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34    男

 アレク暗殺未遂事件が無事に終わったが、ロイド、ルイエを攫わせてルチルに暗殺を命じさせた真犯人はわからなかった。

 アレクの話では誘拐犯達を尋問した結果、黒尽くめの男に大金を貰って依頼されたと言う事だった。勿論、危ない橋を渡るので一度は突っぱねたらしいが結局のところ、大金に目が眩んだらしい。

 誘拐犯達は黒尽くめの男の顔は見ていないそうだ。相手の顔ぐらい見とけよと思ったが過ぎた事だ。仕方がない…。

 今後も今回のような事が起きるかもしれないと周囲に警戒を呼び掛けておいた。

 ルチルの両親のロイド、ルイエはアレクの計らいで使用人として王宮で働く事になった。王宮に仕える使用人の全ての家族を雇う事はできないが、ルチルとその両親は今回の事件の当事者なので真犯人の報復を恐れて保護する名目で王宮に召し抱えると言う事だった。

 入学して六ケ月、王都に出発してから九ケ月が経過していた。

 そろそろマリアとクーリエの出産が近い頃だ。しかし今、王都を離れる訳にはいかなかった。アレク、シルヴィの護衛があるからな。

 こればっかりは諦めるしかないと思った。いずれ帰れる時が来たら帰ろうと思う…。とりあえず今はできる事をしよう。

 黒尽くめの男の行方を追う事だ。そいつは何者で、誰から支持されて今回の事件を起こしたのかを明らかにしておかなければならない。誘拐犯達の刑が執行される前に俺が再度尋問しようと思う。


「アレク…。」


 誘拐犯達の事が一段落して部屋でくつろいでいたアレクを訪ねた。


「どうした?ヴェル。」

「今回の事件の裏には真犯人がいる事は確かだよね?」

「そうだね…。」

「真犯人を探し出す為に俺が誘拐犯達を再度尋問したいんだけどいいかな?」

「う~ん、刑が決まってしまったからな…。」


 刑が決まった囚人とは会えない決まりになっているそうだ。囚人を殺害するとか逃亡の手助けをするとかあるらしい。


「そこを何とかできないか?

「う~ん…。」


 アレクは迷っている。


「アレクの殺害を企てた人物を探し出す為だよ?真犯人を探し出さないとまた同じ事が起きるかもしれないよ?」

「…わかった。何とかしよう…。」


 迷いに迷っていたアレクだったがまた今回と同じような事が起こってもらっては困るので何とか都合をつけてくれるそうだ。


「さすがアレク、頼りになるよ。」

「こう言う時だけよいしょするな…。」


 アレクを褒めた事って…。あんまりない気がする。


「ソッ、ソンナコトナイヨ。」


 しまった。声が上擦った…。


「…まあ、いい…。」

「助かります…。」


 アレクと共に囚人が収監されている牢に向かった。


「アレックス殿下、本来はこの様な事は承服致しかねませんが今回だけは特別ですよ?」


 牢に勤務する看守は渋々と言った感じでアレクの頼み事を聞き入れた。


「ああ、わかっている。」

「それとこの事は内密にお願い致しますね。」

「勿論だ。」


 勿論、言う筈がない。アレクはこの国の王太子殿下だ。王太子が内密にこそこそと囚人と会っていた事がバレると立場上不味いからだ。


「じゃ、ヴェル。任せたよ。」

「任された。」


 アレクと看守を残して誘拐犯達が繋がれた牢に向かう。


「こんにちわ。」

「…。」


 俺は大柄の男に話し掛けた。右腕を失った男。俺が刀で右腕を切り落とした男だ。しかし、男は無言だった。無視か…、いい度胸だ…。


「聞きたい事がある…。」


 殺気を放ちながら男に言う。


「…。」


 しかし、男は殺気に身を震わせるが何も答えなかった。どうやら話す気はないらしい。仕方ない…。魔法を使う事にした。


記憶解読ディコーディングメモリー!」


 男の頭に手を乗せて魔法を発動した。

 俺の手と男の頭が青白く光を発した。男の記憶を読み取ると黒尽くめの男の容姿が見えるが顔は隠していた為、確認する事はできなかった。

 黒尽くめの男は中肉中背に見えるが鍛え込まれた肉体をしている気配を感じた。こいつは一体、何者なんだ…。

 誘拐犯達からこの男に連絡を取る手段はない。この男は何日かに一度、誘拐犯達の前に姿を現すようだ。

 もしかしてこの男は、まだ暗殺が未遂に終わった事を知らないかもしれない。だとしたら誘拐犯のアジトにまた姿を見せるかもしれない。

 待ち伏せするか…。誘拐犯達の記憶を一通り見終わった後、アレクと看守の元に戻る。


「アレク、終わったよ。」

「早かったな。それで何かわかったかい?」

「真犯人の外見的な特徴と接触方法ぐらいかな…。」

「そうか。で、どうする?」

「アジトで待ち伏せしようと思う。」


 それぐらいしか今はやれることがない…。


「上手くいきそうか?」

「やってみないとわからないな。」


 後は運次第だな。真犯人がここ数日王都にいない事を願うしかない。もし、王都にいれば誘拐犯達のアジトに踏み込んだ事が耳に入っているだろう。そうなったら真犯人は確実に来ない。


