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40    情報を集める

 アレクにバッジの持ち主について調べてもらっていたが、結局のところわからなかった。

 しかし、怪しい人物が浮上した。ベハインド公爵に仕える使用人だった。暗殺未遂事件時、ちょくちょく姿を消していたらしいのだ。

 誘拐犯達のアジトで会った男とこの使用人は同一人物である筈がないのだ。何故なら、あの黒尽くめの男は俺と戦かって死んだのだ。俺の目の前で毒を飲み、大量に血を吐いて死んだのを確認した。

 その男が持っていた紋章が刻み込まれたバッジをアレクに調べてもらったが、どう言う訳かバッジの持ち主は生きているらしいのだ。まだ直接顔を見ていないので何とも言えないが、同一人物ではない事だけはわかる。だとするならば、あの黒ずくめの男とベハインド公爵とは無関係なのかもしれないが、警戒だけはしておいた方がいいだろう。

 今はまだ情報が足りないのでベハインド公爵が何者でどう言う過去を持っているのかを知る為にモンシア伯爵を訪ねる事にした。普段、訪れる事のない王城の一角に軍のお偉方が集まる執務室がある。そこは屈強な体をした男達が国内の治安状況や他国の情勢について議論している場所だ。

 執務室の扉の前に槍を持った兵が2名いる。執務室の前に行くと鋭い視線で俺を見てくる。


「執務室に御用でしょうか?」

「私は、ヴェルナルド・フォン・グナイスト男爵と申します。モンシア伯爵に面会を希望します。」

「承りました。少々、お待ちください。」


 モンシア伯爵に面会を希望する旨を伝えると右側の兵が中に消えて行った。暫くすると、扉が開いて『ご案内します。どうぞ中へお入りください。』と先程、中に消えていった兵が答える。『お願いします』と答えて案内された。


 執務室の中は広く、幾つもの衝立によって中が区切られている。その中には軍人達が仕事をしているようだ。

 通路を歩き、一番奥にある一際目立つ扉には軍務卿室と書かれているプレートが掛かっている部屋があった。案内している兵がノックすると中から扉が開いて軍服を着た女の人が姿を現す。

 軍服や制服を着た女の人を見ると思わず何か・・を期待してしまうのは俺だけか?


「グナイスト男爵様ですね?」

「え?ええ、そうです。」


 綺麗な声で思わず驚いてしまった。細身ではあるが鍛えているであろうスレンダーな体…。思わず見惚れてしまいそうになる。


「受け賜っております。中へお入りください。」

「はい。」


 女の人に誘われ部屋に入ると部屋の奥には更に扉があった。恐らくこの部屋はモンシア伯爵の部屋の前にある受付みたいなところなのだろうと思った。そしてこの女の人はモンシア伯爵の秘書なのだと思う。

