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31    研究

 商売を始めてから一ヶ月、子供フレイムの食費を稼げるようになった。

 お金に余裕ができて一安心した頃、実家から手紙が届いた。クーリエからだった。手紙の内容は主に浮気の謝罪文だった。

 セドリックとの浮気で家庭を壊してしまった事、多大なる迷惑を掛けてしまった事についての謝罪文だった。

 別に怒っているわけではない。セドリックは地方の小さな村の領主なのだ。いずれ側室も娶る可能性があったわけで知らない人より見知った人が側室になった方が気分がいい。

 それにずっと家族だと思っていたクーリエなら大歓迎だ。それにしてもクーリエがセドリックに恋をしていた事は知らなかった。俺が出した手紙に書いた事は半分冗談だったし、いずれセドリックも我慢できずにやっちゃうかもと思っただけの事だった。

 まさか俺が王都に出発する前からできていたとは思ってもいなかったから驚いただけだった。だから、クーリエの手紙に返信する事にした。






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 拝啓、親愛なるクーリエ母様。

 手紙を読ませて頂きました。

 謝罪する必要はありません。

 父様も一応貴族、貴族なら側室を持っても可笑しい事じゃありません。

 いずれ側室を娶る事になっていたでしょう。

 しかし、知らない人が父様に嫁ぐより産まれた時からぞっと傍にいてくれたクーリエさんが父様の側室になってくれた方が嬉しいです。

 これからはクーリエ母様と呼ばせて頂きます。

 なので一生仕えるなどと言わないでください。

 これからは僕のもう一人の母様なのだから悪い事をしたら叱り、良き事をすれば褒めて下さればいいのです。

 命の恩人ではなく共に生きる家族なのですから。

 次、お会いした時はヴェルナルド様からヴェルと呼び方が変わっている事を楽しみにしています。

 それでは、元気な子を産んで元気にお過ごし頂ける事を願って…。

 ヴェルより。


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 こんなもんかな?いいよね。後は『追伸、今度は妹がいいな。』と書き加えておいた。






 翌日、夢をみた。またあの夢か…。いつもの魔王っぽい人と戦い死ぬ夢だ。ただ、今回はいつもと違った。5つの死体と1匹の死骸がそこにあった。

 4人の大人の人、2人の美少女、1匹の火龍が倒れ、息もない状態だった。

 俺の傍にはアレク似の大人の人、シルヴィ似の大人の人、エマ似の大人の人、カナ似の大人の人、そしてフレイムをそのまま大きくした火龍だった。

 恐らく、アレク、シルヴィ、エマ、カナ、フレイムなのだろう…。美少女2人はまだ見た事がない。

 腰まで伸ばした金髪の美しい髪をした美少女。顔立ちは母マリアによく似た美少女だった。俺を生んだ時に見た女神のような美少女に見えた。

 そして、もう一人俺と同じ茶髪に肩より少し伸びたセミロング、年齢は20代と言ったところかな?顔はクーリエに似ている様な気がした。今のクーリエをそのまま若くした感じにも見えた。


 たぶん…、今度生まれてくる俺の妹達なのかもしれない。皆、無残にも切り刻まれた痕があり大量の血を流していた。その光景を目にして俺は泣き叫んでいた。

 嫌だ!いやだ!いやだ…。こんな未来は嫌だ!

 目の前の魔王っぽい人はにやにやと笑みを浮かべている。魔王の表情を見た俺は怒り心頭だった。その時、師匠に禁じられた禁術を発動して目が覚めた。


「…夢か…。」


 夢でよかったと心底思った。昔から見てきた夢は…、あれは未来に起こる出来事だと思う。まだ確信はできないが、恐らくそうなのだろう。

 繰り返し見てきた夢。いつもの夢…。だけど今回は違った。アレク、シルヴィ、エマ、カナ、フレイム…それに妹達?なのだろう。

 夢に出てきて死んでいた。恐らく、俺と一緒に戦って死んだのだろう…。何故?と思ったがある答えに辿り着いた。俺と深く関わっているからか…。

 俺はアレク、シルヴィの命を救い、シルヴィ、エマ、カナと婚約した。フレイムも俺を父親と認識して産まれて来た。あの美少女達…、あの子達は俺のお陰で産まれて来た?いや、違うな…。

 俺がいなくてもいずれ産まれて来ただろう。俺がいなくてもマリアはセドリックの浮気を許しただろう…それも違うな…。

 マリアはエルを産んだ時に死んでいた。その後、セドリックとクーリエは結ばれた。セドリックとクーリエの間に産まれた子が彼女なのだろう。そしてマリア似の美少女は生まれてこなかった。

 そして彼女等はなんらかの力を持っている。だから俺と共に戦ったのかもしれない。

 アレク、シルヴィ、エマ、カナに魔法を教えたのは俺だ。俺が皆を巻き込んだ?

