日経っているのだ。それなのにアレクは俺達と3日ものんびりしている。
「僕は総大将と言っても、お飾りだからね。」
「自覚はあるのか…。」
「そりゃね。王太子と言ってもまだ成人してないし、軍の事はモンシア伯爵に任せていた方がいいだろう。」
「そだね。」
そりゃそうだ。モンシア伯爵は軍務卿…、軍の最高責任者なのだ。それに俺達子供が、何かできるわけではないしな。
「じゃ、ちょっと気分転換がてらに散策でもしようか。」
「そうだね。」
「はい、ヴェル様。」
「そうですわね、ヴェル様。」
「うん、行こう。」
「ん。」
「グギャ(お散歩、お散歩)」
アルネイ王国は緊迫していると言うのに、この能天気っぷり。他の兵達に申し訳なさを感じるが、正直暇なのだ。それに、この3日の間、あの男に勝つ為の作戦を考えていたのだが、思い浮かばずに気が滅入るばかりだった。
だから、そんな状態を打開する為に、陣中を見廻わって、何かヒントを得ようとしているのだ。そう、これは決して問題を先延ばしにしているのではないと思っていた時に兵士達の訓練が目に入った。
「お兄ちゃん、あれは何をしているの?」
兵士達の訓練を初めて見たユイは訪ねてきた。
「あれは、兵士達が強くなる為に特訓をしているんだよ。」
「あれで強くなるの?」
もっともな意見だ。ただ訓練すれば強くなるわけじゃない。兵士達、全員が強いわけじゃないからだ。一人一人の力が弱くとも、合わされば強くなる。
戦いとは個の力も重要だが、それだけで勝てるわけでもない。集団として、一糸乱れぬ行動ができれば、力を発揮できるからだ。
「軍の強さは個人の強さじゃないからね。大軍を手足の如く自在に操ってこそだから。」
「そっか。」
ユイはよく分かっていない様子で、軍の訓練を眺めている。少し、興味を引かれたので訓練の様子を眺める。
指揮官の号令の元、一糸乱れぬ行動で隊列を変える。時には突撃したり、時には堅く守っている。さすがは王国の精鋭だと思った。よく訓練されているであろうその姿を前に高ぶる気持ちが抑えきれない。
あの男から逃げた時の事を思い出したからだ。無様に逃げ出し、命からがらと言ったところだ。このままじゃ、だめだと思って魔法の訓練を開始しようと思う。
あの男と打ち合った氷柱砲弾は威力、発射速度は同じだった。しかし、攻撃の手数が負けていた。修業の練度が違うのか?魔法の修業を開始して、8年か…。あの男はもっと上だろう。このままでは、また同じ事の繰り返しになる。
なら、どうする?手数で負けているのなら、相手以上の手数で攻めればいい。例えば、氷柱砲弾は1回発動する事に1個の氷の塊を作り出して発射する。じゃ、氷柱砲弾を発動した時に、2個3個と氷の塊を作り出せればいいんじゃないのか?
できるのか?試してみるかな。
「ちょっと試したい魔法があるから練兵場に行ってくる。」
「暇だし、面白そうだから着いて行っていい?」
俺の魔法は暇つぶしか!?と思ったけど、やる事もなさそうなので了承する。
「いいけど、危ないから近寄らないでね…。」
「ヴェルの魔法、楽しみだな。」
「勉強させてもらいますね。」
「応援してますわ。」
「久し振りにヴェル君の魔法が見れるね。」
「お兄ちゃん、期待してる。」
「グギャ(面白そう)」
俺の魔法は見世物か?動物園の珍獣じゃないんだぞと思ったが、アレク達の後学のためにもなるから突っ込まないでおいた。
…って言うか、シルヴィアさんや…お茶の用意をしないで…。エマさん、カナさん、食べ物を取りに行かないで…。こいつら…絶対、楽しむ気だ。まあ、いい…。俺も食べるから、残しといてね…。
他の兵士達が訓練しているが、邪魔にならない練兵場の一角を借りて、魔法を試す事にした。
「究極の聖域!」
他に被害が及ばないように結界を張り、目標のゴーレム群を作り出した。二列縦隊で20体ほど並ばせる。そして、頭の中に氷柱砲弾を2つ思い描く。
永久凍土の氷のように、冷たく、堅く念じる。そして、殺傷力を上げる為に細く、鋭く思い描く。両手に魔力を込めて魔法を発動した。
「氷柱砲弾!」
