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閑話    クーリエ・ウィルソン その2

 今日はヴェルナルド様がもうすぐ王都に出発するので10歳の準成人の祝いを前倒しで祝う事になりました。

 奥様は寂しがっていました。それもその筈、もうすぐ自慢の息子が王都の魔法学校に行かれるからだ。旦那様はヴェルナルド様を信用しているから快く送り出そうとしている様子だった。

 そんな時、ヴェルナルド様は旦那様に『自分がいない間に浮気をしないように』と告げた。その言葉に私は『ドキリ』としました。背中に冷や汗が流れるのを感じました。

 旦那様も動揺している様子でした。奥様の目が怖かったからです。私も恐ろしく感じました。『もしバレたら?』と考えると怖くてなりません…。ヴェルナルド様は気付いているのでしょうか?

 賢い子だけど抜けている事もあるので疑っている?と言ったところでしょうか…。そんな事を考えている私にヴェルナルド様は『父様と母様、それにエルの事をよろしくお願いしますね。』と仰った。

 私は咄嗟に『心得ました』と言ってしまった…。背中に冷や汗を流しつつ答えていた。それとヴェルナルド様は『父様に気を付けてください。』と仰った。私はこれまでの旦那様との行為を思い出して急に恥ずかしくなったのか顔が赤くなる気がしました。

 するとヴェルナルド様は旦那様にジト目をしました。疑われている…。早くここから出て行かなくちゃと思いました。居心地のいいこの場所、暖かい家庭のあるこの場所、憧れるお姉様のいるこの場所…。

 その全てを裏切ってしまった私への罰だと思いました。ヴェルナルド様の言葉を裏切るようだけどこれが私の犯した罪なのだから…。どうかお許しください…。

 そう思いつつヴェルナルド様の王都へ出発の日が来た。それぞれ別れの挨拶を済ませた後、私は部屋に戻った。考え事があったからだ。実は今月…、あの日が来ない…。最初は生理不順なのだと思って気にしなかったが先日の夜…、つわりが来てしまったのです…。

 恐らく、出来てしまったのでしょう…。この事を旦那様に言うべきか迷ってしまいました。もうすぐここを辞めて出ていく私が後を濁す事をしてはならないと思いなおして黙っていなくなる事に決めた。

 しかし、その決心も二ヶ月でバレてしまった。仕事の休憩中に奥様とお話をしているとまたつわりが来てしまった。奥様は心配して『大丈夫?』と声を掛けてくれた後にこう仰りました…。


