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45    手紙

 ユイの誕生日を祝う会が終わってから二ヶ月が経った。

 あれ以来、ユイはよく笑うようになり、王宮でも魔法学校でもマスコット的な存在へと変わって行った。元々、可愛いユイは密かな人気があったらしいが、よく笑うようになったユイを見てファンが増えたようだ。

 中でもシルヴィとユイとフレイムが一緒になっている場面があると周囲の生徒は注目し、自然と視線が集まるようだ。屈託のないシルヴィの笑顔、よく笑う可愛いユイ、まるで仲のいい姉妹の様な2人を護るかのように、傍にいるフレイムを見ると一日が穏やかに過ぎて行くらしい。平和な日々が続いている。

 そして、最近ではシルヴィ、エマ、カナ、ルチルさんの仲も良好だ。ルチルに料理を学んでいる事で何やら打ち解けて、絆みたいな物が結ばれているように見える。そんな平和で穏やかな日々を送っていると実家から手紙が届いた。

 セドリックからだった。






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 親愛なる息子、ヴェルナルドへ

 エルの5歳の誕生日を祝う品が届いた。

 正直、驚いたよ。

 皆も目を丸くして、運ばれてくる子馬を見つめていたよ。

 特にエルはすっごく喜んでいたよ。

 遠く離れた兄様が僕の事を忘れてないんだって言って泣いていたよ。

 さすが、家族想いのヴェルだと思ったよ。

 それにしても、これはいい子馬だな。

 大人しく扱い易い、エルにはもってこいの子馬だと思う。

 さぞかし高かっただろ?

 子馬が届いてからのエルは名前を何にしようか悩んでいるみたいだ。

 可愛い悩みに微笑ましく見守っているよ。

 結局、悩みに悩んでアッシュと名付けた様だ。

 毎日、エルがアッシュの面倒を見ているよ。

 兄様に頂いた大切な子馬だから大切に育てるんだって言っている。

 それと話は変わるが、毎月の仕送り助かるよ。

 しかし、いいのか?こんな大金を毎月…。

 親として誇りに思うが、少し心配だ。

 あんまり無理はするなよ。

 セドリックより


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 エル、喜んでくれたか。よかったよ…あんなに大金出したのに気に入られなかったらどうしようかと悩んでいたけど喜んでくれて何よりだ。

 アッシュか、いい名前だな。扱い易く大人しいあの子馬に似合っている。いい名前を付けたなエル。大切にしてくれているなら、喜ばしい事だ。

 早速返事を返す事にした。






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 親愛なる父様へ

 エルの誕生日を祝うために送った子馬を、喜んでくれてほっとしています。

 正直、エルが喜んでくれるか分からなかったので、不安でした。

 エルが毎日のように、世話をして大切にしてくれているのを聞いて嬉しく思います。アッシュをエルの為に購入してよかったです。

 値段は言えませんが、アッシュはかなり高かったです。

 シルヴィの話では、きっと名馬になると太鼓判を捺す程なので大事に育ててやってください。

 家族の元から遠く離れているとは言え、家族を忘れた事なんて一度もありませんよ。それにエルは俺の可愛い弟、まだ会っていないユリアとミリアの事もそうです。

 ちなみにエルに贈った子馬と他に、お揃いで僕も子馬を購入しました。名前はディフィカルトと名付けました。気性は激しいですが僕の言う事は聞いてくれるみたいです。

 エルがもう少し大きくなったら、一緒に乗馬したいと思います。だから、エルもがんばるようにと伝えておいて下さい。

 こちらではやる事が多いので、毎日が忙しいですがアレク達に助けられつつ、日々を送っています。

 先日、魔法学校の生徒会にアレクが会長になりました。僕は庶務に任命されたので、精一杯がんばろうと思います。

 あっ、そうそう言い忘れましたが父様に報告する事があります。どうにもバツが悪く、言うか迷いましたが決心して言う事にします。

 奴隷の女の子を購入する事になりました。一目見た時から気になってしまい、後を追い掛けたら彼女は奴隷だったのです。

 まだ5歳だと言うのに、奴隷の身分に落とされたそうです。それは彼女には両親がおらず、生きる為に仕方なしに食べ物を盗んで生活していた所を捕らえられて、奴隷にされたそうです。