思い描いた通りの、2つの氷柱砲弾が目標目掛けて発射された。2体のゴーレムの体を貫き、後方のゴーレム群へと次々と貫いて行った。
「成功だ。」
4列目のゴーレムまで貫いたようだ。しかし、俺がやりたいのはこんな物じゃない。これは、できるかどうかの実験だ。
俺がやりたいのは氷柱砲弾が雨の如く降り注ぎ、敵を貫く魔法だ。今の氷柱砲弾のイメージを持ったまま、激しい雨のように降り注ぐイメージを重ねる。
再び、両手に魔力を込めて瞬間、魔法を発動する。
「氷柱雨!」
氷柱雨は次々とゴーレム群を貫き、串刺しにしていく。
「これは凄い…。」
これならあの男に、手数で負ける事はないだろう。後は、戦術だ。あの男に勝つ為には、攻撃の手数、虚を突く戦術が必須になってくる。
そして、切り札だ。正直、切り札はある。あるが、1回しか使えないだろう。あれ程の魔法使いなのだ。一度見たら二度目は通じないのかもしれない。だから、あの戦った時は使わなかったのだ。
少なくとも、あの男の力量を正確に掴んでからじゃないと危険すぎるからだ。あの男とはいずれ決着を付ける。その為にも、まだまだ修行が必要だ。差し当たっては、今使える切り札を増やしておこうと考えて修業を続けることにした。
それから1週間、アレク達には悪いが一人で修業をしていた。
今日も思いつく限りの魔法を試そうとしていたところに、モンシア伯爵から招集が掛かった。何事かと思ったが、どうやら軍資金が足りなくなってきているらしい。
そりゃそうだろうと思う。モンシア伯爵は伯爵領を持つ貴族ではあるが、領内から手に入る資金は税金だけだ。これだけの兵士達を訓練しつつ、賄っているのだから資金面で不足するのは当たり前だ。
そこで、何かいい案はないかと幹部連中と連日会議を行っていたらしいのだが具体的な案が出ずに、ベネツィアンガラスや温水洗浄便座で商売をしている俺に白羽の矢が立ったのだ。
「婿殿、何かいい案はありませぬか?」
「…少し、考えさせて下さい。」
「わかりました。」
モンシア伯爵と会議を切り上げて自分の幕舎に戻る。手っ取り早く、資金を得る方法に付いて考える事にした。
戦国時代は資金を得るには経済を良くする事だ。織田信長や豊臣秀吉だって、楽市楽座や太閤検地等でうまく経済を良くして、税金を正確に把握して取り立てたのだ。
だがしかし、今は時間がないし、伯爵領だけではこれだけの兵士達を賄うには不十分だ。ならば、どうするか?知れた事、金や銀、鉄鉱石、宝石の原石等を掘り当てればいい。
金や銀はそのまま金になる。鉄鉱石は商人に売ればいい。宝石の原石がでれば加工して安く売れば直ぐにでも資金を得る事ができるだろう。しかし、どこに鉱脈があるのか分からない。
そこで、ここは伯爵領やその周辺地域に探知魔法で探り当てる事にした。
如何に俺が莫大な魔力総量があると言っても、広大な面積を一度に探すとなると正直きつい。何日か掛けて、エリアを別けて探し当てる事にした。
4日後、伯爵領の最東端地点のエレウル山脈に金らしき反応をキャッチした俺は直ぐにモンシア伯爵に掘り出す為の手勢を用意させた。
「それじゃ、モンシア伯爵行ってきます。」
「婿殿、頼みましたぞ。」
「ええ、これもアルネイ王国の為です。」
モンシア伯爵が用意してくれた採掘要因は、歩兵1800人、魔法使い200人だ。精一杯、こき使ってやろうと思う。最近、ストレスが溜まりっぱなしだからな。
「じゃ、皆。行ってくるよ。」
「ヴェル、がんばってくれ。」
「ヴェル様、お早いお帰りをお待ちしてます。」
「行ってらっしゃいませ、ヴェル様。」
「ヴェル君。お土産期待してるね。」
かなさんや、これは遠足じゃない。
「お兄ちゃん、早く帰って来てね。」
「グギャ(いってらっしゃい)」
「ああ、後の事は任せたよ。」
挨拶を済ませた俺は、進路を東へ。伯爵領の最東端、エレウル山脈に向かうのだった。
それにしても、モンシア伯爵。何が『後は任せてゆっくりされるとよい。』だ。こき使う気、満々じゃねぇか。金を掘り当てたら、必ず休みを取ってやるからなと強く決意した。
断られたら、反旗を翻しちゃうよ?ベハインド公爵なんて目じゃない程に徹底的にやっちゃうよ?ヴェルナルドさん、本気だよ?