「クーリエ、あなたまさか妊娠しているの?」


 その言葉に絶句して何も言えなかった。ついにバレてしまったと思ってしまった。直ぐに謝ろうとしたけど奥様が続けて仰った。


「お相手は誰なの?」


 まだバレていないと思った。誤魔化そうと思った。


「いえ、プライベートの事ですのでご報告は致しませんでした。」


 すると奥様は何か心当たりがあるような顔をした。その時に旦那様が帰って来られました。本当にタイミングが悪いと思いました。


「あなた、ちょっと来てくれる?」

「…あっ、ああ。」


 旦那様は奥様の無言の圧力に気後れして答えた。


「奥様、わた…。」

「クーリエはそこにいなさい。これは主としての命令よ。」


 謝ろうと思った。言葉に出そうとした瞬間に奥様に制された。そしてここにいなさいと命令してきました。

 今まで命令された事なんて一度もなかった。なかったからこそ怖かった。奥様の言葉に抗う事もできなかった…。

 二階に上がっていく奥様と旦那様…。しばらくして奥様の怒鳴り声が聞こえました。私は身を震わせて崩れ落ちてしまった。

 奥様がリビングに戻って来られたが私に何も言わなかった。私も奥様に何も言えなかった…。少し遅れて旦那様がリビングに慌てて戻って来た。


「マリア、許してくれ!」


 旦那様は土下座して許しを請う。その様子を奥様は無言で無視している。


「奥様、お許しください。私が悪いのです…。私が…。」


 私も奥様に土下座して許しを請う。気付けば涙を流していた。奥様を裏切った事、家庭を壊してしまった事に後悔の念と責任が重く圧し掛かる。


「それで、どうするの?」


 奥様の重く静かな問いかけに旦那様は答えた。


「責任を取ります。」

「いえ、私が出ていきます。どうか旦那様をお許しになって下さい。」


 旦那様の答えに否定すかのように私は答えた。


「そう、クーリエ。」


 奥様は答えを気にしない様子で私を呼ぶ。


「はい、奥様。」


 何を言われるか恐る恐る返事をする。


「貴方は身ごもっているのよ?ここにいなさい。ここで子を産みなさい。その後の事は貴方の自由にしなさい。」


 奥様はそう言って部屋を出て行った。旦那様も後に続いて奥様を追って行った。その日から奥様は旦那様を無視し続けた。私は奥様の言葉に従った。従うしかないと思った。

 ヴェルナルド様が王都に出発なさってから実に五ヶ月が経過していた。その間、奥様はずっと旦那様を無視し続けている。私が仲を取り持とうとすると…。


「クーリエには関係ないわ。これは私達の事だから何も言わないで。」


 不機嫌に言われてしまいました。


「いえ、しかし…。」


 私が起こした問題なのでそう言う訳にはいかないと思い言葉を発しようとすると…。


「いいから!」

「…畏まりました…。」


 頷くしかなかった。エルヴィス様も夫婦の仲が悪い事に心配して悲しんでいる。先日、エルヴィス様に『どうしてこうなったの?』と聞かれて正直に話した。


「エルヴィス様、私が悪い事をしたのです。それが原因でお二人は仲たがいをされてしまいました。申し訳ありません…。」

「でも母様は、クーリエさんを悪く言ってなかったよ。嫌いになってないから父様が悪いんだよ。」


 エルヴィス様は奥様とそんな会話をしているらしい。


「いえ、私が悪いのです…。旦那様は悪くないのですよ。」

「でも母様はいつもクーリエさんを心配しているよ。」


 え?奥様が私を?心配されているのですか?奥様を裏切った私を?私は困惑してしまった。

 何がどうなっているのかわからずにいました。

 そんなある日、王都の魔法学校にいるヴェルナルド様から文が届きました。

 内容はと言うと…。






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 拝啓 親愛なる父様、母様、エル、クーリエさん如何お過ごしでしょうか?

 きっと皆の事だから、元気に過ごしている事かと思います。

 こちらは、ちょっと厄介事に巻き込まれたけど、無事に魔法学校に入学する事ができました。

 厄介事の説明は、あんまりできませんが心配しないで下さい。

 大丈夫なので…。

 その事で、国王陛下から褒美を頂く事になりました。

 男爵位と、お金を頂きました。

 ちょっとした小金持ちになっちゃったけど、いずれ帰った時にお金を持って帰りますね。

 お土産と共に…。

 何がいいか考えて、知らせてください。


 父様は、浮気をせずに母様だけをみていますか?


 母様は、父様がちょっとクーリエを見ていても許してあげて下さい。

 たぶん、男の人は仕方ないと思うので…。


 クーリエさんは、父様に詰め寄られたら、僕の代わりに殴っといて下さい。


 エルは、元気にしてるかな?強くなっているのかな?寂しくなっても、我慢してね。男の子なんだから、強く逞しくなってね。


 とまあ、半分冗談も含みましたが、こちらは元気です。

 そうそう先日、魔法使いになりたいと言う人が3人と、魔法が使える魔法使い1人を、弟子的な感じで弟子にしました。

 魔法の使えない3人が、魔法を使えた事が驚きではありますが、立派に育てて見せます。

 それから、王都に来て間もなく、お見合いをする事になってしまって、お見合いしました。

 お相手の方は、モンシア伯爵の孫娘のエマさんです。

 一応、やんわりと断っておいたので大丈夫かと思いますので、心配しないで下さい。

 なるべく、纏まった休みがあれば帰ろうと思います。


 それでは、お達者でお過ごしください。

 ヴェルナルドより。


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 でした。この手紙を見て泣き崩れてしまいました。ヴェルナルド様は心配になっていた様子でした。半分冗談と書かれていましたが本気も混ざっている様子でした。

