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43    準備する

 エルとユイの誕生日プレゼントを購入した翌日、ユイを祝う計画をアレク達と練った。

 魔法学校の休日に王宮の俺の部屋でユイを祝う事にした。その準備の為、商業区に買い出しを行う事にしたのだ。

 買い出しのメンバーはシルヴィ、エマ、カナにルチルさんだ。ちょっと、このメンバーにルチルさんを加えるのはどうなの?と思ったが、食事を作ってくれるのはルチルさんだから仕方がないと無理やり納得させた。

 あの一件以来、シルヴィとルチルさんを会わせるのがどうにも気が引けるからだ。シルヴィ、エマ、カナは食事を作った事がないらしいので頼むわけにはいかない。もし、仮に、万が一、変な物が出てきたとあっては堪らないからだ。

 勿論、それの・・・処分は俺になるだろう。アレクもいるが、恐らくはいつの間にか姿を消して逃げる確率が高い。王族としての危機感を察知する能力には目を見張るものがあるのだが、どうにも納得のいかない使い方だ。

 そんな事よりも、またルチルさんが変な事を言い出して、シルヴィ達にあらぬ誤解を与えるかもしれないと危惧するばかりだった。


「それにしても、ルチルさん。いつもすみません。」

「いいえ。ヴェルナルド様のお世話をする事が私のお仕事ですので大丈夫ですよ。」


 それは、夜のお仕事も含まれるんだろうか?と思ってしまった。ルチルの両親を助け出してからと言うもの、何日かに1回は夜にやってくる…。『夜のご奉仕をさせて頂きます』と言って近づいてくるのだ。

 勿論、嬉しくない訳ではない。生前の俺なら喜んでご奉仕を受けていたに違いないが、シルヴィ達にバレたら俺の人生は終わりを告げるだろう。だから、いつも追い返すのに苦労する。


「ありがとうございます。それに、ユイを祝うための準備にも協力してもらっちゃって。」

「お気遣い無用ですよ。あんなに可愛いユイ様ですもの。家族でなくてもお祝いしたくなっちゃいますよ。」

「ありがとうございます。」


 ルチルと会話をしているとシルヴィが少し機嫌悪そうに見えた。

 これが嫉妬ってやつなのかと思ったりなんかしてみたが、これ以上疑われたくはない。エマとカナは事情を知らないから平然としているが、またルチルさんが変な事を言ったら一触即発になるかもしれない。

 それだけは何とか阻止しないとな…。


「そう言えばシルヴィ、エマ、カナは料理を学ぼうとした事はなかったの?」

「したいと思った事はあるのですが、一国の姫君が料理なんてとんでもないと反対されました。」

「私も料理をさせてはくれませんでしたわね。」

「僕は何度か挑戦しようとしたんだけど、いつもお爺様に止められちゃった。」


 シルヴィは王女殿下だもんな、料理をして怪我をさせるわけにはいかないのかもしれないな。

 エマは何故だろう?ああ、モンシア伯爵が溺愛してるからかな。そう言えば、お見合いもした事がないって言ってたっけ。10歳の貴族の女の子ならお見合い話の一つや二つぐらい有っていいはずなのにした事がない。確か、モンシア伯爵が全て断っていたって聞いたから、きっと大切に育てられた箱入り娘なのだろう。

 カナも子爵に大切に育てられた箱入り娘だけど、性格を考えると『いいや、やっちゃえ』的な感じだから、きっとやばい物を作ると危惧されていたのかもしれないな。

 それに比べて、ルチルさんは平民出身でメイドの仕事をしているから、自然と料理ができるようになったのかもしれない。それに、ずっと王宮に仕えて来たんだから俺達の好みの味も分かっているはずだ。ルチルさんに任せておけば安心だな。

 夜以外は…。


「ルチルさんはいつから料理をしているんですか?」

「8歳ぐらいの頃からでしょうか、家は平民ですので日々の生活を凌ぐ事で一杯だった両親を、少しでも助けようと始めたのが切っ掛けでした。」


 ええ子や…。この子は本来はいい子なのだ。いや、いつも明るく優しいルチルさんなのだ。最近はあの一件で、俺の事となるとやり過ぎじゃない?と思っちゃってたから少し重く感じてたけど、ルチルさんは真っ直ぐないい子だった。


