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47    攻防

 王都に突如として、グスタフとベハインド公爵の謀反が起きてから魔法を駆使して何とか脱出に成功するも幸先は不安で一杯だった。

 ディフィカルトもジョセフィーヌもこれを予感していて落ち着かなかったのかもしれない。主人の命の危険を察したのだろうか。今はそんな事を考えている場合じゃないな。これからの事を考えよう。


「アレク、シルヴィ。」

「「?」」


 脱出した所で2人に呼んだ。


「脱出したはいいが、何処に向かう?頼れそうな所はないか?」


 2人は考え込んだが答えたのはエマだった。


「東に、東にお爺様の伯爵領がありますわ。今日のお爺様は野戦訓練のために自領内で演習を行うと仰っていましたわ。」

「そうか。じゃあ、東に向かってモンシア伯爵に助けを求めよう。」


 5人と1匹は俺の言葉に頷いた。

 馬車を走らせていると目の前に男がいる事に気が付いた。あの使用人だった。俺は馬車を停めて地面に降り立った。


「ヴェル!いきなり馬車を停めてどうしたんだ?」

「あの男だ…。」

「あの男?」


 あの時、死んだ黒ずくめの男の姿で、こちらを見ている。


「ベハインド公爵の使用人だ。」

「あれが…、どうする?」


 本当にどうしよう?仕方がないか。


「アレク達は行ってくれ、ここは俺が相手をする。」

「無茶だ。」

「そうです、ヴェル様。一緒に逃げましょう!」

「ヴェル様、無茶ですわ。」

「ヴェル君。行こう。」

「お兄ちゃん…。」

「グギャ(あの敵は強い)」


 アレク達は、動揺を隠せずにいる様子だった。

 無理もない、まだ王都を出て間もない。直ぐにでも、追手が迫って来るだろう。それに、目の前にはあの・・使用人がいるのだ。こいつの相手は俺にしかできないだろう。


「いいから、先に行け!こいつの相手は俺にしかできない。後で必ず追い付くから…。」

「じゃ、僕も一緒に戦うよ。」


 アレクは覚悟を決めた顔で言い放った。シルヴィ、エマ、カナも同様に覚悟を決めた顔をしている。

 しかし、ここでアレク達を戦わせるわけにはいかない。もし、アレクが、シルヴィが殺されたら、こちら側には打つ手がなくなってしまう。それでは王都を脱出した意味がない。


「だめだ。何のために王都を脱出したと思ってるんだ?」

「それは…。」

「アレクとシルヴィのためだ。アレクとシルヴィが生きてさえいたら、あとは何とでもなる。まずは生き抜いてモンシア伯爵の所まで行ってくれ。」


 俺は真剣な顔でアレク達を見渡して言った。


「…分かった、無茶だけはするなよ!」

「ヴェル様、お早いお帰りを…。」

「無茶だけはなさらないで下さいませ。」

「ヴェル君。絶対に追い付いて来てね…。」

「お兄ちゃん、待ってる。」

「グギャ(気を付けて)」

「ああ、行ってくれ。」


 俺の言葉を最後に、アレク達は東へと馬車を走らせて行った。

 後に残されたのは、俺とあの・・使用人だけだった。俺は、肉体強化魔法と神仏の加護を発動しながらゆっくりと男に近付いた。


「お前は何者だ?」

「お初にお目に掛かります。私はベハインド公爵にお仕えする使用人で御座います。」


 こいつ、しれっと嘘を吐きやがるな。あの使用人は俺が殺した。目の前にいる男は、使用人に偽装した男だ。


「嘘を吐くな!本物の使用人は死んだよ。お前は死んだ使用人に化けてるだけじゃねぇか!何が目的だ?」

「これはバレバレでしたね。」

「もう一度言う。何が目的だ?」

「おお、怖い…。私共は世界に混沌を願う者…。貴殿は邪魔なのです…、即刻ご退場願えますか?」


 私共・・?他にもこいつみたいな存在がいるのか?いや、落ちつけ。こいつの嘘かもしれない。嘘であろうが、真実であろうが、今は目の前の敵に対処するしかない。


「断る!お前の好きにはさせない。」

「では、消えてもらいます…。」


 男がそう言った瞬間、姿が消えた。否、超加速で一気に間合いを詰めたのだ。

 俺は慌てて刀を抜き放った。しかし、俺の刀は空を切る。男は刀の軌道から逸れて回避したのだ。

 そして、男が持つ短剣を、俺目掛けて一気に突き刺そうとする。即座に俺と男の間に爆風を発生させて回避する。いや、男と俺は爆風で吹き飛ばされて距離を離したと言っていいだろう。


「これは驚きました。今の一撃で終わったと思ったのですが…。」

「ふんっ。」


 こいつ、強い…。勝てるか分からないな…。互いに距離を取りつつ、身構えながら対峙する。

 どれぐらい経っただろうか?体感時間にして、かなり感じるが実際は数分と言ったところなのかもしれない。

 こいつの力量を図りかねている段階で俺は奴には勝てない気がする。しかし、ここで時間を稼いでおかないとアレク達が危ない。男と正面から戦うと覚悟を決めて、攻撃を再開する。


氷柱砲弾アイシクルシェル!」


 水属性中級魔法を発動するが簡単に避けられる。男も負けじと反撃を開始する。


氷柱砲弾アイシクルシェル!」


 っ!同じ魔法で反撃か!?