 女の人はそのまま奥の扉にノックした。


「グナイスト男爵様がお越しになられました。」


 女性は扉の奥にいるであろう人物に向かって話し掛ける。すると中から男の声が聞こえる。


「入りたまえ…。」


 モンシア伯爵の声だった。言われた通りに扉を開けて中に入ると、応接室にあるような大きなソファーと高そうな机、幾つもの本棚に目を奪われる。


「婿殿、この様な所まで来られて何用かな?」


 モンシア伯爵は机の上に置かれた大量の書類と格闘していた。


「お仕事中にすみません…。モンシア伯爵にお聞きしたい事がありまして伺いました。」

「いや、何、気になされるな。それよりもお掛け下され。」

「ありがとうございます。」


 礼を言って大きなソファーに腰掛ける。


「ああ、君、飲み物を2つ持ってきてくれ。」

「畏まりました。」


 モンシア伯爵は秘書に飲み物を命じると俺の対面に腰掛けた。


「それで、婿殿。お聞きしたい事とは?」

「えっとですね…、ベハインド公爵の事に付いてお聞きしたいのです。」

「ベハインド公爵の事ですかな?」


 ベハインド公爵と聞いたモンシア伯爵は目を見開き、尋ね返してくる。


「ええ、そうです。どの様な人物でどの様な過去を持っているのかをお聞きしたくて参りました。」

「ふ~む…、具体的には何を?」

「まずは、性格や考え方はどの様なお人ですか?」


 仮にベハインド公爵が暗殺を企てた真犯人だと仮定するならば考え方と人物像で今後の対策を練る必要がある。


「ベハインド公爵は、野心家であり好戦的な考え方をする人ですな…。」

「好戦的?」

「ええ、公爵は軍国主義で強硬派のトップですな。強国は強い兵を有し、他国を属国にするべしと唱えていますな…。」


 完全な独裁者的な考え方だな。そんな考え方の国は長くは続かないだろう。前世の世界では歴史がその事を証明していると思っていたところに秘書が『コンコン』と扉をノックした。


「お茶をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」

「入れ…。」

「失礼します。」


 手押し車にお茶を乗せて秘書は静かに入ってきた。勿論、その間は会話が止まっている。こんな会話を他に聞かせる訳にはいかない。下手したら不敬罪に問われかねないからだ。


「失礼します。」


 秘書は断りを入れてから俺とモンシア伯爵の前にコースターを敷いてお茶を入れ始める。


「本日のお茶はストレートティーです。」


 お茶はお茶でも紅茶だった。元日本人の俺としてはお茶と言えば日本茶だろうが!と叫びたくなったが心の奥に仕舞い込んでおく事にする…。


「ご苦労、下がれ。」

「失礼します。」


 女性はモンシア伯爵の命に従い、部屋を出ていった。

 それにしてもモンシア伯爵、すごい偉そうだな。あっ、軍務卿だったけ?モンシア伯爵は…。軍の最高責任者だ。


「ふむ…。」


 あれ?どこまで話し進んでたっけ?


「強国は強き兵を有するは我々軍に所属する者なら誰でも賛同しますが、他国を属領にすべしの考え方は国王陛下と対立する考えですな。」


 あっ、そうそうこんな話だった。本当に自分勝手な言い分だなと思ったが俺も人の話を聞きに来てるのに話を忘れてたなんて同じかもしれない。

 だって引き締まった女性のお尻がなんとも…。まあ、それは置いといて…。

 属国の民衆には興味ないか。公爵は世界征服でも考えているのだろうか。


「国王陛下と対立?」

「ええ、国王陛下は強き国は民を重んじ、慈愛を持って治めるべしと唱えており、公爵の考えと陛下の考えは真っ向から対立しておるのが現状ですな。」


 そりゃ、そうなるわな。慈愛を持って治めるべしはすごく共感できる。前世のどこぞの政治家にでも聞かせてやりたい。


「ふむ、では公爵は国王陛下を疎んでいると?」

「でしょうな…。陛下と公爵はその昔、王位を争っていた事もありますからな。」


 ベハインド公爵は野心家と聞いたな。野心家なら王位を狙うのは当然だな。


「前国王はどうやって王位をお決めになられたのですか?」

「陛下も公爵も勉学によくお励みなられていた。成績も互角だった。ただ違うところは考え方と味方が違ったと言う事だけでした。」

「味方?」

「公爵は好戦的な考え方を持って貴族連中を取り纏めていったのです。それに対し陛下は民衆を味方に付けた。」


 なるほど、貴族の支持を持てば政治に権力を持つ事になる。この国の主導権は貴族にあるわけだな。しかし、民衆の声を無視すると国が破綻してしまう。何事もバランスは大事だと思う。


「前国王はさぞかし悩まれたでしょうね…。」

「はい、それはもう…。悩みに悩んだ結果、民衆の支持を持つ陛下に王位を継承させたのです。」

「何故です?」

「軍国主義は兵を強くし他国を圧倒する。しかし、その犠牲になるのは民衆だ。その事にお心を痛めていた前国王陛下は、貴族連中の反対を押し退けて、現国王陛下で在られるアンドリュー陛下に王位を譲られたのです。それに貴族の中でも好戦的な考えを嫌う穏健派と呼ばれる者達もいましたからな…。」


