4 初めての魔法
魔法書を貰った翌日から、魔法の練習が始まった。
魔法使いになる為の、最低限の知識は教わった。問題は、魔法が使えるかどうかだ。当たり前だよね?魔法が使えない魔法使いって、何それ?おいしいの?状態ですよ。寧ろ、それは魔法使いじゃない。
試験官兼指導員の母様の元、早速、魔法使いになれるかどうかの試験が始まった。
「じゃ、ヴェル。まずは魔力を感じれるかどうかを試します。」
「はい。母様。」
「体の力を抜いて、体の中に眠る力を感じてみて。」
感じてみてって…説明が漠然とし過ぎてて分かんないよ。
「えっと、どうすればいいんですか?」
「そうねえ…。こう、目を体内に向けるような感じで体の中の力を感じるのよ。」
うん、よしっ!全然分からん。って言うか、説明下手だな…母様。
まあ、いい…。とりあえずはやってみよう…。
力を抜く…そして、体内に目を向ける感じで…。瞑想するような感じかな?
坊主が座禅を組んでいるように座って瞑想を開始する。
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出来ません…分かりません…。
「どうしたの?ヴェル。」
期待に満ち満ちた微笑みで語りかける母マリア…。
くっ…期待を裏切れない…。あれだけ『天才よ。凄い魔法使いになるわ。』と期待されて、出来ませんなんて言えない…。
「ちょっ、ちょっと横になってやってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。」
笑顔が怖い…。母様の期待を一身に受けてやるのが、こんなにもプレッシャーを感じるなんて…。まさかっ!ニュー○イプっ!母様はニュー○イプなのか!?
「どうしたの?ヴェル。」
「いっ、いえ…。」
危ない危ない…。雑念が混じっちゃった。集中しないと…。
一呼吸ついて、再挑戦だ。
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ん?何だ?何、この違和感?これが、力か?
体の中に熱く力強い血の流れのようなものを感じる。それは、体の中心から体外に流れ出でるような力の波動が感じられた。
「これが…魔力?」
「そうよっ!それが、魔力よ!流石は、ヴェルね!天才だわっ!」
そう言って、母様は抱き着いてくる。俺の頭を母様の胸の中にがっしりと巻き付いて離れない。
う~ん、柔らかくて気持ちがいいんだけど、この胸が自分の母親の胸だと思うと、何故か興奮しない…。
「ちょっと、母様。苦しいです。」
「ああ、ごめんなさい。嬉しくって、つい…。」
ついじゃないよ…。正直、気持ちよくて嬉しいんだけど…何か虚しい気持ちになる。
「でも、流石はヴェルね。天才だわ。私でも魔力を感じるのに2年も掛かったんだから。」
まじ?2年も掛かるの?それに比べたら、すぐ出来ちゃったよ…俺。
「あっ、あはは。出来ちゃいました。」
「流石、ヴェルね。私の息子だわ!」
「はい、母様。父様と母様の子供です。」
「違うわよ。わ・た・し・の息子だわ。」
え?父様どこ行った?母様だけの息子ですか?…父様と母様って、仲悪かったっけ?
もしや…これは夫婦の危機と言う奴では!?それは不味いぞ…。転生した先の家が、いきなり離婚の危機だなんて…。
「魔法の才能を持って産まれて来たんだもの、私の才能を受け継いだ私の息子だわ。」
ああ、そう言う意味ね…。魔法の才能は母様譲りで、魔法の才能のない父様は除外されたと言う訳ですか…。何か、それはそれで悲しい…。
「ありがとうございます。母様。」
「ん、いい子ね。じゃ、次に行きましょうか。」
「はい。母様。」
「次は、魔力操作よ。」
ウィンクをしながら可愛らしく答える母様。
いや、似合ってて可愛いんだけど…もうちょっと考えてほしい。確か、20歳でしたよね?20歳の女性が3歳の息子にウィンクって…。
「ヴェル?何か失礼な事を考えてない?」
ビシィっと世界が凍り付いた。
エスパーかっ!?エスパーなのかっ!?何だこのプレッシャーは…やっぱり母様はニュー○イプ…。ってそんな事よりも母様が怖い。表情は笑顔なんだが、目が笑ってない…。まっ、不味い…。
「かっ、母様。大好き。」
思わず、抱き着いちゃった。額からは冷や汗がダダ漏れだ。
「う~ん、可愛い。私も大好きよ。ヴェル。」
抱きしめ返された。よかった…怒ってないみたいだ。助かった…。
「母様、ちょっと苦しいです。」
「ごめんなさい。ヴェルが可愛いから、ついね。」
ついじゃないよ…助かったから、いいんだけどね…。それよりも、続きをはよっ!