 氷柱砲弾の激しい打ち合いが始まり、互いが放つ氷柱砲弾は次々とぶつかり合って砕け散る。


「これは、なかなか面白いですね。」

「舐めてんじゃねぇ!」


 俺は必至だが、男は余裕だった。

 何故なら、攻撃魔法の手数が違ったからだ。氷柱砲弾の威力、発射速度は同じだが、男の攻撃の数に対応しきれていなかった。男が放つ、氷柱砲弾を回避しきれない分、徐々に俺の体にダメージが蓄積される。


「くっ!」

「おや?どうしました?まさかそれで全力ですか?」


 男は、俺の体に広がる無数の切り傷から血が出ているのを見て、薄ら笑いを浮かべている。


「ほらほらほらほら!どうしました?」


 男から繰り出される魔法の数々。こちらも反撃とばかりに魔法を放つが、如何せん手数が違う。男の魔法に顔や胸や痛々しい程の傷が刻まれる。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 もう、何度やり合っただろうか?男は遊んでいるようにも思えた。それもその筈、俺は肋骨を数本折り、顔には痣が、足には切り傷が、腕には血が流れていた。


「どうしました?それで終わりですか?失望しました。貴方には消えてもらいます。」


 この野郎…。舐めやがって…。


聖なる光セイクリッドライト!」


 相当量の魔力を込めて聖なる光を発動した。目の前に、目が眩む程の光が出現した。


「くっ、これは…。」


 ただの目暗ましだ。だが、効果は有った。男は突然の眩い光に目が眩んだようだ。この好機を逃すわけにはいかない。


極寒エクストリームコールド!」


 男とその周囲を水属性上級魔法を発動して氷漬けにして動きを止める。

 しかし、氷漬けになった男の体から魔力が漂い、氷を粉々に砕け散らせる。


「なかなか面白い魔法の使い方をしますね。」

「効いていないのか?」

「この程度の魔法では、私は倒せませんよ。」

「なら、こいつはどうだい?」


 俺は右手を空に掲げて振り下ろす。


稲妻ライトニングフラッシュ!」


 上空から稲妻が男目掛けて落雷する。しかし、男は稲妻の落雷地点から飛び退いて回避する。


「これしきの魔法が避けられないと?」


 男は余裕な様子だった。

 しかし…


「だと思うか?重力反転インバーショングラビティ!」


 稲妻は男がいた所の地面に落雷した瞬間、大量の電流が周囲を流れ始める。男の周囲は極寒で凍っている為、大量の電流が氷の上を伝わって男を襲う。


「ぐあぁぁぁぁ!」


 大量の電流を浴びた男は、体中からプスプスと煙を上げながら焦げている。俺は落雷の瞬間に重力反転で空中に回避したから被害は無かった。


「くっ、やって…くれましたね…。」


 まだ生きてるのか!?こいつ、タフだな…。


大爆発グレートエクスプロージョン!」

「っ!」


 男は自分に被害が及ぶにも関わらず、大爆発を発動した。


聖なる領域セイクリッドドメイン!」


 咄嗟に聖なる領域で結界を張って大爆発を凌ぐ。

 大爆発の爆風で周囲はチリと化している。男も後方に吹き飛ばされているようだった。

 咄嗟に張った結界魔法だったが、あまりにも急だったため、強度不足で結界は壊れて俺の体に衝撃が走る。


「くっ、痛てぇ…。」


 このままでは双方、ジリ貧になって勝敗がますます分からなくなる。一先ず撤退を優先してアレク達と合流する事を考えた。幸い、男は大爆発に巻き込まれて倒れている。


極寒エクストリームコールド!」


 再度、男を氷漬けにした瞬間、逆方向に走り出してその場を後にした。あのダメージを受けて、直ぐには動けまいと判断して逃げ出したのだ。ただひたすらに全力で走った。

 肉体強化魔法で強化しているからかなりのスピードだ。見る見る内に、男との距離が拡がる。男が追って来ない事を、再度確認してからアレク達に合流するべく、走りに走った。

 全身にダメージを受け、血が出ているのも回復せずにただ逃げる事だけを考えた。

 暫く走るとアレク達の乗る馬車が見えてきた。


「おぉ~い!」


 大声で呼び止めると、馬車は暫くして停止した。


「ヴェル!無事だったか。よかった。」

「ヴェル様、血が出てます。今すぐ治療しますね。治癒ヒーリング!」

「ヴェル様。ご無事で何よりですわ。」

「ヴェル君よかった…。」

「お兄ちゃん、お帰りなさい。」

「グギャ(おかえり)」


 皆、心配して出て来てくれた。

 正直、もう動けない。全身、傷だらけで走りすぎたからな。


「ありがとう…。ただいま…。」


 そう言い残して、意識は闇の中に消えて行った。






 意識が消える瞬間、シルヴィの太腿の間から拝む事ができた神々しいおパンツ様が視界に入った。

 そして、思った…。『おお、神よ…。今日も貴方は白なのですね』と…。

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