 ふむ、貴族だけ味方に付けたベハインド公爵は政治に権限を持てたが民衆を蔑にする事はこの国の未来を閉ざしてしまう。それに対して国王陛下は民衆の支持を得て、更にベハインド公爵に反発する貴族連中までも味方に付けたというわけか。そりゃ、どっちに転ぶかは決まっているな。


「それは対立もしますね…。」

「ええ。結局、公爵は王位を継ぐ事はできずに強硬派のトップになったのです。そしてグスタフ殿下を次期国王にと推していらっしゃる。」


 アレクを暗殺する動機はこれで決まりかな?まあ、まだ結論を出すには早いかもだけど。


「なるほど…、それでアレクとグスタフ殿下は仲が悪いと?」

「いえ、元々は兄弟仲は良好でした。ある事件が起こるまでは…。」

「ある事件?」

「ええ、グスタフ殿下は一度、暗殺されかけたのです。」

「っ!暗殺ですか?」


 グスタフが暗殺されかけた?穏健派に?いや、それはあり得ないだろう。アレクは王太子殿下、次期国王にほぼ決まっているのにグスタフを殺す必要があるのか?


「そうです。結局、犯人は最後まで分からず終いでしたが…。それが元でグスタフ殿下は疑心に囚われてしまい、公爵の口車に乗せられてアレックス殿下とシルヴィア王女殿下に対立するように溝が深まっていったのです…。」


 恐らく、ベハインド公爵が仕組んだ暗殺だな。アレク達の仕業に見せかければグスタフは疑心暗鬼になるだろう。

 そこへ、ベハインド公爵の甘い誘い。間違いなくベハインド公爵の罠だろう。しかし、証拠が見つからないか証拠があっても公にできなかったのどちらかなのだろう。

 前者の方が確立は高いな。自然と納得できるしな。


「そうですか…、そんな過去があったんですね…。」

「ええ、私の知る事はこれで全部ですな。お役に立ちましたか?」

「ええ、十分過ぎるほどに…。ありがとうございました。」


 これで十中八九、ベハインド公爵かその派閥からの暗殺だと思う。恐らく、ベハインド公爵自らが企てた暗殺計画のはずだ。

 気になるのは死んだはずの人間の存在だな…。やっぱり直接見ておきたいが、今はまだ無理そうだ。


「いえいえ、何か協力できる事があれば言ってください。私にできる事があれば何でも致しますぞ。」

「ありがとうございます。その時は、よろしくお願いします。」


 礼を言ってその場を去ろうとした時に、ふと気になった事があった。


「モンシア伯爵はどっち派ですか?」

「…私は穏健派です…。」

「では、次期国王に推挙する人物は?」

「…アレックス王太子殿下です…。」

「わかりました…。」


 モンシア伯爵は嘘を吐ける人ではないと思う。今はそれを聞けただけで良しとしよう。


「婿殿…。」

「何か?」

「この事は内密に…。」

「わかっていますよ。モンシア伯爵。」


 そして執務室を去って行った。

 モンシア伯爵との面会が終わり、一人研究室に戻った。ベハインド公爵がどんな人物なのかを思い出し、情報を整理してみようと思う。


 ベハインド公爵は野心家であり好戦的な考え方をする人物。

 その昔、貴族連中を味方に付けて現国王のアンドリュー陛下と王位を争ったが、民衆と反発する貴族を味方に付けたアンドリュー陛下に負けた。恐らく、公爵が王位を継いでいたとしたら今頃は周辺諸国と戦争状態だったのかもしれない。

 それ以来、公爵は強硬派、アンドリュー陛下は穏健派として対立している。公爵をトップに、強硬派はアレクを廃嫡してグスタフを次期国王に据える考えをしている。

 この行動を見ると公爵に味方する貴族は結構いそうだな。だから、アレクは周囲の貴族に認められようとがんばっているのか。

 アレクとグスタフ殿下は元々は仲がよかったがグスタフ殿下の暗殺未遂事件が起こってからは兄弟仲に溝が入った。誰でも、暗殺、毒殺されかけると疑心暗鬼になっちゃうよね。

 その事は共感を覚えるが、問題はその事件を切っ掛けにベハインド公爵陣営に組された事か。もし、アレクの暗殺に成功したとして公爵はどうする?グスタフを傀儡として陰で操るつもりか?それともいずれグスタフ殿下と国王陛下も殺して自分が王になるつもりなのか。