 どうにも不憫に思い、購入する事を決意しました。しかし、奴隷として扱うつもりはありません。彼女をもう一人の妹として育てると決めました。

 彼女は名前を憶えていない為、ユイと名付ける事にしました。今では妹兼、魔法使いの弟子として育てています。

 ユイの魔法の才能は僕を凌駕するかもしれない程の才能があり、いつかは歴史に名を残せる魔法使いになるでしょう。僕もユイに負けないように努力しています。

 願わくば、我が家族としてグナイスト家に迎え入れられる事を祈って手紙を送ります。

 ヴェルナルドより


 追伸、仕送りの事は気にしないで下さい。魔術で商売を初めて儲かっていますので…。


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 これでいいかな?ユイの事、受け入れられるといいな。俺のした事は許さなくてもいい。だけど、ユイの事だけは認めてやってほしい。

 それと、これからの事を考えると不安が過った。もう一通、手紙を書く事にした。

 アレク達の事、暗殺毒殺の事、ベハインド公爵の事、あの使用人の事、そしてこれから俺達は戦う事になるかもしれない事を、手紙に認めておいた。

 セドリックしか開封できない様に、魔法で封印もしておいた。セドリック以外にこの事を聞かせられないからだ。家族も狙われる危険があるかもしれないと警告もしておいた。

 戦う決意はある。戦う準備もしている。あとは向こうの出方次第だ。アレク達や家族の為に必ず勝利すると決意を新たにした。






 そう言えば、エルに贈った子馬の事で思い出したが、俺の買った子馬はと言うと、


 兎に角、気性が激しかった。手懐けるのに、苦労したよ。傍によると威嚇してくるものだから、誰も近寄れなかった。だから、あの子馬と力比べをしたのだ。

 勿論、ただ普通にやったら負けちゃうから肉体強化魔法を使って、力技でねじ伏せたのだ。力でねじ伏せた後に魔力を漂わせながら圧倒する事で漸く手懐ける事ができたのだ。

 あの馬を、エルに贈らなくて本当によかったと心底思った。結局、あの子馬をディフィカルトと名付けたのだった。名前の由来は『difficult to handle』扱いづらいから名を取った。

 今では、馬の調教師から習った調教を毎日行っている。俺以外の人の言う事を聞かないから、正直困る。

 先日、ディフィカルトの世話をしているとジョセフィーヌを連れたシルヴィがやってきた時の事だ。


「ヴェル様。ディフィカルトの調子はどうですか?」

「うん。言う事は聞いてくれるようになったけど、なかなかに気性が激しいからね。骨が折れるよ。」

「毎日、がんばってますね。」

「うん。折角、買った子だからね。ゆっくりでも大切に育てようと思ってるよ。」


 シルヴィはジョセフィーヌと連れ添うようにしている。本当にシルヴィは何でも絵になるな。美少女は何にでも絵になるから、正直ずるいと思う。でも、シルヴィだからよしとしよう。


「ジョセフィーヌ、ヴェル様にご挨拶を。」

「ヒヒィイン」

「よろしくな、ジョセフィーヌ。」


 賢い馬だな。シルヴィの言う事をしっかりと聞いている。羨ましい限りだ。


「ディフィカルト。シルヴィに挨拶しないさい。」


 そう言うと、ディフィカルトはシルヴィに近付き、何を思ったのかシルヴィの股間に鼻を押し込んだ。


「ばかっ、ディフィカルト!何をやってるんだ!」

「ヒヒィィン」


 俺だってシルヴィの股間に顔を埋めた事なんてないんだぞ!?羨ま…『コホン』、けしからん事をしやがって…。


「シルヴィ。ごめん…。」

「いえ、いいんですよ。馬のする事ですし、まだこの子は子馬ですから…。」

「本当にごめんよ…。」

「いえ、ヴェル様によく似て、えっちな子馬ですね。」


 え?今、何て言った?俺に似ていると?それはないでしょうとシルヴィの顔を見ると悲鳴を上げそうになった。

 シルヴィは笑顔だった。しかし、怖いぐらいの笑顔だった。その瞳の奥には鬼が見えたからだ。俺もディフィカルトも縮こまってしまった。あんなに気性の激しいディフィカルトが俺の後ろに隠れるなんて見た事がなかった。