 恐らく、気付いていたのかもしれません…。だからこうやってバレる前に釘を刺そうとしたのでしょう…。しかし、遅かったです。

 ヴェルナルド様が悪い訳ではありません。ヴェルナルド様は心配して辞めさせようとしていたのです。


 悪いのはあの日、旦那様を受け入れてしまった私…。


 最初で最後と思ったのにずるずると関係を続けてしまった私…。


 憧れているお姉様を裏切り続けた私…。


 奥様に謝ろうとしたけど結局バレるまで話せなかった私…。


 直ぐにでも出て行けなかった私…。


 その事が私を後悔させて泣いたのです。奥様は手紙の返事を書いて出されました。その翌日、奥様が姿を消しました。

 朝起きて、起こしに行こうとするといなかったのです。どこを探してもいませんでした。気付けば奥様の洋服やお気に入りの食器がありませんでした。

 エルヴィス様も一緒に連れて行ったようです。私は直ぐに旦那様を起こして伝えると慌てて支度をして王都に向かおうとしました。恐らく、奥様が向かったのはヴェルナルド様の所でしょう。

 しかし、馬車の手配が遅れて翌日に向かう事になりました。今、このお屋敷にいるのは私しかいません…。一人だとこんなにも広く感じるお屋敷に私がしでかした事の責任が重く感じました。後悔してもしきれません…。

 奥様と旦那様、それにエルヴィス様が仲を戻してこの屋敷に帰って来てくれる事を願うばかりです。

 それから二ヶ月が経ち身動きが取れにくくなった私は実家に帰っていました。家族に真実を話しました。怒られると思っていたけど家族は何も言いませんでした。それどころか優しくしてくれた。私はその優しさに泣きました。

 毎日、グナイスト家の事を祈りながら二ヶ月を送っていたのです。するとある日、旦那様と奥様とエルヴィス様が私を迎えに来てくれました。話を聞くと、奥様は私の事は初めから許してくれていたそうです。

 旦那様が私と浮気している事に気付いた時はショックだったみたいですが怒っていなかったそうです。怒っていたのは旦那様が浮気をしていた事を隠していた事だったそうです。旦那様と私はそれに気付けずいたのです。

 奥様は最初から許そうとしていたそうですがきっかけがなく許せずにいたそうです。そんなある日ヴェルナルド様からの手紙で奥様はきっかけを作りに王都に行ったそうです。ヴェルナルド様はそれに気づいて仲直りさせてくれたそうです。

 さすがはヴェルナルド様です。とても賢くよくお気づきになられました。私は感謝する事しか出来ません…。ヴェルナルド様に一生を掛けてお仕えしようと決意しました。

 もう今度は流される事なく強くなろうと思いました。そこでけじめをつける為にヴェルナルド様に手紙を書きました。






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 拝啓、ヴェルナルド様

 元気にお過ごしである事と願って手紙を書きました。

 私は貴方に謝らなければなりません。

 奥様、ヴェルナルド様、エルヴィス様を裏切って旦那様を誘惑してグナイスト家の家庭を壊してしまいました。

 この居心地のいい家庭、旦那様と奥様の仲を壊し、エルヴィス様にも迷惑をお掛けし、ヴェルナルド様にご心配とご迷惑をお掛けしてしまった事を心よりお詫びいたします。

 始めは出来心でした。

 でも旦那様に恋をしていたのは事実です。

 その事を言い訳にしてずるずると関係を続けてしまいました。

 ヴェルナルド様は私達の事にお気づきになられて釘をさす為に手紙まで書かれて辞めさせようとしていたのに辞めれませんでした。

 奥様にバレて家庭を壊す結果になってしまって申し訳なく思っております。

 ヴェルナルド様が王都に出発してからメイドを辞めて出て行こうとしたのですが、お腹の中に子供を宿してしまってどうしたらいいかわからずにずるずるとお屋敷で住まわせて頂いておりました。

 奥様にバレて直ぐに出て行こうと思いましたが奥様に止められてそのご厚意に甘えさせて頂きました。

 私の我が儘で始め、私の我が儘でこの様な結果になり悔やんでも悔やみきれません。

 どうか私の事は嫌っても、旦那様の事はお嫌いにならないで下さい。

 それから感謝もしています。

 旦那様と奥様の仲と取り持たれた事、私と旦那様との結婚を奥様に認めさせてくれた事に感謝しています。

 ありがとうございます。

 ヴェルナルド様は私とこのお腹の中にいる子の命の恩人です。

 一生を掛けてヴェルナルド様にお仕えさせて頂こうと思います。

 ヴェルナルド様がお嫌でなければどうか認めて頂けると幸いです。

 ヴェルナルド様に感謝を込めて、クーリエより


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 これが私のこれまでの行動とこれからの気持ちです。

 どうかヴェルナルド様に認められてお仕えできる事を祈って私のこれまでの話を終えます。

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