「8歳で家の手伝いを始めるなんて凄いですね。」

「いえ、滅相もない…。手伝わなければ生きていけなかっただけですよ。家は平民でも貧困の家庭でしたから。」


 ルチルの両親は共働きだった。

 父親のロイドは商家に勤めるサラリーマン。年収が少ない事から出世はできなかったのかもしれない。商才がなかったのかもしれないし、有ったとしても運が無かったのかもしれない。

 母のルイエはその商家の経理を携わっていたらしい。

 2人の馴れ初めは毎日顔を合わせている内に、お互い真面目な人だと感じてロイドからデートに誘った事から恋が始まったらしい。

 ロイドとルイエは貧乏ながらも幸せだった。そんな幸せの中、ルチルを出産してこれまで何とか生活をしていたのだが、あの事件が起きてしまった。そう、アレク暗殺未遂事件だ。

 両親を人質に取られたルチルは脅され、両親の命を救うべく仕方なしにアレクを暗殺しようとした。しかし、俺がそれを阻止して両親を救い出した。事件解決後は、アレクの計らいで、2人共王宮に勤める事になり、幾らかは生活が安定したみたいで結果オーライだったのかもしれない。

 そんな事件の背景を思い出しながら語った。


「ですから、ヴェルナルド様に御恩を返せるなら何でもしたいと思っています。」


 不味い…。この流れは、また夜伽でもとか言い出しそうだ。早く、話題を変えないと…。


「料理の事はルチルさんに任せますね!何がいいですかね?」


 俺は身の危険を感じたので咄嗟に話を変えたのだ。

 あの時のシルヴィは怖かったな。俺、何もしてないのに…。アレクは逃げやがるし…。

 そう考えると少し身震いしてしまう。


「そうですね。やっぱりユイ様のお好きな料理がメインでいいのではないでしょうか?」

「ユイが好きそうな料理って、何か分かりますか?」

「ええ。いつも食事をされる時は鶏肉を沢山お食べになられていますね。」


 そう言えば、ユイは鶏肉が食卓に上がると心なしか食べる速度が速い気もする。あれは、鶏肉に夢中だったのか。

 表情がまだ表に出せないでいるから分からなかったな。それにしても、ルチルさんはよく見ているな。やっぱり、ルチルさんに料理を任せて正解だったのかもしれないと思った。


「そうか、ユイは鶏肉が大好きなのか。他に好きそうな物ってありますか?」

「う~ん、甘いスィーツなんかもお好きみたいですね。」

「ユイも女の子って事ですね。」

「そうですね。」


 無表情でまだ感情をあまり表に出せないでいるユイも女の子と聞いて、ルチルは右手を口元に持っていき『ふふっ』と笑っている。

 俺とルチルさんがユイの事を話していると、シルヴィは頬を少し膨らませている。

 嫉妬か?可愛いな、シルヴィは…。それとも、俺達の関係を危惧している?いや、それはないな…。ないよね?


「シルヴィ。他にユイの好きそうな料理って何か知らない?」

「知りません!ルチルにでもお聞きになっては如何ですか?」


 プイッとそっぽを向いてしまうシルヴィ。

 あれれ?怒っちゃった。ルチルさんと仲良く会話をしていたからか?本当に女の子と接するのは難しい。

 そんな様子をエマとカナは不振に思ったみたいだった。


「ヴェル様。少し空気が変ですわよ?」

「うんうん。何かあったの?」

「いや…、実は…。」


 エマとカナにあの時の夜伽の話をしたら驚かれた。


「「ヴェル様「君」…。」」

「…何?」

「どうして、ルチルさんを誘われたのですか?」

「いや、シルヴィ達って料理できないでしょ?だから料理のできるルチルさんに頼んだんだけど…。」

「ヴェル君。外で食べればよかったんじゃ?」


 その手があったか。しまったな。俺の5歳の誕生日の時は、マリアとクーリエが気合の入った料理を出してくれたから、これが当然なんだと思ったからこうしたまでなんだけど…。俺は打つ手を間違った?