「えっと、シルヴィアさん?あのですね…。僕は決してえっちではなくてですね。ディフィカルトも悪気があってやった訳じゃないので、その…ここはひとつ穏便に…。」

「…本当に言い切れますか?」

「ごめんなさい。私達が悪う御座いました。」


 俺は、シルヴィの瞳の奥に眠る鬼に怯えて正座した。ディフィカルトも何故か器用に正座している。そして1時間、みっちりと説教を聞くのであった。

 説教を受けた後、ディフィカルトに話し掛けた。


「もう、あんな事は止めような…。」

「ヒィン…。」


 俺とディフィカルトとの間に、奇妙な友情の様なものが芽生えた気がした1日だった…。






 そして一ヶ月が経ち、俺達は進級してグスタフ第二皇子が入学してきた。

 王宮で何度か顔を合わせ、軽く挨拶をした程度の付き合いであったが、今回はグスタフの方から近づいて来た。


「よろしくお願いします。」


 グスタフは王族で第二王子なのだが、後輩だから俺に頭を下げた感じだが、その瞳の奥には敵意が伺えた気がした。

 フレイムは敵意を感じ取ったのか、『こいつは敵だ!殺っていいか』と聞いてきた気がしたから制しておいた。


「こちらこそよろしくお願いします、グスタフ殿下。」


 握手を交わすが強く握られた感じがする。鍛え込まれた俺が世の中舐めている第二王子に負ける筈がなかった。


「敵意がヒシヒシと伝わって来ますね。」

「…申し訳ない…。」


 アレクが謝る。


「別にあれはアレクが謝る事ではないでしょう?」

「そうかもしれないが、僕がいる事でヴェルにまで被害が出ているじゃないか。」

「別に被害は出ていませんよ。それに敵意が向けられるとしてもあれはグスタフ個人の問題でしょう?」

「すまない。」

「だから謝る必要はありませんよ、もし手を出して来たら全力で叩き潰すのみです。」

「ああ…。」


 アレクは何時になく弱弱しい声だった。それもその筈だ。元々は仲のいい兄弟だったのだから…。戦う事になって悲しくもあるだろう。

 しかし、これは命を賭けた戦いなのだから仕方がないと納得してもらった。

 それから一ヶ月が過ぎた頃、実家から手紙が届いた。






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 親愛なるヴェルナルドへ

 ヴェルが購入した奴隷の少女、ユイちゃんだったっけかな?

 ヴェルから手紙が届いたその日に家族会議を行った。

 結論から言う。

 ユイを我が家に迎え入れる事はできない。お前が考えて行動したのならそれはきっと正しい事だと思う。マリアもクーリエもエルもヴェルを支持している。俺も賛同はするがグナイスト家に名を連ねるのは反対する。

 すまないな、ヴェル。父として、お前の行動には賛辞を贈る。お前はきっと正しい。しかし、騎士爵位として言う。貴族としてグナイスト家に迎え入れるのだけは反対だ。

 世間体があるのだ。この事をマリアやクーリエと話し合ったら、大喧嘩にまでなってしまったがこれだけは譲れないと無理やり納得させた。何故だか分かるか?