 そう考えた瞬間、頭から血の気が引いていくのがわかった。

 アレク、シルヴィを助けなければあの時死んでいただろう。助けなければエマと知り合っていなかったかもしれない。カナは元々知っていたけど魔法の弟子にしていなかったかもしれないし婚約もしていなかったかもしれない。

 勿論、フレイムも親の元で産まれていただろう。俺と関わらなければ妹達は俺と共に戦わなかったかもしれない。俺はそもそも転生してきた…。

 転生して来なかった俺はどうしていたんだろうか?生まれて来ていないのかもしれない…。

 そう考えたら頭が真っ白になった。思考が停止した。今日は何も考えれそうになかった。

 すると、フレイムが心配してか顔をぺろぺろと舐めてきた。


「心配してくれたのか?」

「グギャ!(大丈夫?)」

「…うん、もう大丈夫。」

「グギャ(よかった。)」


 そうだな、起こってしまった事は仕方ない。なら、起こってしまった後の事を考えよう。

 まずは、アレク、シルヴィの護衛をする事。折角助かった命だ、最後まで生き抜いてほしい。

 アレク、シルヴィ、エマ、カナに魔法の修行をさせる事。もしかしたら、俺がいなくなっても自分で自分の身を守れるようになってほしいから…。

 フレイムを育てる事。強く育ててアレク達を守ってほしい。

 それから俺自身の事だ…。今のままではだめだ。もっと強く、皆を守れるだけの力をつけなくちゃならない。なら、これまで以上の魔法の修行と研究をしなくちゃだめだな。

 まずは完成しきっていない重力魔術を完成させるか…。

 重力魔法は土魔法と風魔法の応用、それに結界魔法を用いて混合魔法で物や人を軽くしたり浮かせたりはできた。しかし、その逆の重力を掛けて重くする事ができなかった。

 ただそのままの理論を逆にすればいいだけと思ったが上手くいかなかった。

 どうすればいい…。そもそも重力ってなんだっけ?

 えっと、地球上の物体に対して働く地球の万有引力と地球自転による遠心力との合力だったかな?つまり、それぞれ物体には引かれ合う力があって地球が回転する事で遠心力が生まれる。その力と力が合わさって重さが生まれる…だったかな?

 だからその逆の事をしたら物を浮かせる事ができたのだ。問題は重さを加える事だ。

 乗り物に乗ってかなり早く動けばGが掛かったな。あれはどう言う理屈で考えたっけな…。乗り物の座標系で考えたっけ?

 じゃ、重力魔法で重くする時は結界内に更に結界を作ってその中の座標系を変えていけば重くなるのかもしれない。

 試しにやってみるか…。

 机の上に岩を用意して重力魔法を発動して結界を作る。更にその中に結界を張って座標のみを変えていく。結果としてできなかった…。

 それでも思いついた考えを試行錯誤する事、一週間。ある座標軸を変えた事で空間に歪みが生じ、重力が掛かっていった。それは偶然の出来事だった。

 試しに数値を変えると変えれば変えるほど重力が掛かった。成功だ!今では机の上にあった岩が机を貫通して床に落ちていた。机にまで結界を張っていなかったから貫通したのだ。

 これを机にまで結界を展開しておけば岩が重力に耐え切れずに崩れ去って砂になっていたのかもしれない。これで重力魔法は完成した。


「これで考えていた魔法を試せるな…。」


 早速、魔法を試射する為に魔法実技棟に向かった。魔法実技棟は体育館の2倍の面積がある大きな建物だ。

 ここは常に結界が張ってあり規模の大きい中級や上級の魔法練習の為に使用されるところだ。

 今の時間は授業で使用されていなかったので思う存分試せる。まずは何が起きるかわからないので自分でも結界を張ってみる事にした。


究極の聖域オーティミッツサンクチュアリー


 禁術級結界を発動した。これで外には影響はないだろう…。後は…。


聖なる領域セイクリッドドメイン!」


 そして更に自分の周囲に結界を張り巡らす。失敗して自分に被害が及ぶかもしれないからだ。

 続いて土魔法でゴーレムを作成して目標を作り出す。


「これで準備万端だな。」


 全ての準備が整い、いよいよ実験を開始する。


重力球グラビティーボール!」


 黒い球状の激しく渦を巻く物体が目の前に現れた。


「いけー!」


 重力球を目標目掛けて放つ。

 ゴーレムに命中したところが『グシャッ』と音を立てて捻り潰されて跡形もなく消えてた。ゴーレムの胴体に球状の穴がぽっかりと開いている。


「おお、成功だな。」


 魔法が成功した事を確認してゴーレムを複数体作り出す。


重力落下グラビティフォール!」


 複数体のゴーレムは上から叩きつけられたかのように地面に倒れ込んでめきめきを音を立てて押し潰されていった。後に残ったのは砂と化したゴーレムだったものだけだった。


「これはすごい!」


 この魔法を戦いに取り入れたらと考えると喉が『ゴクリ』と鳴った。

 未完成だった魔法を完成させた達成感を胸に師匠の魔法レポートに研究成果を書き込んだ。






 (師匠、また一つ貴方に近づけました。これからも俺を導いて下さい。)


 天に向かってそう願い、報告を告げた。

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