「そうか、何か協力できる事があれば言ってくれ。」

「いや、特にはないかな。」


 待ち伏せが無駄足に終わる事もあるから一人で行動しようと思う。大人数で行動を起こせば真犯人に気づかれる恐れがあるからだ。もっとも真犯人が王都にいなくてアジトに踏み込んだ事がバレていなければの話だが…。


「そうか…。」

「まあ、任せといて。」

「わかった。」


 一人で誘拐犯達のアジトで待ち伏せする事を決めて行動を開始した。

 待ち伏せする事、2日が経過した。

 物体察知の魔法でアジトに近づいてくる男を捉えた。この姿形…、あの男だ…。男は建物の扉にノックするが、反応がない事に警戒をしている様子だ。男は少し迷った後、建物に入ってきた。一歩、また一歩とゆっくりと警戒するように近づいてくる。

 もう少しだ…。


捕縛する触手アレストフィーラー!」


 十分に引き寄せてから男に向かって魔法を発動した。


「っ!」


 しかし、男は捕縛する触手に気付いて咄嗟に回避する。後方に飛び退いた男はそのまま身構える。


「よく気付きましたね…。」

「…。」


 男は何も答えない。初撃で男を捕らえられなかった事で戦闘を回避する事ができないと悟り、身構える。


肉体強化フィジカルレインフォースメント!」


 肉体強化の魔法を発動するが、その刹那の間に男は行動を起こした。ローブの下に仕込んでいるナイフを右手2本、左手2本、計4本を投げてきた。


「っ!」


 男の咄嗟の攻撃にまだ体が反応しきれていない。このままでは4本のナイフが体に突き刺さってしまう。


爆風ブラストウェーブ!」


 投げナイフを回避する為に俺と投げナイフの間に爆風を発生させて投げナイフを吹き飛ばす。


「ぐっ!」


 爆風によって吹き飛ばされたのは投げナイフだけではなかった。俺も後方に吹き飛ばされて壁に体を打ち付ける。

 背中に痛みを感じていると男は更に追撃を掛けてくる。今度は剣で切り掛かってきた。痛みに耐えながら咄嗟に刀を抜き放って男の剣を受ける。


「くっ!」

「…っ!」


 数秒、剣と刀が交差していたが力技で剣を弾き返して男はそのまま後方に飛び退いた。


(こいつ、なかなか強い…。)


 男は戦闘経験があるようだった。初撃の投げナイフを回避したと見るや剣による追撃を仕掛けてきたからだ。

 このままではこちらが不利だな…。

 男は剣を、俺は刀を身構えて睨み合う。


「はっ!」


 先に動いたのは男だった。左手でナイフを投げ、右手で剣を振りかざす。


風の盾ウィンドシールド!」


 男の攻撃を風の盾で弾き返す。


「っ!」


 攻撃を防がれた男は後ろに飛び退いて身構える。睨み合いが続く…。


氷柱砲弾アイシクルシェル!」


 今度は俺が先に動いた。男は氷柱砲弾を剣で切り裂いて直ぐに刀で追撃を掛けようとする。しかし、追撃をしようとする一瞬の間を狙った。


重力反転インバーショングラビティ!」


 男の体はふっと宙に舞上がる。急に浮き上がった男は態勢を崩して隙ができた。そこを刀の刃のない方で男の腹部を切り付ける。


「ぐっ」


 男は腹部の痛みで倒れ込んだ。


捕縛する触手アレストフィーラー!」


 倒れ込んだ男に向かって捕縛する触手を発動して拘束した。


「さて、洗いざらい吐いてもらおうか。」


 体の動きを拘束された男に言い放つと男は観念したのか動きを止めた。動きを止めた時、口の中からカリッと音がして何かを飲み込んだ。

 次の瞬間、男は口から血を吐いた。


「っ!毒か!」


 拘束された事で身動き一つできない男はこれまでと思い口の中に仕込んでおいた毒を飲み込んだようだ。

 男の口からは大量の吐血。残された時間はあと僅かと言ったところだ…。


神の解毒剤ディバインアンティドーテ!」


 すぐに上級解毒魔法を発動したが、間に合わなかった。既に男は息絶えていた。


「間に合わなかったか…。」


 男は苦痛に顔を歪ませて大量の血を吐いて死んでいた。

 訓練された暗殺者は捕らえられると尋問を恐れて口の中に仕込んだ毒を飲み込んで自決すると聞く。この男はたぶんそれなのだろう…。


記憶解読ディコーディングメモリー!」


 死んだ人間にも記憶解読が使えるか試してみたがやはり記憶は見れなかった。

 これで手掛かりを失った。男を捕らえる為に2日も掛けて待ち伏せしたのに無駄足になってしまった…。

 男の正体もわからず、その背後にアレクを殺そうと罠を仕掛ける存在にも辿りつけなかった…。失態だ…。

 どうする事もできなかった。アレクに協力してもらったと言うのに…、俺は失敗してしまった。


 (アレクに何て言おう…。)


 深い溜息しか出なかった。後に残るは戦闘の爪痕と虚無感だけだった…。

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