 我が家は貴族ではあるが片田舎の騎士爵位だ。地位も低い。ユイを護ってやれるほどの力はない。だから、こう言う方法でなら迎え入れられる。

 それは、お前だ。お前は、男爵だ。正確にはお前はグナイスト家を出た新たな男爵なのだ。

 金もある。

 アレックス王太子殿下、シルヴィア王女殿下、軍務卿のモンシア伯爵の孫娘と王宮筆頭魔術師のグランネル子爵の孫娘と婚約もした。

 これがコネだ。

 言葉は悪いがこれを最大限に利用してユイを護ってやれ。力のある男爵の妹だ。誰も文句は言えまい。新男爵家とグナイスト家が懇意にしても問題はないからな。

 こう言う方法でしか我が家はユイを迎え入れられない。本当にすまないと思う。だが、分かってほしいと願うばかりだ。力ない父を許してほしい。

 セドリックより


 追伸、こっちの事は任せておけ…。


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 そうか…。父様も辛いんだな…。分かった、こっちの事はこっちで何とかするさ。父様もあっちの事は任せておけと言ったから任せておく事にする。

 俺のもう一通の手紙の返信だとも理解した。これで心置きなく戦える…と思った。


 その日から俺達と第二王子グスタフとの距離が更に開いていく気がした。

 まあ、しばらくは様子見だな。まず、俺達が警戒したのは食事や飲み物を口に含む時や、周囲に人影が無くなった時だった。

 食事や飲み物に毒が含まれているかもしれないし、事故を装った暗殺も視野に含めて慎重な行動を心掛けた。毒については、解毒魔法を掛けてから口に含むようにもした。

 それでも、強力な毒については今の俺しか解毒できないから、食事は常に一緒にした。暗殺に関しては、なるべく一人で行動しないようにペアを組む事になった。

 俺は一人でも対処ができるからよしとして、問題はアレクとシルヴィだ。

 アレクは攻撃魔法が中級になっているのと、剣術が扱える事から結界魔法が中級、治癒魔法が初級のエマと全魔法が中級まで習得しているユイを組ませる事にした。

 シルヴィは治癒魔法が中級になった事から、攻撃魔法が上級まで扱えるようになったカナとフレイムを組ませる事にした。

 戦力的にはバランスが取れているだろう。

 シルヴィとカナのコンビにはフレイムも付けてあるから咄嗟の近接戦闘にはならないだろう。フレイムが番犬よろしくやってくれるからだ。

 毒殺、暗殺に警戒しながら生徒会の仕事、剣術魔法の特訓、アレクとシルヴィは王宮での仕事、そして生徒会の仕事もあり忙しい日々を送っている。

 グスタフが入学して既に、半年が過ぎようとしているが、特に目立った行動はない。

 ガードが堅いと思って諦めたか?

 ベハインド公爵側も同様だった。懸念していた使用人に化けている男からも怪しい行動はないとの事だった。気も緩み始め、このまま何もして来ないんじゃないかと思える程だったが、まだ半年しか経っていない。