「やっぱりエマもカナもルチルさんの事をよく思ってはない?」

「そうではありませんけど、婚約者の前で夜伽を申し出るなんて聞いた事がありませんわね。」

「そうだよ。」


 普通はそんな事しないよな。あったとしても、裏でコソコソするよね。貴族なら尚更だ。世間体があるからね。


「あー、きっとルチルさんも何とか恩を返したくて、つい言っちゃったのかもしれないな。」

「そうでしょうけど…、その話を聞かされた後ではあまりいい顔はできませんわよ?」


 エマの言う通りだ。


「僕は別にいいけど…。まさかとは思うけど、ヴェル君。もうしちゃった?」


 っ!カナ、何て事を言うんだ。もし、そんな会話をシルヴィが聞いてみろ!?一生、口聞いてもらえないかもしれない。いや、それどころか殺されるかもしれない。あのシルヴィの腰元で鋭い輝きを見せるレイピアで、こうぐさっと…。考えただけでも恐ろしいな。ガクブル。


「しっ、してないよ…。」

「本当ですの?」

「怪しい…。」

「本当だって、師匠に賭けて誓うよ。」

「納得できませんが、ヴェル様がそう仰るなら信じましょう。」

「ヴェル君。嘘だとわかったらわかってるよね?」


 いや、俺どんだけ信用ないのよ?俺、君たちの婚約者だよ?もうちょっと信用してくれてもいいと思うんだけど…。それよりも、カナ…魔力を抑えて…。怖いから…。


「俺はね、皆と仲良くしてほしいだけなのよ。決して疚しい気持ちで接しているんじゃないんだから信じてよ。」

「ヴェル様が、そう仰るならそう致しますわ。」

「今回だけだよ?」

「ありがとう。」


 エマとカナの協力を取り付けた事で、買い物をしようと思う。まずは鶏肉だな。


「ルチルさん。どんな鶏肉がいいの?」

「そうですね。ユイ様に感動して頂く為に丸焼きなどは如何でしょうか?」

「いいですね。」

「他にもソテーして塩、胡椒で味付けをして野菜と一緒にお出ししてもいいですね。」

「美味しそうですね、期待してますよ。」

「お任せください。」


 シルヴィがずっと無言だ。あんまり会話に参加してこないな。何とかしないと不味いかもしれない。


「エマ、カナ、ルチルさん。鶏肉は任せてもいい?」

「わかりましたわ。」

「うん。」

「畏まりました。」


 鶏肉の事はエマ達に任せて、シルヴィと2人で行動しようと思う。少し、ルチルさんの事で話をしたかったからな。エマ達もシルヴィの顔を見て納得してくれたようだ。


「シルヴィ、行くよ。」

「はい…。」


 シルヴィとスィーツ?の美味しい店に向かった。


「シルヴィはルチルさんの事は嫌い?」


 エマ、カナ、ルチルと少し距離を取った所でシルヴィに話し掛けた。


「いえ。嫌いではないんですが…。」

「じゃ、何で?」

「嫉妬…でしょうか?ヴェル様と一緒にいる所を見てしまうと嫌な事を想像してしまうんです。」


 だろうな…。正直、嫉妬してもらって嬉しくも思うけどシルヴィらしくない。だって、今日は全然笑ってないんだもん。シルヴィはいつも笑っていてほしい。その屈託のない笑顔で皆を癒してほしい。


「それは夜伽の事?」

「…はい。」

「大丈夫だよ。そんな事しないって、俺にはシルヴィ、エマ、カナ、それにユイとフレイムが傍にいてくれるだけでいいんだから。」


 この気持ちは本当だ。生前の俺に比べれば、月とすっぽんだ。寧ろ、幸せ過ぎて怖いぐらいだった。こんな日が永く続けばいいと思ってもいたからな。


「でも心配になるんです…。」

「もう、シルヴィは心配性だな。そこが可愛いんだけど。」


 シルヴィの頬を指で突いてみる。


「ヴェル様、茶化さないで下さい。」


 少し頬を染めてシルヴィは言い返してきた。


「茶化してないさ、素直な感想だよ。」

「ヴェル様はルチルの事をどう思ってるんですか?」

「ルチルさんは王宮に来てからずっとお世話をしてくれてるメイドさんだ。それ以上でもそれ以下でもないかな。強いて言うなら友達かな?」

「友達…ですか…。」


 俺はルチルの事を友達と思っている。男女間で友情は成立するのだろうか?との問いはよくある話だが、ルチルとの間には友情としか思えない感情だけだった。他には、世話焼きの姉?とかもあるかもしれない。

 だから、夜伽をしてもらうわけにはいかない。俺はまだ未成年だし、今の所そんな感情はないからだ。…今の所ね…。


「シルヴィが何を心配してるか分からないけど、ルチルさんは友達、シルヴィ、エマ、カナは愛し合っている恋人以上の存在だよ。」

「ヴェル様…。」


 急に目に涙を浮かべるシルヴィ


「私は、酷い人間です。ヴェル様とルチルの事を勝手に想像して嫉妬して態度にまで現して皆に心配かけて…。」

「シルヴィ?それは普通の事だと思うよ。俺だってシルヴィが他の男と仲良くしてる姿なんて見たくもないさ。もし、見ちゃったらとち狂っちゃうかもしらない…。いや、絶対にそうなる自信はあるよ?」

「もう、ヴェル様ったら…。」


 いや、まじで…。シルヴィにちょっかい掛ける男が現れたらやっちゃうよ?魔法の粋を結集して呪いから何でもやっちゃうよ?