 どちらにせよ、アレクを殺させてはいけない。公爵の思い通りになると周辺諸国との戦争は避けられなくなる。戦争になると一番苦しむのは民衆だ。

 戦争に勝てばそれでもいいかもしれないが、勝てば勝つほど敵を作る事になる。そうなればいずれ攻め込まれて負けるだろう。戦争が長引けば長引くほど国は疲弊し、弱くなる。国が弱くなれば周辺国の思惑に乗せられて国内は蹂躙されるだろう。

 その前に内乱が起こるかもしれないな。いずれ、公爵とは戦わなければならなくなるな。

 とりあえず、アレクを暗殺しようとしたのはベハインド公爵で間違いないだろう。公爵の動きはアレク達に任せるとして、気になるのは黒尽くめの男か。恐らくあの黒尽くめの男は公爵に仕える本当の使用人で間違いないだろう。

 今いる使用人は替え玉か何かなのだと思う。しかし、嫌な予感しかしない。どうするか…。

 こんな時は師匠の残した魔導書だ!神頼みより師匠頼みだ。早速、魔導書を魔法の袋から取り出した。

 遠くても相手が見える千里眼のような魔術がないかと調べてみる事にする。無くてもそれに近いような魔法があればいいが…、と思っていると発見した。

 その名も…千里眼!


「って、そのままやないか!」


 師匠の残してくれた魔導書を床に叩きつけた。

 あぁ、魔導書が…。大丈夫…、どこも破れてない…。よかった。

 発見した魔法を早速使ってみる事にした。


千里眼カラボインツ!」


 千里眼の魔法を発動すると、頭の中にイメージが流れ込んでくる。

 これは…、宿?

 街中から宿に歩いて行くイメージが頭の中に入ってくる。宿に入ると2階に向かう。向かった先に部屋の扉が見えてきた。その扉を開ける事もなく通り抜ける感じで中に入った。

 部屋の中には2人いた。若い男女だ。男女は裸でベッドに横になり、これからいよいよ始ま…。


「って、何見とんじゃ!」


 違うだろうが!見たいのこれじゃない。…でも、ちょっとならいいよね?






 結局、最後まで見ちゃったよ。凄い激し…「コホンっ!」


 えっと、ベハインド公爵領は西にあったな。

 西に向かって千里眼を発動する。

 これは、城?城の中を進んで行くと玉座の間っぽい所に入った。玉座に座っているのって、陛下?いや、違うな。似ているが陛下ではない。

 陛下は肩まで伸びた髪にウェーブが掛かっているがこの人は腰まで髪を伸ばしたサラサラストレートだ。だとするならば、この人がベハインド公爵だな。

 その横にいるのは…。


「っ!」


 あの黒尽くめの男だった。死んだ筈の黒尽くめの男。

 生きていたのか!?いや、違う!あの男は毒を飲んで死んだのだ。そして、その亡骸は俺が灰も残さないほどに焼き払った筈だ。どうして生きているんだ?と驚いているとその男は何かを命じられて部屋の外に出て行く。

 部屋を出た後、急に目が合った。目が合ったと言っても映像を見ている時の人物と目が合ったような感じだ。だが、この男とは確実に目が合っている気がした。

 すると、男は顔を隠して右手を俺に向け、何かを呟く。唇を読んでみると『見ているな!』と聞こえた気がした。

 その瞬間、映像が途切れた。恐らくは妨害されたのだろう。


「お前はデ○オか!」


 思わず突っ込みを入れてしまった。あの男、恐らくは魔法使い。そして死んだ筈の男に化けてすり替わっている。『何の為に?』と思ったが結局はわからない。

 映像も途切れたし、再度覗き見ようと試みたが無理だった。この男は危険だと俺の勘が告げている。十分に警戒する必要があるな。この事はアレクと相談して今後を決めていかなければならないな。

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