 5人と1匹に気を引き締めるように釘を刺しておいた矢先、敵側が動いた。

 5人が口に含む食事に、極微量ではあるが毒物と思われる異物が混入している事が判った。見つけたのはフレイムだ。

 食事を摂ろうと席に着き、食事が運ばれるや否や、フレイムが吠えたのである。何事かと思ったが、食事に探知魔術を掛けると毒物が検出されたからである。

 『お手柄だ、フレイム』後で肉を買ってやると思った。


「仕掛けてきましたね。」

「…。」


 アレクは答えない。


「本当にグスタフ様がおやりになった事でしょうか?」


 エマは困惑して尋ねてくる。


「確証はないが、恐らくはベハインド公爵か強硬派の派閥だろう。」


 エマの問いに、険しい顔をしたアレクが答えた。


「これまでのグスタフ殿下の行動を監視してきたけど、不審な行動はしていないように思える。ならベハインド公爵側か…。」


 俺の言葉に、アレク達は言葉を失う。敵はグスタフではなく、ベハインド公爵とその派閥に警戒を強めた方がいいかもしれない。

 今回の毒物混入は中々にガードが堅いと痺れを切らせて迫って来たのかもしれない。それとも、ただの挨拶代りか?まだ断定はできないが情報を集める以外に道はないな。

 5人と1匹には引き続き警戒するように言っておいた。


「時に、アレク。」

「どうした?」

「ベハインド公爵に怪しい動きはないのかい?」

「…。」


 しばし、沈黙が訪れる。


「ベハインド公爵…、最近ちょくちょく王都に来てはいるみたいだ。」

「そうですか、わかりました。」


 ベハインド公爵の行動を聞いて、研究室に向かう。少し、情報を整理しておこうと思う。

 グスタフは、明らかに敵意を発していた。しかし、グスタフ本人から行動を起こす気配は感じられない。グスタフの行動を監視していると、ずっと奇妙な違和感しか感じられないからだ。

 グスタフは、敵意を抱きつつも遠目から見るだけで、決して手を汚そうとはしなかったからだ。となると、ベハインド公爵…、現国王陛下の弟君にある彼がちょくちょく王都に行き来している。

 何の為に?何か不吉な事を、企てているのかもしれない…。

 ベハインド公爵の行動が気になるが、今は情報を集めて警戒するだけだ。だから、ある仮説を立ててみる事にした。

 グスタフは敵意を持っていても、アレクとシルヴィを殺す気はない。もともとは仲のいい兄弟だったから殺害する事に躊躇いを覚えているのかもしれない。

 その一方、ベハインド公爵は王になりたい。しかし、王位継承権がアレクとシルヴィの方が高いから、王にはなれない。そこで、アレクとシルヴィを毒殺暗殺しようとしたが、王太子と王女としての護衛の厚さから諦めかけた。

 しかし、グスタフが生まれた事で隙ができる。数年待ってから、グスタフを殺そうとした。あくまで、未遂に終わらせるようにして、グスタフに犯人はアレクを擁護する穏健派だとほざく。

 グスタフは、自分を助けてくれたベハインド公爵を信じてアレク達との間に亀裂を走らせる。こうやって、兄弟仲を引き裂く。

 そして、今度は火竜を使ってアレクとシルヴィを抹殺する計画を企てた。国王を極微量の毒で体調を崩させ、アレクとシルヴィに国境視察の任務に向かわせる。

 ベハインド公爵派閥の代官に貢物として、偽装した火竜の卵を献上する。奪われた火龍の卵を取り返そうとする親の火龍を誘導する。こうやって火竜にアレク達を襲わせる。

 王国で火竜を倒せる者がいない以上、確実に殺せると踏んだのだろう。殺してから、自分を信じ切っているグスタフと国王陛下を病死に見せかけて殺す。そうすれば、ベハインド公爵が王に成り代わると言う計画だ。

 だがしかし、ここで思わぬ誤算が発生する。

 俺だ…。

 俺が火竜を倒し、2人を助けた事で計画が頓挫する。焦ったベハインド公爵は、ひとまず様子見で警戒する。計画が漏れていないか周囲の行動に注目する。

 まだ、バレていないと判断したベハインド公爵は、使用人に命じてルチルの両親を誘拐、返してほしくばアレクを殺せと指示する。外から暗殺や毒殺をしようとしても、上手くいかないなら内側から仕掛ければいいと思ったからだ。

 しかし、それも俺によって阻止された。業を煮やしたベハインド公爵は、毒と分からない程の極微量の毒を少しずつ飲ませようとした。

 えらい壮大な計画だから、荒唐無稽と言えばそれまでかもしれないが、俺の中では一連の流れが繋がった。

 早速、この事をアレク達に話そうと思う。もう、そんなに悠長にしてはいられないのかもしれない。しかし、どこで話そうか。王宮は人の出入りがあるから、敵の患者が紛れ込んでいる可能性がある。この研究室も防音設備が高い訳ではない。

 なら…あそこか?以前、千里眼で覗いた宿だ。あの宿は、防音設備が高いらしい。何故なら、あの宿は貴族が浮気目的で密会するのによく使われる宿だからだ。俺が見た若い男女は、きっとそれなのだろう。

 そんな訳で、あの宿で話す事に決めた。






 嫌な予感がする…。急がねばならない。

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