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32    犯人

 師匠の研究していた魔法を一つ完成させた喜びも束の間、自体は動いた。

 授業が終ってから魔法の指導をいつもより入念に行って遅く帰る事になったアレク、シルヴィ、エマ、カナと俺は人気のいなくなった校庭を歩いていた。

 その時、校庭の茂みから何かが飛んできた。


土の壁アースウォール!」


 俺は咄嗟にアレクに土の壁を発動して防いだ。


「誰だ!?」


 叫ぶが周囲には誰もいなかった。俺が防いでいる間に逃げたのだろう…。


「アレク兄様!ご無事ですか?」


 シルヴィがアレクに詰め掛ける。


「ああ、大丈夫だ。」


 今まで何もなかったのに突然暗殺を受けた事にアレクもシルヴィも動けなかったみたいだ。エマもカナも驚愕して言葉を失っている。


「ヴェル、すまない。」

「気にしなくていいよ、これも仕事の内さ。」


 アレクに何気ない顔で答えて周囲を警戒する。やはり人の気配はない。追撃は無さそうだな。しかし、何で今頃?

 入学してから7ヶ月が経過していた。


「アレックス様、大丈夫なのですか?」

「大丈夫?」


 エマもカナも遅れてアレクに尋ねる。


「ああ、大丈夫。それよりヴェル、これを見てくれ…。」


 エマ、カナの問い掛けに答えたアレクは飛んできた物を拾って俺に差し出してきた。


「矢だね…、それもご丁寧に毒まで塗ってあるね。」


 アレクからそれを受け取ると観察してから魔法の袋の中に仕舞い込んだ。


「何故、今頃なのでしょうか?」

「それは俺が聞きたいよ、シルヴィ。」


 皆、困惑していたがいつまでもここにいる訳にはいかないので王宮に戻る事にした。勿論、警戒して戻ったがそれ以上は何もして来る事はなかった。


「ヴェル、皆、この事はしばらくの間黙っていてほしい。」

「何故です?」

「今回の事が公になれば騒ぎが大きくなる。」

「でしょうね…。でもいいんですか?」

「ああ、頼む…。」

「了解。」

「わかりました。」

「わかりましたわ。」

「わかったよ。」


 俺とシルヴィ、エマ、カナはアレクの言葉に従った。

 でもいいのかな?国王陛下にだけは素直に言っておいた方がいいと思うんだけど…。そしたら護衛が増える…増えたら身動きが取りづらくなるのだろうか?

 まあ、いい…。それはアレクに任せよう…。

 それよりも魔法学校内で暗殺行為が行われた。未遂で終わったけど今後も暗殺されるような事があるかもしれない。俺だけでは守りきれないかもしれない…。暗殺者が仕掛けてきても素早く対応できるようにならないとだめだな…。

 どうしようか…。こんな時は師匠の魔導書だ。早速、調べてみよう。

 魔法の袋から取り出した師匠の魔導書に不特定多数の敵から攻撃を予測し回避する魔法が書かれていた。魔法発動者から中心に魔力を限りなく薄くして伸ばして球状の結界を張る。結界内にある物は形や動きを正確に把握できるそうだ。