「だから、シルヴィも深く考える事はないと思うよ。誰だって嫉妬するし、後悔したなら反省すればいい。それにシルヴィがやきもちやく姿が可愛いし、怒ってくれてもいいと思うよ。」

「はい。ヴェル様。」


 もう、シルヴィの目には涙が浮かんでいない。いつもの屈託のない笑顔に戻ってくれていた。それでこそ、シルヴィだと思った。


「それじゃ、皆に内緒で少しだけスィーツ?を食べてから買って帰ろうか。」

「はい!ヴェル様。」


 シルヴィとの2人だけの時間を楽しみつつ、皆との待ち合わせの場所に戻った。


「もう、ヴェル君遅い!」

「まさかとは思いますけど2人だけで摘み食いをしていませんでしたわよね?」

「お帰りなさいませ、ヴェルナルド様。」

「ごめんごめん、目移りしちゃって何買おうか迷っちゃたよ。結局、迷いに迷って大人買いしちゃった。テヘペロ。」


 皆には内緒なので誤魔化そうと全種類のスィーツ?を買い込んできたのだ。


「本当ですの?シルヴィさん」

「食べてないよね?シルヴィ。」

「食べてませんよ。食べる時は皆と一緒に食べますよ。ね、ルチル。」


 シルヴィからルチルに話し掛けたところを見て、エマとカナは驚いていた。ルチルも一瞬動揺した様に見えたが嬉しいのか笑顔で言葉を返していた。


「ええ、そうです。シルヴィア様。」


 そんな様子を見て、エマとカナは俺の腕を引っ張って少し距離を取らせる。


「ヴェル様、どんな魔法を使われたのですの?」

「さっきとは別人みたいにシルヴィの笑顔が戻ってるよ。」

「シルヴィの心の靄を払えただけだよ。」


 まだまだこれからかもしれないが、少しは仲良くなってくれていると思う。


「その方法を教えて下さいませ。」

「教えてよ。」

「それはね…。」


 エマもカナも前のめりで俺に詰め掛ける。


「「それは?」」

「企業秘密です。」


 エマとカナはずっこけた。


「それはないよ。ヴェル君。」

「そうですわ。」

「いいんです。ヴェル様はお優しい方なのです。こんな私に気遣って間違いを正してくれたのです。」


 俺とエマとカナのやり取りを見てシルヴィが答える。エマとカナは悪戯がばれた子供みたいにばつが悪そうに見えた。


「エマさん、カナさん、ご心配をお掛けしました。」

「いえ。元気になってくれただけで胸を撫で下ろしましたわ。」

「うんうん。」


 シルヴィはいい子だ。間違いに気付けば素直に謝る。この姿を世の大人達に見せてやりたいと思う。シルヴィみたいな子が多くなればきっと争いなんて無くなると思う。


「それからルチル。今まで嫌な態度を取ってしまってごめんなさい。」

「いえ、いいのです。私の配慮が足りませんでした。こちらこそ申し訳ありませんでした。」


 シルヴィとルチルはお互いに謝って笑顔を向けあった。


「でも、夜伽は必ず致して見せますわ。」


 その瞬間、シルヴィの鋭い視線が俺に突き刺さる。

 しないって、シルヴィ。レイピアに手を伸ばさないで!怖いから!まじやばいから!怒ってくれてもいいとは言ったけどこれはさすがにあんまりじゃ…。

 おい!ルチル!お前は恩を仇で返す気か!?

 助けてよ、エマ、カナ…と思い救済の手を差し伸べてと視線を向けるがエマもカナも氷のような目をしていた。

 何でだよ!?俺、何か悪い事でもしたのか?3人には内緒でスィーツ?食べたからか?これが天罰なのね…。

 今度は皆でスィーツ?を食べようねと思いつつ、シルヴィ、エマ、カナの説教を受けるのであった…。

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