「じゃ、魔力操作ね。感じた魔力を右手に集めてみてくれる?」
「はい。母様。」
体内に感じた魔力を移動させるイメージをしてみた。すると、ぐぐぐっと右手に力が集まって行く感じが伝わってくる。特に右手には力を込めていないのに熱く、力が込められてるような感覚だ。
すごい…何だ、この力は?力が沸いてくるようだ。
「すごい、すごい、すごい。すごいわ、ヴェル。完璧よ。」
「ありがとうございます。母様。」
「じゃ、次は魔法の基礎。水玉を作ってみましょうか。」
「はい。母様。」
「まずは魔力操作で集めた魔力を水をイメージして、こう唱えるのよ?」
そう言って母様は、詠唱を始めた。
「清らかなる清流に住まう水の聖霊よ、我が言葉に耳を傾け力を分け与え給え、水玉!」
詠唱を唱え終わった母様の右手には、ソフトボールほどの小さな水の玉が出来ていた。
すごい…これが、魔法か…。
「じゃ、やってみて。」
「はい。母様。」
まずは、体内から魔力を集める。体内から沸き上がる力を、魔力操作を使って右手に集める。頭の中で水をイメージ…。
イメージ…。イメージ…。イメージ…。
「清らかなる清流に住まう水の聖霊よ、我が言葉に耳を傾け力を分け与え給え、水玉!」
すると、右手の中に小さな水の塊がぽんっと浮かび上がった。
やった!成功だ!これが、魔法…。これで、俺も魔法使いになれる!
「きゃー、すごいわ!ヴェル!天才よー!やっぱり、ヴェルは天才なのよー!」
俺の魔法が成功した事を、子供のように興奮して燥ぎ回る母様。
そして、何故、俺に抱き着く…。いや、柔らかくて気持ちいいんだけど…まあ、いいか。俺も嬉しいし…。
「ハァハァハァ、やりました。母様。」
「よくやったわ。ヴェル。疲れちゃったわね。今日は、このぐらいにして、魔法の練習は明日にしましょう。」
え?これで終わり?まじで?
「あんまり無理をし過ぎて、魔力が枯渇したら気絶して大変な事になるわよ?だから、今日はもう、お終いね。」
そうか、魔力が枯渇すれば気絶するのか。もし、これが戦場なら一環の終わりだな。だから、無理をしないと言う事か?自分の限界を知る必要があるな…。
しかし…魔法の基礎、水玉1発で終わりか…。ひょっとして、俺の魔力総量は少ないのか?これでは、話にならないな。何とかして魔力総量を上げる方法がないか、模索してみるか。
「はい。母様。ありがとうございました。」
「じゃ、ヴェル。帰りましょう。」
「はい。母様。」
母様と仲良く手を繋いで、帰宅した。
何か、こう言うのっていいな。前世では、仲良く手を繋いで帰るって事はなかった気がする。…前世での両親は、元気にしているだろうか?俺が死んで、悲しい思いに打ちひしがれているのかもしれない…。それとも、治療費の工面をしなくてもよくなったから、苦しみから解放されて喜んでいるかもしれない。
…分からないが、俺の事を最後まで生き抜いてほしいと願っていた両親だ。俺の事は忘れて、元気にやっていてほしいものだ。遠い異世界より、祈っています。
その日、夕食の席で魔法の練習の成果を報告した母様は、かなり興奮していた。何度も天才だわとか目指せ!王宮筆頭魔法士と連呼していた。
その様子を父様は引き気味に眺めつつも、喜んでくれていた。クーリエは終始、喜んでくれていた。『流石は奥様のご子息様です。』と言っていたが、そこに父様が含まれていないのは気にしないでおいた。
その言葉に、父様は天井を見つめ、しょっぺぇなぁと零していた。その呟きに、そうですね…世知辛い世の中になりましたねと心の中で囁いておいた。
あれ?なんだろう?今日のスープはしょっぱいな…。ああ、そうか…目から水が流れて入ったみたいだ…。