 これを使えば、攻撃してくる敵の動きを見なくても予測して回避できるだろう。結界内に入ったらどんな武器で攻撃してくるかもわかると言う事らしい。

 試しにやってみるか…。


物体察知インフェンスオブジェクト!」


 魔法を発動すると周囲の人の動きや物の形が鮮明に頭に入ってくる。


「これは…、すごい…。後ろに何があるかもはっきりわかる!」


 さらに魔力を消費すると把握できる範囲が広がるようだ。すると、ある事に気がついた。


「あの女、乳首が立ってやがる!」


 あの服の形からしてメイドだ。あの顔形に見覚えがある気がする。たぶん…、俺の世話を見てくれてるメイドの一人のルチルさんっぽい。


「…。」


 ごめん、変なところに集中しちゃった…。

 ルチルさんっぽい人はこっちに来そうだな。行動を予測していると『コンコン』とノックがする。


「はい。」

「お着替えをお持ち致しました。入ってもよろしいでしょうか?」


 やっぱりルチルさんだ!ルチルさんの声だった。


「どうぞ…。」

「失礼いたします。」


 メイドのルチルさん。

 歳は20歳で、背中辺りまで伸ばした金髪の女性。顔は美人ではないけど、普通の上と言ったところか。背は俺より5cmは小さく、胸もBぐらい。

 全体的にこじんまりしていると言っていいだろう。性格は明るく、よく笑うところが印象的だ。俺が王宮に住み始めてからずっとお世話をしてくれているメイドさんの一人だ。


「こちらに置かせて頂きますね。」

「はい。…あのルチルさん…。」


 着替えを置いて部屋を立ち去ろうとするルチルを呼び止める。すると、ルチルは手をお腹のところで組みながら俺に近寄ってきた。


「はい、何でしょうか?」


 明るい笑顔で答えるルチルさんに俺は気になっていた事が正しいのか試してみた。


「あっ。」


『あっ』って言った?今、『あっ』て言ったよね?


「…。」


 そう…、ルチルさんの立っているであろう乳首を指で押してみた。


「すみません…。」


 即座に誤った。腰を曲げて素直に謝った。そして顔を上げると…。胸を両手で隠して顔を赤くしているルチルさんがいた。

 そして頬に走る衝撃…。俺はルチルに平手打ちを喰らったのだった。


「いきなり女性の胸をつつくなんて失礼ですよ!」


 怒られた。そりゃそうだ…誰だってそんな事されたら怒るよ。


「はい、すみませんでした。もうしません…。」

「次からはちゃんと断って…何でもありません…失礼します。」


 ルチルさんは『はっ』として直ぐに部屋を飛び出してしまった。ごめんなさい…ルチルさん。

 実験が正しかったのか確かめたかっただけなのだ…。しかし…断ればいいのか…などと考えている内に実験は正しい事が証明された。

 なんせ指に当たった感触は硬かったからだ!小さい方が感度がいいとよく聞くが本当なのかもしれない…。ちょっと感じてたっぽいし…。

 とりあえず、それは置いておいて、実験を続ける。大体、魔法学校程の広さまで魔法を展開できるか試した。

 使用魔力量はこれぐらいか…。これなら一日発動しっぱなしでも大丈夫だな。俺の魔力総量はかなり莫大にあるようだ。師匠の魔導書には一般的な人間の魔法使いはせいぜい1時間ぐらいしか魔力が持たないと書かれていたからだ。

 それにしても俺の魔力総量の多さは異常だ。よくここまで成長したな。8歳の時に師匠の半分ぐらいはあったらしいけど、あれから2年…。どれぐらいの魔力総量があるのか検討がつかない…。

 わからない事は今は置いておいて、今はこの魔法が使える事が証明された。明日からこれを使って護衛をしようと思う。

 その前にもう少しだけ…。部屋を飛び出して行ったルチルがその後に乳首を少し弄っていたのを確認した…。その日の夜はルチルが眠りにつくまで観察した。その夜の出来事は俺の脳内ハードディスクに保存した。

 内容は言えない…。俺だけの宝物だ…。


 翌日から物体察知の魔法を発動しているが、怪しい物を持った人物や怪しい動きをする人物は一週間見つからなかった。

 暗殺が失敗した翌日は警戒してか何もないだろうと思ったが一週間も何もなかった。

 また七ヶ月とか掛ける気なのかな?忘れた頃になんとやらだ…。






 暗殺未遂から一ヶ月経過した。

 今のところ異常はない。そろそろアレク達と帰ろうとしたところに弓矢を持って校内に侵入する人物がいた。

 俺はすぐさまアレク達と行動を別れて侵入者の近くに気配を消して忍び寄る。侵入者は弓を構えてじっと待っている様子だった。

 俺は証拠を押さえる為にアレクたちが出てくるのをじっと待った。何としても生かして捕らえなくてはならなかった。

 暗殺者の背後関係を尋問する為に…。だが、俺は動揺していた…。侵入者はルチルだったからだ。何故?と思った時アレク達が校庭を歩いてきた。

 ルチルは弓をアレクに向けて矢を発射する。


土の壁アースウォール!」


 アレクに向かって飛んでいく矢を土の壁で防いで侵入者目掛けて魔法を発動する。


捕縛する触手アレストフィーラー!」


 ルチルの足元からみるみる触手が這い出してルチルの動きを封じた。


「ぐっ。」


 じたばたしているルチルに声を掛ける。


「ルチルさん、まさか貴方が暗殺者だったとは…。」

「っ!」


 俺に見られて驚いていたが、動きを封じられて姿を晒したルチルは観念したのか動きを止めた。


「…。」

「どうしてなんですか?何故アレクを?」

「仕方がなかったのよ…。」

「仕方がない?自分がした事がわかっていますか?」

「わかっているわよ!私だってこんな事したくなかった。」

「じゃ、どうして?」

「親を人質にされてるのよ…。」

「…。」


 嘘をついている様には見えなかった。

 目が真剣だった。


「誰に?」

「わからない…。アレックス様を殺したら返してやるって手紙が届いたのよ。」

「それで?」

「本当かどうかわからなかったからお休みを貰って実家に帰ったのよ。そしたら家の中は荒らされて机の上には手紙があった。

『この事は誰にも言うな、言えば両親を殺す。黙って従え』って書いてあった。だから仕方がなかったのよ。」


 ルチルは大粒の涙を流しながら命令された事を話していた。

 そこまで話した時アレク達が俺に駆け寄ってきた。


「ヴェル!」

「ヴェル様!」


 アレク達は目の前に突如出現した土の壁に驚いていたが壁の向こうの茂みに俺がいる事に気づいて駆け寄って来たらしい。


「アレク、シルヴィもう大丈夫だ。」

「ああ。っ!」

「ルチル!貴方どうしてここに?」


 アレクとシルヴィは捕らえられているルチルを見て犯人がルチルだと理解したようだ。


「アレク、シルヴィ、実は…。」


 ルチルから聞いた事をそのまま説明した。


「それは本当なのか?」

「それを今から確かめる。」

「どうやって確かめるんですか?ヴェル様。」


 2人にニヤリとした笑み向けてルチルの頭に手を乗せてに魔法を発動した。


記憶解読ディコーディングメモリー!」


 俺の手とルチルの頭が青白く光を発し、俺の脳裏にルチルの記憶が鮮明に流れてくる。まるでハードディスクに保存された情報が魔法を媒体にして俺の頭の中に再生するかのように記憶が流れてくる。


「ルチルさんが言っていた事は本当のようだ…。」

「じゃ、ルチルは誰かに命令されていたのは本当だったのか…。一体誰に?」

「それはわからなかった。ルチルさんは犯人を見ていないし犯人とのやり取りも手紙で行っていたようだ。」

「ヴェル様、手紙でやり取りをしていたのなら少なくとも相手の素性はわかるのでは?」

「ルチルさんの実家…。状況の報告を手紙に書いて実家に置いておく、すると翌日には新たな手紙が置かれているらしい。」


 この方法で手紙のやり取りを行えば相手の素性はわからないままだ。仮にルチルが連絡係が現れるまで張り込みをしていても見張りを立てていればルチルが張り込んでいても相手にルチルの行動が筒抜けになるだろう。

 そしたら両親も殺されルチルも捕まって殺されていたかもしれない。ここは犯人を捕らえて両親を助け出す必要があるようだ。一芝居打つか…。


「アレク…。」

「どうした?」

「アレクには死んでもらいます。」

「「「えっ!」」」


 俺の言葉にアレク、シルヴィ、ルチルは驚いた。


「勿論、演技でですけどね。」


 その言葉にアレク達は安心した。


「で?どうする?」

「明日、もう一度ルチルさんに矢を放ってもらいます。勿論、魔法で防ぎますがそこで死んだ事にしてルチルさんに報告の手紙を実家に置いてきてもらいます。」

「ルチルさんを信用するのですか?」


 シルヴィは心配して尋ねてきた。


「心配いりません。ルチルさんはもともとアレクを殺す気なんてなかったですよ。それにルチルさんの両親は俺が助け出します。」


 ルチルは俺が両親を助けると聞いて生きる希望が湧いて来たかのように目に輝きが宿った。


「本当ですか?」

「ええ、必ず助け出して見せますよ。だから俺の支持に従って下さい。」

「…わかりました。ヴェルナルド様を信頼します。」


 ルチルは少し考えた後、俺の提案に承諾した。

 その後、打ち合わせをして何事も無かったかのように王宮に戻った。俺の計画は明日、決行する。何としてでもルチルさんの両親を助け出すと決意した。

 もしかすると、もう既に両親は殺されているかもしれないが生きている事を信じて行動を起こす事に決めた。

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